ランゴ兄さん転生〜なお知らないところで問題は発生する模様〜 作:誰かオレを笑ったか?
「な、なぜだ……」
「なぜ? ふむ」
父の瞳が大きく見開かれ、信じられないものを見たかのように息を呑む。
「なぜでしょうな、父上。少しは無い頭を捻ってみてはいかがかな」
こちらへ伸ばされていた手は、誰に取られることもなく崩れ落ちる。ほどなくして父の体は煙のように掻き消えた。
大きく、それはもう深く深くため息を吐く。
投げ捨てるようにして父を刺した大剣を消して、手近にあった椅子に座り、そうして再びため息を吐く。
「ふん。やっと死んだか、ろくでなしめ」
死んでしまえば手がかからないのだけが救いだな。
これでようやく一段落。誘い出すのに使用したワインっぽい何かをグラスに注いで口に含む。
もうこの気色悪い飲食物にも慣れたものだ。
グラスをカラカラと揺らし、そこへ映るオレの顔を見る。嫌味なほどにそっくりだ。死んでいった実の父、ブーシュ・ストマックに。
まったく。大した男だった。
会社を食い潰す無能などと称されていたが、ここまで評価通りだったとはな。
なにはともあれ オレが転生、ないしは憑依してから数十年。ようやくここまで来た。
始めは何も気づかなかった。
死んだと思ったら目の前には異形の化け物。悲鳴を上げようとしたら、出てくるのは泣き声だけだった。
しばらくしてオレは化け物に囲まれた人間の赤ん坊なのではなく、化け物に囲まれた化け物の赤ん坊なのだと気づいた。
成長するに連れて様々な情報を得て、自分自身のことも判明する。
オレの名前はランゴ・ストマック。グラニュートなる種族だ。
聞き覚えがあるようなないような。
ぼんやりそんなことを思いながらも時は流れ、より深くこの世界のことを知り、弟妹も増えていき、そしてとうとう(まさかここは)と思い至った。
仮面ライダーガヴの世界かぁ、ここ。
言わずと知れた日本を代表するニチアサヒーローの一つ、仮面ライダー。ガヴはオレが転生してくる前に放送されていたシリーズだ。
複雑な家庭環境にある主人公のショウマが仮面ライダーガヴに変身して悪の組織と戦う、というお話。
ワァオ。カッコいい。
ちなみに悪の組織の名前はストマック社。
つまりは我が家だ。
そして本編中のストマック社の社長の名はランゴ・ストマック。
つまりはオレだ。
まったく嫌になる。
会社を倒産させかねないぼんくらを始末したはいいものの、これから先も山のように面倒事が待っているというわけだ。
ともあれその事実に気づいた瞬間からずっと、オレはどうすべきかを考えなくてはならなくなった。
まるっきりそのまま再現するのは不可能だろうが、本編をなぞるように悪役として進むか。
あるいはまったく異なる道を進むべきか。
当然、悩んだとも。
だがそう。答えなど決まりきっている。
■◆■
父を始末し、翌々日。
グラニュートは死ねば消滅する。目の前で看取らねば死んだかどうかも簡単には分からない。
だが二日が経ち、本人の姿も確認できず、彼のグラニュートとしての力で生み出されていた物もいなくなっていたことで死亡したと判断された。
我々ストマック兄弟は大部屋へと集まり、今後についての話し合いを行うことになった。
「社長業はオレが引き継ぐ。異論はあるか」
「いいえないわ」
「他になければこのままオレが執り行うが……ないな。では今日からオレがストマック社社長だ。通常業務はしばらくそのまま行え」
社長就任に伴いオレの業務を引き継ぐ必要はあるが、それはいったん後回しでいいだろう。
いくつか表の仕事を。すなわち製菓会社であるストマック社としての業務連絡を行い。
「さて。では本題に移ろう。闇菓子についてだ」
闇菓子。
これこそストマック社が悪の組織として敵になった理由だ。
安直でそこはかとなく緩い名前のこれが何であるかと言えば、人間を材料に製造した薬物である。
いいのか。
子供向け作品の敵がこんなことしていて。
まあ仮面ライダーだしいいか。
「無論。製造は今後とも行う」
これがオレの出した結論だ。
「ただし──手法には手を加える必要がある。より利益を生むためにな」
原作をなぞろう、などとそんな気は毛頭ない。
本編のランゴは『またしても何も知らないランゴ兄さん』だの『ちい(が落ちて)かわ(いそうなやつ)』だのとネタ扱いされていたが、オレは違う。
またしても何も知らないことなどなく、むしろ本編の知識を元に事前に対策を打つことができる。
ならばやってやろうではないか。
オレの手で、ストマック家がグラニュート界を支配する。
そんな世界に作り変えてやる。
■◆■
後日。
「何ぃ! 人間界でグラニュートが暴れて仮面ライダーも複数誕生して一人は赤ガヴだとぉ?」
わァ……ァ……。