脱走せし少女達と機人と呼ばれし者   作:衛置竜人

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#22『便利屋68』

 

 

 

 

マグナス達と対策委員会の面々は柴関ラーメンを訪れていた。というのも怒らせてしまったアヤネのご機嫌取りである。

後方支援を得意とするアヤネはホシノに変わって様々な手続きなどを取り仕切っている上に精神面ではアビドスの面々の中で一番強い。ある意味、今のアビドスの長はホシノではなくアヤネと言えるかもしれない。

そんな彼女が仮にも面倒な手続きなどを放棄した場合、他の面々がそつなくこなせるのか…その答えには疑問符が付くだろう。因みにラーメンの代金は理不尽にもマグナス持ちである。まぁ、マグナスもマグナスでアビドス高校の面々とは良好な関係を築きたいからか文句は言わないのだが。そしてセリカはバイト中である。

未だ不機嫌なアヤネの機嫌を皆でとりながらラーメンを食べていたその時だった。

「あ…あのぅ…」

とオドオドした雰囲気の少女…ハルカが入ってきた。

(あの制服…ゲヘナの風紀委員や万魔殿のそれに似ているな…)

マグナスはラーメンを食べながらハルカの様子を観察している。

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

セリカが早速応対に向かうのだが

「…こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

ハルカは人数答えずに一番安価なメニューを訊ねた。

「一番安いのは一杯580円の柴関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

「あ、ありがとうございます…」

セリカの返答を聞いたハルカは礼を言うと一旦店を出る。

店の外ではアル、ムツキ、カヨコが待っていた。

「えっと…一杯580円だそうです…」

ハルカからの報告に

「やっと見つかったね、600円以下のメニュー!」

「ふふふっ、ほら何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

「はぁ…」

ムツキは喜び、アルは計画通りと言わんばかりに強がり、カヨコはアルに対しさっきまで白目向いて泣いてた癖にと言わんばかりにため息を吐いた。

「流石です!アル様!」

ハルカが崇拝しているアルを讃えながら一行は店内に入り、

「…柴関ラーメン一つ…お箸も4膳付けて」

カヨコはセリカにそう注文した。

「え…あ、はい、柴関ラーメン一つですね…かしこまりました」

一方のセリカはその注文内容に困惑しつつもそれを受け付ける。そしてマグナスはその様子を観察していた。

「確か便利屋68だったか…」

マグナスが思い返したのはゲヘナ学園を訪れた際に出会った空崎ヒナとの会話だ。

 

各学園の代表との訪問面談の帰りにマグナスは偶然にも仕事帰りのヒナと遭遇し短時間ではあるが個人面談をする事になった。

『まさかミカが貴方を先生に推薦するとは思わなかったわ』

同盟のメンバーたるヒナもマグナスに対しシャーレの先生としてミカが選んだ人物という事で相応しいかはさておき興味を抱いていたのは事実だ。会話の結果、彼女としては様子見と判断したようだが…

閑話休題、ヒナが温泉開発部を制裁した帰りという話から広がってグループを組んで校則違反を犯している者達がいるという話になり、その内の1つとして便利屋68の名が上がったのだ。校則違反となる起業を犯した彼女達だが、ヒナからしてみても実力者揃いだそうだ。

 

そんな便利屋68がアビドス自治区にいる…しかしマグナスはヒナ達風紀委員に通報する気などなかった。

理由ほ至ってシンプル、此処はゲヘナ自治区ではなくアビドス自治区かつ相手も飯を食べにきただけで目の前で悪行をしていないからだ。

いくら超法規的権限を有するとはいえ学園自治の建前上、此処で悪さをした者に対する処罰を決めるのはあくまでもアビドス高校である。生徒同士間で解決できそうならそれに越した事はないからだ。

(それにしても…注文内容からして金欠の様だな)

マグナスの推察通り、便利屋68は金欠状態である。アル自身が報酬は依頼成功時に受け取るという方針を取っているのもあるのだが、見栄を張りたいのか事務所(オフィス)もわざわざ家賃が高い物件を選んだ挙げ句にゲヘナ領内の銀行に於ける彼女達の口座は凍結されて資金を引き出す事が出来ないのも理由となっている。

そんな彼女達の姿を目の当たりにしたマグナスは数秒考えると席を離れ、セリカと柴大将に注文を入れたのだった。

 

 

 

 

「お待たせしました!ご注文の柴関ラーメンです!」

一方、ボックス席に案内された便利屋68の元に柴関ラーメンの看板メニューたる柴関ラーメンが運ばれた。

「て、店員さん、これはオーダーミスなのでは…?」

言葉にしたアルを初め便利屋68の面々が困惑するのも無理はない。何故ならば並盛を頼んだ筈なのに運ばれてきたのは大きなどんぶりに麺や具が限界ギリギリまで盛られた特盛のラーメンだからである。

「いやいや、これで合ってますよ。580円の柴関ラーメン並!ですよね、大将?」

セリカがそう言って大将の方を振り向くと大将は厨房でラーメンを作りながら便利屋68の面々に向かって親指を上げていた。気にせず食べろと言わんばかりである。

「それと、此方は鶏の唐揚げです!」

「頼んでないけど…」

カヨコが困惑するのも無理はない。

「此方先せ…匿名のお客様からです!」

そう、マグナスが注文したのは鶏の唐揚げであり、彼は便利屋68の面々に一人1皿注文したのだ。匿名にしたのは自分に気にせず食べて欲しいからだ。尚、マグナスは唐揚げにはおろしニンニクを添えて食べる派であり、レモンをかけたりはしない…そもそも柑橘類は彼の苦手な食べ物である。

話を戻すが、マグナスにとってこの程度の出費など痛くはないし、彼自身が実母がなくなってから今まで趣味も持たなかった事で金の使い道も消耗した物資の補給位にしか使っていなかったから貯蓄は充分にあったのだ。サオリと再会してアツコ達を義妹として受け入れてからは流石に資金の消費が激しくなったが、その分稼げるようになったので実際には一人でいた時より貯蓄は僅かに増えていたりはする。

尤も趣味がないという点をサオリを筆頭に周囲の者達は心配しているのだが…

 

 

閑話休題、便利屋68の面々はラーメンと唐揚げに舌鼓を打ちつつ、主にアルだが、お店にいた対策委員会の面々と談笑していた。

能天気に談笑している相手こそクライアントの標的たるアビドス高校対策委員会の面々である事にアルとアルに盲信的なハルカに対し状況を冷静に見て判断出来るカヨコとムツキは談笑相手が標的である事に気付いてはいたが…黙っていた。

彼女らとて空気が読めない訳ではないからなのだが…ムツキに関しては後で教えた時のアルの反応を楽しみたいからという理由もあるが、それと同時にムツキの視線はアヤネに向けられていた。

本人に自覚があるかどうか不明だが、この浅黄ムツキという人物はどうも眼鏡フェチな所があるのだ。便利屋起業前からの幼馴染みであるアルに今も付き合っているのも陸八魔アルという人物を気に入っている(好きだ)からというのもあるだろうが、彼女が嘗ては眼鏡っ娘で今でも稀に眼鏡をかける事があるからかもしれない。

尤も同じ便利屋68のメンバーであるカヨコやハルカの事も当然好きであり、ハルカが他からスカウトを受けた時は必死に阻止したなんて事もあったり。

 

ラーメンを食べ終わった便利屋68の面々と対策委員会の面々+αは互いに目的の達成を願って別れを告げた…それはもう爽やかな様子でだ。

「ふう…良い人たちだったわね」

気を良くして清々しい笑顔を浮かべるアルに対しムツキとカヨコは対策委員会の面々の姿が見えなくなるやアルの顔を黙って見つめた。

「ど、どうしたのよ…?」

二人の様子が気になってキョトンとした表情を浮かべるアル。

「社長、あの子たちの制服を見て気付かなかった?」

呆れながら問うカヨコ。こんな態度を見せつつカヨコもまたアルの事が好きである。

「制服?それがどうしたのよ?」

そしてアルはカヨコの推測通り気付いていなかった。全く何も知らないとはこの事だろう。そんなアルの様子を楽しんでいるムツキはクヒヒと笑うと

「アイツら、ターゲットのアビドスだよ」

と告げる。そしてアルは数秒間思考停止した後…

「なななな、なっ、何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

驚きのあまり白目を向きながら叫んだ。其処に一企業の社長としての威厳などない。

「アハハッ、その顔うける~」

ムツキは悪戯に成功した子供の様に笑っている。

「まさか本当に気づいていなかったとは…しかも一緒にいた大人、多分最近活動を始めたっていうシャーレの先生だろうね」

そしてカヨコは頭を抱えながらため息を吐く。年下の長に呆れながらも見捨てたりしないのは恩義を感じているのとアルの事が好きだからである。

「そんな、あの子たちが標的のアビドスだったなんて…でも、こうしてしょげている訳にはいかないわ!アウトローとして、一企業の社長として冷酷な判断もできないと!い、行くわよ!ブラジオンとバイトを招集して!」

オフはオフ、仕事は仕事と割り切ったアルは3人に呼び掛けて依頼を達成すべく動き始めるのだった。

 

 

 

 

時刻は午後3時、アビドス高校現校舎から北に30キロメートル地点にて便利屋68の面々はバイト達とブラジオンを招集していた。

ブラジオン自身はクライアントの指示で便利屋68に合流したのに対し、バイト達はアルが会社の経費で雇った者達である。その数は数十人、中には滞空装備を施したハンマーロックやプテラス、バトルレックスの姿もある。

ゾイドも持ち出したのはアビドスに滞在中のアズサとアツコを警戒しての事だ。便利屋68が四人前のラーメンを頼めなかったのも雇うのに資金を使い果たしたからである。

 

そんな大規模な集団がアビドスに集まっているのをこの地域の自治を担う対策委員会が気付いていない訳がない。

アヤネが飛ばせているドローンがその影を捉えていたのだ。

プテラスのパイロットはアヤネのドローンに気付いたのか飛翔し、機銃で撃ち落とした。それが開戦の合図と言わんばかりにビルとビルの間からアズサの乗るエヴォフライヤーが飛び出してきた。

「見た所滞空装備もなさげだけど、そんなんで空にいる相手を撃ち落とせるか?」

プテラスのパイロットは()()()()のエヴォフライヤーを見て完全に慢心していた…それが命取りになるとも知らずに。

エヴォフライヤーは空に向かって跳躍するや

「チェンジマイズ!」

アズサの音声入力に反応して機体を空中で幾つかのパーツへと分解させる。

「な、何だよあれ…」

プテラスのパイロットが唖然とする中、エヴォフライヤーの各パーツが再度結合する。しかしその姿は先程までの一般的な獣脚類型…ゾイドで例えるならマーダやバトルローバーの様なスタイルからペガサロスの様な姿となっていた。

人造ゾイドコアと共通規格による正6面体(キューブ)状のユニット…ブロックスで構成されるブロックスゾイド。

単体のゾイドとしても機能しつつブロックスゾイド同士で合体したり嘗てのTF(トランスファイター)ゾイドの様に他のゾイドの強化ユニットとして合体する事も出来るのだが、中には単体で複数の形態へ変形する機体も存在している。

エヴォフライヤーもその内の1機であり、ゴドスの延長線上にある陸戦形態から飛行形態への組み替えが可能である。組み替えにタイムラグが生じ、その間無防備になるという弱点はあれど1機で陸戦と空戦の双方に対応出来るのは大きな利点ではある。

そして何より初見の相手が戸惑って何も出来ないのも無理はないだろう。

プテラスのパイロットは正気を取り戻すやエヴォフライヤーとの交戦を開始、撃ち落とさんと翼に追加されたブースターキャノンを発砲するが、エヴォフライヤーは難なく回避した。

正規のカタログスペック上では最高速度はプテラスの方が僅かに上かつこのプテラスはクライアントの会社によって火力だけでなく速力を上げられるブースターキャノンを装備されている。

しかし、アズサのエヴォフライヤーはサオリの凱龍輝との連携に重点を置く事も目的としてB-Linker対応仕様へと調整されており、そのスペックは通常のエヴォフライヤーの倍に匹敵するのだ。

 

エヴォフライヤーがプテラスの相手をしている中、アツコが駆るジェノザウラーAHSはバトルレックス及びハンマーロックと、マグナスが操るマグナスコンボイは三度目のブラジオンとの交戦を開始。巨大戦力組が敵対巨大戦力の足止めをしている最中で対策委員会の面々はアヤネとユメのアシストの元、便利屋68率いる白兵戦力組との交戦を開始するのだった。

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 

 

 

 

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