応急修理の開始から暫く互いに無言の時間が続いた後。
「ふぅ…終わったよ。あくまでも応急修理だから戦闘に耐えられるかわからないけど…」
応急修理を終えて汗と汚れを服の袖で拭ったアズサはスカージから一歩離れ、スカージは動作確認の為に立ち上がる。
「動作は問題ない。これなら後は休息しながら自己修復に任せれば完全に直るだろう」
「良かった…」
「何処かで機械弄りでも覚えたのか?素人にしては上出来なレベルだ」
「アリウスにいた頃、武器のメンテナンスは自分で出来るよう学んでた…いざという時に戦えなければ意味がないからって。
今回はその応用」
「そうか」
そう呟き礼を言おうとした直後、スカージは人間でいう立ち眩みに襲われ、思わず右膝を地面に着く。
『エネルギー
スカージの生命維持機能プログラムが警告を発したのだ。
「どうしたの?」
「問題ない…エネルギーが足りないだけだ」
「エネルギーってオイルとかでも大丈夫?」
「あぁ、エネルゴンより質は劣るがないよりマシ―おい何処に行く!」
「此処で待ってて!」
アズサはそう言って何処かへ走り去ってしまった。
時間にして数十分程経った頃。日没が迫る中、アズサがドラム缶2缶を携えてスカージの元に帰ってきた。
「これでどうかな…?」
よく見るとアズサの服は汚れ、脚には傷がついている。何処かで戦闘になったのだろう。
「ありがたく頂こう」
スカージはドラム缶を受け取るとエネルギー補給用ケーブルを伸ばして缶の封を開け、その中にケーブルを突っ込んで中のオイルを吸い始める。吸ったオイルは体内のエネルギー変換装置でエネルゴンに変換して各部に循環させる。
ドラム缶が空になるともう1缶も同じ様に封を開けて中のオイルを吸引する。
『エネルギー補給を確認』
一先ずステイシスロックモードへの移行は解除された様だ。
「借りが出来た以上は返さねばならない」
スカージはアズサを見下ろして見返りについて要求する。死ぬかもしれない状況でまがりなりにも命を救ってくれた恩人、その恩を仇で返すつもりは毛頭もない、むしろ変なところで真面目であるが故に借りを返さなければスカージの気は済まないのだ。
「だったら…一緒にいても良い?」
上目遣いでそう訊ねるアズサに対しスカージはビークルモードのトラクターヘッドに変形するとドアを開け
「好きにしろ」
と素っ気なく答え、アズサはスカージの中に乗るとリュックサックから毛布を出してその身を包み、シート後ろにある仮眠スペースに寝転がるのだった。
アズサが寝たのを確認したスカージはゆっくりとドアを閉じるのだった。
このキヴォトスに来てからスカージは雇い主との事務的な会話でしか他人と関わってこなった…言い換えればこの地にて彼は孤独であった為、他人と此処まで密接に関わったのは初めてであった。
「…1人に…しないで…」
ふとアズサの口から寝言が漏れる。彼女は本当は寂しがり屋なのだろう…だが、彼女は自分と一緒にいると身の危険が及ぶからと友人達と離れる選択をした…それがどれほどの覚悟なのか。
スカージはふと自分がアズサの事を考えていた事に気付いた。何故なのか…何故このちっぽけな有機生命体の事を考えてしまうのか…
出会ったあの日の後もスカージはアズサと共にいた。
アズサはよく自分の事や友人達の事、楽しかった事や苦労した事、辛かった事を話し、スカージは聴き手に徹して相槌を打っていた。
そうしていく度にスカージの中で疑問が沸き上がる。何故自分はこのちっぽけな有機生命体を突き放さないのか?命の恩人だからなのか?そもそもこの少女に嫌悪感を抱かないのか?スカージは自分の事がわからなくなっていた。
あれから何日経過したのか。空はあのゾイド達と無法地帯が未だに健在である事を示すかの様に赤く染まったままである中、スカージは他にやることもないからかアズサの自警団活動に付き添っていた。
トリニティ自警団の守月スズミと宇沢レイサに遭遇した事もあった。2人は元アリウス生であり事件の当事者であったアズサに対し敵意がないどころかトリニティの寮に帰らず野宿を続けているのを知っているからか心配しているようだ。
アズサは今は1人ではなく、一緒に行動している一般市民がいると答えた…それが自身の事だという事にスカージは気付いていた。
その
「知り合いか?」
帰ってきたアズサにスカージは問う。
「トリニティの自警団だ。正義実現委員会が取りこぼしてしまう助けを求める人々を救助する非公認の部活動でトリニティの領内をパトロールしている」
「今のお前みたいなものか」
お前、という呼び方が気に障ったのかアズサは
(ᓀ‸ᓂ)
↑の様な表情を浮かべる。
「いい加減名前で呼んでよアズサって」
「別に良いだろ」
素っ気なく返すスカージ。しかし、ドアを開いてアズサを追い出したりはしない…その事にアズサは気付いていた。
「スカージって何だかんだで優しいところあるよね」
「俺が!?そんな訳ないだろう!俺はディセプティコンのリーダーだった男だ!お前らが言う悪人だ!」
「じゃあ、どうして私を追い出したりしないの…?」
「それは…借りがあるからだ」
「それでも真の悪人なら無下にする事だって出来る筈」
アズサの正論にスカージは言い返せなかった。
「そうだ、これを気に名前を変えて新しい人生を歩むのはどうかな?勿論
「馬鹿な事を言ってないでさっさと寝ろ。休める時に休め」
スカージはそう言って話を切り上げさせる。アズサは少ししょんぼりとした顔を浮かべるとおやすみと言って仮眠スペースで睡眠を取るのだった。
(俺が守護者だと…オプティマスの真似事でもあるまいし…)
しかしスカージは元はオートボットであり、今の姿もオートボットのリーダーであるオプティマスプライムとタンクローリー、タンクローリーの運転手をスキャニングした事で獲た姿だ。故にオプティマスプライムの正義の心も少なからず混じってはいるのだ。
スカージがアズサと行動を共にするようになって1週間が経過した。最近ではかのゾウ種のゾイドを殺さず捕獲して兵器として運用している者も現れ始め、2人が戦闘に遭遇する頻度も再び多くなっていた。
この日、彼らは襲ってきた野生のゾウ種のゾイドを討伐し終えて補給に入ろうとしていた…その時である。
「伏せろ!」
何かを感じ取ったスカージはアズサを庇うよう覆い被さり、アズサも身を屈めた直後、
エネルギー弾も威嚇用だったからか大した威力ではなく、スカージは武器を構えて上空を見上げる。
『
エネルギー弾を放った主…それは全身を全身を重厚な鎧で覆ったかの様なボディにランサー状の武器を構え、背中に刃の様に鋭い翼を、頭部には巨大な2本角を生やした黒い巨人だ。
「何者だ!?」
『テメェなんかに名乗る気はねぇよ。ただ、其処のガキを捕らえるのにテメェは邪魔なんだよ』
黒い巨人…ワルダレギオン<ヴァジュラ>のレイジアイがアズサに向けられる。
『死にたくないならどけ』
「こいつを捕らえてどうするつもりだ?」
スカージは
『決まっているだろぉ?
コイツらキヴォトス人は地球人と比べて頑丈だからなぁ!だから色々弄くり回して改造するにはもってこいなんだよなぁ!』
そう答えるワルダレギオン<ヴァジュラ>に向けてプラズマガンを発砲した。
『どうやら死にたいみたいだなぁ!』
ワルダレギオン<ヴァジュラ>は着地と共に連結ランスを振るい、スカージはソードオブフューリーで受け止めつつ肩のランチャーを発砲する。しかしワルダレギオン<ヴァジュラ>にはさして効果がなかったらしく、逆にワルダレギオン<ヴァジュラ>は仕返しと言わんばかりにプラズマ衝撃砲を発射する。
その威力にスカージは圧されたしまうがすぐさまプラズマガンから発射したエネルギー弾による相殺を図るが、ワルダレギオン<ヴァジュラ>は右翼の次元転送切断ブレードを左手に持つとプラズマガンからのエネルギー弾を切り裂いて消滅させると同時に連結ランスから螺旋状のビームを放つ。
スカージが咄嗟に回避した直後、入れ替わるかの様にアズサはワルダレギオン<ヴァジュラ>に向けて発砲するが全く効いていなかった。
背後に回ったスカージはソードオブフューリーで切り裂こうと振るおうとするが、ワルダレギオン<ヴァジュラ>は頭部を背後に向けると同時に回し蹴りでソードオブフューリーは弾き飛ばし、分離させたランスの内の1本をスカージの左大腿に突き刺すと蹴り飛ばし、スカージはビルに激突する。
アズサはワルダレギオン<ヴァジュラ>に効果がないのを分かっている上でスカージから注意を逸らすべく発砲し続ける。
ワルダレギオン<ヴァジュラ>はアズサにランスを向けるとビームを放ち、それを回避したアズサであったがビームの着弾によって生じた爆発に吹き飛ばされ地面に叩き付けられてしまう。
ワルダレギオン<ヴァジュラ>はランスを地面に突き刺すと右手にも次元転送切断ブレードを装備し、その刃先をアズサに向けると振り上げる。
それを見たスカージが左大腿に突き刺さったランスを引き抜き、痛みを耐えながらアズサの元へ駆け寄ろうとしたその時…
『馬鹿め!』
ワルダレギオン<ヴァジュラ>は振り上げた次元転送切断ブレードをスカージに向けて振り下ろした。切り裂かれたスカージの右半身は消滅し、右足を失ったスカージは立てなくなり転倒する。
声を上げてスカージの元に駆け寄ろうとしたアズサだったが、スカージが転倒した直後にワルダレギオン<ヴァジュラ>が放った透明な捕獲機に捕まってしまう。
ワルダレギオン<ヴァジュラ>は武器を背中にマウントするとアズサが入った捕獲機を掴みむ。
スカージはアズサに向けて左手を伸ばすが届く事はなく、アズサを捕らえたワルダレギオン<ヴァジュラ>は空へ去っていった。
スカージの頭に今すぐ修理しろと生命維持機能が警報を出し続けている。このままだとスカージに待ち受けているのは完全な機能停止…つまり死だ。
しかし、此処にはスカージを修理してくれる様な人物などもういないし再生カプセルといったものもない。
スカージの頭にそれまで経験してきた記憶が走馬灯の様に駆け巡る。
その中で最後に思い返したのはアズサと過ごした日々だ。無法地帯ではあれどアズサと過ごした日々は地球での戦いの日々と比べて穏やかなものだった。以前の自分が見れば軟弱者と罵っただろうか?メガオクティン達が今の自分を見たらどう思うだろうか?嘲笑うのだろうか?そんな事をふと思いはしたがどうでも良かった。
アズサの事が頭から離れない。
「そうか…俺は…アイツの事を…気に入っていたのだな…」
スカージはとうとう認めた。一緒にいた中で白洲アズサという娘に惚れた事を。
それを自覚すると彼に渦巻くのは後悔だ。意地を張らずアズサの名を呼んであげれば、自分にもっと力があれば…だが、それももう襲い。アズサは連れ去られ、自分はこの有り様だ。
「すまない…アズサ…」
その呟きと共にスカージの目から光は失われたのだった。
To be continue…