マキマに転生したら姫野にめちゃくちゃ敬愛される   作:あきnobu

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公安編
プロローグと一話


色々と話す前にまずは自己紹介が必要だと思う。

俺の名前は『マキマ』。

姓はない。ただのマキマ。

早速だが俺はこことは違う世界からいわゆる憑依という形で転生してきた元人間だ。

ちなみに前世は男で大学院生やってた。

今世で憑依してしまった『マキマ』の性別は強いて言えば『女に近い』といったところだろう。

『女に近い』とはどういうことか、LGBTQのような性的少数者なのか、と思ったかもかもしれないが俺はどうやら人間ではなくこの世界で悪魔と言われる存在に憑依してしまったようだ。

悪魔に性別はない。

悪魔は人間の恐怖から生れて来るから生殖器官は必要ないのだ。

それでも一部の悪魔は人間の姿をもって生まれくる。

俺に至っては秘部に至るまで人間の女性と同じ構造をしている。

もっとも前世では童貞だったので確信は持てないが。

とにかく俺たち悪魔がいかに人間の姿形をしていてもそれはただ人間に似ているだけ。

だから俺が憑依した『マキマ』の性別は『女に近い』なのだ。

 

さて俺がこの世界に転生してきた経緯だが、単純だ

寝て起きたら『マキマ』になっていた。

車に轢かれただの、神様に導かれただの、そう言った異世界転生にありがちな経緯を吹っ飛ばして、ただ寝て、起きたら『マキマ』として彼女の家の中にいた。

 

最初は状況を掴めず困惑していた。なんせ俺は、『マキマ』の俺が憑依する以前の記憶が一切抜け落ちていたのだから。

いやそれは少し…いやかなり語弊があるかもしれない。

前世でいつか見たテレビ番組で知ったことだが、記憶喪失になった人が忘れる記憶というのは大抵4種類ある記憶のうち1つだけらしい。

その記憶というのはエピソード記憶ーー感情を伴った記憶ーーだ。

俺には俺が憑依する以前の『マキマ』のこれが完全に抜け落ちていた。

以前の『マキマ』が『何かを求めて、でもそれを手に入れる方法が分からず苦しんでいた』ということは漠然と覚えている。

しかしそれがなんなのかはわからないし興味もない。

エピソード記憶以外の3種類の記憶は例えば、この世界の言葉や概念、車の運転の仕方、箸の使い方など。それから無意識の記憶なんて言うのもあるがこれが前述した漠然とした以前の『マキマ』に対する何かに繋がっているのかもしれない。

とにかくこれら3種類の記憶はしっかりと以前の『マキマ』から受け継いでいるようだ。

だから自分の身分についてもすぐに把握することができた。

『マキマ』は1990年の日本の東京に住んでいたらしい。国が日本なのは助かった。

『マキマ』の記憶があるからどの国に住んでいたとしてもある程度馴染めるとは言え、やはり常識や食の嗜好は前世に引っ張られている。

ちなみに、俺が転生してから3年が経った1993年現在においてもソ連は崩壊せずに冷戦は続いているし、この世界には悪魔なる存在がいたりするし、戦争は愚かだと人類が1度目の大戦で気付き、それ以来国家間の戦争は根絶されていたりする。

そして俺の肩書きは警察庁警備局公安課対悪魔特異4課 兼 内閣官房長官直属のデビルハンターということになっている。厳密に言えば後者については内閣情報調査室の傘下ということで内閣官房長官までの間に何人かの上司は挟むが高度なアクセス権限を持つ情報も扱うので実質的には官房長官の直属となっている。

デビルハンターというのは悪魔を狩る仕事のことだ。

前述したようにこの世界には悪魔という人間の敵がいるそうだ。

悪魔は人間の恐怖から生まれる。悪魔には名前があり、それは人間がどんな概念に恐怖を抱きその悪魔が生まれたかで決まる。これはその悪魔の能力にも影響する。

かくいう俺も悪魔らしい。俺の名前は『支配』。人間の支配に対する恐怖から生まれた悪魔だ。

俺の能力は自分より格下の相手を洗脳し支配すること。またネズミや鳥のような小動物も操れるらしい。これは記憶というより本能的に理解できた。

なんでそんな、人間にとって危険な悪魔である私が人間の味方としてデビルハンターをやってるかはよく分からない。ここは以前の『マキマ』のエピソード記憶と結びついているのだろう。

 

さてそんな所でそろそろ自己紹介を終えるとしよう。

最後に改めて、俺の名前はマキマ。公安にして官房長官直属のデビルハンター。

しかしその実、運命の悪戯か、マキマに憑依してしまったごく普通の童貞大学院生だ。

 

 

姫野side

 

はぁーー……不安だ。

 

今日は金曜日。

私とマキマさんの約束のディナーの日だ。

私とマキマさんは毎週金曜日に2人でディナーをすることにしている。

元々はマキマさんの方から、多分銃野郎への復讐に燃えていた私を心配して食事に誘われたことから始まった。

それから何回も2人の食事を重ねる中で私が提案したのだ。

『マキちゃん、金曜日の夜は2人の食事の日にしない?』って。

マキちゃんというのは私のマキマさんへの愛称だ。

マキマさんは私の上司なので本来は敬語を使わなければいけないが、本人が是非タメ語で話してほしいと言うのでそうしてる。

もっとも私はマキマさんを尊敬しているので心の中ではマキちゃんではなくマキマさんと呼んでいるが。

 

さて、話は変わるが今私はとても不安だ。

これからマキマさんとの毎週恒例の食事会をするのだが、私とマキマさんのだけの食事会に私の新しいバディーの男が是非自分も参加させてくれとせがんできたのだ。

ちなみにこの男は私の2人目のバディーだ。

公安でそう言うことをいうと前のバディーは殉職したんじゃないかと邪推したくなるかもしれないが、少なくともここ数年、4課からは一人の殉職者は出していない。

だいたいその頃にマキマさんが公安にやって来たから、4課の中では、マキマさんの加護だ、と冗談めかしに言われてはいるが、私は本気でそういうものがあると思っている。

私の前のバディーは単に民間に高値で買収された。これも公安ではよくある話だ。

それで最近新しく私のバディーになったこの男なのだが…うん…根はいい奴なのだが少し客観性に欠けている気がする。その発言や行動が他人からどう思われるか、ということの視点がこの男にはどこか抜けているのだ。

まぁ、注意すればそれなりに改善はしてくれるので普段はあまり気にしていないのだが今回ばかりは私も少しムカついた。

マキマさんとの金曜日の食事会は私の週の1番の楽しみなのだ。

4課のみんなのことも嫌いではないがマキマさんだけは特別だ。

みんなで宴会なりをするなら別の曜日。金曜日はマキマさんと2人って決めているのだ。

だからバディーの男が自分も参加したい,なんて言った時は普通に断ろうとした。

しかしたまたまそこに居合わせていたマキマさんが

 

「うん、良いんじゃない?たまには3人でもさ」

 

って2つ返事で了承してしまったのだ。

 

正直、少しショックだった。

私はマキマさんとの2人だけの時間を大切にしたいのにマキマさんはそうではないのかと。

いや…そんなことは考えても仕方がない事だ。

とりあえず私が不安なのは私のバディーがマキマさんによからぬ事を言わないかという事だ。

多分私のバディーはマキマさんの事を大分舐めている。

一緒に仕事をしている時も

『マキマさんってめっちゃ可愛くないですか、彼氏とかいるんすかね』

とか

『先輩!マキマさんと仲いいんですよね!仲立ちしてください!』

とか、マキマさんを舐めているとしか思えない発言をよくする。

いや、だがこれは別に私のバディーだけのせいではない。

マキマさんの普段の態度のせいもあるだろう。

 

 

「あ!姫野先輩!お疲れっす」

 

そんなことを考えていると件のバディーがやってきた。

 

「あ!やっと来た!それじゃあ行こ、先にマキちゃん待っててくれてるらしいから」

 

「はい!」

 

向かったのは私とマキマさんのお気にの居酒屋。

料理は別に普通だが個室を予約できるので2人でじっくり話せる。

マキマさんはタバコを吸えるところが気に入ってるらしい。

 

「へいらっしゃい!…って姫野ちゃんか、珍しいね、今日はマキマちゃんと2人じゃないんだね、

マキマちゃんならもう来てるよ、手前から2番目の個室ね」

 

よくこのお店にはくるので店員とも顔馴染みだ。

私達は店員に言われた通りの個室に向かう。

 

中ではマキマさんが座って待っていた。

机にはすでに焼き鳥や枝豆、ポテトサラダなどの居酒屋の定番料理が並べられ、手をつけずに置いてある。

 

「ごめん!マキちゃん遅れた」

 

私がマキマさんにそういうと,マキマさんも私たちに気付いたようだ。

 

「ううん全然全然、あ!○○君もよく来たね!」

 

「はい!お疲れ様です!マキマさん!」

 

「お疲れ!もう料理適当に頼んだから。他に欲しいやつがあるなら自分で注文して。さっさ座って」

 

「失礼します」

 

そう言って私のバディーは当然のようにマキマさんの隣の席に座ろうとする。

 

「ふぐっ」

 

私は私のバディーの首の付け根を掴み、それを静止する。

 

「座ろうか○○君」

 

私はそう言ってそいつを私と一緒にマキマさんの向かい側の席に座らせる。

 

「ちょ!先輩!何すんですか!」

 

「あはは、もうそんなに仲良くなったの?」

 

「私とマキちゃんの仲の100分の1くらいにはね」

 

「それって仲良いんですか!?」

 

「うるさいな○○君、普通に仲良いって意味だよ」

 

そんな感じで出だしはまぁ普通に食事会は進んでいった。

意外にも○○君は立場をわきまえて、マキマさんに踏み込んだことは聞かなかった。

しかしそれはシラフの時の話。

私や○○君も酒に酔い始めていた時、唐突に○○君が

 

「マキマさんって彼氏とかいるんですかー」

 

話の前後関係を気にせずに、唐突に聞きやがった。

 

「あはは、大分酔ってるね○○君」

 

「ちょっと!マキちゃんに失礼でしょ!」

 

「ええーいいじゃないですかー、ちなみに姫野先輩はいませんよね、聞かなくても分かります」

 

チッ、こいつ思ったより酔ってる。私もそうだけど、酔いすぎると我を忘れるタイプだ。

 

「それで、どんなんですかマキマさん」

 

「いないいない、というか恋愛興味ないんだ、私」

 

マキマさんは笑いながらそう返す。

 

「えー美人なのに勿体無い!」

 

「はいはい!それぐらいにして!マキちゃん困ってるでしょ!」

 

「えーそうは見えないですけど」

 

「全然大丈夫だよ、でも私の恋愛事情なんてつまんないと思うな」

 

……マキマさんは懐の深い人だ。

私は本当はマキマさんが男性からそういう目で見られることに強い忌避感を抱いている事を知っている。

私にしか分からないだろう。

マキマさんは男性からアプローチを受けた時、ほんの少し顔が引き攣るのだ。

それでもマキマさんはそういった所謂『人のいかがわしい部分』、それこそ私からしたら論外だと即断してしまうような醜い部分も一旦は平場で受け入れて、相手と向き合うとする人だ。

私はマキマさんのそんな所に救われたし、それが私がマキマさんを敬愛するようになったきっかけでもある。

でも、これはマキマさんの危うさでもある。

公安の悪魔課は、悪魔を使った反社会勢力とも対立している。

私は怖いのだ。

マキマさんはいつかその懐の深さゆえに、自分の懐に自身を害する存在を許してしまうのではないかと。

そうでなくとも、今みたいにマキマさんに嫌な気持ちにはなって欲しくない。

 

「タイプは!タイプ教え

「ほら!酔いすぎ!!マキちゃんごめんね!こいつ私が責任持って連れて帰るから!」

 

私は私のバディーの腕を掴み、無理やり席から立たせる。

 

「あ!ちょ!先輩!どうしたんですか!?」

 

「姫野ちゃん!別にそこまでしなくても!ほら私って威厳ないってよく言われるし!

 まだ○○君は公安に来て数週間だし、仕方ないよ!」

 

「別にそういう事を問題にしてるんじゃないし。マキちゃんが大抵のことは許しちゃうのは知ってる。ただ私がムカついただけ。マキちゃんは気にしなくていいよ」

 

私は財布から万札を一枚、机に置いて私のバディーを連れて外に出た。

 

 

 

 

 

 

「なんだったんだ」

 

俺は2人がいなくなった居酒屋の個室に一人ぽつんと座る。

2人がいなくなって急に静かになり、隣の個室からの複数人の笑い声と天井の換気扇の音がやけに大きく聞こえる。

 

○○君も、っていうのがまずかったのかなー。

○○君と姫野ちゃん、ちゃんと仲良くやれてるって聞いてたし、だったら俺も○○君と仲良くしとかなきゃって思って誘ったんだけどなー。

 

 

 

俺は机に上に残った料理をたいらげ、姫野ちゃんが置いていった万札をとってレジへと向かった。

 

 




○○君は今後もう出ません。多分。
次からはアキ君です。
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