マグナス達がシャーレに配属される2年前のアビドス自治区。嘗てはトリニティやゲヘナにも匹敵する勢力ではあったがそれも昔の話。大規模な砂嵐がこのアビドス自治区を襲ったのである。甚大な被害をもたらした砂嵐を前に当時のアビドス高校の生徒会は苦い決断をする事になった…銀行からの融資を受け復興費用とする事である。しかし、その後も砂嵐は発生しては人々や土地を襲い、その度に融資を受け…気付けばその額は
しかもアビドス高校に融資してくれた銀行は一つだけ、それも所謂悪徳金融業者だったのである…
アビドスのある砂漠の中を1人の少女が必死に駆けている。桃色のショートヘアーに青と黄色のオッドアイの彼女は激しい後悔の表情を浮かべていた。
「ユメ先輩…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
事の発端は数時間前…アビドス生徒会のメンバーだった彼女は当時の生徒会長と喧嘩になってしまった…
「もし何か奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人がたっくさん集まって…」
いや、正確に言えば絶望的な状況でも尚希望を抱き続けた彼女に対し
「奇跡なんて起きっこないですよ、先輩」
と言って過去に開催されていた"アビドス砂祭り"の昔のポスターを破いてしまったのだ。
大らかで純粋な性格の生徒会長に対し彼女は攻撃的で引き締まった言動で現実的な視線で物事を語っていた。
いつも無鉄砲な生徒会長に対し彼女は呆れつつも一緒に宝探しをしては玉砕するというお決まりの流れ。財政状況は苦しいながらも楽しい日々を送っていた。
しかし、詐欺に嵌まる等の危うい失敗を繰り返しても楽観的な姿勢を頑なに変えない生徒会長に次第に苛立ちも募らせてゆき、今回彼女がくれたポスターを目の前で破り捨ててしまった。
その時、彼女は激しい頭痛に襲われた。脳裏にフラッシュバックされる見たことあるようでない光景。ふと見上げた時、視界に入ったのは悲しげな表情を浮かべつつも自身を心配して手を差し伸べようとする生徒会長の姿。
彼女はこの場から逃げ出そうと差し伸べられた手を振り払って教室を飛び出した。
逃げるようへ屋上へ駆け出した彼女。未だに頭痛は止まないどころかその痛みは増すばかりだ。
「何なんだよ…!一体…!」
やがて痛みが許容範囲を越えたのか彼女は意識を失って倒れた。
暗闇が晴れた時、彼女の前に広がっていたのは目から光を失った自分とヘイローが消滅した生徒会長の姿だ。
『ユメ先輩、此処にいたんですね…』
目の前の自分は物言わぬ動かぬ彼女を前に崩れ落ち、ただひたすら謝っていた。
場面が変わり、雪が降り積もる中、私立ネフティス中学校の制服を着た少女と共にいた髪が伸びた自分自身がボロボロの服装を纏った少女に手を差し伸べ、マフラーを巻かせていた。
更に場面が次々に変わっていき…最後に映し出されたのは赤く染まった空に禍々しい姿へ変貌した己の姿、そして自身に立ち向かう2人の少女。
彼女…小鳥遊ホシノは思い出した。これは記憶だと、最悪の未来を辿った自身の
視界が暗転し、
「そんな…!まだ間に合う筈…!」
もう、あんな胸が張り裂けてずっと後悔し続ける事はしたくない…その思いを胸にホシノは無我夢中になって校舎を飛び出した。
前世でユメの亡骸を見付けた場所へ向かうホシノの顔は焦燥感に染まっていた。
目的地付近へ到着し、必死に捜すホシノであったが、ユメの姿はおろか遺品となる筈の盾も手帳も見つからない。
更にホシノは
唯でさえ疲弊している中、追い討ちをかけるかの様に夜の砂漠の寒さがホシノの体力を容赦なく奪っていく。
朦朧とする意識と吹き出した砂嵐の中、必死にユメを捜すホシノだったが…
「ごめんなさい…ユメ先…輩…」
遂に限界が訪れ、瞼が重くなる。
意識を失う直前のホシノが目にしたのは見覚えのあるシルエットと人とは明らかに異なるシルエットだった。
「―!」
ホシノの耳に聴こえてきた声。
「―ノちゃん!」
懐かしすら感じる声。
「―シノちゃん!」
だが、その声はホシノの意識が明朗になるにつれてよりハッキリと聴こえてくる。
「ホシノちゃん!」
目を開けると涙目になりながら此方を見ているユメの姿があった。
「ひぃん!良かったぁ無事でぇ!」
ユメは涙声でそう言うと思いっきりホシノに抱き付いた。
「ユメ先輩…その…ごめんなさい…私、酷い事を…」
ホシノの謝罪に対しユメは
「私の方こそ何時もごめんねぇぇ!」
と大声で泣き叫んでいる。
ふとホシノは自分の腕に点滴の針が刺さっている事に気付いた。
「しばらく安静にしていた方が良いわ。
ホシノの耳に聴こえてきた声…その声にホシノは聞き覚えがあり、声がした方角に視線を向けると見覚えのある、しかしいる筈の人物の姿が其処にあった。
「うへぇ!?ヒナちゃん!?どうして此処に?」
そう、ゲヘナ学園の空崎ヒナである。後の風紀委員長だが、現在はまだ情報部の一員である。そんな彼女が何故此処にいるのか?それに何故久し振りと言ったのか?思考を巡らせた末にある可能性に行き着いた。
「もしかしてヒナちゃんも…!?」
そう、彼女も自分と同じ様にかの世界からの転生者じゃないか?という事である。
「その口振り…やはり貴女も転生者で間違いないようね。記憶持ちじゃなければ違う返答になっていた筈だから」
何処か笑みを浮かべている彼女にホシノは申し訳なく思っていた。何せ自分は暴走して
「それはそうとヒナちゃんはどうして此処に?」
先程の質問をもう一度するホシノ。それに対しヒナは
「もし前世の記憶を持っているならば貴女は梔子ユメの死を防ぐ為に動く可能性が高い…彼女を追いかけて砂漠に行くと。
そう睨んで先回りして彼女を保護し、貴女が来るのを待っていたのよ。まさか手ぶらで来て貴女の方が遭難するとは思わなかったけど…下手したら死んでいたわね」
と答え、ホシノは面目もないと言わんばかりに黙った。
「ホシノちゃんが死んじゃうの、私やだよ…」
涙目で訴えてくるユメにホシノは罪悪感で目を逸らし、再びヒナに視線を向ける。
「だけど、よく私の居場所がわかったね」
「此処に来たのは私1人ではないから」
そう言って部屋に入ってきたのは意識を失う前に見たシルエットの主とホシノも顔を知っているミカとセイアだ。
そしてもう1人は意識を失う前にシルエットを見たホシノも知らぬ人物…いや宇宙人である。
「初めまして、小鳥遊ホシノ。私はファントン星人リューズ。一応この"同盟"を取り仕切っている者だ」
「"同盟"?」
怪しい者を見る眼差しで警戒するホシノに対しユメはペシっとホシノの頭に軽くチョップした。
「何するんですかユメ先輩」
「そんな失礼な目をしたらめっ!だよ、ホシノちゃん。リューズさんはヒナちゃんやミカちゃん、セイアちゃんと一緒に私やホシノちゃんを助けてくれたんだから」
「彼女は信頼出来る人物よ。私達が保証する」
ヒナはホシノにそう言い、ホシノはリューズに失礼な態度をした事を謝罪する。尤もリューズ自身は気にしていない様子だ。
「リューズ、そろそろ2人も加えて現状について話し合おうよ!セイアちゃんもヒナちゃんもそう思うよね?」
ヒナのふわふわヘアーを堪能しながらリューズに話し合いの開始を促すミカと為されるがままスルーしているヒナ。そのミカにホシノは違和感を抱いていた。ホシノが知る聖園ミカは話し合いなどは苦手かつゲヘナ嫌いだった筈…なのにどうもヒナとは険悪な仲どころか親しく見える。
「
ホシノは小声でセイアに訊ねる。
「彼女は君と同じく転生者だ。
とセイアも小声で答える。
それからリューズとは初対面であるホシノやユメに向けてまず"同盟"が結成されるまでを説明した。
・ミカが前世世界で経験した事
・ベアトリーチェの行った儀式の結果がミカの前世世界の行く末だった事
・この世界に転生したミカがセイアと共にリューズに接触した事、
・ミカの前世世界に於いて"先生"となった人物がこの世界では既に死んでおり、世界の破滅を防ぐべく先生となり得る資格ある人物を探している事
・ミカ前世世界でベアトリーチェの尖兵だったアリウススクワッドの5人が2年程前にアリウス自治区どころかキヴォトスを脱走してマグナスという傭兵に拾われて一緒に暮らしている事
・この惑星での本来の錠前サオリは既に死亡してライガーゼロに制御ユニットとして積まれていた事
・現在の錠前サオリが
・先日ベアトリーチェとレラエルが秤アツコの捕縛に乗りだし、ライガーゼロやデスザウラーを動員した事
・マグナスとアリウススクワッドは秤アツコの奪還とライガーゼロ及びデスザウラーの撃破に成功したが代償として凱龍輝とジェノザウラーAHS以外の機体は大破した事
あまりの情報量の多さにホシノは何とかついてはいけたが、お世辞にも頭が良いとは言えないユメは処理しきれなくなったのかひぃん…と悲鳴を上げている。まるで頭から煙が上がっているかの様だ。
そしてホシノとヒナは同じ世界の出身ではあるがミカは異なる世界からの転生者である事も分かった。
そもそもホシノとヒナの前世世界ではゾイドなど存在していなかったのだ。因みにヒナが前世世界の記憶を取り戻した切欠は過労で倒れた事が原因らしくホシノは彼女らしいとは思いつつ大丈夫かと心配になった。
しかし、"先生"が既に死亡しているというのはホシノもショックを受けていた。彼女もまた"先生"を慕っていたのだから。故に先生となり得る資格ある人物を探すという事は思う所があった。果たしてあの人の代わりになれる人などいるのか?そう簡単に割り切れるものなのか?一瞬発案者を締め上げようとも考えたが、他ならね発案者たるミカが
「本当は簡単に割り切れる訳、ないんだよね…私にとって先生はあの人しかいないから…でも、それも結局は私のエゴでしかなくてこの世界の娘達には関係ないから…」
と悲しげな表情でボソリと呟いた言葉を聞いて思い留まった。
チラりとヒナの方を見ると彼女も悲しげな表情をしている。
「さて、話を戻そう。セイアちゃんの予知能力のおかげで目星をつけてた候補者とサオリ達の未来は守られたのは良かったかな」
「あのままだと君達の言う前世世界より早くこのキヴォトスが滅びる所だった。そうならなかったのはリューズが用意したあのゾイドの功績が大きい」
「彼から聞いたゾイド達…そのゾイド達はどれもマルチバースの惑星Ziに実在する事がわかった。幸いなのは凱龍輝のデータを入手出来た事だろう。あの機体の特性は興味深くそしてこの先もしかしたら必要になるだろうと思っていたからねぇ」
「ただ彼らの機体の大半が失われたのは痛手ね…」
「"色彩"襲来までゾイドが存在していなかった私達の前世世界ですら皆あのゾイド達には苦戦をさせられてたよ」
「ヒナとの言う通りだ。中央大陸戦争時のスペック準拠とは言えデスザウラーを倒せたのは良かったものの…この世界ではゾイドは当たり前に存在している。
私の推測でしかないがミカの前世世界を襲来した"色彩"の勢力がこの世界にも襲来する場合…より多くの戦力を送り込む可能性もある上に"色彩"の勢力との戦いの前にベアトリーチェの勢力との戦いは避けられないだろう」
「しかも、この世界のベアトリーチェにはレラエルっていう奴が付いてる…アイツがサオリを…!」
ミカはレラエルへの怒りで拳を強く握り、ミカを心配したユメは彼女の頭を優しく撫でる。
「レラエルが開発し、マグナスとアリウススクワッドに投与されたB-Linkerのシステム解析は済んでいる」
「つまり、彼らに最適化された機体は作れるって事?そもそもそのB-Linker?って奴がベアトリーチェとそのレラエルって奴に操られる可能性もあるんじゃ…?」
ホシノの言葉にリューズは頷く。
「幸いにもB-Linker単独では適合者の精神を支配するまでは不可能さ。マグナスと彼を治療したラチェット曰く適合者の精神状態が絶不調の状態で薬物を使用する事で意のままに操られる様になる様だ。
B-Linkerはあくまでも脳波コントロールシステム搭載機を動かす際のあらゆるの負荷に耐えられるようにするための補助装置の様な物だからねぇ。機能は出鱈目染みて開発者の倫理観はともかく技術力だけは流石としか言いようがない」
「それを解析した上で脳波コントロールシステム対応の凱龍輝を2年で作り上げた貴女も流石だと思うわ」
ヒナはリューズに感心していた。
「アリウススクワッドの機体も問題はない。彼女達は元々ゾイド乗りだからね。新しい機体に慣れるまで時間はかかるだろうが…問題はマグナスの方さ。
彼はずっとパワードコンボイ マグナスで戦ってきた。つまりあの機体による戦法が身体に染み込んでしまっているだろうねぇ。
存在するゾイドの中で今までと一番近い戦法が出来るのはアイアンコングやハンマーロックだが…あれでも彼はあの機体に愛着を持っていたからねぇ…技術者の端くれとしてはそこら辺も汲みたいのだよ
さて、これからも忙しくなるねぇ」
その後、ホシノとユメもリューズの"同盟"に加わる事になるのだった。
第2部『連邦捜査部《シャーレ》、始動』
完
To be continue…