脱走せし少女達と機人と呼ばれし者   作:衛置竜人

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#24『依頼人(クライアント)は誰なのか 後編』

 

 

 

モモトークを通してホシノからのメッセージを受け取ったマグナスは指定された場所…柴関ラーメンの店舗へ向かっていた。

アツコやアズサは連れていない。というのも2人共既に睡眠時間に入っている上にホシノからはマグナス1人で来いという指定があったのだ。

マグナスはホシノの意思を尊重してこうして1人で向かっているのだ。

店舗に到着するや

「こっちだよ~機人さん」

とホシノがマグナスに向かって手を振り、マグナスはホシノの元へ向かい、彼女の隣の席に座った。

「待ったか?」

「いや、おじさんも今来た所だよ」

そう答えるホシノの姿は何時もとは異なり髪は動きやすさを重視したのかポニーテールで束ねており、服装も防弾チョッキを纏っていた。臨戦態勢な服装からして夜間パトロールか何かの帰りの可能性が高いだろう。

「大将~柴関ラーメン2つ、機人さんもそれで良い?」

「あぁ、構わない。代金は俺が払おう」

「ありがとう」

ホシノはカウンター席の向こう側の厨房にいた大将に柴関ラーメン2人分を注文し、大将は調理を始める。

「今回話す事はオフレコで頼むよ。下手に皆にバラした場合、どうなるかわからない…下手したら行き着く先がより悪い結果になるかもしれないからね。

"犠牲なくして勝利なし"って言葉もあるけどさ、おじさんはそんなの望んでいないからね。もう二度と見たくないんだよ…誰かが犠牲になる姿なんてね」

そう答えるホシノの表情は暗いものだ…前世世界でのユメとの喧嘩別れからの死別、セリカがカイザーに誘拐・人身売買されてキヴォトスの外へ連れ去れた末にそのまま行方を掴めなくなった事、重傷を負ってし枚寝たきりになったアヤネが皆に負担をかけまいと自らの意思で呼吸器(生命維持装置)を外した事、連れ去られたノノミが責任を感じるあまり精神を病んだ末に自殺した事、怒りや悲しみ、絶望で暴走する自分がヒナに手をかけた事、そして自分に向けて謝罪の言葉と共に涙を流しながら引き金を引くシロコの姿が脳裏に浮かんだからだ。

この世界に転生してユメの命が救われた後の現在も前世世界での出来事への罪の意識は尚ホシノの心に残り続けていた。当の当事者であったヒナはあまり気にするなとは言ったものの、そう簡単に変われる筈もなく現在進行形で罪悪感を感じているのだ。

「そうだな…俺もだ」

一方のマグナスも実の両親の死の光景、義妹(アズサの前世)の死、そしてレラエルの手先となっていた頃(ダイアクロン隊員時代)の戦いで巻き込んでしまった命を思い浮かべていた。

後発のB-Linker適合者…特にアリウスの生徒達と異なりマグナスは当時は精神状態が最悪かつ薬物の併用も合わさって常に暴走状態も同然であった。その結果、街などの戦闘にて暴れまわるかの様に戦った末に避難しきれていなかった民間人を巻き込むという事もあったのだ。

当時は怒りに塗り潰されていた事で罪悪感など感じていなかったものの、この星に流れ着いてラチェットの治療によって正気を取り戻してからは罪悪感を感じるようになった。

経緯は異なるとはいえマグナスとホシノはある意味では似た者同士であるのだ。

ラーメンが出来上がって2人はそれぞれ食する。マグナスが元々食事中は無言になりがちという事もあってか食べ終わるまで無言の時間が続いた。

「「ご馳走様でした」」

2人がラーメンを食べ終え、大将が片付けを始めた中 「さて、腹ごしらえは終わったからそろそろ本題に入るとしよう」

「それもそうだね。機人さんは多分こう聞きたいんじゃないかな?ヘルメット団や便利屋68の依頼人が誰なのか知っているんじゃないかって」

「あぁ、そうだ。アビドスが借金を抱えていた事、そして外部からの襲撃を受けていた事は多少の差異はあれども小鳥遊の前世世界でも同じだったのだろう?

ならばこの世界の連中のクライアントについても誰なのか目星がついているんじゃないかとな」

「確かにヘルメット団や便利屋68の襲来はおじさんの前世世界でも発生してたよ。そして彼女達を利用してアビドスを手に入れようとしているのが…カイザーコーポレーションの連中」

「キヴォトスを本拠地として様々な事業を行っている一大企業か…キヴォトスに来る前から噂は聞いていた。

利益の為なら非合法の行為も厭わない…此処ではまだ確認はしていないが、擬似国家内包型巨大都市の外では人身売買にも加担していたのを見た。

尤も規模がデカすぎるのとこの星の現文明の成り立ちに深く関わっているが故に制裁するなりで下手に潰そうとすると経済や唯でさえ悪い治安に悪影響を及ばしかねないのが厄介な所だな」

このマルチバースでのカイザーコーポレーションの歴史は古く、惑星開拓時代に帝国派の者達が創立。キヴォトスを本拠地にしているのもキヴォトスが最初の擬似国家内包型巨大都市だからである。

規模と影響力が大きすぎるが故に仮にこの会社が完全に崩壊した場合、失業者の多出に始まり企業間闘争の激化からの惑星全土の戦争にも繋がりかねない。それでこそムーロアの末裔たるアツコの存在を嗅ぎ付けた帝国擁立過激派がキヴォトスに攻めて来る可能性すらあるのだ。

「そう、其処が問題なんだよね。しかもおじさん達アビドス高校が所有している土地も実は今の校舎とその周辺の一部地域だけで此処を含めて大半の土地はカイザーコーポレーションの保有地になっているんだよ」

「それは初耳だったな…」

「ホシノちゃんの言っている事は事実だぜ」

そう告げたのは柴大将である。因みに彼はホシノが所謂転生者である事を知っている人物であり、この事はセリカ含めて誰にも話してはいない。転生者であろうとなかろうとホシノがホシノである事に変わりはなく、その様な重大な事は自分ではなくホシノ本人が然るべきタイミングで話すべきだと考えているからだ。

「実は何年も前からカイザーコーポレーションの連中が立ち退き勧告を出しているんだ。セリカちゃん達には心配をかけたくなくて黙っているんだが…」

「皆がこの事を知るのはまだ早すぎるからね。下手に教えて先に動いた場合、どうなる事やら…最悪の展開は避けたいからね。

とりあえずおじさんは連中がアビドスから手を引く展開に持っていければ一先ずはそれで、って所かな」

そう答えるホシノだったが、実はもう1人警戒している人物がいる。

キヴォトスの"神秘"の探求・研究を行う為なら生徒を利用し追い詰める事も厭わない組織…"ゲマトリア"のメンバーの1人である"黒服"である。

ホシノの前世世界に於いて黒服は一年生の頃から接触を図っていた程に執着する様子を見せていた…というのもホシノ自身がキヴォトス最高の神秘の持ち主に他ならないからであり、彼女の身柄を手に入れる為に黒服はカイザーPMC理事やカイザーコーポレーションのプレジデントと手を組んでアビドスを苦しめていたのである。

実はマグナスやアリウススクワッドにとって因縁の相手であるベアトリーチェもまたゲマトリアのメンバーではあるのだが、ホシノはあくまでもアビドスを護る事が最優先であって介入してこない他のゲマトリアのメンバーには興味がないらしくその事を知らない。

このキヴォトスでベアトリーチェもゲマトリアの一員である事を知っているのは構成員以外だと黒服と面識のあるリューズぐらいだろう。

閑話休題、ホシノは黒服の事はまだ話さないという事にした。話がより複雑になるばかりかマグナスを完全に信用した訳ではないからだ。

「しかし、連中は何故アビドスを狙う?」

「そうだよねぇ…普通なら砂に覆われたこんな場所なんておじさん達以外で誰が欲しがるのさって所だよね。普通なら、ね」

「その言い分からして普通じゃない理由でもあるようだな。砂漠の中に何か埋まっているとかな」

マグナスの言葉にホシノは目を見開いて驚いていた。

「うへぇ、何でそう思ったの?」

「興味がない連中からすれば砂漠は砂があるだけで他に何もない、居住にも適さないが故に価値がないと思うのが普通だろう。だが、一見そう見えても一部の連中からしてみれば宝の宝庫となっている砂漠もある。

そうだな…俺の故郷の地球にあるゴビ砂漠やサハラ砂漠は人類が発生するより遥か昔は恐竜などの絶滅生物の生息地だった事もあってか今や恐竜化石の採掘地となっている。

綺麗に掘り出すのは大変な上に数千万から億単位の年数が経過しているが故に状態の差も出てくるが状態の良い化石は高値で取引される事もある。

この例を知っている上で連中がこのアビドス自治区に拘る理由を推測するとすれば、それは砂漠に連中が欲しがる何かが埋まっていると考えるべきだろう」

マグナスの返答にホシノは一瞬不適な笑みを浮かべてこう続けた。

「おじさんの前世世界でのアビドス砂漠には連中が欲しがる物が埋まってたたんだよ。度重なる砂嵐の発生によって校舎が埋もれていく度に移転していった結果、おじさん達の代には資料は残ってなかったんだけどね。

あの時はおじさん達とカイザー()()()だけじゃなくてヒナちゃんやハイランダーまで巻き込んじゃって」

「キヴォトスの鉄道を管理とそれに特化した教育を行っている学園だったな」

「そうそう。セイント・ネフティス(ノノミちゃんの実家)と提携してアビドスに砂漠横断鉄道を再建しようとしててね…おじさん達(アビドス)に無断で。まぁ、そんな事は置いておいてこの世界のカイザーコーポレーションが探している物がおじさんの前世世界でのそれと同じ物かはわからないけどさ、それに該当する物が埋まっているのは確かかなって…例えば強力なゾイドとか」

「全てが全て同じって訳ではない…連中が欲しがっている物がこの世界ではゾイドに置き換わっている…あり得る話だ。

それでこそデスザウラーの様な戦略兵器級(巨大)ゾイドの可能性もある。キヴォトスでは惑星Ziの戦争の歴史とお前達が生まれる前に起きた内戦の被害から戦略兵器級(巨大)ゾイドの所持は連邦生徒会が定めた法によって禁止になったと連邦生徒会に残されている資料に記載があったが…」

「カイザーだからね。連邦生徒会の定めた法なんて知った事かって所かな」

因みにこのマルチバースのキヴォトスで定められた法はあくまでもキヴォトス内部で定められたものであってキヴォトスの外…特に擬似国家内包型巨大都市の外は無法地帯であるが故に適用外である。

現にレラエルはキヴォトスの外にある拠点でデスザウラーを復元し、運用していたし擬似国家内包型巨大都市にあるマーシナリーマーケットにて巨大ゾイドに区分されるゴジュラスやアイアンコングが警備用として配備されていたのも他の巨大ゾイドに対抗する為である。尤も巨大ゾイドはゾイドコア及び遺伝子情報が公式上では移民船に持ち込まれていなかったとされる為、復元自体は困難とされている。

また、キヴォトスでは大型ゾイドの所持にも制限がかかっている。

その為、既存の大型ゾイドの大半は中型ゾイドへのダウンサイジングによる再設計が行われている。

因みにサオリが凱龍輝の所持及び行使に制限がかかっていないのはシャーレが連邦生徒会長による超法規的権限の発動による物のためである。

「そうだ、機人さん。明日なんだけどさ…」

ホシノはマグナスにある事を依頼する。それは明日は借金の利息分の返済日だから付き添って欲しいという事と、その流れでブラックマーケットへ調査に行くから同行して欲しいという事である。

マグナスは二つ返事でそれを了解するのだった。

 

 

 

 

所変わり此処はアビドス砂漠の某所。既にカイザーコーポレーションの所有地となっているその地には基地が建設され、今も発掘作業が行われていた。

曾てのアビドスはゲヘナやトリニティに並ぶ帝国を築いていた。そして戦略兵器級(巨大)ゾイドの所持を禁止する法律が制定される前だった事もあって()()()戦略兵器級(巨大)ゾイドを1機所持していたのだ。

そのゾイドはキヴォトス内戦と内戦後の戦略兵器級(巨大)ゾイド所持禁止法の制定、度重なる砂嵐の襲来によって砂漠の中に埋もれ、人々の記憶から忘れさられていたのだ。

しかし、カイザーコーポレーションの記録には残されていた…そもそもそのゾイドの復元に携わった企業が他でもないカイザーコーポレーションのグループ企業のカイザーインダストリーだからである。

そんな発掘現場を1人のロボット人族の男が訪れていた。カイザーPMC理事…ヘルメット団や便利屋68、ブラジオンの雇い主である。

「こいつの復元が完了すれば…!」

そう呟くカイザーPMC理事の視線の先には黒く長く巨大な2本の角が輝いていた。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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