「…暇だな」
「暇だね」
「暇ですねぇ」
アズサ、アツコ、ヒヨリはシャーレ部室のオフィスで呟いた。
暇というより自分達の今の仕事がないというべきか。書類作業はマグナスとサオリが二人がかりで終わらせており、新規の書類はマグナスから帰ってきてから確認するから構わなくても良いというお達しがあったので自分達が構う必要はなく…かといって依頼も今のところない。
そしてマグナスとサオリはシャーレ配属後は朝から夕方まで各校への挨拶回りに行っており、今日はミレニアム自治区に行くからとミサキも同行している。電話対談でも良かったのにと思う者もいただろうが、根は真面目なマグナスはそれが許せなかったのだろう。
「そうだ、散歩でも行く?」
そう提案したのはアツコだ。
「散歩か…昨日はそれどころではなかったしこの辺りの地理を知っておく必要はあるからな」
「お小遣いなら義兄さんから貰ってますもんね…えへへ」
今度ゆっくり出来る日が何時来るかは分からない。という訳で3人は散歩と称して外出する事にしたのだった。
シャーレ部室棟一階フロアの一角。其処には"エンジェル24"というコンビニのシャーレ出張店がマグナス達のシャーレ就任翌日の12時から営業を開始していた。
「いらっしゃいませ!」
「やっほーソラちゃん、買い物に来たよー」
レジから挨拶したのはこのコンビニで働いているバイトのソラである。
「今日は3人だけなんですね」
「あぁ、義兄さんとサオリ、ミサキなら今朝からミレニアム自治区へ行ってる。セミナー会長が私達の機体を間近で見たい…もとい直接対談をしたいからって」
「私達は何も出来ないので外へ散歩に出かけようと思いまして…まずはおやつとお昼を買っておこうと」
ちょっとした会話の後、3人はおにぎりやおやつ、ペットボトルのお茶を購入するとソラにまた来ると言ってエンジェル24を後にするのだった。
D.Uの街並みの中、アツコは時折景色や楽しむアズサ、ヒヨリの姿をデジカメで撮影する。マグナスに初めて買って貰ったあのデジカメを今も使い続けているのだ。
外出する度に大量の写真を撮るのだから保存用のSDカードも桁が
「ねぇ、"子ウサギ公園"だって」
「かわいらしい名前の公園ですねぇ」
「ウサギ…何故か親しみを感じる…」
写真を撮りながら散歩をしていた3人が辿り着いた先は子ウサギ公園という人気の少ない公園だ。
「此処でお昼にしようか」
時刻はお昼時、アツコの提案にアズサもヒヨリも賛成して3人は公園に入るのだった。
芝生の上に敷いたレジャーシートの上に座り、レジ袋から昼食やおやつ、飲み物を出して食事をしながら景色を満喫していた3人の耳に、ドスドスという何か重量がある物の歩行音が聞こえて来たのだ。
人気がないとはいえ此処も銃弾が飛び交うキヴォトスの一角。3人ももしもに備えて銃に手を取る。
暫くして音の正体が公園内に入ってきた。
「あれってゴルヘックス?」
「あぁ、武装してはいるが間違いない。ゴルヘックスだ」
正体はへリック共和国が開発したステゴサウルス型電子戦用ゾイドのゴルヘックスである。
頑強のフレームにガラスの様に透き通ったアンテナプレートであるクリスタルレーダーを採用した背鰭など電子戦を突き詰めたこの機体を共和国の電子戦用ゾイドの最高傑作と呼ぶ声も多い一方で最強クラスの電子戦能力と引き換えに戦闘能力は低いのが弱点である。
子ウサギ公園に入ってきたゴルヘックスは橙色の背鰭とキャノピーに脚部やフレームの外側は紺色に染められ、機体上部にはAZ対空4連装砲1基とAZ対空速射砲を2基装備しており、後脚の上側のフレームにはSRT特殊学園の校章が貼られていた。
「SRTのゾイドがどうして此処に…確か閉鎖の方向で話が進んでいるんですよね?」
ヒヨリが言うようにSRT特殊学園は最高責任者となる連邦生徒会長が失踪した事で責任者不在となった事で現在は処遇を巡って連邦生徒会内で協議が行われている最中である。
一般的な治安維持業務にあたるのは連邦生徒会行政委員会防衛室の管轄下にあり各地に拠点を有するヴァルキューレ警察学校なのだが、各学園の自治圏に於いては活動を制限されてしまっているのが現状である。
SRT特殊学園はヴァルキューレでは対応できない案件へ対応とその為の特殊部隊養成を主目的とした連邦生徒会長直属の学園組織であり、保有する装備や機体も一級品、所属する生徒も厳しい選抜試験や訓練を通過してきたエリート達なのだ。
そんな表立って行動できない筈のエリート校のゾイドが何故こんな人気の場所に来たのか?
ゴルヘックスを観察しているとコックピットから1人、尻尾に繋いでいたトレーラーから3人降りてきた。
SRTの制服に
「ひとまず此処に拠点を作りましょう」
「そうだな。
銀髪の少女の言葉にショートボブでヘルメットをした少女は賛同する。
「何とか必要な物は持ち出せて良かったねぇ。やっぱりゴルヘックス様々だよ」
ツインテールに眼鏡をした少女はゴルヘックスの頭を撫でる。コックピットに乗っていたのは彼女達だ。
「あの…さっきから私達を見てる娘達が3人…いるんですけど…」
そう発言したのはロングヘアーでおどおどとした雰囲気の少女だ。その少女が指しているのは当然アズサ、アツコ、ヒヨリの事である。
ロングヘアーの少女の言葉に他3人もアズサ、アツコ、ヒヨリの方を向く。気まずい空気に包まれ、暫くの間沈黙が続いた状態のままフリーズした両者。
「もしかしなくてもSRT特殊学園の娘達だよね?」
沈黙を破ったのはアツコである。
「はい、そうですが…」
そう答えるのは銀髪の少女だ。
「えっと…話、聞こうか?」
3人の中で一番対話に適しているのは紛れもなくアツコである。アツコはレジャーシートにSRT特殊学園の生徒4人にこっちに来て座ってとジェスチャーする。
SRTの生徒4人はレジャーシートの上にある食べ物や飲み物から彼女達が昼食を取っている最中であった事に気付き、自分達も食糧を携えてアツコのジェスチャーに従うのだった。
彼女達はSRT特殊学園の1年生4人で構成されたRABBIT小隊である。メンバーは銀髪の子が小隊長の月雪ミヤコ、ヘルメットを被っていたのがポイントマンの空井サキ、ツインテールで眼鏡をかけているのがオペレーターの風倉モエ、おどおどした子がスナイパーの霞沢ミユである。
ミヤコを中心にRABBIT小隊は此処に来るまでの経緯と何をする気なのかを語った。
前述した通り、SRT特殊学園は現在、連邦生徒会長の失踪によって最高責任者が不在という状態にあり、連邦生徒会の中でも処遇に関して意見が真っ二つに割れている。
その中でも保有戦力を危険視し閉鎖すべきという意見が大多数を占めており、リンや防衛室の室長である不知火カヤなど閉鎖すべきではないという考えではあるが、いくら上層部であっても少数派の意見故に多数派の論調を覆せそうにないのが現状だ。
閉鎖となると問題となるのがSRTの生徒達や装備、ゾイドなどの機体の行く末である。サキ曰くどうやらヴァルキューレに編入する方向で話が進んでいるらしいが、全てのSRTの生徒達がヴァルキューレへの編入に納得・賛成した訳ではない…現にRABBIT小隊の面々がそうである。
ミヤコはSRTの掲げるいかなる状況でも揺らがない屈強な正義に憧れて、サキは厳格な規律のある生活を志して、モエは他学校では扱っていない武器やゾイドを扱える為、ミユは狙撃手としての才能を見出された事と今のネガティブな性格を治す為。
各々の理由でSRTに入学したのに実戦すら経験せずに学園は閉鎖されるかもしれない、望まぬ転入をさせられるかもしれない。そこでRABBIT小隊は閉鎖を阻止すべくデモをしようと考え、持ち出せるだけの武装や物資、そしてSRT仕様のゴルヘックスを学園から持ち出してこの子ウサギ公園へと辿り着き今に至るのである。
一連の経緯を聞いたアツコ、アズサ、ヒヨリも思うところがあった…何せ彼女達が本来通っていたであろうアリウス分校は自治区そのものも含めベアトリーチェとレラエルの支配下にあり、もはや学校として機能していない状態にある…つまり学校を奪われたも同然である。だからこそ
「学校がなくなるの、辛いですよねぇ…」
「ある意味では私達と似た状況か…」
アズサの呟きにRABBIT小隊の面々はどういう意味なのかと言わんばかりにアツコに視線を向ける。
「私達は元々アリウス自治区の出身なの」
「アリウス自治区って確かトリニティから迫害され自治区から追われたと…」
ミヤコの言葉をアツコは肯定し、話を続けた。
「私達のご先祖は流れ着いた先を自治区にしてひっそりと暮らしていたの…でも、10年位前に内戦が起きたの」
「その内戦の末にアリウス自治区は混乱に乗じて介入する機会を伺っていた悪しき大人によって自治区を掌握され、私達は奴らの兵力兼実験体にされた」
「じゃあ、どうして此処にいるんだ?」
「私達は4年位前にアリウス自治区から脱走したんです。マダム達に反抗したアズサさんが処刑されそうになってサオリ姉さん…私達のリーダーが身の危険を感じて…私達5人は何とか自治区を通り越してキヴォトスから脱走したんです」
サキの疑問にアズサとヒヨリが答える。
「自治区どころかキヴォトスからって…じゃあ今までどうやって暮らしてたの?」
「私達を受け入れて面倒を見てくれた人がいたの。その人の元で学んで経験を積んで…」
「デスザウラーと戦う羽目になって自分のゾイドを失ったりと色々あったが、一昨日彼と共に私達はキヴォトスへと戻ってきた」
アズサのデスザウラーと戦う羽目になったという事にサキとモエは思わずツッコミたくなったがその前にミユが口を開いた。
「もしかして、その殿方って…シャーレの先生なのでは…?タイミング的に一致してますし…」
「うん、そうだよ。あっ、私達が此処に来たのは偶然だよ。義兄さんはサッちゃんとミサキと一緒にミレニアム自治区に行ってる。全員でぞろぞろついていく訳にも行かなかったから私達3人はお散歩してたの」
そう答えたアツコはふと何か思い付いたらしく
「そうだ、明日には義兄さん達も帰ってくるから相談に乗って貰うのはどうかな?」
とRABBIT小隊の面々に提案した。
「相談…ですか?」
「うん、貴女達の望み通りになるかはわからないけど、何かヒントを得られるかも」
「しかし迷惑なのではないか…?」
サキに対しヒヨリはそもそもデモをしようとしてたのにと言いかけたが寸前で呑み込んだ。
「大丈夫じゃないか?あぁ見えて義兄さんはお人好しなところがあるからな。でなければ私達は今頃此処にいなかった」
その後、モモトークで互いの連絡先を交換し合い、アツコが
その日の夜。マグナス、サオリ、ミサキは無事にシャーレ部室棟へと帰還した。
「義兄さん、ちょっと良いかな?」
「あぁ、構わない」
帰ってきたマグナスにアツコは今日起きた事…らさRABBIT小隊の事を話した。アツコの話をマグナスは真剣に聞き入れている。
「―で、義兄さんに相談してみたらどうかなって。廃校を阻止出来るかは別にして」
「そうだな…確かに俺の権限でも学校の存続を決められるかはわからない。だが、話を聞く事なら問題はない。彼女達が納得出来るかはともかく俺に出来る事はしよう。
それにまだ新米とはいえ厳しい試験を乗り越えたエリートだ。万が一の時に力になってくれれば心強い」
「ありがとう、義兄さん」
アツコは早速ミヤコに連絡を入れ、翌日にマグナスとRABBIT小隊の面談が行われる事になった。
そして面談当日。シャーレの会議室に於いてマグナスとサオリに向き合う形でRABBIT小隊の面々は座っていた。
「改めてシャーレ担当顧問の錠前リクトだ。以前はマグナスというコードネームを名乗って傭兵をしていた。呼び方は好きにするといい」
「シャーレ部長の錠前サオリだ。アツコから話は聞いている」
「今日は宜しくお願いします。先生、サオリ先輩」
RABBIT小隊を代表してミヤコが挨拶し、サキ、モエ、ミユも続けて頭を下げる。
また、話を持ってきたアツコも部屋の片隅から対談を見守っている。
「まずお前達に関する
マグナスからの優秀な生徒という言葉に思わず嬉しくなってはにかみそうになったRABBIT小隊の面々だが、此処は敢えて耐えた。
「昨日、連邦生徒会にも掛け合ってみたが…申し訳ない、廃校撤回は難しいのが現状だ」
マグナスは立ち上がるとRABBIT小隊の面々に向けて頭を下げて謝罪する。大人からの謝罪にRABBIT小隊の面々は廃校阻止を出来なかったのかという怒りより誠実な謝罪に困惑の方が勝っていた。故に何も言えなかった。
「確認したいが、君達はこれからどうする?」
場の空気を変えようとサオリはRABBIT小隊の面々に問う。
「戦い続けます、SRT特殊学園の復活のために。諦めない限り、SRTの名前は無くなりませんので」
代表して答えたのはミヤコだ。
「仮に勝算が薄いとしてもか?」
「はい」
サオリに対し真っ直ぐな眼差しで答えるミヤコ。
「理由を聞かせてくれないか?」
頭を上げてそう訊ねたマグナスは何処かミヤコを試しているかの様だった。
「"正義"とは…理に適った正しい道理のこと。その道理は心理に基づくものです。であるならば、相手や状況によって変わるものではありませんが、キヴォトスにおける各所の治安組織は、様々な利害関係の中にあります。その結果"正義"というものを自分たち独自に歪曲を続けてきました。
しかしSRT特殊学園だけは学園間の関係や利害の問題に左右されず、自らが信じる正義を実行していました。時と場所を選ばず、相手が誰であっても同じ基準で、一つの正義を追求する組織…そんなSRT特殊学園に、私は憧れたのです。そういった、屈強な正義に」
「利害関係に囚われない屈強な正義、か…立派な考えだな」
マグナスは思わず俺より立派だ、と言いかけたが初対面の相手に弱音を見せる訳にはいかないというプライドから抑え込んだ。
「月雪の正義感を見込んでお前達に提案がある。シャーレの部員となって依頼をこなしたり
現在の連邦生徒会のトップである七神には話を通してシャーレの部員にする許可は得ている
勿論、今すぐ返答しろって訳じゃないし提案を呑むか蹴るか決めるのはお前達次第だ」
マグナスからの提案に対しRABBIT小隊の面々は固まって小声で話し合う。マグナスからの提案は彼女達にとって時間はかかるかもしれないが悪い話じゃない…むしろ渡りに船と言わんばかりの有難い申し出だ。
話し合いの末にRABBIT小隊の面々はマグナスからの提案を呑むことを選び、マグナスとサオリは彼女達と握手を交わした。
その様子にアツコもほっと胸を撫で下ろすのだった。
To be continue…