脱走せし少女達と機人と呼ばれし者   作:衛置竜人

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#2『温もり』

 

 

 

 

とある地球。人類各国が深刻なエネルギー不足に苦しんでいた中で地球の核にて原子力の数倍に相当する超エネルギー源(フリーゾン)を発見、人類は飛躍的な発展を遂げていた。

 

一方、同時期に侵略による版図拡大を行っていたワルダー帝国はフリーゾンエネルギーの乱用によって母星滅亡の危機を迎え、他にフリーゾンが眠る惑星がないか探索し、地球に目を付けたワルダー帝国はフリーゾン奪取を目的とした侵略戦争を開始した。

人類はワルダーに滅ぼされた他の惑星からワルダーの地球侵攻を知らせるメッセージを受信し、地球を防衛するため戦わざるを得ない状況下に置かれ、人類側は地球防衛組織』"ダイアクロン"を結成。

ゲリラ作戦、月面の占拠、タイムホールを使った襲撃など、予測不可能な攻撃を繰り返すワルダー帝国との戦いは30年近く続いた。

ダイアクロン隊は悪戦苦闘しつつもワルダーが月面に築いた難攻不落の大要塞を叩く最大の総力戦(ラグナロク作戦)を決行、激戦の末に月面大要塞は破壊され、その余波でワルダー母星も大爆発を起こして崩壊した。

第一次対ワルダー防衛戦の終結を迎え、人類は再び平和の時代を迎えると共に銀河の異種族との平和的交流と共存を目的とした大宇宙進出計画を進めていた。その後に再びワルダー帝国との戦争が再開される事になるがそれはまた別の話。

 

そんなダイアクロン隊も構成員が人である以上、清廉潔白な人物ばかりでない。

目的の為なら非道な人体実験も行う…そんな過激派もいた。

被験者となるのは罪人や身寄りを亡くした子供達…その中に"彼"も含まれていた。

"彼"と妹はダイアクロン隊員だった両親の間に生まれた。

父親がワルダー帝国との戦いで戦死した後、母親は非隊員の義父と再婚したのだが、今度は母親は戦死、まだ幼かった妹は()()()()()()()()()()()()行方不明となってしまった。

"彼"の義父は元々身体的にも精神的にも弱く、妻に依存気味だったが、愛する人を失った事で壊れてしまい、新たな依存先を探して一般女性と再婚を果たした。彼女には娘がおり、"彼"は血の繋がらない義理の妹が出来た…のは良かったが、問題が発生した。

義父と義母は"彼"と娘が邪魔なのか虐待するようになった。

食事を抜かれる事もあった、ベランダに追い出される事もあった。灰皿代わりにされる事も…"彼"は何時か義妹を連れてこの家から出よう、と決意して密かに準備を進めていた。

そんな最中、義母が不在のタイミングで義妹が義父に強姦(レイプ)されるという事件が発生した。その光景…目から光を失った彼女の姿に激怒した彼は空のビール瓶で義父の頭を思いっきり叩いて殺害した。

「さぁ、此処から逃げ出そう」

義妹にそう呼び掛ける"彼"…そのタイミングで義母が帰宅、死んだ再婚相手の姿を見て錯乱した彼女は家から密かに脱出した2人の姿を目撃した。家には3人しかいなかった…という事は再婚相手を殺したのは…その事を察した彼女は彼らを追いかけた。

 

鉄道に乗って何処か遠くへ逃げよう、あの人達がいない場所まで。電車を乗り継いで家から遠く離れた場所までやってきた"彼"と義妹。

とある駅にて"彼"がトイレの為に義妹から一瞬だけ目を離した瞬間だった。

「お前らのせいで…お前らのせいで!あの人はァッ!」

"彼"が戻って来た時、義妹は義母に抱えられていた。

義妹と義母を追いかけた"彼"だったが

「地獄に落ちろクソガキがァッ!」

義母はそう言い残して義妹を抱えたままホームへ飛び降り、数秒後にホームを通過しようとした電車に轢かれて死亡した。

 

 

"彼"は憎んだ…実の両親を殺したワルダー帝国を。

 

"彼"は憎んだ…自身と義妹を苦しめた義両親を。

 

"彼"は憎んだ…心優しく希望を捨てなかった義妹を犯した義父を。

 

"彼"は憎んだ…その義妹を殺した義母を。

 

"彼"は憎んだ…実の妹も義妹も救えなかった自分自身を。

 

"彼"は憎んだ…理不尽なこの世界そのものを。

 

身寄りを失った"彼"はある人物に身柄を引き取られた…ダイアクロン隊の中でも危険思想を持つマッドサイエンティストに。

マッドサイエンティストが開発したのは機体を操縦桿では脳波コントロールによって自分の身体の様に動かすシステムとあらゆる機体からの負荷に耐えられる超人…機人を生み出すナノマシンだ。

機人は不老不死の研究の最中で生まれた物だ。驚異的な自己再生能力の付与と細胞の老化を抑える。しかし不死ではないから未完成の技術。更にナノマシンと上手く適合出来なければナノマシンに蝕まれて死ぬ…"彼"はその中で初の適合者となった。

そんな彼に与えられたのはカーロボットシリーズと呼ばれる元はゲリラ戦用に開発された自動車に変形する機体の1つ…パワードコンボイである。

その時代には完全な旧式機体…それも一度は武装解除された機体を件のマッドサイエンティストが修復・改造した物であり、"彼"はその機体を自分の身体の様に動かし、マッドサイエンティストの想定以上の戦果を上げた…憎き敵(ワルダー)を必要以上に徹底的に痛めつけ、相手が死んだ後も怒りをぶつけるかの様に殴りつけ続けはしたが…

彼らが開発した装備・機体は確かにワルダー帝国との戦争で大いに活躍した。だが、その一方でダイアクロン隊の心構えの内の2つ…

"正しいことには勇気を持って行動しよう"

平和を愛する優しい心をわすれるな"

に反している事を危険視され、後に件のマッドサイエンティストはダイアクロン隊から追放された。

そして"彼"はワルダー帝国との戦いの最中で発生した時空の裂け目に呑み込まれて機体ごと消えたのだった。

 

 

見知らぬ惑星で目を覚ました彼は自分を見つめ直す機会を得られた…その中で怒りに任せてワルダーを必要以上に痛めつけた事にこれでは憎き敵(ワルダー)や父親や義母と同じではないかと気付いてしまった。

もし行方不明になった妹と再会した時、果たして自分は彼女に胸を張って誇れる存在と言えるのだろうか?そもそも血に染まった手で妹と再会して良いのか?その資格があるのか?

 

 

そう思い悩みながらこの流れ着いた惑星で傭兵を続けていたある日、吹雪が舞う夜の事、拠点の1つとして使っていた倉庫に小さな侵入者達が現れた。

「気配でいるのは分かっている、出てきたらどうだ?」

呼び掛けに侵入者達は応答しない…わかってはいた事だが、このままでは埒が明かない。故に"彼"は自ら動く事にし、彼女達が隠れているであろう木箱の上に飛び乗った。

小さな侵入者達の正体…それは頭上にヘイローを浮かべている幼い少女達だった。

「ヘイロー持ち…キヴォトス人か…」

ヘイローを浮かべている女性…それがキヴォトス人の特徴である事は"彼"も知っていた。直接会うのはこれが初めてだ。キヴォトス人の子供は5人、どの子も薄い布切れを着ていて、そこから覗く手足は力を入れれば折れてしまいそうだ。栄養失調かつ虐待を受けていたであろう事を、そして3人が覆い被さる様に守られている少女の外的損傷から1人は怪我をしていると"彼"は察した。

そして自分に銃を向ける紺に近い髪色の少女…この少女に"彼"は何処か懐かしさと誰かの面影を感じ取っていたが、今はそれどころじゃない。

「此方に戦闘の意思はない。怪我をした仲間を救いたいのならその物騒な物は降ろす事だ」

"彼"は自身に向けらた銃の銃身を握って下ろさせつつ彼女にそう告げた。

怪我をしている少女に"彼"は救えなかった義妹の姿を重ねていた。

 

 

 

 

"彼"を信じて良いのだろうか?そんな思いがサオリにはあったが

「…分かった」

一か八か…サオリは"彼"に賭ける事にし、4人に振り向くと無言で頷く。まるで彼に任せようと言わんばかりに。

「…っ!姉さん!」

ミサキは警戒心から反対の意を示すかの様に顔をしかめる。

「今はアズサの治療が優先だ」

サオリはミサキを嗜めるかの様に告げ、ミサキは渋々了承してアズサから離れ、アツコとヒヨリもサオリに従う。

3人がアズサから離れると"彼"はアズサの元に寄り、優しくゆっくり上体を起こして容態を観察する。

各部からの出血も見られるが問題は右足と翼だ。見るからに酷い右足の出血…骨まで見えるレベルだ。続けて"彼"はアズサの何処を負傷しているか触診で調べる。負傷箇所を触れられたアズサは更なる痛みに顔をしかめる。

「翼はおそらく脱臼といったところか…」

"彼"はそう呟くと携帯端末(スマホ)を取り出し

「―"ラチェット"、キヴォトス人の有翼種用の医療キットはあるか?」

"ラチェット"と呼ぶ誰かと通話し始めた。

「―そうか、助かる。悪いがキット一式と念のために薬を持って早急に俺がいる倉庫に来てくれ。倉庫内に薄着のキヴォトス人の子供5人、内の1人の有翼種が負傷している。右足の出血が酷く骨が見えている」

"ラチェット"と呼ばれる誰かはどうやらアズサを治療出来る物を持っているらしい事はサオリ達にも把握出来た。通話を切ると"彼"は立ち上がり

「待ってろ」

と言って倉庫の上階へと上がった。暫くして彼は業務用かと言わんばかりに大きめな電気ストーブを片手に戻って来た。彼は電気ストーブを5人の元に置くとコンセントをトレーラーから伸ばしたコードと繋いでストーブの電源を入れる。するとストーブは発熱し始め、吹雪で冷えていた5人の身体を暖め始めた。

「…暖かい…こんなに暖かいのは初めてですよぉ…」

と涙混じりにヒヨリは思わず笑みを浮かべて呟く。

そんな彼女を微笑ましく思いながらアツコは無言で"彼"の様子をじっくり観察していた。

そんな時、シャッターが開いて1台の車が倉庫の中に入ってきた。赤を基調に白の差し色、車体には"Emergency Rescue"の文字がプリントされていた。一見するとただの緊急車両だろう…()()()()()()()()()()()()事を除けば。

シャッターが閉じるとその緊急車両は各部を展開させて形を変え始めた。驚愕のあまり固まるサオリ達の前で緊急車両は数秒後、人型のロボットへ姿を変えた。アシンメトリーなそのボディは左腕が利き腕と言わんばかりに右腕と比べて明らかに大きい。

「早く来てくれて助かる、ラチェット」

「全く、君は人使いが荒いなぁ…いやロボット使いか?」

「悪いな。今度良いオイルがあれば確保しておく」

「その言葉、忘れるなよ…………なんて冗談だ。他ならぬ友人たるお前さんの頼みだ。無下にする気はない」

どうやらラチェットという人物は正確には人物ではなくロボットらしい…それもキヴォトスで暮らすロボット族とは明らかに異なるロボットだ。心なしかミサキの目は何処か輝いていた。

「安心しろ、彼は医者だ。専門は金属生命体やロボットだが、有機生命体も対応できる」

"彼"はラチェットの事をサオリ達にそう紹介し、ラチェットは何処からか素粒子コントロール装置で携行出来るサイズまで縮小させていた有機生命体用の医療キットを取り出すと本来のサイズに戻しつつ頭部のスキャナーでアズサの容態を確認する。

「翼の関節は可動域と方向を無視して動かした事で脱臼しているだけだ。右足は確かに酷い…正直に言えば切れていないのが奇跡だ。いくら君たち(キヴォトス人)が頑丈とは言え痕は残ってしまう可能性は高いが…そうだな、医者として最善を尽くそう」

サオリ達が見守る中、"彼"とラチェットはアズサの治療を開始した。

 

 

アズサの治療は無事に終わり、右足は縫われた傷口が開かないよう包帯とギプスでしっかり固定され、翼は問題なく動かせる。

「暫くは安静だ。せっかく縫った傷口が開いてしまうからな」

ラチェットの言葉に"彼"は

「分かった。ありがとう、ドクターラチェット」

と礼を言い、アズサを筆頭に5人も礼を言う。ラチェットは再び緊急車両へ変形すると去って行った。どうやら吹雪は止んでいたようだ。

ラチェットを見送った"彼"は何かを取りに再び上に上がろうとするが

「あ、あの!」

アズサに呼び止められた。

「あ、ありがとう…」

「私からも礼を言わせて欲しい…ありがとう」

座ったままアズサが礼を言った後、サオリも続けて頭を下げ、それに続く形でアツコ、ヒヨリ、ミサキの順で頭を下げる。

「気にするな…昔の事を思い出して放っておけなかった…ただそれだけの話だ」

"彼"はそう答えると上に上がり、何かを持って降りてきた。電気ポッドとカップ麺、割り箸が5つと毛布が5枚だ。彼は電気ポッドのコンセントを電気ストーブを繋いでいるコードの空いている箇所に繋ぐ。

「お湯は既に湧いている。お湯を入れて3分待てば食べれる。食べたければ食べれば良い。それと悪いが今は毛布しかない。俺はパワードコンボイのキャブの中で寝る。何かあれば呼べば良い」

そう言って彼はセミトレーラー…パワードコンボイのトラクターヘッドに乗ってしまった。

(名前、聞きそびれていたな…まぁ、明日でも良いか…)

名前を聞く為だけに起こすのは忍びない、とサオリは配慮した。

「…アイツ、信用して良いの…?」

"彼"が寝た後、ミサキはポツリと口を開く。

「私は…そんな悪い人には見えないかな。アズサを治療してくれたし…目障りなら追い出している筈だよ」

そう答えたのは無言で"彼"を観察していたアツコだ。

そんな中、サオリは考え込んでいた。

「どうかしたのか…?」

と訊ねるアズサ。

「いや、何故かは分からないが…あの人物に懐かしさみたいな感覚を感じる…会った事ない筈なのに…」

"彼"の姿を見てから何処か懐かしさにも近い感覚をサオリは感じていた。

「美味しい!美味しいですよぉ!」

いつの間にかヒヨリはカップ麺を啜って美味しそうに食べている。そんなヒヨリの姿を見た4人もカップ麺を食べ始めた。

 

 

この日の事…暖かいストーブの前で暖かいカップ麺を皆で食べた事を…その温もりを彼女達は忘れる事などないだろう…

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 






・ジェノザウラーASS
分類:ティラノサウルス型
全長:約15m
全高:約7.8m
最高速度:M2.3
乗員人数:1名
パイロット:白洲アズサ
装備:レーザーセンサー
   脚部アンカー×2
   放熱システム
   ホバリングシステム
   脳波コントロールシステム
   内蔵型素粒子コントロール装置
武装:ハイパーキラークロー(腕部)
   ハイパーストライククロー×2(脚部)
   額部レーザーガン
   スマッシュテイル
   ハイパーキラーファング
   収束荷電粒子砲
   ロングレンジパルスレーザーライフル×2
   全天候型ハイパワーブースター×2
   AZ超電磁ブレード×2 

惑星Ziがグランドカタストロフで滅びなかった世界から流れ着いた断片的な機体データを元にベアトリーチェの賛同者が開発した機体の1つであり、有翼種であるアズサに合わせてか空戦能力が付与されている。
最高速度などは運動性能は本格的な中型空戦ゾイドであるレイノスやレドラー程ではないが、翼自体が格闘戦用の切断翼になっている上にジェノザウラーの標準装備はそのままになっており、プテラスを圧倒出来る性能は有している。
本来のジェノザウラーのバリエーション機の1つであるジェノトルーパーとコンセプトが類似している。
アズサに合わせてか機体フレームは銀色となっている。





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