元魔剣だった私、うっかり美少女に人化する ~かわいい管理者ちゃんの困り顔を見たい私は平和の中に乱を起こす(後始末は管理者ちゃんに任せます)   作:ルルナーゼ

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美少女な私

 

『新しい鞘が欲しい。買い物に連れて行ってくれないか』

『手入れ油はもう少し上物で頼む!』

『一緒に日向ぼっこしよう、ルーニエ』

 

 ルーニエと会話ができるようになった私は、思った以上にお喋りだった。

 四六時中、彼女の姿を探している。見かけると心が華やぐのだ、私はこれまでどれだけ喋りたかったのか、と自覚せざるを得ない。まるでこの世界の色が鮮やかになったようだ。

 

「もー、サファイアったら注文が多いんだからぁ」

 

 困り顔でそう言う彼女だが、だいたい笑っている。うーん、やっぱりルーニエの困り顔は良い。歪んでいると自分でも思うが、私はあの顔が大好きだ。ずっと見ていたい。

 

 ともあれ私は今の環境を満喫していた。

 思ってることを伝えられる、なんと素晴らしい。

 

『ふふ。ルーニアが困ってる顔を見てると、なんだかほっこりするよ』

「なにそれぇ」

 

 良い気持ちも、悪い気持ちも、好き放題に吐き出してしまう私はきっと、ルーニエに甘えているのだ。自覚はあるが止まらない。仕方ないよな、これまでずーっと喋れなかったんだから。

 

 そうしてルーニエにくっついて外に出ているうちに、私は気が付いた。気が付いてしまった。

 

(あれ? ルーニエって、もしかして少し常識が欠如してる?)

 

 ――と。

 たとえばこんなことがあった。

 

「あの子たち、みんな同じ服を着て歩いてて……かわいらしいですねぇ」

『ん? ……ああ、勇者学園の生徒さんたちだな。あれは学園の制服だよルーニエ』

「制……服……?」

『そう、制服。まだ健在だったんだな勇者学園、だいぶ昔だけど当時の管理者の腰にぶらさがって中を見たことがあるよ、懐かしい』

 

 私がしみじみとしてると。

 

「サファイア、制服ってなんですか?」

『え?』

 

 ルーニエが爆弾発言をする。まさか制服をご存じでない?

 私は彼女に説明した。制服とは、特定の団体に所属する人々に着用するよう定められた服装のことだ。団体に所属している一体感を強め、規律を生み出す機能があるんだ、と。

 

『だから彼女らは「勇者学園アルトリア」に所属している学生で、その自覚を促す為に制服の着用を義務付けられているんだ』

 

 私が説明を終えても、ルーニエは釈然としない様子。

 そんなにわかりにくいことを言ったかな、と心の中で首を傾げていると。

 

「勇者学園って?」

『その昔、勇者の血筋――つまりキミのご先祖さまが開園した学園だよ』

「学園って?」

『えええっ!? そこから!?』

 

 なんと彼女は、学園というものを知らなかった。

 こんなこともあった。

 

「日雇い先のパン屋さん、お店の設備が古くなりすぎて商売を続けるのが難しいんだって。困ったね、サファイア」

『むむ。王城から支給される管理費がまた減ったと言ってた矢先じゃないか? 確かにそれは困るな。どうにかならないのか?』

「うん。どうにかしたいな、と思って私も管理局に相談してみたんだけど、ダメだった」

『管理局? 国が魔剣(わたし)の管理をさせている本局だろう? パン屋の設備相談をなぜそこに?』

 

 私は心の中で首を捻った。

 まったく関係ない部署だと思うのだが。

 

「え……。設備や家屋のことに関しては、全部あそこに相談しろと言われてたから……」

『それは、魔剣(わたし)に関係することの話限定だろう!?』

 

 どうやら彼女は、設備家屋のことならなんでも相談できる、と解釈していたらしい。魔剣と関係ない他人の問題でも。

 

 なるほどルーニエ。彼女は生活費や私の封印費用の足りない分こそ自分で工面しているが、祭壇設備や古くなった屋敷の修繕などはこれまで全て管理局に任せていた。

 

 だから、今回も普段通りの気持ちで相談に行ったのだろう。

 設備家屋周りのことは、国が面倒見てくれるものなのだと思い込んでいる。

 

 彼女は幼い頃からずっと、一人で私の管理をしてきた。

 基本はこの屋敷に篭りっぱなしで、あとは足りない生活費を稼ぎに外へ出るだけの生活だったはず。

 

 ここに至って私は悟った。

 その狭い生活様式のせいで、ルーニエには世間的な常識が欠如しているのだと。私の世話をしていたから、彼女は物知らずに育ってしまったのだと。――つまり。

 

(私のせいかこれ!?)

 

 大いに慌ててしまった。

 このままだと、彼女の将来が危ぶまれる。せめてもう少しで良いから、常識的な知識を学ばせなくては。

 

『な、なあルーニエ? キミも良い年頃だし、勇者学園にでも通ってみないか?』

「この間サファイアが教えてくれた『学び場』ですか?」

『そうだ。同年代の友達もできるし、色々と面白いことを教えてくれるぞ?』

 

 当然、その過程で世間の常識を学ぶこともできるはず。

 うん。この案は我ながらナイスだと思う。健康な成育には友達だって必要だろう。ルーニエが私のことだけを見てくれているのは嬉しいけど、彼女のことを思うならそうあるべきだ。

 

「うーん」

 

 ルーニエは唇の下に人差し指を当てて、少し考えたのち。

 

「無理かな。それじゃ、サファイアの管理をできなくなっちゃうし」

 

 ――サファイアのお世話が、私の仕事だもん。

 そんな嬉しいことを笑顔で言ってくれた。嬉しいが、嬉しいが、だ。

 

『ダメダメダメ! 勇者学園に行こう、この屋敷と日雇いの仕事場を往復するだけの若い娘とか、不健康すぎる』

「健康には自信あるよ? ほら」

『そんな得意げにガッツポーズしてもダメ! そういう意味の健康じゃないから!』

「たまにサファイアは難しいこと言うよね」

 

 学園の存在も知れぬような生活は不健康だぞ、と言いたいだけなんだけど、うまく伝わらない。ルーニエは「とにかく学園には行きません」と私の案を却下した。

 

 なにも知らないルーニエ。

 彼女がこのまま大きくなって、ちゃんと生きていけるのだろうか。

 仕事が特殊なので、国が安泰ならば案外問題なく過ごしていけるのかもしれない。だけどもし、今の環境から放り出されることにでもなったなら……?

 

 間違いなく、彼女は苦労する。その苦労たるや、筆舌に尽くせないほどのものになるだろうこと想像に難くない。

 そんなことになって欲しくないだけなんだ。もし不測の事態が起こったとしても、未来になにか障害があったとしても、それを軽々乗り越えられる力を彼女に持たせて上げたいだけなんだ。

 

 ルーニエに常識が足りないのは、私が原因だ。

 私以外にも要因はあるのだろうが、私的な感情で『私が一番の原因』としか思えないのだ。だからなんというか、こう……必死になってしまう。

 

『ルーニエ、学園に行こう』

「行けません」

『私が行きたいんだ、って言ったら?』

「それでも、ダメです。サファイアのこと……魔剣のことを、勝手に大っぴらにしたら管理局に叱られちゃいます」

 

 困り顔をするルーニエ。

 あ……、いいなぁルーニエの困り顔。やっぱり癒される。ホント、彼女には困ってて欲しい。私に愚痴を言ってて欲しい。いくらでも話を聞いてあげるから。

 

 ――って、そんなことを満喫しているときじゃない!

 ああ、どうしてやろうか全く。

 強引に、ことを運べたら楽なのに。この身が自由に動けて、勝手に私が勇者学園に行ったら、ルーニエだって、困った顔をしながら付いてくるしかないはず。だって管理者なんだから。

 

(もう……! 動けよこの身体……っ!)

 

 私が内心で叫んだ、その時だ。

 胸の中が熱くなった。もどかしい気持ちが爆発した瞬間に、同じくなにかが自分の中で破裂したような感覚を覚える。怒りを伴った力強いエネルギーが、身体中を駆けずり回った。熱さがドンドン増してくる。熱くてたまらない。

 

「……え?」

 

 とルーニエがびっくり顔で私を見ている。身体が熱くなっている私を見ている。

 しゅうしゅう、と、湯気が出ていた。

 私の身体から、湯気が出ていた。――え? と私もまた、ルーニエと共に驚いた。なんだろう、なにが起こっているのか。

 

 一瞬の意識の空白。

 次の時、私は『自分の目』で、ルーニエのことを見ていた。下を向く。そこには白い肌が見えた。大きな胸と、ちょっとひっこんだお腹。そこからスラっとした下半身に繋がり。

 

 ――私は今、自分の足で床に立っていた。

 

「え?」

 

 と私から『声』が漏れる。

 

「えええ?」

 

 とルーニエからも声が漏れる。

 

「「えええええーっ!?」」

 

 私たちは同時に驚愕しなおした。魔剣であったはずの私は、背の高い『人間の少女』の姿になっていたのだった。

 

 祭壇に置かれた小さな鏡を覗いてみれば、そこに居たのはスラッとした長身の美少女だ。長くて青い髪。切れ長の目はどことなく妖艶で、瞳は黒に近い紺碧。私は、青い剣身のサファイアから、青い髪の少女サファイアに姿を変えていた。

 

「な、な、な……っ!」

 

 ルーニエはガタガタと椅子から立ち上がると、私からじりじり後ずさった。その目が混乱に彩られている。

 

「なにが……、いったいなにが起こって!? え、あの、どちらさまですか!?」

 

 戸惑うルーニエの声が、私の耳を震わせた。

 剣の身で認識していた『声』とは、ちょっと違う、鈴のような声。耳から入ってくる彼女の声には、ぬくもりがあった。ああ。ずっとずっと、この声に『肉声で』応えたくて仕方なかったんだ。

 

「ルーニエ、私だ。今さっきまでキミと語りあっていた魔剣ちゃん――サファイアだ」

「そ、そんなはず……! 剣が人になるなんて聞いたことが……!」

 

 私は彼女の目の前で変化したはず。

 それでも信じられないくらいの衝撃だったのだろう。いや、私だって驚いている。信じられない、夢なら醒めないで欲しい。

 

「でもほら、ここに居る」

「ほんとうに……ほんとうに、サファイア……なの?」

「見てたでしょ?」

「あはは……え? えええ?」

「そんな信じられない、という顔をされても。私も驚いて――」

 

 言葉が途切れた。

 ずすっと、鼻を啜る音がして、自分の目から熱い雫が零れ落ちていることに気がついた。涙だ。これが、涙。

 

「私も、驚いて……っ!」

 

 ああ。声が出せている。驚いていることを、『声』にしてルーニエに伝えられている。それが、嬉しい。嬉しくて仕方ない。まさかこんな時が来るなんて。こんなことが起こるなんて。

 それだけじゃない。今の私なら、この手で、この腕で、この身体で、彼女に触れることさえできてしまう。

 

 その事実がたまらなく嬉しくて、切なくて、涙が止まらなかった。

 

「えっと、あの……大丈夫、です?」

 

 私がしゃくり上げて泣いていると、ルーニエはオロオロと困り顔で私に手を伸ばす。その躊躇いがちな指先が、私の腕にそっと触れた。

 びくり、と震えてしまう私の身体。ああでも、触れられた場所が温かい。

 

「大丈夫。問題は、ない……」

 

 身体が、動いた。

 動けよこの身体、と望んだ結果、私は身体を得た。サファイアと名前を得てからこちら、色々と信じられないことが起こり続けている。なるほど、だから歴代の管理人は私に絶対名前をつけようとしなかったのか。

 

 ともあれ、問題なく身体が動くならば、私がこれから彼女に告げるべき言葉は決まっているのだ。

 

「そう問題はない。だから、私は勇者学園に行こうと思う」

「は?」

 

 ルーニエは、きょとん。

 

「もちろん、随行するよね。管理者殿?」

 

 はああああーっ!? と。

 屋敷中に響き渡りそうな大声で、彼女は目を丸くした。そして。

 

「こ、困ります! 魔剣が人の姿になったなんてことが漏れたら、管理局に怒られちゃいますから!」

「ふふ。最悪、王さまの耳に入ったら、監督不行き届きで罰を与えられるかもしれないねルーニエ?」

「ふえっ!?」

 

 困り顔だ。うん、この顔。いい。……っと。いかんいかん、主旨を取り違えちゃいけない。私の第一目的は、ルーニエの常識知らずを教育しなおすこと。――なんだけど。

 ついでに彼女の困り顔を堪能しても、いいよね?

 

「だからこそルーニエ、キミは、私の管理の為に学園に付いてこないとイケない!」

 

 彼女は今日一番の困り顔を見せてくれたのだった。

 

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