アビドス高校を制圧せよ…この依頼を引き受けたのは失敗だったのではないか?便利屋68の中で最年長の鬼方カヨコは傭兵達がアビドス高校対策委員会の面々によって想定以上のペースで次々と撃破されている現状を目の当たりにしてそう思ってしまった。
親愛なる
そもそも現在のアビドスが全校生徒1桁代ながらも存続はしているのは現在の在校生達が他校の生徒から見れば幹部クラスの実力者揃いだからだろう。
暁のホルスの異名を持つホシノは言わずもがな、キヴォトスの生徒の中でも白兵戦最強格の1人である。何せノノミとシロコが入学するまでの間、ユメと共に学校を守ってきたのだ。そのユメも戦闘が得意ではなかったからか後方支援に回っていた事も考慮すれば武力面では実質的にホシノ1人で守っていたというべきだろう。
そんなホシノに鍛えられた事とヘルメット団やスケバンなどの不良生徒達、時には乗り捨てられ野良化したゾイドの襲撃を受けている過酷な環境下にいれば他の者達の…より正確には実動班ともいうべきシロコ、ノノミ、セリカの練度も自然と上がるのも当然の事である。
そして後方支援担当のアヤネも侮る事は出来ない。緊急時には車両なりアビドス高校が現在唯一保有するゾイドであるガイサックを操縦して応戦してくる。元々砂漠での奇襲戦も視野に入れて開発されたガイサックはこのアビドスの地にピッタリの機体と言えるだろう。
この様にアビドス高校単体で見ても厄介な上で今回は今は行方不明となった連邦生徒会長がキヴォトスの外から呼び寄せたという
幻と化している戦略兵器級ゾイドたるデスザウラーをたった6人で倒したという噂はカヨコも聞いた事がある。
あの戦いでのマグナス達の損害も大きく6機中無事だったのは凱龍輝とジェノザウラーAHSの2機のみだった事は以外と知られておらずカヨコも知らないのだが、そんな事は些細な事であり、重要なのは出力が桁違いな
幸いなのはアリウススクワッドが
「何だよこの小型ゾイド!?」
「空陸両用かつ可変機だなんて知らないよ!」
「そもそも本当にゾイドなのか!?」
エヴォフライヤーと交戦しているプテラスやハンマーロックのパイロットが悲鳴を上げるのも仕方のない事だ。何せブロックスゾイドなどアリウススクワッドが戻って来るキヴォトスでは存在すらしていなかったのだから。いや、正しくはあるマルチバースの惑星Ziにてグランドカタストロフ後に開発される事になる機体達はトリニティライガー以外開発すらされず存在しない、と言うべきだろう。
「コイツ…サイズはアロザウラー程度なのにスペックはバトルレックス並…下手すればそれ以上か!?」
バトルレックスもキヴォトス内では高スペックのゾイドではある。しかし、アリウススクワッドは来るべきベアトリーチェ&レラエル一派との戦いに備えるべくマグナスの元で鍛えられた戦闘スキルで殴りかかってくる。傭兵達が事前の調査をより入念に行ってより多くの機体を用意するなりしていればまた違った結果になったのかもしれないが、もう
「ぬぅはっはっはっはっ!楽しい!楽しいぞマグナス!」
そしてブラジオンはというとマグナスとの戦闘が楽しくて仕方ないからかアビドス制圧という本来の依頼の事など最早抜け落ちているかのようだ。
こんな様子ではあるが少なくともブラジオンが言及してた同僚のスカージというトランスフォーマーよりはマシかとカヨコは思ってはいる。
便利屋68の面々はスカージに会った事がないがブラジオン曰く有機生命体を嫌悪している節があり、裏切り者を殺す事も躊躇しないというのだ。
それならば情に厚く有機生命体にも偏見を持たず対等に接している彼の方が彼女達にとっては遥かにマシと思うのも当然であり、そもそもブラジオンはシャーレの戦力の1角たるマグナスを抑える事には成功してはいる。
そのマグナスもブラジオンと戦いつつ監視カメラやレーダー等をモニターしているアロナから提供された情報を元に皆に師事を出すマルチタスクをこなしている時点で化物じみてはいるのだが…
一方のアルは対策委員会の面々と戦う事に気まずさを感じて消極的になっていた。何せ数時間前に素性を知らずに仲良く談笑していた上にアル自身が値は人情家であるのだ。
見かねたカヨコやムツキ、ハルカが声をかけようとしたその時
「先生から聞いてはいたけど…この恩知らず!ラーメン特盛にしてあげたのに!」
対策委員会の面々が便利屋68と接触、一番感情が出やすいセリカは怒りを滲ませながら銃口を彼女達に向ける。
シロコとノノミも口には出さないが怒りを抱いてはいた。ただ、ホシノだけは特にその様子もなく
(まぁそうなるよねぇ)
とこうなるのをわかっていた。マグナス達の介入やゾイドの有無を除けば此処までの流れは前世世界で経験した事かつ彼女達は黒幕に雇われただけなのを知っているからだ。
「その件はありがとね。けど、こっちも仕事でさ―」
「受けた仕事はきっちりこなす。公私混同せずはっきり区別しないと」
「あ、アル様の為に!」
そんなアルを守ろうとムツキ、カヨコ、ハルカも銃を構えるのだった。
『義兄さん、此方アズサ。プテラスとハンマーロックを全機』
『バトルレックスも倒したよ』
それとほぼ同じタイミングでアズサとアツコから敵ゾイドの撃破報告が目覚ましマグナスの元へ送られた。
『了解、良くやった。小鳥遊達白兵戦班と合流せよ』
マグナスは2人を褒めると共に次の指示を出し、2人は褒められて嬉しい気持ちを隠しつつ了解と答えて通信を切る。
互いに発砲するタイミングを見計らっている対策委員会の面々と便利屋68。アズサとアツコがあと数十秒其処に合流するというタイミングでアビドスの校舎からチャイムが鳴り響いた。
態勢を立て直した傭兵たちは時計やスマホを確認し、一斉に帰り支度を始め、撃破されたゾイド達は傭兵が呼び寄せたモルガキャリアのクレーンによってグスタフのトレーラーへと積まれていく。
「ちょっと、どういう事よ!?まだこれからなのよ!」
「あーもう定時なんで。私ら残業はしない主義なので」
問い詰めるアルに対し傭兵達のリーダー格はそう答える。
因みに傭兵の業務業態は人それぞれであるが、大きく分けて時給制と依頼完遂制に分けられる。
マグナスは根が真面目であるが故に完全に後者であり、便利屋68も後者である。しかし便利屋68に雇われた傭兵達は完全に前者だったのである。
「どうしますかアル様?」
アルに指示を乞うハルカ。不利なのはどう考えても自分達であり、このまま戦闘を継続しても敗北して捕まるのが目に見えている。そうなった場合どうなるのか?下手したらヴァルキューレに引き渡されて何らかの処罰を受けるかもしれないしもしかしたら
そもそもアル自身が犠牲を出しての勝利や全滅を望むような人間ではないのだ。故にアルは撤退するという選択肢を取った。
「仕方ない…此処は退却するわよ!ムツキ!」
「わかってるよアルちゃん!」
アルの意図を組んだムツキは隠し持っていたリモコンスイッチを押して対策委員会の面々の付近の爆弾を起爆、対策委員会が爆発に気を取られた僅か一瞬の隙を突いてスモークグレネードをばら蒔いて対策委員会の視界を塞ぐ。
「ブラジオン!撤退するわ!こっちに合流して!」
煙幕の中、事前に頭に入れていた撤退ルートを走りながらブラジオンに呼び掛ける。
「承知した」
ブラジオンはアルからの指示にそう返すとマグナスコンボイとの戦いを中断した。
「マグナスよ、楽しみの最中に済まない。貴殿との勝負はお預けだ。彼女達が撤退を選んだのだからな」
『お前らの
「こう見えて依頼に守秘義務があるが故に」
ブラジオンはバックステップでマグナスコンボイから距離を取りつつビークルモードへと変形、バックしながら方向転換する。
走行しながら赤外線レーダーと生体反応を頼りに便利屋68の面々の位置を特定したブラジオンは彼女達に接近すると停車した。
「我の上に乗れ」
ブラジオンの言葉に従ってまずカヨコがブラジオンの車体に飛び乗り、続けてムツキがバックをブラジオンの車体に投げて乗せた後にカヨコが伸ばした手を掴んでよじ登る。
その後にハルカ、アルの順でよじ登り、4人全員が乗った事を確認したブラジオンは
「掴まっていろ」
と声をかけた後、全速力でこの場を離脱するのだった。
煙幕が晴れた後、マグナスはマグナスコンボイから一旦降りて辺りを目視で確認する。
「義兄さん、ごめん。取り逃がしちゃった」
謝罪するアツコに対しマグナスは
「気にするな。おそらく誰を捕まえてもクライアントについて答えたりはしないだろうからな。
それにクライアントについて何も知らない可能性もある」
「それってどういう事?」
合流してきたシロコがマグナスに問う。
「まず金が第一であって依頼主がどんな奴で何を企んでいるかなんてどうでも良いという傭兵も奴もいるし、依頼主側も傭兵とはあくまでも金だけの繋がりで100パーセント信頼している訳では自分達の目的や意図は告げずただ指示を出しているだけって事もある。
傭兵によっては依頼主の目的を知った場合、それを蹴る奴もいるからな」
「義兄さんがそうだった」
マグナスの返答にアズサがその一例を上げた。
「そうなの!?」
驚くセリカにアズサは頷くとこう続ける。
「ある日、積み荷の護送依頼を受けた事があったけど、その依頼主が密かに人身売買に関わっている事がわかって義兄さんはぶちギレて依頼を破棄するどころか依頼人をボコって警察組織に突き出した」
「あーあの時は…すまん」
当時の事を思い出したマグナスは顔を手で覆い、アズサとアツコに向けて謝罪する。彼にとってあの一件は自身どころか妹達を危うく悪事に加担させて汚点を残すところだったという事もあって責任を感じていたのだ。
「あれは高い報酬に目が眩んだ私達にも責任があるから気にしないで。それにあの依頼人を素手でブチのめした兄さん、カッコ良かった」
とアツコはすかさずフォローする。マグナスは頭を抱えながらも視線を一瞬だけホシノに向ける。ホシノはノノミやシロコ、セリカと共にアズサやアツコの体験談に耳を傾けているが、マグナスの視線に気付いてはいた。
その視線を向けた事の意図はホシノも察しはついている。前世世界での知識と経験から便利屋68やブラジオン、そしてスカージのクライアントが誰なのか察しがついているどころか知っているのではないか?と言いたいのだろうと。ブラジオンやスカージはホシノの前世世界ではいなかった、いや仮にいたとしても自分は知らなかっただけ、少なくともアビドスには姿を見せなかった。そもそもあの頃のホシノはユメに酷い事をしてしまって彼女が死ぬ原因となってしまった事への自責の念とアビドスを守らなければという責任感で押し潰されそうになってて自治区外の事まで気が向けない、知る余裕がなかったのである。
閑話休題、この世界での便利屋68、そしてブラジオンやスカージのクライアントが誰なのかについてホシノは見当がついているのか…その答えはイエスである。
(これはそろそろ話すべきかなぁ…少なくとも
その日の夜。マグナスの元にモモトークを通して一通のメッセージが届いた。差出人は小鳥遊ホシノ、その人である。
To be continue…