先生は塞翁が馬という言葉を知っているかな?   作:ミサキル

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自分語り

「そうだね、さてならどこから…まぁ1番最初から話そうか」

 

懐かしむように、ただイノリは話す。

昔を語ろうとする彼女は少しだけ物悲しげで、どこか泣きそうな雰囲気すらある。

分からない、知らない、理解できない。

そう言って拒むのは簡単だ。楽で、彼女に悲しい想いをさせられる。

…………そんな気なんて、ないけど。

 

「…………」

 

目の前にいる宿敵、それは理解できない怪物なのか?

それとも――――

 

「いや、今はいいっす」

 

無駄な思考、余分な考えは足を沼にハマらせ抜け出せなくなる。

 

だから、考えるのをいつの日か辞めた。

 

辞めたことで彼女を昔のままで、昔の印象のまま停止させた。

そうすることが楽だった。

でももう違う、思考を止まらせたとして時間は確実に進む。

彼女が神ではなく蛇として目の前にいるように、時間は決まりつけた針に進む。

 

「簡単な話さ。難しいところはない」

「?」

「私はただ自分語りをしたくてその相手に君を選んだ」

「だから変なことは何もしないし、このまま君が聞かずとも自分の身の上を話す」

「たった…………たったそれだけの話さ」

 

「…………昔のここら辺は地震ってのが多くてね、ここに居た人はその地震を鎮めるために祈ったんだよ」

「どこの神なんて者は決まってない。形なんてなかった」

「けど祈りは蛇を神輿にし、地震を鎮めるに至った」

「…………『イノリ様、地震を鎮めてください』ってな感じかな?もう昔過ぎて分からないけどね」

「昔の人は地震は蛇が起こしてたと、だから蛇を祀れば地震は収まると、そう信じたんだ」

 

―――それはきっと昔の話なんだろうけど、私には昔過ぎてちっとも分からない話だった。

それでも少しだけ分かった。

 

「じゃ、じゃぁ!」

 

言葉と姿が合致して思わず声を上げる。

 

「おおよそ君の言いたいことは分かる……そうだよ、この土地の地震を収めるために私は創られた…と言ってもいいのかな?」

「とにかくここには昔、地震があって…それを収めるために私が祀られてたんだよ」

 

懐かしむように上を見上げるイノリ。

もしかしてだ、もしかして……昔あったこの学校の前にあった『神社』は……

予想外の点同士の繋がり。

無関係な単なる噂話として過去の神社があったがそれがこの形で繋がりを持っているとは誰も思いはしないだろう。

 

「その通りさ、君はいいね理解力……高いと思う」

 

あっさりと、昔あった神社は私のだと言うことを蛇…イノリは答えたのだった。

 

地震があったなんて知らない、ただ分かるのは昔あった神社とそれに関するただの噂話だけだ。

ただ…ただそれだけだ。

それが因習として因果として捻じりつつも繋がりがあった。

――――私は、何も知らなかった。

知っている事はなかった。

情報としての点は知っていたにも関わらずそれを線として理解していなかった。

………それなのに、彼女は理解力高いと言った。

私にはそれが少し不思議に思う。

今までの彼女ではないなんて分かっている、分かっているつもりだった。

だけど実情はどうだ?

私は本当に彼女を……神とイノリを切り離しているのか?

分からない。

分からないんだそれは。

 

「…………まぁ、私が祀られてから何年も経って、地震も無くなって、平和になると…………まぁそうなるとさ」

 

少し声のトーンを落とし。

 

「忘れられるのさ、私に限らない話だけどね」

 

忘れられる。

一体いつの神社でいつの時代の話かは分からない。

けど私たちはその神社の意味も、意義も、理由も知らずに壊してしまった。

 

悲しむように言うイノリ、それがなんだか…なんだか本当に悲しそうに見えて。

 

「いいや!私は忘れないっす!!」

 

と、思わず机を叩きながら声を上げる。

ウソ泣きかもしれない。

彼女に真実はなくて、全部まやかしの蜃気楼で本当は醜悪でとんでもない腹黒い奴かもしれない。

嗚呼……そうだ。

私はその側面をずっと、ずっと視た。

なのに今さら…………私は。

 

彼女に、手を伸ばしたいとおもったのだ。

 

それに彼女はびっくりして…少し経ってから。

 

「……そう言われると、嬉しいね」

 

なんて言うのだ。

この時、この表情はなんて、言えば表現出来るのだろうか、人ではないから人で表現するにも一苦労だし、人らしく分かるのは声だけだ。

だけど……これだけは確実に言える。

 

イノリは嬉しそうだった。

 

何も分からない自分でも分かるほどに。

満面の笑みがその蛇の顔に浮かぶ幻想が脳を貫くほどに。

 

――――嬉しそうだって、分かるのだ。

 

「な、ななな……」

 

いつもと違いすぎる対応にびっくりする。私はそんな感傷を誤魔化すように私は思わず。

 

「とりあえず!話の!続き!頼みます!!」

 

と言ってしまうのだった。

イノリはそうだね、と1呼吸置き。

 

「まぁそんな感じに忘れられていく私にね、声がしたんだよ」

 

声?なんの声なんだろう。

 

疑問を膨らませながらその言葉をしっかり聞くように集中する。

 

「『助けて』…この時、私は思わず助けてしまったんだよ……これが最初の『神隠し』さ」

「なっ…!!」

 

最初の神隠し。

最初の事件。

誰かが死んだあの日。

 

驚く私を横目に話は続く。

 

「今、思えば彼女は誰かを殺したんだろうね、殺人事件で隠された死体だけ見つかって実行犯は見つからない……なんて話は、私の力以外では有り得ない」

「真相は違うかもだが……」

 

チラッと、こちらの疑問を見据えるように見て。

 

「私は彼女の記憶は見るつもりはないよ、その感傷は、事実は、必要なものじゃない」

 

語るイノリは、あぁ……確かに元とは言え、神様なんだっていう風貌?だろうかそういう妙な説得感があった。

 

「……そしてそこから私の神としての第2の人生が始まった」

 

ま、人じゃないけどねとチロチロと舌を伸ばすイノリ。

 

「けど……色々大変だった。最初から神を騙るのは慣れてなかったし、真面目に神様らしいこと出来たのはカナからかな?」

 

―――カナ、それは聞いたことがある。

確か4番目に神隠しあった…2年生だった気がする。

私の反応をみて、ありゃ知ってるのかと少し残念そうにしてる神は……まぁ今はいいだろう。

 

…………下手につつくと多分話が長くなる。

 

「まぁそのカナの頃にはエミコと同じ演技できてたんだぜ」

 

―――なんでイノリこんなに少し自信あるような声してるんだ、いや確かに失敗続きの演技が成功したらって思うと嬉しいだうけど。

こっちからしたら知らんこっちゃな話だ。

 

「は、話を続けてくださいっす……」

 

会話を腐るほどしてきたと思ってるがイノリの『素』はこんな感じなのか……面倒臭い蛇だな……ほんと。

 

「そうか…語るよ……」

 

しょぼくれたような声をしているが……ここに構ってはいけない。

今までの付き合いで分かったけどイノリは突っ込みを入れるほど話が長くなって脱線しまくる子だ。

 

「まぁそんなに語るほどじゃないけどね」

「神ってやつはどうやら私の思ってた以上に難しい世界でさ」

「悪人面しないと『願い』が続かなくてね。誰かが神を……まぁ、私を祈って、祀ってくれないと消えて死ぬんだよ…まぁ、それを知ったのはハクノからだったけど」

 

ハクノ……昔、良く爆発を起こしてた問題児だったはず…………

3番目の神隠しの被害者か……

いよいよ私が知ってる神の、神隠し経歴が発揮されてる。

……発揮されて欲しくなかったけど。

というか。

 

「……なんか神に祈れーって、たまに催促してたのはそういうことなんっすね……」

「そうそう」

 

適当な相槌をしやがるな、この蛇……

 

閑話休題。

 

「まぁ……色々な出会いがあったさ、それは、成長を促すものであったり、苦難をもたらすものであったりしたけど」

「けど、悪くはなかった」

 

良いとは言えないけどね。

付け加えるように喋るイノリは、ただ…昔を懐かしむ老人のようであり、威厳ある神のようであり、少年から青年に変わった大人のようでもあった。

 

 

「―――私はね、願ったんだ」

 

 

「最初に、『助けて』と願ってくれたあの子の神様になったあの頃に」

 

 

「もっともっと長く…遠くへ…生きたいって」

 

 

「誰にも知られず、忘れて消えそうになったあの時に聞こえた『助けて』って聞こえた言葉は」

 

 

「私の言葉も混じってると今では直視できるよ」

 

 

そう話すイノリはどうしてだか…泣きたくなるような、そんな顔をしていた。

それがどうしても超人的な感じじゃなくて、どこにでもいそうなただの人の顔で。

だからこそ、私はわかってた。

イノリは神様なんて大仰な者なんかじゃなくて、ただの……ただの。

 

普通に生きていたかった子なんだ。

 

…………蛇の顔なんてちっとも分からないのに、なんでかそれが泣きそうになってる顔だと言うことを私はわかった。

 

それはきっと、根本的なところで、私とイノリは――――

 

「………………」

 

夏空を写す窓の中。

飛行機がただ過ぎていく。

私はただ何も言えずに……席に座ったままだった。

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