先生は塞翁が馬という言葉を知っているかな?   作:ミサキル

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スタートダッシュ

"うぅ"

 

唸り声を上げる生物と化してから何時間経ったか分からない。

ぼんやりとした頭がずっと、ずっと恐怖という文字を作る。

唸り捻り腐る頭。

何がどうすれば、どう行動すればいいのか分からない。

そんな中ふいに。

 

ぐぅ…。

 

腹が鳴った。

………どうやら腹はどんな状況でも鳴るものらしい。

 

”――何か食うか”

 

湿ってた思考を乾かすようにコンビニへ行くために外へ歩きだした。

 

 

外はもう暗く、暑かった昼のことなど知らぬように寒かった。

 

"…"

 

外に行くなら何か上着を羽織った方が良かったななんて考える。

もっと考えることがあるはずなのに、それに目を背けるように、考えた。

 

「――先生?」

 

ふいにそんな声を聞いた。

振り向くとがカンナ居た。

 

"カンナ?"

 

意外な出会いに驚く、結構遅い時間なのに…いや遅い時間だからこそか?

 

「こんなところで出会うとは…今日も仕事ですか?」

"あぁそんな感じ"

 

………ずっと恐怖とかで固まってたなんて、言えるはずがない。

 

「――大丈夫ですか?」

 

ぐぃと近づき私の中にある本心を覗き込むように目を見るカンナ。

 

"大丈夫だよ"

 

心配して欲しくてない。

そんな今更な程の乾いた先生というペラペラした虚勢を張る。

 

「なら、良いのですが…」

「先生、良ければ今日は一緒に飲みませんか?」

 

だけどそんな虚勢じゃ本心は隠せないらしい。

まるで本心を見抜いたように彼女笑い、私を誘った。

 

―――断れはしなかった。

 

 

屋台に来てから溜まってたことを吐き出すように。

 

「先生は少し背負い込みすぎだと思います!」

 

ドンッとコップを叩きつけるカンナ。

相当怒ってるらしい。

数分間ずっとこの感じである。

さすがに自分が熱くなってるのに自覚したのか。

 

「あっすいません…」

 

とカンナは素直に謝る。

 

"はは…"

 

否定も肯定も出来ない。

図星をつかれつい苦笑いで返してしまう。

 

「先生は…」

 

まだ言いたそうなカンナを制止する。

 

"大丈夫だよ、カンナ"

 

情けない話ではあるがカンナのお叱りの言葉で思い出した。

 

恐怖があった……でも声が聞こえた。

また震えてしまうかもしれない……それでも。

もう次は立ち上がれないかもしれない……なら今回で全力を尽くそう。

 

そう思えるのならば、ああ……私はきっともう大丈夫だ。

まだ生徒のために走れる。

 

"最初に何をするべきか思い出した"

"だから…早速頼らせて貰うよカンナ"

 

強がりでも少しだけ笑う。

 

「……はい」

 

少し不服そうだがカンナは肯定してくれた。

 

 

「それにしても先生、その■■学校のことを調べたいだなんて、急にどうしたんですか?」

 

今シャーレでカンナに調べてもらってるのはあの学校のことである。

 

"気になることがあってね…頼らせて欲しい"

 

「…先生の言うことなら仕方ありませんが」

 

少し顔を赤らめてそう話すカンナ。

この件が終わったらよしよしでもしようと思う。

 

「それで…おっと見つかりました」

"さすがカンナ!"

 

カンナが手に取った資料には神隠し事件と名があった。

 

「ずいぶん前の話ですけど」

 

そう言いながらカンナはペラペラと資料をめくる。

私も一緒に見ようかとその資料を覗き込んだ。

資料の内容は―――。

 

 

 

白紙だった。

 

"―――ッ!!"

 

瞬間、生存本能に従い横に飛ぶ。

 

パン。

 

軽い、風船が割れるような、軽い、音がした。

………ことキヴォトスに置いて忘れることなどはない日常の音。

発砲の音だ。

 

「…避けられましたか」

 

撃ったのは目の前にいるカンナ。

 

"どうして…"

 

信じられないが信じるしかない現状にただ疑問を投げる。

 

どうして…と。

 

「それぐらい大人なんですから……自分で考えてください――ね!」

 

再び横に飛んだ私に銃ではなく蹴りを叩き込むカンナ。

 

"…ぐっ"

 

横腹に突き刺さり思わず苦悶の表情をしてしまう。

それだけではない、蹴りの威力がおかしいのかそのまま壁までぶっ飛ばされる。

 

"ぶっ!"

 

背中に衝撃が走り思わず吐瀉物を吐く。

 

……よかった幸いほとんど何も食べてないから出てきたのはただの汚い胃液だ。

いやよくはない。

 

「終わりですよ」

 

冷たい声が響く、今はただ痛みも何もかも忘れて横に飛ぶしか生存の道はない。

 

パンッパンッ。

 

再び銃声が響く。

今度は2度。

さすがに横飛びだけでは避けきれず一発掠める。

 

"――ぁが"

 

痛みよりも先に感じたのは熱だ。

銃弾を掠めたところから熱を感じる。

ただ、このまま悲鳴を上げても意味なんてものはない。

生存するための戦略――それは、なんでもいいから攪乱しながらカンナから逃走することだ。

そう思考を走らせ逃げる為に無意識のうちに使うもの取捨選択を決める。

銃口が見えた瞬間。

走る先は電気のブレイカー。

 

「それが狙いですか!」

 

走る私に照準を合わせ撃つ、その瞬間。

慣性を振り切るようにぐるりと回り逆方向へ走る!

 

「なっ!」

 

もう遅い、思考が追いついても身体が追いついてない。

パンと軽い音を出し射出された銃弾は空をきり壁へ着弾した。

 

「狙いは――!」

 

銃を向けるよりも私がこの非常ベルを押す方が速い。

ジリリリと耳を裂くような音が響く。

 

「くっ…」

 

さすがに少しは堪えたのかカンナが怯む。

やると決めたものとやられると知らないものその差は大きい、最初に覚悟を決めて行動したものが動ける領域。

それでもなお撃たなければという想いがあるのか照準の定まらない銃を乱射する。

 

"――ッ!!"

 

乱射された銃といえどもアロナの力がない今私に当たれば死ぬ。

それでも当たらなかったのは奇跡というのかそれともカンナが当たらないように手加減したのか。

それはわからない、いや今はそんな疑問を持つ余裕を持てない。

乱射された銃にもう弾はないならばこのまま――。

 

「そうはさせません!」

 

カンナが接近してくる、銃では埒が明かないと考えたのだろう。

だが遠い、致命的な程に。

まだ弾をリロードした方が勝率はあったのにそれをせず確実をとろうとしたところはカンナらしいといったところだろうか。

 

カチッ。

 

そんな軽いスイッチの音ともに部屋は光を失った。

 

 

”はぁ―――ア”

 

暗闇の中どう動くかを決める…カンナはこちらを察知する為に電源をつけにくるはず、ならばここにずっといるというのは愚策だろう。

だがそのまま扉へ突っ込むというもの安直すぎる暗闇で見えないハンデは両方が背負ってる。……もしもカンナが扉へ待ってたとしたら私は終わりだ。

ならばここはまたカンナを怯ませてから移動するのがいいだろう。

近くに使えるものが何かないかと探すと。

ガチャと、硬い塊のようなものが目に映った。

 

"テーザーガン…か?"

 

そういえば前に暴徒鎮圧用の新しいものをエンジニア部が作ったとか言ってたけど…。

いやなんでここにあるとかの思考は後に回そう。

 

今は。

 

"――これでここから逃げる"

 

その1点に意識を集中させた。

 

 

目が暗闇に慣れるその前に記憶頼りの地図を片手に走る。

 

「そこですか!」

 

パンッと足の音から推測して撃ってるのだろうカンナから銃声が響く。

だがそれは逆にカンナの場所を教えるということ。

 

"やっぱり扉か!"

 

目が暗闇に慣れカンナを目視する。

同時にカンナも目が慣れたのだろう。

 

「そこに居たんですね」

 

普段頼りになる彼女から想像しないほどにゾッとする顔が見える。

 

―――これが狂犬の顔か。

 

”……!”

 

無駄な思考を切り捨てる、テーザーガンの射程はわからないが確実に当てるとしたら10mは近づきたい。

ここからカンナへの距離は最短ルートあと30m。

カンナの攻撃をなんとか凌いでカンナに接近すればこちらの勝ちだ。

だがもし接近出来ずにカンナの銃弾に被弾してしまったらこちらの負けである。

 

勝利条件を明確し、心を、覚悟を決める。

 

"―――これでラストだ"

 

 

暗闇に慣れた目は光に弱い。

それに気づくや否や逃げるようにカンナから距離を離れる。

 

「!?」

 

近づかずに離れたことに疑問を思ったのか銃弾は来なかった。

 

”間に合った”

「しま……!」

 

着いた。

 

"遅いよ"

 

瞬間。

部屋に光が戻った。

 

「ぐっ…先生!」

"―――ッ!!"

 

全力で扉へ突っ込む。

目は捨てた、今は頭の中にある部屋の地図を頼りに走る!!

 

「させません!」

 

暗闇の時と同様銃弾を放つ。

だがやはりといえばいいのか目が潰されたカンナの銃弾は当たらない。

 

"――カンナ!!"

 

目を開く、明かりにはもう慣れていた。

もう…ここまでくれば十分だ。

目の前には銃を向けたカンナが居た。

 

「先生!!」

 

視線が交差する、何を考えて、何をするべきか、そんな思考はなかった。

ただ相手を倒すそれだけに心血を注ぐ。

 

パンッと軽い音とバチッと鈍い音がした。

それがこの部屋で起きた最後の異変だった。

 

 

ガチャリと扉が開く音がする。

 

”……つかれ……たぁ…”

 

そこには重症を負いながらも立っている男の姿だけがあった。

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