ランゴ兄さん転生〜なお知らないところで問題は発生する模様〜 作:誰かオレを笑ったか?
とうとう人間界側の準備が整ったようで、あちらへと派遣した眷属が多数の人間を持って帰ってきた。
一部は早速工場で加工し、残りは昏睡状態にして保管しておく。
「それからこちらを」
「ああ」
眷属から受け取ったのは今回の件に関する書面。
「と、これは」
「手土産とのことです」
に加えて人間のお菓子だった。
こっちに労働力という体で人間を連れてきている都合上、食料事情に突っ込まれるのは面倒なので食生活は人間と同じであると適当言っていたが……。
ラキアやデンテが菓子を食べていたように、グラニュートは人間の菓子を食べられないわけではない。
普段の食生活が鉱石だから、あまりにも食感が違いすぎるというだけで。
「どうしたものかな……まあ人間の食べ物だ。人間にくれてやるか」
好感度稼ぎも兼ねて、これは井上みちるに渡すことにするか。
■◆■
「母上。差し入れですよ」
ノックして部屋に入り、貰った菓子の箱を机に置く。
物欲しそうに見ていたのも束の間、菓子から思い切り目を逸らす。
「別に毒なんて入ってませんよ」
箱を開けてみる。中身はクッキーだ。良いものなんだろうが、オレには分からん。
適当に一枚摘んで口に運ぶ。
「なら誰かが持っていたものなんでしょう」
「? ああ、気にしていたのはそっちでしたか。違いますよ。人を攫っていたのは先代までで今はやっていませんから」
井上みちるは恐る恐るクッキーを手に取り齧る。いやはや、それにしても本当に美味しそうに食べるな。
まあこんなもんでご機嫌取りができるなら安いものか。
おまけで他にも必要なものがないか聞いてみたが、菓子よりもまずは飯が欲しいとのこと。
『その辺の草とか食べてた』
そりゃそうか。まずは何よりもキチンとした食事と綺麗な水からだな。
■◆■
井上みちるの姿を見て、一つ思いついたことがあるので、その準備をしてから眷属を人間界へ買い出しに向かわせる。
ガヴが付いていないので本編のアルバイトのような形で人間に化けさせることはできないが、オレ達ストマック家が使用しているベルト型のミミックキーであれば問題ない。
暫定でオレのミミックキーを渡して、送り出す。
……これランゴの見た目で人間界で買い物することになるのか。
何ィ! 隣町のスーパーで卵がセールだと!? みたいな。
ともあれ仕事はまだまだ残っている。
闇菓子のことだけやっていればいいわけでもないのが大変だ。
表の製菓会社としての仕事にも奔走する。
そりゃあ双子の誕生日に最後まで参加していられないわけだ。
可能な範囲で眷属を増やして、仕事を割り振って。
忙しい日々を過ごしている内に一カ月ほどが経った。そろそろいいだろうか。
いくらか水と食べ物、それから菓子を持って、準備した結果を見に行く。
屋敷の地下に降りていって、鍵をかけた部屋の扉を開ける。
部屋の中にはいい感じにグロッキーになった人間が転がっていた。
これは先日の思い付きでここに閉じ込めておいた人間だ。
本来は意識を奪う首輪をはめて昏睡状態を維持し、死なない程度に点滴のような形で栄養を補給して保管しているのだが、まあ物は試しだ。
「すまないな。手違いがあったようだ。ほら、水と食べ物だ。ゆっくり飲め」
なんの手違いだかは考えてきていないが、極少量の水だけ与えて監禁されていた状態で突っ込まれることはないだろう。
聞かれても話は後で、で流せばいい。
「助かった……本当に、助かった……」
慌てたように水を飲み干して、パンを口に運び噛み締める。
「一気に流し込むと危ないぞ。詰まらせたらどうする。そうだこれもやろう」
と、チョコレートを渡す。
最後の一欠片まで食べきって、水で流し込み、壁にもたれかかるようにして一息吐いた後、チョコレートの包みを剥がしてそれも食べる。
「あ、あぁ……生きてる」
幸せそうに頬を綻ばせて、そのまま倒れた。
ん、まあ結果は上々といったところか。
「母上は素晴らしい知見をくれたな」
元日本人、転生してきてからも飢えた覚えのないオレ一人では思いつかなかっただろう。
囚人を労働力として連れてきている都合上、闇菓子のスパイスとしては低品質だ。
ラキアの毒があれば話は別だが、現状、彼らを何とかして幸せにしなければ高品質なスパイスは作れない。かといって幸せにするのにコストをかけすぎるのは割に合わない。
菓子は辛い時に食べる、なんて本編の序盤でやっていたが。
「母上用の食事を買い続ける口実にもなるし、ちょうどいいな」
幸せを感じている時に拉致、ができないことで品質に問題を抱えていたが、これで万事解決だ。