レラエルが保有するとある基地。アツコは此処に運ばれ、この後アリウス自治区に搬送される手筈となっている。
それまで幽閉しておく為の牢獄にて手足を縛られたアツコは濁った瞳を浮かべて
「…やっぱり…全ては虚しい…どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものなんだね…」
とポツリ呟いた。誰もがロイヤルブラッドとしての、ムーロアの末裔としての自分しか見ておらず、秤アツコとしての自分しか見ていない…そんな世界に諦めすら感じていた所で出会ったのがサオリ達だった。サオリ達は自分の事を他の何者でもない秤アツコとして見てくれた。
アリウス自治区を脱出する時だって自分を置いていって彼女達だけで脱出した方が後々にベアトリーチェやレラエルから追われる事もなかった筈なのに当然の様に連れ出してくれた。
そしてマグナスと出会った。アツコから見て彼は不思議な人だと思っている…サオリと違って血の繋がりも一切ない赤の他人なのに手を差し伸べてくれた。色んなものを与えてくれて色んな景色を見せてくれた。
完璧超人にすら思えた彼もまた苦しみを、罪悪感を背負って生きていた…だから私達にも手を差し伸べてくれてたんだと察した。
しかし、そんな日々ももう終わりだ。サオリのジェノザウラーSJSとヒヨリのジェノザウラーHTSはコアを損傷した以上もう戦えない。自分の機体以外のジェノザウラー達もすぐに戦線復帰出来る訳じゃないしマグナスが自分を救出する義理などない筈だ。対してレラエルはライガーゼロを筆頭にキヴォトス外部にも戦力を有している。はっきり言って勝ち目など…そう思っていた時、施設内に警報が鳴り響き、レラエルの配下のオートマタ達が慌ただしく動いている。
「敵襲だ!」
「機人は馬鹿なのか?愚かなのか?一人で乗り込んでくるなんてよぉ!」
マグナスが此処に来た…しかも一人で。その事にアツコは
「どうして…?」
と呟くしか出来なかった。
レラエルの基地に真正面から突入したパワードコンボイはいきなりパワードコンボイ マグナスへと合体し、警備用のイグアンやレッドホーンをものともせず進む。あるイグアンを掴んではレッドホーンに向けて投げ飛ばし、あるレッドホーンの尻尾を掴むと自身を軸に振り回し、壁に叩き付ける。
もぎ取られたジェノザウラーAHSのコックピットからアツコがこの基地にいることは分かったものの何処にいるかはわからないが故に生体反応を追うしかない。
しかしアツコの生体反応は確認出来ない…おそらくあらゆるセンサーを遮断する場所に囚われているのだろうとマグナスは察していた。
警備用のゾイド達と戦いながらアツコを捜索していた
演習場に響き渡る咆哮。パワードコンボイ マグナスが振り向いた先にいたのはあの赤いライガーゼロだった。
飛び掛かるライガーゼロの前脚をパワードコンボイ マグナスは両手で掴むと腹部を思いっきり蹴り、更に変形機構を応用して腕を伸ばした状態で掴んだライガーゼロを何度も地面に叩き付ける。
一方のライガーゼロもこのまま大人しくしている訳でもなくAZ208mm二連装ショックカノンをパワードコンボイ マグナスに向けて連射する。流石のパワードコンボイ マグナスも耐えられなかったのか手を離してしまい、更に何度も命中した胸部アーマーは原型を留めていなかった。
解放されたライガーゼロは尻尾のAZ108mmハイデンシティビームガンを発砲しつつパワードコンボイ マグナスからの砲撃を回避、対してパワードコンボイ マグナスは両肩のミサイルランチャーからミサイルを発射するもののライガーゼロは自爆覚悟なのか前脚で弾き飛ばし、ミサイルは左肩のミサイルランチャーに命中した。
ライガーゼロは間髪入れずにパワードコンボイ マグナスの右腕に噛み付くと右前脚のストライクレーザークローを輝かせてパワードコンボイ マグナスの右腕を粉砕しようとしたが、パワードコンボイ マグナスから本体たるパワードコンボイが分離しライガーゼロの頭を踏み台にして跳躍すると勢いよく背中を踏みつけた。
その衝撃は流石のライガーゼロも必殺技の発動をキャンセルされてしまうレベルだったらしく、右前脚のストライクレーザークローは光を失っていた。
パワードコンボイは再度パワードコンボイ マグナスへと合体するとライガーゼロのイオンターボブースターを掴むと思いっきり捻って使えなくして今度は尻尾を掴むと引っ張りながら脚で踏みつけて千切ってしまう。ライガーゼロは後脚のストライクレーザークローを発光させるとパワードコンボイ マグナスの両足を蹴り飛ばして粉砕した。これによってパワードコンボイ マグナスは満足に動けない…そう、パワードコンボイ マグナス
パワードコンボイ マグナスはすぐさま合体を解除してパワードコンボイとなるとビークルモードへ変形、ライガーゼロの正面に回り込んで
『…安らかに眠ってくれ』
パワードコンボイは右手にブラスターを装備するとポッドに向けてエネルギー弾を発砲しようとしたが、その手は撃つのを拒んでいるかの様に震えていた。
相手は元は実妹の平行同位体…どうしてもサオリ自身と姿を重ねてしまうのだ。
パワードコンボイはブラスターを捨てるとライガーゼロを抱き締める。
『済まない…済まない…!』
そしてライガーゼロの頭部に埋め込まれたポッドを引き剥がし、制御ユニットを失いシステムフリーズしたライガーゼロは静かに崩れ落ちた。
その様子を見届けた
囚われの身となっているアツコの前に2体のオートマタが現れ、その内の1体が立体映像を投影した。
『久し振りですね、アツコ』
「マダム…」
そう、相手はアリウス自治区の支配者たるベアトリーチェである。
『全く、余計な手間を掛けさせて…まぁ、貴女を確保出来ただけでも良しとしましょう。さて、貴女にはアリウス自治区に戻って来てもらいます。
他の"
そう告げるベアトリーチェに対しアツコの脳裏にはこれまでの思い出が走馬灯の様に過った。自分を秤アツコという一個人で見てくれたサオリ達、理由はどうあれ自分達に救いの手を差し伸べてくれて色んな景色を見せてくれて、今助けに来てくれたマグナス。彼らの顔が浮かんで来た時、虚しいものだと諦めていた筈なのに諦めたくないという思いが浮かんでくる。
「嫌だ…」
『何です…?』
「このまま…憂鬱で不愉快で…後味の悪い物語で終わるの、嫌だ…それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃない…!」
反抗的な眼差しを向けてくるアツコにベアトリーチェは苛立ちを募らせる。
「私は!みんなと!最後には幸せになる物語を描きたい!貴女に終わりになんてさせない!私達の物語…私達の、
アツコの確固たる信念にベアトリーチェの怒りは留まることを知らない。
『下らない!何と下らない!その様な下らない幻想を
ベアトリーチェはオートマタ達に指示を出し、オートマタ達はアツコを連れて地下格納庫に向かう。
その地下倉庫に眠っているのはゼネバス帝国が決戦兵器として開発し、共和国首都制圧を成し遂げたティラノサウルス型ゾイド…デスザウラーである!
アツコが隔離部屋から出された事でパワードコンボイは漸く彼女の反応を捉えられ、地下倉庫へと向かっていたのだが…
『デスザウラーか…また厄介な奴を蘇らせたものだ…』
パワードコンボイの前にはデスザウラーの姿があった。
『あら、遅かったわねマグナス』
其処へレラエルからの立体映像が投影される。
『レラエル…アツコを返せ!』
『残!念!それは無理の無理よ!同士ベアトリーチェはあのロイヤルブラッドが必要だもの。そ・れ・に・あんたらを生かすのももう無・理!潔くロイヤルブラッドを諦めてくれたら私も同士ベアトリーチェも見逃すつもりだったのだけれど…もう殺すしかないのよ。だから死ね!ロイヤルブラッドが乗るデスザウラーで死んでしまえ!』
レラエルがそう吐き捨てた後、デスザウラーは起動し、アツコの意思とは無関係に動き始める。
アツコも当然
実はこのデスザウラーは操られたアツコが動かしているというよりはアツコの力を増幅させて利用しているだけというのが正しいだろう。そもそもアツコが乗せられているのは
しかし、アツコの存在があろうとなかろうとデスザウラーが強大なゾイドである事、そんなデスザウラーにも弱点があるという事実は変わらない。
デスザウラーの弱点…それは背部の荷電粒子供給用のインテークファンと装甲で覆われていない口腔内、そして装甲の隙間や関節である…尤もそれらを狙うのも困難なのだが…。
まず背部の荷電粒子供給用のインテークファン…これを破壊するのはパワードコンボイでは難しいだろう。何せサイズはパワードコンボイの方が小さい上にスラスターの噴射で飛んで狙おうにもファンの上部には接近戦用ビーム砲で守られている上に尻尾の付け根には16連装のミサイルランチャーも装備していて背後への敵襲にも対応している。
咥内は大口径荷電粒子砲の発射口故に危険なばかりかそも頭頂部にはビームガンが装備されいる。
関節を狙おうにもデスザウラーは格闘戦にも強い機体である。
中型ゾイドくらいまでであれば一撃で粉砕できる上に高周波を放つことで掴んだ敵機の内部機構を破壊してしまう電磁クロー、長大かつ高速ゾイドにも対処可能な機敏さとゴジュラスを仕留める事も可能な威力を発揮可能な加重力衝撃テイル。
加えて腹部には小型ゾイドを一撃で破壊出来る程の威力を有する連装ビーム砲座も付いている。
これらを踏まえてパワードコンボイ マグナスならまだしもパワードコンボイ単体ではデスザウラーに勝つ事は不可能。それをマグナスも分かってはいるが彼には戦う以外の選択肢はないのだ。
アツコの居場所は特定出来た…腹部の銃座だ。尤も真正面かつ装甲の内部で連装ビーム砲座が付いている為、まずはそれを無料化しなければならない。捕まるリスクだってある。
(それでもだ!)
地上へとゆっくり進出するデスザウラーの砲撃を掻い潜りながらパワードコンボイは牽制射撃しつつ連装ビーム砲座を破壊するチャンスを探る…そんな状況が続いていると2機はいつの間にか外に出ていた。
時刻的に今は真夜中、暗闇の中でデスザウラーのインテークファンと目が怪しげに輝いている。
対してパワードコンボイは引き続き連装ビーム砲座と銃座を狙っている。銃撃で砲座を破壊する事も当然考えた。
結論を言えば一番無難だろうが、万が一にも爆発してしまった場合、
(やはり被弾覚悟で素手による破壊しかないか…!)
デスザウラーからの砲撃を回避しつつ、回避しきれない分はブラスターや排気管が変化した機銃で相殺していくもののデスザウラーの猛攻は激しく満足に近付けない。
そしてデスザウラーもしびれを切らしたのか口を開け、インテークファンから空気中の粒子を取り込むと体内で荷電粒子に変換させ、それを首のシンクロトロンジェネレータで光速レベルにまで加速させる。
『荷電粒子砲か…!』
そう、荷電粒子砲である。デスザウラーの荷電粒子砲の威力は劣化コピー品たるアリウス産ジェノザウラーはおろか
当然、パワードコンボイも直撃すれば消滅するのは確実。 しかも
『クソッ!サーベルタイガーか!』
オートマタが操縦する2機のサーベルタイガーが暗闇の中から現れ、それぞれパワードコンボイ両腕に噛み付いて動きを止めたのだ。レラエルはこのサーベルタイガー達とオートマタを犠牲に自分を抹殺する気だと察した。
もはや勝ち目はない…そう悟ったのかマグナスは目を瞑る。浮かんでくるのは実の両親と義妹、そしてアズサ、アツコ、ミサキ、ヒヨリの顔…
(済まない…サオリ…)
そして実妹…サオリの笑顔だった。本当は死にたくない…だが、此処から逆転する事など奇跡でも起きない限り不可能だ。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!」
デスザウラーの腹部装甲の銃座でアツコが悲鳴を上げる中、デスザウラーの荷電粒子砲がパワードコンボイに向けて放たれた。
『兄さん!アツコ!』
死ぬ間際に聞こえてきたサオリの声。マグナスはふと違和感に気づいた。何時まで経っても死なない。どういう訳だ?と疑問に思った彼が目を開けて見上げると其処にはジェノザウラーSJSとは異なるゾイドがデスザウラーの荷電粒子砲を防いでいた。
青い装甲に埋め込まれた橙色に輝く集光パネル。その集光パネルはデスザウラーの荷電粒子砲から放たれた一撃を吸収し、吸収しきれない分は追加されたEシールドで防いでいる。
『兄さんが一番好きなゾイドって何なんだ?』
『そうだな…やはりコイツかな。見た目もカッコいいけど、名前に込められた意味がな』
『名前の意味?』
『"必ず故郷に
そのゾイドはマルチバースの惑星Ziにて
そして
「凱…龍…輝……!?」
デスザウラーの荷電粒子砲を防ぎきった
To be continue…
・凱龍輝(錠前サオリ機)
分類:ティラノサウルス型
全長:約23.8m
全高:約12.6m
最高速度:290.0km/h
乗員人数:1名
パイロット:錠前サオリ
装備:集光パネル×11
マグネッサーウイング×2
イオンブースター×2
荷電粒子吸入機構
Eシールドジェネレーター
脳波コントロールシステム
内蔵型素粒子コントロール装置
武装:集光荷電粒子砲
バイトファング
キラークロー×4
ビームバルカン×4
ロングアサルトキャノン×2
以前にマグナスからあらゆるゾイドの荷電粒子砲に耐え得るゾイドたる凱龍輝の存在を聞いていたリューズが将来的にアリウス産ジェノザウラーでは将来的に対応出来ない戦局が訪れる事を予見していた事、そしてある理由からデスザウラーの出現を予見した事からマグナス達には秘密裏に用意していた機体。
凱龍輝が実在するマルチバースの惑星Ziを何とか探し出し、そこから開発設計図を含む機体データを取り寄せ、B-Linker対応型としての改修を行いつつほぼ完成にまで漕ぎ着けるまでに2年もの月日がかかっている。
尚、ゾイドコアはアリウス産ジェノザウラーと同じくゴッドカイザーの物を使用しているが、これは件のマルチバースの惑星Ziコアも取り寄せるとなると更に手間も時間もかかって間に合わないと判断した事、そしてどちらもティラノサウルス型かつサイズも近かった故に流用が出来たからである。
本来の凱龍輝は