#18『砂漠の中の学舎』
その少女に記憶はなかった。自分が何時何処で生まれたのか、何故個々にいるのか分からない。分かるのは自分の名前とこの世界が弱肉強食である事だ。
雪が降り積もる中、寒さを凌げる場所を探して彷徨う彼女の辿り着いた先は廃墟と思わしき建物だ。
運が良ければ食糧や弾丸が手に入るかもしれない。そう思って足を踏み入れようとした時、誰かの足音が聞こえてきた。自分を妨げる敵か道具として利用しようとする敵か。手にしていたボロボロの銃を手にその人物達に襲いかかった…
「
しかし、呆気なく返り討ちにされた。3人の内の1人、それも3人の中で一番小柄…自分と同じくらいの身長の少女に。
「迷子なんですかねぇ?」
首を傾げているのは何処か気品の良さが滲み出ているブロンドヘアーの少女だ。
「ひぃん!それよりもまずお風呂に入れてあげないと!こんなに汚れているし寒そう!」
慌てふためく一番高身長で巨乳の少女はそう言うと廃墟と思わしき建物の中へ入ってしまった。
「とりあえずさ、お風呂の準備が出来るまで待っててよ」
一番小柄な少女…小鳥遊ホシノは自分の首に巻かれたマフラーをほどくと彼女の首に巻く。この人、彼女…砂狼シロコは初めて人の温もりを知った。
あれから1年と数ヶ月が経った現在。定刻通りに目を覚ましたシロコは身を起こし、ベッドの上で身体を伸ばして立ち上がってベッドから出る。
軽く身体を解して朝食を取り、身支度を済ませるとロードバイクに乗って学校へと向かう。
シロコがアビドス高等学校の生徒になって以降もアビドスの地の砂漠化は進行していた。あれからどれだけの人がアビドスの地から去って言ったのだろうか。砂漠の中にビルや信号、線路や廃車となった鉄道車両やスクラップとなったゾイド達などが埋まっている一方、高所にある上に整備されているからか高速道路は今も健在であり、この道を通ってシロコは現在のアビドス高校の校舎へ通学している。
ふと何かが視界に入ったのかシロコは足を止める。
「ん…あれはグスタフ?ユメ先輩の?」
彼女が発見したのは砂漠の中を行くダンゴムシ型ゾイドのグスタフだ。
外殻の堅牢さは全ゾイドの中でもトップクラスで砂漠や岩場も走破可能、大型ゾイド特有のパワーの高さと大人しすぎる性質に由来する扱い易さから古来より陸上での大量輸送に重宝されている機体であり、キヴォトスの鉄道路線を管理しているハイランダー鉄道学園には軌陸車仕様に改造された個体もいるとされている。
難点を言うとすれば機動力の低さに大人しすぎる性質で戦闘には不向きである事、大型ゾイド故に狭い所は入れない上に生産性では鉄道車両に劣る点だろう。前述したハイランダー鉄道学園では貨物列車との併用で輸送力をカバーしてるそうだ。
閑話休題、シロコの視界に入ったのは白い外殻に連邦生徒会のマークが入った個体である。あのグスタフでこの地を訪れる連邦生徒会の職員などシロコが知る限り1人だけだ。気になるのは後ろをついて走る白いセミトレーラーだ。牽引するトレーラーのコンテナ側面には『S.C.H.A.L.E―
あの様な車は今まで見たことがない…というか護衛は何処に行ったのか?シロコが知る限りユメがグスタフに乗って来る際は積み荷を狙う不良やならず者への対策としてSRT学園のゾイドとゾイド乗りが護衛に付いている筈。
しかし、現在SRT学園は責任者不在により閉鎖状態。ヴァルキューレか?でもヴァルキューレのエンブレムはついていないしヴァルキューレでも護衛はゾイドが就く筈…なのにグスタフ以外はあのセミトレーラー一台だけだ。
シロコが思考を巡らせていたその時、砂中に隠れていたサソリ型ゾイドのガイサックが5機飛び出してきた。グスタフのトレーラーの積み荷を狙っているグループの機体だ。
更にあらゆる所からガイサック達が姿を表す。
助けに行かなければ…シロコが動き出そうとするより先にセミトレーラー…正確にはトラクターヘッドが動いた。
『チェンジ!マグナスコンボイ!』
トラクターヘッドは人型ロボットへ形を変えたのだ。
『此方は連邦捜査部シャーレ担当顧問の錠前リクトだ。大人しく引き下がるのなら見逃そう』
シロコは一週間前のニュースを思い返していた。失踪した連邦生徒会長が事前に立ち上げていた連邦捜査部シャーレの稼働開始とその担当顧問としてキヴォトス外部からやってきた大人。彼は元傭兵でゾイド乗りではないが可変式人型ロボット乗りだという。
そんな彼に対しガイサック達は攻撃を選択し、マグナスコンボイに向けてロングレンジガンや対ゾイド30mmビームライフルを発砲する。
『そうか…ならばこちらも容赦はしない』
マグナスコンボイは右手にサイバーソードを、左手にレーザーライフルを装備し応戦する。映像で見たアイアンコングやハンマーロックとは明らかに異なる、そして人型オートマタを巨大にした上でより滑らかな挙動。人が操縦するメカの挙動というよりも人の挙動の延長線上の動きをしながらジェノザウラーAHSや上空にいるレイノスの改造機と連携してグスタフを護りつつガイサックを無力化していくマグナスコンボイの姿にシロコは見惚れていたその時、ガイサックの1機がシロコに気付いて接近、シロコも自衛の為に銃を構えるのだが…
『無事か?』
そのガイサックはマグナスコンボイのサイバーソードによって尻尾の先端を切り裂かれ、コックピットと胴体の間の関節をレーザーライフルで撃ち抜かれた事で行動不能となっていた。
「ん…大丈夫。ありがとう」
訊ねてきたマグナスに返答する。
『その制服…アビドス高校の物だったな?』
「そう。私は砂狼シロコ…アビドス高校2年生」
『俺は連邦捜査部シャーレ担当顧問の錠前リクトだ。コードネームはマグナス…まぁ、呼び方は好きにするといい』
自己紹介するシロコにマグナスも名乗っていると
「あっ、シロコちゃんだ~!」
とグスタフから降りてきたユメが駆け寄ってきて…
「ひぃん!」
躓いて転んで顔から砂に突っ込んだ。
「ユメ先輩…相変わらずそそっかしい…」
そんなユメの姿にシロコは苦笑していた。
アビドス高校は嘗ては本校舎に加えて幾つもの分校舎に数千人の生徒を擁した生徒が通っていたマンモス校だったとされる。その歴史はキヴォトスでも長く、トリニティと同等かそれ以上とされている。
圧倒的な戦力と膨大な資金によってキヴォトス最大最強…と言われていた黄金期も今や昔の話。
郊外のアビドス砂漠で発生した巨大な砂嵐を前に広大な自治区が砂漠に呑まれていき、多額の資金を投入した対策も虚しく砂嵐は断続的に押し寄せ、その末に資金が底を突いてしまったのだ。
ある代の生徒会が銀行から何とか融資を受けて対策資金に当てたもの、その対策も砂漠化は止めるには至らず…残されたのは多額の借金と砂漠化を免れている居住区と市街地、分校舎の一部と整備が間に合っていないどころか目処すら立っていないインフラ設備である。
鉄道などの公共交通も市街地と居住区、学園を擁する中心部を除いてまともに機能しておらず、砂嵐の発生原因も不明かつ今も発生しては自治区を蝕み続けている現状に多くの生徒や住民は見限って他の自治区へと出て行ってしまい、一大帝国を築いたアビドス高校も今や全校生徒5人にまで衰退していた。
砂漠を見渡せば栄華を誇った時代の名残である高層ビルや完全に石化したゴジュラスなどのゾイドの残骸が朽ちて埋もれている。
その中をロードバイクを漕ぐシロコとユメが操縦するグスタフが先導し、トレーラーを牽引しているビークルモードのマグナスコンボイとホバリングしているジェノザウラーAHSが護衛を兼ねて後ろをついている。
更に上空にはミクロラプトル型ブロックスゾイドのエヴォフライヤーが警戒にあたっている。嘗てのデスザウラー戦にてジェノザウラーASSを失ったアズサに対しリューズが提供したのがこの機体なのだ。勿論、サオリの凱龍輝と同様に任意で脳波コントロールによる操縦と操縦桿による手動操縦の切り替えが可能である他、ブロックスゾイドの特性たるチェンジマイズも健在である。
アビドス高校の分校舎の1つ…本校舎が今や砂の中に埋もれていしまっている為、現在のアビドス高校の生徒達は此処を使っているのだ。
ゾイド用の駐機スペースにグスタフが停まると3人の生徒が出迎えた。
「みんなただいま~!」
と嬉しそうな表情で手を大きく振るユメ。
「お帰りなさい!ユメ先輩!シロコ先輩!」
笑顔でそう言うのは黒いショートヘアに眼鏡をかけたエルフ耳の真面目そうな雰囲気の少女だ。
「ホシノちゃんはおねむの時間かな?」
「そうですね…私、呼んできます!」
そう言って走って校舎に戻るのは頭上にネコミミを生やした黒髪ツインテールの活発そうな少女だ。
「あれれ、今日のお客さんは見かけない顔ですね」
マグナス達に視線を向けているのは金髪巨乳で何処か気品の良さを感じさせる少女だ。
「この度新設された連邦捜査部シャーレの担当顧問の錠前リクトだ。マグナスというコードネームで活動している。此方はシャーレ部員の―」
「白洲アズサだ。宜しく頼む」
「秤アツコ。宜しくね」
名乗るマグナス、アズサ、アツコ。
「貴方達が噂の…」
と眼鏡をかけた少女は興味深げな眼差しを彼らに向けている。
「私は奥空アヤネと言います。一年生で廃校対策委員会の書記を担当しています。先生とは先週のビデオ対談以来ですね」
「あぁ、そうだな」
実は各校代表とのビデオ対談の際、アビドスだけは代表となる小鳥遊ホシノが別件で不在だった為に代わりに応対したのが実質的なナンバー2であるアヤネだったのである。
「そして今、校舎に入っていったのが同級生の黒見セリカさんで…」
「私が十六夜ノノミ!2年生です~!」
と眼鏡っ娘もとい奥空アヤネと金髪巨乳もとい十六夜ノノミも自己紹介を行い、一行は運んできた物資を校舎内に運び始めるのだった。
現在のアビドス高校の生徒は3年生のホシノ、2年生のシロコとノノミ、1年生のアヤネとセリカの5人のみであり、卒業生のユメを合わせても6人。現在のアビドス生徒会はユメの発案によってアビドス廃校対策委員会へと改名しており、正規の手続きも踏んでいるため連邦生徒会も正式な部として承認し、弾薬などの物資の援助も行ってはいるが…借金問題に関しては様々な事情が重なって援助出来ず、せいぜいユメが個人的に稼いだ給料の多くを返済の足しにしているのが現状である。
そもそもユメがアビドス高校を卒業した後、連邦生徒会へ就職したのも借金問題を何とか出来ないかと思ったのとリューズへの恩義からなのだ。
最初の搬入が終わったその時、突然銃声が鳴り響いた。
一行が窓から校門の様子を確認すると正門から複数のヘルメットを被った生徒が銃を乱射しながら侵入を試みている。
「カタカタヘルメット団の襲来です!」
「あいつら性懲りもなく…!」
アヤネからの報告に拳を握り締めて怒りを滲ませるシロコ。
「ホシノ先輩、外出中みたい!」
駆け付けたセリカの手には"ちょっと出てくるねbyホシノ"と書かれた紙が握られていた。
1人不在の中の襲撃という緊迫した状況マグナスは外の状況を注意深く観察している。
今のところゾイドがいないのは幸いだろう…と言いたい所だが、背後に待機している戦車に見覚えしかなかった。
黄色い車体に2本のミサイル、主砲に直結しているエネルギータンク。紛れもなくマグナスコンボイの初陣で戦ったブラジオンだ。
状況観察を終えたマグナスはわざと咳き込む事で皆を注目させる。
「ヘルメット団の後方にブラジオンが控えている」
「義兄さんがシャーレ赴任初日で戦ったトランスフォーマー?」
アツコの言葉を頷いて肯定するマグナス。
「奴の狙いが俺の可能性もあるが何故ヘルメット団と…いや、シャーレ部室棟奪還時に同族と思わしきスカージはクライアントと言ってたな…まさか、そのクライアントの指示か?ならばヘルメット団と一緒にいる事の説明もつく…
皆はヘルメット団の撃退を頼む。指揮は俺がブラジオンの相手と平行して行う。奥空、オペレーションを頼めるか?」
「はい!任せてください!」
マグナスがアヤネにオペレーターを任せたのは事前にユメから戦闘時の役割について聞いていたからだ。
「梔子は奥空のサポートを、アツコ、アズサ、砂狼、十六夜はフィールドに出てヘルメット団撃退を、黒見は校舎から狙撃を頼む」
かくしてホシノ不在の対策委員会&マグナス、アズサ、アツコVSカタカタヘルメット団&ブラジオンの戦いの幕が上がるのだった。
To be continue…