ランゴ兄さん転生〜なお知らないところで問題は発生する模様〜 作:誰かオレを笑ったか?
オレの前に立ちはだかる障壁はいくつかあるが、もちろんその中でも最大のものは仮面ライダーだろう。
仮面ライダーガヴにおいて、ライダーに変身する主人公のフルネームはショウマ・ストマック。複雑な家庭環境とはつまり、悪の組織の身内であるということだ。
当然、ただの身内というわけではない。
家族会議を終えたオレは件のショウマの顔を見に来ていた。そう、人間の見た目をした赤ん坊の顔を。
つい先日始末したばかりの父だが、あのぼんくらはとんでもないことをしでかしていた。
本気で正気を疑うレベルのことを、だ。
実はオレと同じで中身人間なんじゃないかってレベルのことになるのだが、グラニュートである父ブーシュは、闇菓子の材料として拐ってきた
?
冷静になって考えてほしい。
人間に例えるのであれば、菓子を作るのに必要な卵を産む鶏に発情しているのだ。調味料になるのだから、サトウキビ扱いでも間違いはない。
?
いや、もちろん創作において異種同士で恋愛感情が芽生える展開があるのはわかる。わかるが、それはあくまでも精神性に惹かれてのものであって、だな。
まあ……起きたことは仕方がない。
本当はヒトナーを発症する前に予兆が見られたら、それを理由に殺してやろうと思っていたのだが、本当に本気で、子供が産まれた後で妻にする、と事後報告があるまで何の素振りも相談もなかったせいで出遅れてしまった。
生まれてきたのが間違いだったショウマ(公式設定)はいない方が大概上手くいくのだろうが、既に存在する以上はオレが利用してやろう。
「っ、この子には手を出さないで」
「ふ。ずいぶんと嫌われたものですね、母上。まだ顔を合わせるのは二回目だというのに」
守るように赤ん坊を抱きかかえる井上みちる。
本編だと父が死ぬのはもっとショウマが成長してからになるのだが、ここにいるのはまだ産まれたばかりの赤子だ。
人間のように見えるショウマだが、その腹にはグラニュート特有の器官、
服を捲って確認してみるが、まだライダーベルトのような見た目ではなく生物的な口が付いていた。
「これは後で大叔父上に診てもらうか」
ま、ショウマを引き込むのはそう難しくはないだろう。
最低限まともな扱いをしておいてやればいい。
さて。主人公の顔も見たことだ。会議の本題だった人間調達に移ろうか。
■◆■
ストマック家屋敷内にある特定の扉に向けて手を向ける。
すると扉にストマック家の紋章が浮かび上がり、それは異空間へと繋がる扉へと変わった。
扉をくぐった先は宙に無数の扉が浮かび、それらを階段だけが繋ぐ異様な空間である。
ここは扉の間、グラニュートやストマック家固有の超技術。
かと思われていたが実はぜんぜんそんなことはなく、原理不明の何かだ。
どこの誰がこんなものを作ったのかも不明であるが、この無数の扉はそれぞれグラニュート界と人間界のどれかの扉に繋がっている。
まったく無関係な世界に繋がっている物もあるらしいが、現状判明はしていない。
弟のニエルブを伴い、扉の間を通って人間界へと向かう。
「さて。まずは場所を調べなければならないが」
人気のない路地裏から大通りに出る。だが騒ぎになることはない。
ガラスに映るオレとニエルブの姿は化け物ではなく、人間のそれだ。
その辺にいた人間からスマホをスって、道を調べながら目的地へと向かう。
するりと建物内へと侵入するが、目当ての人間はいない。
まあ予想はしていた。しばらく戻ってくるまでここで待つとしよう。
■◆■
「ああ、ようやく戻られましたか。待ちわびましたよ」
「な、なんだ君達──」
「おっと」
自己紹介も兼ね、人間に化けたままの弱い姿だが、それでも人間を超越した力を見せつけるように、通報しようとした端末を取り上げる。
「失礼。驚かせましたかね」
「ただでさえランゴ兄さんは圧が強いんだから」
ニエルブの指摘に肩をすくめる。
「ど、どうやってここに入った。ここがどこだか分かっているのか!?」
「もちろん。おっとまだ名乗っていませんでしたな。オレはランゴ・ストマック。こちらは弟のニエルブ。異世界から来た人間とは違う知的生命体です。どうぞよろしく、総理大臣」
慇懃無礼に頭を下げる。
「異世界……? 馬鹿馬鹿しい」
「受け入れがたければ宇宙人とでも。まあ大した違いではありませんからね。ふむしかし」
ポン、ポン、と取り上げた端末を投げて弄ぶ。
「これくらいではパフォーマンスとしては不足していたようだ」
自らの腰辺りに手を添える。するとそこへ今までは無かったはずのベルトが急に現れた。
そしてベルトに刺さっているUSBメモリみたいなパーツを抜く。
人間への擬態が解け、本来の姿を露わにする。
大きな角を生やした悪魔のような頭部、刺々しい鎧のような四肢、とりわけ特徴的なのはまるで竜の顎を思わせるような胴体だろう。
見るからに化け物。
あからさますぎる程に邪悪な怪物に、悲鳴をあげて腰を抜かした総理の前に端末を置く。
「これで信じてもらえましたかな。まだ必要とあれば我々の破壊力でもお見せしましょうか」
赤黒いオーラを腕に纏い、ひらひらと振る。
「わ、わかった! 分かったからもういい!」
「ふ。そうですか。貴方が聡明な方で助かりますね。さて、それでは本題に入りましょうか。なに、そう身構えず。悪い話をしにきたわけではありません」
倒れた総理に手を差し伸べるが、ビビったのか勝手に立ち上がってくれる。
メモリをベルトに刺し直して、再び人間に化け直し、椅子に座って足を組む。
「これはミミックキーという道具でしてね。どうにも貴方がた人間にとっては我々の容姿は非常に恐ろしいものらしい。ですので見た目だけでも取り繕おうかと」
「そ、それはご丁寧に。それで、話とは」
「つい最近のことです。我々はとある技術を発明しました。別の世界へと渡る技術です」
「なるほど。それで異世界」
「ええ。そしてこの世界を、人間の世界を見つけました」
事前に用意しておいた通りに嘘を吹き込む。
オレ達グラニュートは高い技術で異世界である地球をつい最近初めて訪れ、そして人間について調べていた。
ある程度人間の文明を把握したところでコンタクトを取ることにした、と。
「最終的には人間で言うところの海外旅行のような感覚で互いの世界を観光できれば、と思っていますが、まずは取引から始めましょう」
「取引?」
「ええ。我々からは技術を
「人類に、ではなくこの国に、ですか」
「国という単位でわかれて、それぞれ異なる文明を築いているとのことですので。それにそちらとしてもこの方が都合が良いのでは?」
ほんの少しの間、総理は黙って再び口を開く。
「そう……そうですね。ええ、わかりました。それで、貴方がたは我々に何を望むのですか」
「端的に言えば労働力ですね。我々は個体として強力な分、数が少ない。人手はいくらあっても足りないくらいでしてね──刑務作業、と言うんでしたか。この国では犯罪者に労働をさせるという。いかがでしょう、総理」
■◆■
別に守る気はまったく無いが、まとめた取引の内容を書面に残す。
「これで取引は成立ですね。そちらは時間がかかりそうですし、まずは我々から。ニエルブは弟ながら身内びいきを抜きにしても優れた技術者です。後は彼にお聞きください。ニエルブ、任せたぞ」
「うん、任せてよ。それではよろしくお願いしますね」