連邦捜査部S.C.H.A.L.E所属顧問・加賀美ハヤト 作:「浦和さん、法廷で会いましょう」
そうして彼はアスファルトの路地を歩き続ける。日が沈み、そして昇り。そうして朝焼けを迎えながらもただ愚直に前に進み続けた。
一晩中、砂漠の中を歩き続ける凄まじい基礎体力を見せる加賀美ハヤト。しかし、それは自身の余りある体力を世界に示すためではない。
"あ……ここで止まったら確実に野垂れ死ぬ"
そう、彼の本能が訴えていたからだ。
加賀美ハヤトはこれまでの生涯にて、派手な大ケガを負ったり、体調を崩し、病に伏す事は殆どなかった。それは彼の天性の肉体強度の賜物というのもあるが、それ以上に彼が自身の体調に対し目敏かったというのが大きい。
自身のコンディション把握能力によって、彼は何度もリスクを回避してきた。その頼れる感覚が今「これはまずい。せめて動け。もし止まれば、お前はそこで終わるぞ」とアラート音をけたましく響かせているのである。
警告通りに躯体を必死に動かす加賀美ハヤト。彼はかれこれ、一晩中ただひたすらに砂漠を歩き続けていた。しかし砂漠を半日以上飲まず食わずで歩き続けたとなれば、それは当然─────
「くっ……」
体力は消耗する。
暗闇から朝焼けを迎えて数刻が経った頃、遂に彼は片膝を突いた。
焼けつくような熱風が、焦げ付くような日光が、狂おしいほどの渇きが、彼の体力を簒奪する。砂漠という環境の全てが、加賀美ハヤトを追い詰める。
絶えず浴びせられる苦痛を前に、肉体が軋む。しかし、彼の精神は折れていなかった。
「此処で止まるワケには───いかない」
彼の脳裏に、霞がかった言葉が蘇る。
"今■図■■で■が、お願■■ます。加■美社長"
そう言って、「先生」に全てを託した血塗れた白い制服の少女が居た。彼女と交わした会話は思い出せず、彼女が何者であったかすらも分からない。
加賀美ハヤトは、何も覚えていない。
しかし。
"私が、信じ■■る
あそこには、大人である自分を頼ってくれた、
そうだ。此処にも………アビドスには助けを求める子供が待っているのだ。
ならば、死ぬわけにはいかない。
此処で、簡単に終わるわけにはいかない。
この自分には、此処で立ち止まる時間はないはない……!
そうして地面に屈した片膝に喝を入れ、再び立ちあがろうとしていると─────
「───大丈夫?」
一人の少女が、加賀美ハヤトの顔を覗き込んでいた。蒼の双眸に、銀髪の髪。水色のマフラー。そして、キヴォトスでは珍しくない獣の耳。
銀狼を想起させる少女が、加賀美ハヤトに手を差し伸べる。
「手、貸そうか?」
「ありがとう……ございます」
差し伸べられた手を見て、彼は感謝の言葉を伝え、その手を握り。少女の力を借りて、立ち上がる事に成功した。
「すみません。本当に助かりました」
「ん、どういたしまして。
でも珍しい。こんな所に遭難者なんて。
………どうして、こんな所に?」
「実はアビドス高等学校の方に御用がありまして。途中までヘリで参らせて頂いていたのですが……途中で搭乗したヘリが堕とされてしまったのです」
「…………ヘリが堕とされて?」
「………….はい」
彼は少女に此処までの経緯を説明した。
自分が、S.C.H.A.L.Eの先生であること。
支援要請を受け、アビドス高校に向かっていたこと。
その途中で乗ってたヘリが堕とされ、なんとか生き延びたが、砂漠を半日以上歩き続ける羽目になったこと。
「なるほど。大変だったんだね」
彼女はポン、と手を叩く。加賀美ハヤトの話を聞き、少女は合点がいったようだ。
彼の話を理解した彼女は、巻いたマフラーの裏から何かを取り出し。それを若干ドヤ顔気味に、加賀美ハヤトへと見せつけた。
「ん。これ、わかる?」
それは、太陽のマークに三角形の図形が描かれた身分証明書であった。
「それは……アビドスの学生証……?!アビドス高等学校の生徒さんだったのですか?」
「そう。私はアビドス高等学校2年の、砂狼シロコ。アドビスの生徒だよ」
マフラーの少女───砂狼シロコ。
彼女は、彼の目的地であるアドビス高等学校の生徒であった。
「お客様は久々だ。アビドスはすぐそこだから私が案内するよ」
「おぉ。ありがとうございます、砂狼さん」
「礼を言いたいのは、こっちの方。弾薬が尽掛けてる中、先生は命懸けで補給品を持ってきてくれたから。先生のお陰で、これならまだ戦える」
加賀美ハヤトは、弾薬が詰め込まれた大きなリュックを背負って、此処まで歩いてきた。
それは、ひとえにアドビスに弾薬を提供するためだ。どうやら、これまでの砂上の苦労は報われたらしい。
「でも……先生、大丈夫?そのリュックは私が背負おうか?」
先ほどまで地面に膝を付くほど消耗していた彼を案じ、シロコは加賀美ハヤトへと提案する。
「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です。多くあった弾薬はリュック一つとなってしまいましたが、折角ここまで辿り着いたのです。ですので、最後まで自分の手で仕事を遂行させていただきます」
「ん、わかったよ先生」
しかし、その心配は杞憂だったようだ。そこには、体力が限界間際の人間特有の心許ない返事はなかった。
彼の言葉には、はっきりとした「自分の仕事を果たしたい」という意思と力強さが込められていた。彼の言葉に、シロコは「これなら大丈夫そうだ」と安心する。
……それにしても。
「砂漠化した廃墟を半日以上歩き続けてたのに、まだ歩けるなんて。先生、割と体力あるんだね。もしかして、なにか運動とかしてる?」
「そうですね。キヴォトスに来る前は、プライベートで割とやらせて頂いていたのですが…………そういえば、キヴォトスに来てからは運動をする機会はありませんでした」
この半月、着任早々S.C.H.A.L.Eに舞い込んで来た仕事の量は凄まじく、自由な時間は殆ど作れていなかった。故に、此処に来る前に実現していた運動習慣は、キヴォトスに来てから抜け落ちていた。
「なら、ちょうど良かったね。砂漠歩きは久しぶりの運動になった」
皮肉でもなく、大真面目に「いい運動になった」と砂狼シロコは言い切った。
そんな彼女に、加賀美は思わず苦笑する。
「確かに。しかし、運動と言うには少々過酷な気もしますが」
「ん、運動はちょっとキツイぐらいが一番気持ちいい」
そう言って、腕を組み頷くシロコ。彼女の態度は、明らかに一般人に向けるようなものではなかった。彼女は明らかに、彼を一目置いていた。
でも、彼女からの高評価を受けたのは、加賀美サイドにも責任があるのである。
加賀美ハヤトを"割と体力がある"と評したシロコ。確かに、"大きな荷物を背負った上で"過酷な環境である砂漠を半日以上無補給、ノンストップで歩き回るというのは正気の沙汰ではない。実際に、彼の体力は人域から外れていると言えるだろう。
彼の体力は"割と"どころではないのだ。
無双のバケモンなのである。
………バケモンなのだが。
彼を評価した砂狼シロコ、彼女もまた真のバケモンであった。なんせ、彼女は200kmのライディング……自転車による長距離移動を"軽く"で済ませるほどの、文字通りの超人なのである。
しかも、彼女曰く、「徹夜を覚悟すれば24時間でもぶっ続けで漕ぎ続けられる」とのこと。
その際の移動距離は、200kmの倍の400km。これは、東京-大阪間の直線距離に等しい。
………イカれているのか?
彼女の基準値がバグり散らかしていた事も相まって、シロコは今出会った先生を規格外の存在と慄くことはなく。
「ん、私の方が強い。でもこの人と私に並ぶくらい凄い」と"圧倒的な怪物"ではなく、"自分に近しい同類"として見做していた。
「じゃあ……そうだね。
そろそろ行こうか、先生」
「では、お願いしますね。砂狼さん」
「ん」
彼女は停めていた水色たライディングバイクへと駆け寄り、スタンドを解除する。そうして手で押しながら加賀美ハヤトの隣へと立った。
シロコはアビドスへの登校のためにこの自転車に乗っていたが、道端で見掛けた加賀美ハヤトに手を貸すため、一旦停めていたのだ。
デカいリュックと水色の自転車。
それらの主達である先生と生徒は、アビドス高等学校へと歩みを進めた。
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【加賀美ハヤト】
ANYCOLOR株式会社が運営するVTuber/バーチャルライバーグループ「にじさんじ」所属の男性Vtuber。そして玩具会社「加賀美インダストリアル」の若き社長でもある。
社会人にふさわしい丁寧な言葉遣いや誰に対しても誠実な態度。そして、澄み渡った青空のような爽やかさ、ハキハキとしたアナウンサーのような声音が特徴。まさにカッコいい大人のお兄さんといえる人物である。
……しかしそんな大人びた姿の反面、ドラゴンやロボを中心など"カッコいい"モノを一度前にすると、前述の落ち着いた姿は何処へやら。「しっかりした大人」という外面から、「無邪気な男子小学生の如き童心」が顕現する。その極まったテンションから発せられる圧倒的超高圧のシャウトの前には、誰もが圧倒されるのは間違いない。
また、自腹でメーカー希望小売価格:35,200円のMETAL BUILD. Hi-νガンダムを男性後輩Vtuberにポンとプレゼントしたり、箱内のvtube達に50,000円分のTCG構築済みデッキを無償配布、新年に3,000,000円のカードゲーム福袋を購入するなど、ホビー商品に対するその購買意欲は末恐ろしいものがある。カッコいい姿から繰り出されるこの行動はある意味、先生適正:◎と言えるだろう。
領収書を見てバチギレた早瀬ユウカに「違う!違うんだ早瀬さん!コレは!!!」と見苦しい言い訳を吐きながら、彼女に羽交締めされる姿はあまりにも様になっている。