オレたちにEARTHは無い   作:ホネホネ

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鏡の月

 

彼女の話をしよう。

身体も名前も鼓動も無い私ではなく、その元となった少女の話だ。

 

彼女が彼女自身の特異性に気がついたのは、6歳の時。

父親の書斎にあった日本語の文献を問題なく読むことが出来た時のことだった。

 

彼女は生まれも育ちもアメリカで、母国語である英語以外は話したことも読んだこともなかった。それがまだアルファベットが使用されている西洋圏の言語であったのならば、意味はわからずとも英語と同じ要領で発音することはできたのかもしれない。

しかし、彼女は分厚い研究書の中に並ぶその文字が、アジアにある特定の島国でのみ使用されている言語であると特定することができた。そしてそこに何が書かれているのかということまで理解することができた。

 

「……『あなたは決して目を背けてはなりません。祝福を受けた人の子の代表として、あなたにはこの世の罪源を受け止める力があり、その使命があるのです』」

「あー!お姉ちゃん、勝手に父さんの部屋に入ってる!」

「   !うるさい!あっちいって!」

「怒った!ねー!とうさーん!お姉ちゃんがー!」

 

困惑のまま、本のページを指でなぞる。どうして自分がこの文字を読めるのかがわからない。

本棚へ視線を向けると、別の言語で書かれた本が目に入った。引っ張り出して開く。……読めない。別の本を出す。……これもわからない。

 

「   。こんなにたくさん本を引っ張り出して。父さんの仕事がそんなに気になるかい?」

「……読めない本ばっかり」

「ははは、そうだね。これはペルシャ語で、こっちはアルメニア語。それはアラビア語で書かれているアッカド語についての本だよ」

「これは?」

「それは中国……じゃなくて日本か、うん、日本語の本だよ」

「アジアの島国?」

「すごいな、よく知っているね。ほら、街に行ったらたまにスシの店があるだろう。スシは日本の食べ物だよ」

「父さんも日本語読めるの?」

「そうだなあ、辞書を2つくらい使ったらね」

 

興味があるのか、と問う父親に彼女は「ううん」とイエスともノーとも取れるような曖昧な返事をした。

本の内容や言語そのものに関心は無い。あるのは博識な父でさえ容易くは読めないその言語をなぜ初めて見たばかりの自分がすらすらと読めているのかということ。

自分にも理解できない自分の姿に彼女は困惑と恐怖を抱くと、そばで視線を合わせてくれる父親に慌てて抱き着いた。

 

 

自分が知る由もないことを知っている、という現象はその後の彼女の人生でも度々発生した。

それは例えば魔術の存在。映画や小説に語られるファンタジーではなく、現実としてこの世に存在する超常的な、それでいて現実的な事象のこと。

それは例えば数多の歴史上の人物。スクールの教科書にも載っていない様々な英雄の名とその物語のこと。

 

何故そんなことを知っているのかと問われても彼女にだって答えられなかった。

はじめから全てわかっているわけでもなかった。何らかのきっかけで関連するものを認識して初めてその記憶を思い出すのだ。それまでは何も知らないし、覚えていない。

 

あの時もそうだった。父の書斎の奥にあったフィルム写真。遺跡を写した古い写真の裏に走り書きされていた「Tezcatlipoca」というスペルを目にした瞬間、彼女は無意識に呟いていた。

 

夜の風(ヨワリ・エエカトル)……」

 

それは夜。それは死。それは嵐。それはシステム。

怖くて、美しくて、善悪の上にある平等で慈悲ある戦の神様。彼のサーヴァント。

 

「……?」

 

彼、とは、誰なのか?

困惑だけが彼女の心を蝕む。

瞼の裏に映りかけた人影は誰だったのか。何故彼女が見たこともない、聞いたこともない神の名を知っていたのか。それを神の名だと認識できたのか。

その理由はわからない。彼女が死んだことで私が答えが得ることもできなくなった。

彼女にある種の未来予測の力があったのか、或いは無意識に何らかの手段で知識を得ていたのか。

今となってはその答えは失われた。ただ彼女はそういうものだった。些細なキーワードという鍵を手にした途端、彼女の奥にある扉が開き、根源のわからない知識が彼女の元へ還ってくる。

 

好き勝手に流れ込む膨大な知識は彼女の精神を肉体年齢以上に成長させていた。その年齢の子供にしては博識で落ち着きがある少女。大人から信頼を得るのは容易く、それ故に彼女は銃を得た。数多の事件と世論はあれど、それがアメリカにおいて手っ取り早く身を守る手段であると国民は皆内心で理解していた。

 

「   はわかってるね。力は徒に見せるものじゃない。使うのは本当に大事な時だけだよ」

「大事な時……」

「ああ、   ならその大事な時がいつかはちゃんとわかるよ」

「そうだね、私は大丈夫だよ」

「父さんがいない間、   のことを頼んだよ」

「うん、だって私は   のお姉ちゃんだもん」

 

 

 

父の職場である時計塔を訪れたのは彼女たちが十歳の時だった。父の庇護の下、双子は手を繋ぎながら数多の魔術師が闊歩するその魔境を進む。

弟である少年に手を引かれながら、彼女は重い足取りで歩いていく。その顔を覗き込んで、少年は唇を開いた。

 

「父さん、姉さんダメそう、顔真っ青」

「大丈夫かい、   。……唇まで真っ青だな。こりゃ魔力に当てられたかな。変な実験とかやってない日を選んだんだが……」

 

時計塔の中は彼女と相性が最悪だった。

一歩進む毎に目に入るもの、聞こえる音、感じるものそのすべて彼女にとっての鍵となって数多の扉が開かれ続ける。無遠慮に際限なく注ぎ込まれる知識を選別する暇さえ無く、彼女の脳味噌は掻き回され続けていた。

 

「父さんの研究室のソファで少し休もうか。ほら、   、おいで、抱っこするから」

「……もう抱っこしてもらう歳じゃないもん」

 

弟の肩に寄りかかりながらそう呟く少女。その重さに頼られている心地を得た少年が表情を明るくしたのを見て父親は眦を下げた。

寄り添いながら双子は歩いていく。重く鈍い頭と断続的な吐き気。ぎゅうと命綱のように握られた掌の感触だけが確か。

 

長い廊下を進み、伝承科の建物内に入れば一気にひと気が減る。ようやく減った情報量に彼女の負担もいくらか和らいだ。

父親に促されて彼の研究室へ入る。何となくタイミングを逃して繋がれたままの手を、だからといってあえて解く理由もなかった。

 

そうして入った部屋の中で彼女が『天使の遺物』をその瞳に映した瞬間、開いた扉が彼女に教えた。

 

それがなんなのかよりも先に、それの発動条件を。

 

覚えていた。忘れられるはずもない。だってそのあまりにも悍ましい悪意の条件を読んだ(・・・)時、ショックのあまりに手が震えたのだから。

 

彼女は弟と繋いでいた左手をするりと離すと、ホルダーから銃を引き抜いて慣れた手つきで安全装置を外した。

 

彼女は自分の前にあるターゲットを狙撃することに慣れていた。銃とは大抵の場合、前方にある的を当てることを想定して練習するものだからだ。

だからもしも彼女が持った銃を、父親か弟に向けて撃っていたのなら間に合っていた。1人は犠牲になるが、そのかわりに2人は救われていただろう。

けれど、彼女の中にはじめからその選択肢は無かった。彼女の頭にチラつくことさえなかった。

 

だから彼女は慣れない手つきで銃口を自身の顎下に押し当てると躊躇いなく発砲した。

 

けれど、彼女が発砲するのと『天使の遺物』が光を放つのとではごく僅かな差で後者が早かった。

 

一瞬の閃光。

その果てにそこに残ったのは焼き付いた父親と少年の影、それから再構築され連続性を失った少年と、少女の死体だった。

 

 

 

 

 

「なるほど、オマエのここに残ってる銃創はそん時のか」

「んぐっ!ちょっと乱暴!急にさわらないで!」

 

大きな手で少女の顎を掴んで無理に持ち上げ、顎下を覗き込むテスカトリポカに荒い声が届く。

その文句も気にせず「なんだ、じゃあ脳天には出口の跡があんのか」と言って乱雑に髪に指を入れて頭皮を確かめようとする神に、少女は「淑女になにするのよ!最低!」と怒鳴った。

 

すっかり夜が更けたメヒコシティの片隅で、少女はテスカトリポカに絡まれていた。

今の彼女は一人だ。彼女の弟は神殿内部の一室で睡眠についている。昼間に冥界行の準備のためにあちこちを回っていた彼が定刻を迎えてリセットされるまで彼女はそばにいて、彼がその瞳を閉じて寝息を立てるまでを見守った。

 

さて、弟が寝てしまえば姉にやってくるのは自由に使える一人時間である。元より肉の体を持たないために睡眠による休息をさほど必要としないのが今の彼女だった。

それ故に、彼女は部屋にお守り代わりの結界を張ると、弟が眠る部屋を出て一人きりの夜の散歩と洒落込んでいたのだ。

 

夜になっても篝火によって明るいメヒコシティの街を誰に認識されるわけもなく歩く。並ぶ店を覗き、理解できないオセロトルたちの言葉に耳を傾け、神殿から続く水路を見た。

月を映す鏡の水面。いずれ鮮血に染まるこの水路も、今はまだ透き通る蒼を有している。

ふとその冷たさを感じたくなって、彼女は水路の傍にしゃがむ。そしてその揺れる水面へ手を伸ばした。

 

「その月は掴めんよ、お嬢さん」

 

背後から声を掛けられたのはその指が水面に触れる直前。肩を揺らした彼女は咄嗟に振り返る。

その視線の先、長い金糸に月光を反射させながら立つ神がいた。

 

「……テスカトリポカ」

「弟を放って夜遊びか?ずいぶんな背徳だが、オマエに一人酒は似合わない。どれ、オレが付き合ってやろう」

「うわ、いらない。本当に迷惑。帰りなさい」

「そう燥ぐな」

 

そうして少女は捕まった。

小さな虚ろの身体を小脇に抱えられ、さながら子猫のように運ばれた。

しかし彼女とて、逃げようと思えば逃げられたのは事実。けれど敢えてそれをしなかったことに彼女自身自覚的だった。

けれど、仕方ない。なにせ弟以外と話をするのは彼女(・・)が生まれてから初めてのことだったのだから。

 

 

 

 

ひと気のない街外れまで少女を連れてくるとテスカトリポカは石造りの空き家へ我が物顔で侵入した。場所はどこでもよかったが、街中に神がいるとオセロトルたちが燥ぐ。

だからといって神殿に行けばイスカリやトラロックに見られる可能性があった。別に見られても構いはしないのだが、はたから見れば何も無い虚空に話しかけているだけにしか見えない。頭が狂ったと思われて少女との話を中断させられるのも面倒だった。

 

そうやって連れてきた空き家で、テスカトリポカは窓辺の壁に背をつける。何も無い部屋の中心で不愉快そうな顔をする彼女に向かって微かに口角を上げた。

 

そしてテスカトリポカが何か面白い話をしろと彼女に無茶振りをしたところ、話してくれたのが冒頭、彼女の元になった少女の話だった。

 

「そいつはデイビットより先にナニカに繋がってたってのかねえ。まあなんだ、しかしオマエはデイビットと違って話し上手だな。アイツはどうにも話を端折る癖がある」

「でもあなたは理解できるでしょ。なら問題ない」

「なるほど、甘えか。可愛いところもあるじゃないか」

「いやただのショートカットよ。虫の挙動に愛情を見いだそうとしないで」

「そうは言うがオレは上位存在()だ。視座が違う」

「人を愛する神ではないくせに」

「愛するさ、戦士ならばな」

 

確かに彼は人を無条件に愛するように定義された神ではない。だが、だからといって人が嫌いなわけでもない。むしろそう、人の可能性を信じているという点においては確かに愛しているのだ。

テスカトリポカは彼なりの方法で人を慈しむ。そこに善悪はなく、そして生死も重要視されないだけ。それでも人を、その営みを、生き様を足蹴にしたことなどない。

 

「ほんとよく回る口」

「いいだろ?チャームポイントだ」

 

お喋りは好きだ。

せっかく肉の身体があるのだ。付いている口を使わない理由もない。

窓から夜空を見上げれば浮かぶ月は穿つ穴の如く。高揚している気分を自覚しながらテスカトリポカは両腕を広げた。

 

「話したいことがあるなら存分に語るがいい。今夜のオレは寛大だ。まああれだ、夜に一人、着飾って歩いているようなものだな」

「……私はあなたに挑まないし望まない。私はあの子とは違う」

「同一存在だと語りながら、やはり差異に自覚的か。その矛盾をどう等号しているんだかな」

「そういう事はあなた自身、四つの人格で意見を統一させてから言いなさいよ。自己に矛盾を抱えずに生きられるほど狂ってない」

「それもそうか。じゃあ話を変えよう。なあ、姉貴。オマエはオマエ自身の矛盾をどう解決するんだ?」

「……何の話?」

 

胡乱げに見上げる少女の視線を受け止めながら、テスカトリポカは慣れた手つきで煙草に火を点ける。

テスカトリポカの話に長々付き合ってくれる相手もそういない。彼にとっても悪くない時間だった。

 

「オマエはデイビットを守ろうとしている」

「否定しない」

「だがそのデイビットはいずれこの惑星と心中する。己が持つ時間そのすべてを使って死に向かう弟をオマエが守ろうとすることは矛盾ではないのか?」

 

唇で煙草を咥えて、男は息を吸う。肺まで入れた煙、微かに口の端から漏れる紫煙がテスカトリポカの表情を隠す。

それが彼女には笑っているように見えた。怒っているようにも見えた。……だからなんだというのか。神の心など自分はわからない。相手が神じゃなくても、他人の心なんてわかるはずもない。

だからせめて、自分の心だけはわかっていたい。

彼女は右手を自身の胸に当てて答えた。

 

「何も矛盾なんてしてないでしょ。私はただ頑張ってる弟を応援したいだけ。守るなんて別に大層な話じゃない。あの子が行く道に転がる石があるのなら、たまにどけてあげてもいいってだけよ」

 

救われてほしいと思った。

だから銃を自分に向けた。

それが彼女の終わりで、私の始まり。

 

生きていれば救いになるのだというのなら、あの研究室が失くなっても、世界が漂白されようともまだ生き続けている彼らは救われているというのだろうか?

死んだように生きることと、生き生きと死にたがることのどちらが幸福かなんて知らない。そんなことを考えるべきは今を生きている者だ。私は違う。

 

それでもあの子は善くありたいと願い、その為に精一杯生きている。

 

私はそれを救いだと判断した。間に合わなくても、届かなくても、彼女が撃った銃弾には価値があったのだと信じている。

 

「精一杯生きていたとしても死がすべてを無に帰すのだと、──テスカトリポカ神、夜の斧(ヨワルテポストリ)よ、戦いの果てに散りゆく幾千もの戦士を見送ったあなたがそう語るの?」

 

月明かりを受けた紫の瞳が真っ直ぐにテスカトリポカを見つめる。その意志の強い瞳は姉弟、どちらのものもテスカトリポカにはあまりにも好ましかった。

彼は喉を鳴らすと咥えていた煙草を指に挟んで笑った。

 

「本当に気が合うよ。まったく、お前個人を示す名を呼べないことが惜しい」

「気が合う……?なに?正気?何を思ってその発言をしているの?あなたと私を同じレベルに置かないでくれる」

「オレはデイビットが好き。オマエもデイビットが好き。良い共通点だ。気が合うだろ?」

「……………………確かに」

 

納得するのかよ、とテスカトリポカは思うのだった。小さく頷いた彼女は微かに緩んだ心で目の前の神様を見つめる。

 

「……少しだけ、ええ、ほんの少しだけど、私、あなたのことを好きになりそうよ」

「そうか、嫁に来る準備はできた、と。安心しろ、妻の5人や6人満足させられないほど甲斐性のない男じゃあない」

「あなた、その童貞みたいに極端な思考やめなさいよ、妻帯者でしょう。それに言っておくけど、私を娶ると虚空に話しかける異常者のレッテルと共に弟がついてくるわよ」

「気に入りの戦士と新しい妻が同時に手に入るたあ良いこと尽くしじゃねえか。その戦士が絶対に初夜の邪魔をしてくるということに目を瞑れば、だが」

「まあ、私だけの身体ではないというか、私だけでは身体が無いというか……」

「オマエの身体は気になるがな、いろんな意味で」

 

この場にデイビットがいたら暗黒界との接続も辞さない発言だったが、当の彼はベッドの上でスリープ状態であった。早寝早起き、健康優良児である。

 

神の言葉を軽いジョークと足蹴にした少女は話を戻すように穏やかな声を出した。

 

「でも、テスカトリポカ。あなたがわかる側(・・・・)だと知れただけでも嬉しいことよ」

「ああん?わかる?なにがだ?」

 

テスカトリポカはわからない。そうやって訝しげな顔をするテスカトリポカを前にある意味で同志を見つけた姉は、──弾けた。

 

「私の弟の良さがわかる側の者だ、という話よ」

「デイビットの良さ?」

「ええそう、正直に言うわ、テスカトリポカ。正直に言ってずっと前から思っていたの、私の弟って私に似て綺麗な顔立ちをしているわよね?ええ、私に似て。顔立ちも私に似て整っているし、鼻筋も私に似てスッと通っているし。それにあの子、性格も破綻してないし、人類のことも好きよ。真面目で実直で努力家。どこぞの神に素寒貧にされるまでは経済的にも余裕があったし。でもその割に……なんというか、ずっと浮いた話がないのよね。いえ、私も女よ、把握しているわ。クリプターの中にあの子を好意的に思ってくれている人がいるということは。見る目がある。ええ、本当に見る目がある。ありまくり。お姉ちゃんポイント100億点。……しかし、足りないのでは?時計塔やらなにやらから優秀なマスターを集めたと聞いていたけれど、その割に見る目がある人間が少ないようね。ええ、弟にメロついている人類が少ない。もっとこう、入れ食いでもいいと思うの。時計塔にもプロムとかあったら違ったのかしら。まあ時計塔は卒業してないんだけども。そうはいってもまあ、私もわかってるわ、あの子ってちょっと疎いものね。育ちからして仕方ないところはあるけれど、それにしても自分に好意を向けてくれている相手に対して「お友達感覚」発言はちょっと唐変木にも程がある。教育的指導として手ェ出るところだったわ。というか出したわ。何もわかっていない顔をされたけど。でもそういう隙があるほうがなにかこう心をくすぐられるとも聞いたことがあるしそれはそれで逆にありなのかもしれないわね。ええ、とても。……なのに人理とかいうクソシステムは私の弟を余所者扱いして英霊召喚システムさえ使えないようにロック掛けてきたりして本当に腹が立つわ。こんなにも精悍で頑張り屋で、でもどこかいとけない雰囲気を持つ子がこの星のために戦おうと必死になって求めたら英霊の100人や200人くらいわんさか来るものじゃないの?なにしてるの人理は。異星より暗黒界より、人理が私の敵なんじゃないのかとお姉ちゃん思うワケ。どう思う、テスカトリポカ」

「………………おお」

 

口を挟む間もないお気持ち長文に、テスカトリポカは呆気にとられた。ポカーン。テスカトリポカだけに。わはは。

口を開いたまま、「あー……」と意味なく小さな声を出す神に真っ直ぐな紫の瞳がぶつかり続ける。なんか言え、とカツアゲじみた視線をぶすぶすと刺されながらテスカトリポカは言葉を紡いだ。

 

「……なんだ、その、随分とよく喋るな。今宵の月のように」

「話したいことがあるなら存分に語るがいい。あなたの言葉よ、夜の風(ヨワリ・エエカトル)。受けて立ちなさいよ」

「そうか……オレか……。というよりだな、どう思うと言われてもなにを求められてるんだ、オレは」

「意見よ」

「意見か……」

 

神に意見ではなく、神が意見だった。

テスカトリポカは指先まで灰が迫る煙草を挟んだまま、視線を彷徨わせて思考する。

脳裏に浮かぶは神殿の中でスリープ状態になっているだろう自分の神官(トラマカスキ)。オマエの姉貴ってあれか?結構アレなのか?

とはいえ彼女の言葉通り、サーヴァントであるテスカトリポカもマスター・デイビットの唐変木っぷりは否定しないが、しかし。

 

「……まあ、なんだ、だからといってそういう色事に慣れてるデイビットもなんか嫌だろう」

「……それは確かにそうね」

 

神の意見にあっさりと納得してみせる少女。

あーあ、おもしれー女。

 

そのおもしれー女にテスカトリポカは「今夜は寝かさないから」と言われて夜明けまで弟談義に付き合わされた。姉、大はしゃぎ。

 





『異常論文』より「『アブデエル記』断片」(久我宗綱)の一文を引用
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