先生は塞翁が馬という言葉を知っているかな?   作:ミサキル

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とある神の回想録

いつの話だろうかもう忘れてしまった。

ただ最初は求められたことが嬉しかった……はずだ。

もうどんなに生きたのかも、何があったのかも知らない。

私には分からない。

ここに幸福はない。

ここに絶望はない。

ここに死はない。

ここに記憶はない。

ここに願いはない。

ここに彼女はない。

ならば私は……何故ここにいるのだろうか?

 

 

当たり前に過ぎ去った時間は私という存在を風化させてくる。

擦れて消えてゆく私に私は感傷を持たなかった。

 

「そうなる運命なんだ、そうしかならない運命だった」

 

そう受け入れて、諦めて死んだ。

眠りにつくように、私だけ覚えていた過去を抱いて死にゆく。

その間際で声がした。

 

 

「助けて」

 

 

泣きじゃくるような、嗚咽を零すような、救いを求めてた声がした。

目が眩んだ。

その声で目覚めた私はきっとガラクタの欲張りなのだろう。

 

「助けましょう、助けましょう、私はあなたが望んだ『神』ですから」

 

慈しむように、後悔を包むように、抱き締めるように答えた。

答えてしまったんだ。

 

 

 

それが始まりの記憶。

初めて『神』として立ってしまった。

6月6日の話だった。

 

 

「なんだ……これ」

 

初めて目覚めた自分の力に困惑した。

どうやら私は神に願った者をここに引き込む能力を得たらしい。

―――後にそれを神隠しと名付けたがそれは今は関係ない話だ。

後ろを振り向くと少女が居た。

すやすやと寝ていたがとんでもなく憔悴してたのか彼女は目にはクマがいっぱいだった。

どうやらこの子をここに連れ込んだのは私が……やったことらしい。

 

「助けて」

 

その声を応えた。

それだけだ、私にはこんな力はなかった。

けど彼女の安心したような寝顔をみて。

 

「……」

 

どこか安心した心があった。

 

 

 

―――困惑から始まったこの願いを止まり方を今も知りたいと思ってた。

 

 

神に願った者を取り込む、神隠し。

何となくだが理解していた。

だがこんな力……私は望んでない。

だとするとなんで……なんて、分かっていた。

私じゃない、私じゃないなら、彼女だ。

目の前の寝ている彼女を見た。

どうやら起きるのはまだらしい。

願われたことで……何か変わったのだろうか?

分からないが、知りたくもなかった。

 

「どうしよう」

 

恐怖があった。

自分の知らないところで何か自分が変わってるのだ、変化に伴う恐怖は当然だった。

 

―――でも居心地の悪さは感じず、むしろこのまま『変化』に身を任せた方がいいんじゃないかと思ってしまう。

 

真っ暗なこの空間でただ生きてるという証明のように淡く見える輪郭がある。

彼女はまだ寝たままだった。

まだ寝ていた。

 

 

数日ぐらい経った気がする。

まだ少女は寝たままで起きないと思うとそれも怖く感じた。

どうしたらいいのか分からない。

ただ体は蝶の蛹のように『変化』はじっくりと確実に進行している感覚があった。

 

その変化は突然だった。

 

何か開く音ともに体が悲鳴を上げる。

 

「―――あ?」

 

痛みは一瞬で瞬時に解けた。

代わりに変化は空間に起こった。

今までの黒をめくるように黒が白に変化する。

 

―――あっという間だった、今まで過ごしてた黒の空間は白に塗り変わってしまった。

 

それと呼応するように……だろうか。

 

「は?」

 

体はいつの間にか変わっていた。

昔よく見た―――人の形に。

それと同時に脳に、何が出来るのかの情報を差し込まれる。

まるで別人になった気分だった。

自分が……全くの別人に成り代わったような。

でもその理由も目の前の少女を見ると何となく分かってしまった。

 

「はは…」

 

笑う、笑ってしまう。

新しく手に入れた力への高揚感とか、そんなものではなく。

私は私という存在では世界に居られないと否定されたことへのあまりにも軽い事実についてだ。

―――誰かを騙らないと私は死ぬのか。

 

「馬鹿な話だ」

 

呟いた言葉はきっとあの声に応えてしまった後悔だった。

 

 

この力を手に入れてもやることなんてそんなになかった。

力を上手く使うために、空間を区切り彼女の記憶をベースに新たな空間を作った程度だろうか。

 

「暇だ…」

 

退屈しのぎに力を使っても面白みがない。

単純に人が居ないのだ、このままでは生きる屍…彼女を保護してるだけの無能な神だ。

 

「何かなぁ……」

 

暇つぶしに芸術と評して椅子を形作ったり、彼女の記憶を本にしたりしたが……暇は解消されず、酷くなる一方だった。

そんな時。

硬く、硬く音がした。

 

 

それが私の道を決める音だということを知りたくはなかった。

 

 

ここに落ちてきた彼女は最初の彼女と同じ学校に居た子らしかった。

 

「あなたは……?」

 

久しぶりと言うにはあまりにも長い時間への問い。

私は何か?

息を呑む…この子には私をなんて伝えればいいのか。

 

―――いや、そんな解はもう分かりきってる、自問自答なんて最初から必要なかった。

 

「そうだね…君が望んだ神様だよ」

 

平然のように『私』を語る。

 

「望んだんだろ?私に……ね」

 

全く…とんだ詐欺師でペテン師で虚言しか吐かないダメ人間だ。

人間と、自分を評するのも愚かしいが。

 

 

彼女との会話は楽しかった。

彼女が望んだ願いを叶えられるここはまさに彼女にとっては夢の世界なんだろう。

胸が痛む感傷も楽しみで薄れた。

―――そんな日も何日は経たなかった。

 

「帰りたい」

「え?」

 

いつもあったらしい記憶の帰り道、振り向き彼女はそう告げた。

 

「な、なんで……?」

 

まだ一緒に居たい一心で引き止めた。

今見ればとても幼稚すぎる考えだが、昔の私はこう話すしか他には出来なかった。

 

「だって…テストあるし」

 

昔の私にとっては予想外の答え、当たり前なのだろうがそんな発想なんてなかった私は驚いていた。

 

「い、嫌だ」

 

まだ一緒に居たい…そんな願いが私の中にはあった。

酷く暇なあの空間でを思い出しただけで怖気が走る。

嫌だった、嫌だった。

手を掴もうとする私を拒絶するように手を振り払った彼女は。

 

 

怯えてたように見えた。

 

 

「あははは」

 

笑いながら彼女を追いかける。

炎天下にあった懐かしい帰り道は既に恐怖の夜として変貌してしまった。

 

笑う私と逃げる彼女。

 

彼女を捕らえたらなにをしよう、なにをしようか?

もう既に私は私というものを捨てたらしい。

昔ではしなそうなことさえも簡単にしてしまった。

暗闇の中過ごした時間が長かった私にとっては彼女との時間とは刺激に満ち溢れ、麻薬のように依存してしまったと今では断言出来る。

 

―――結局その麻薬は克服出来ないままなのが救いようがない。

 

「はっ!」

 

彼女を捕まえうとしたした瞬時に彼女はその瞬間を待ってたと言わんばかりに瞬間移動してしまった。

 

「厄介だな〜」

 

ゆるゆると楽しく笑う私に彼女はただ無言で……それが私と彼女が違う生物であることを示しているようで好きではなかった。

 

笑う私と逃げ惑う彼女。

 

決着など分かりきってしまう話であり話す程でもない。

肩で息を吐く彼女と、楽しく笑っていた私。

 

「鬼ごっこまたしよう!」

 

無邪気に笑った私に彼女はなにを思ったのか。

疲れきってしまった彼女は何かを答えようとしたようだが、舌が上手く働かない現状に絶望したようだった。

ただもうその言葉を発することさえも疲れたのか。

 

バタンと、重く倒れてしまった。

 

 

目を覚まさない彼女を私は昔私が元居た空間に案内してた。

 

―――これが私の道を変える間違いだと気付いていなかった。

 

そこは記憶の回廊として神隠しにあった人や私の記憶を本にした場所だった。

後にこれはまた別の少女の影響で本から絵画へと変わるのだが…この時の私は知らない。

 

「すっからかんだな」

 

ここに居る人は私と最初の彼女、そしてさっきまで遊んでいた■■■だけだった。

 

 

そう、確か……名前を聞いてたはずだ。

はず………だったんだ。

もう思い出せない、だからただ今は2番目と呼んでる。

 

―――その方が……忘れない、忘れないんだ。

 

……起きた彼女にここを余裕綽々で紹介した私は傍から見れば滑稽だっただろう。

 

「あんたの記憶もあるの?」

 

馬鹿みたいに彼女を信頼してた私はただ答えた。

 

「そうだね」

 

そのまま私の本を紹介してしまった私…………

それが間違いなんだ。と叫ぼうと思ったことは何度だろうか。

 

 

でもただ……そのまま名を知られて消えてしまった方がよかったと今は思った。

 

 

「へぇ…あんたのね」

 

本を持って走り去る彼女と追いかける私。

掴もうとしても瞬間移動ですり抜けてしまった。

この時にやっとしくじったと私は知った。

 

「どうしよう……名を知られたら」

 

知られたら、どうなる?

分からない、ただこの『神の皮』が剥がれ落ちるとは何となく分かっていた。

 

――剝がれて、過去の自分になったら…………

 

「!」

 

さっきの遊びとは違う生死の鬼ごっこが始まった。

無茶で不利な鬼ごっこ。

瞬間移動は距離自体は短いが、タイミングがつかめないのが辛かった。

捕まえようとしてもすり抜けるように瞬間移動、さらに距離をとるように瞬間移動。

が、どこまでいっても疲労は溜まっていく。

染みる体温と揺れる視界の中で彼女はよくやったと思う。

 

「おい……ついた……」

 

必死の形相の私と対照的に笑ってる彼女。

なんでそんなに笑ってたのかが不明で不愉快だった。

 

「分からないって顔だね」

 

やめてくれ。

 

「あんた、自分のことを神なんて大層なこと言ってたけど」

 

やめてほしい。

 

「本当はただの■■■だ」

 

 

――それっきりだ、それっきり、願いを奪われて寝た彼女とはそれっきり話をしてない。

 

「何してるんだ」

 

本当に、私はなにをしてるんだ?

 

 

道を決めた原因を2番目とするならば。

この道を固めたのは3番目だろう。

 

彼女は私の初めての■■だとそう願いたい。

 

 

「はぁ……」

 

ため息をつく、なんでも出来るこの空間ならば暇などないと話したいが、私には『神』としての縛り……と言えばいいのだろうか?そういうの枷があった。

 

「誰か来てくれたらなぁ……」

 

それを話すには神隠しの条件と私の出来ることについて話さなければならない。

 

「使いにくいよ、ほんと」

 

神隠しは『神』に強く願ったものを取り込む。

そしてそんな『神』である私の出来ることは……

願いの実現と願いの回収と願い受け渡し……それと空間操作。

この4つだけだ。

 

願いの実現。

これは簡単だ神に願った者を神隠しの力でここに連れ込んでその願いを実現する力。

 

次に願いの回収。

これも単純だ、神へ願った者の願いを私の力として取り込む……まぁ発動条件が相手を数秒間の間触らないといけないのが面倒臭いのだが。

しかも基本的にここにきた人間は神に願った願いを失うと眠る、これでは会話が楽しみの私にとって回収のメリットが少なすぎる。

1番目や2番目のようにただ寝てる人間を増やすだけで…それは■■■かった。

まぁ例外なのはここに来て欲しいと誰かが願うくらいだが…意味の無い話だ、そんな願いをするということは既にここに知ってることになるのだから。

 

閑話休題。

 

厄介なその3つ目、願いの受け渡し。

願った者の願いを私が回収し、その願いを別の人に渡す…というもの、これも使い道がない。

ここに来る人間は願いを叶えるためにきたのにわざわざそれを私に頼んで別の人間に渡すなんて状況などないに等しいだろう。

私が二番目の願いを他の子に譲渡する状況なんてものもないだろうし…………

必要ない能力ばっかりだ。

 

最後に4つ目の空間操作。

特段話すことは無い、記憶を元に本を作り出したり、記憶にある場所を再現するのに色々便利だが…………便利なだけだ。

これが初期装備であると考えると中々……もっと神を騙る者なのだからいい能力があるんじゃないか?と文句を言いたい話だ。

 

「暇だーーーー!!!」

 

2番目の悲劇を避けるために色々試行錯誤してるが、それも飽きてしまった。

最近わかった事なのだが私はとんでもない飽き性のようだった。

 

「教室ならもっとやる気でると思ったんだけどなぁ……」

 

ブツブツと呟き机にべったりとくっついてた。

そんな時だった。

 

 

「いて!」

 

陽気そうな声が後ろでした。

 

 

 

 

―――3番目との出会いだった。

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