脱走せし少女達と機人と呼ばれし者   作:衛置竜人

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#3『what's your name?』

 

 

 

 

 

機人たる"彼"の朝は早い。まず朝5時に起床して携帯端末を起動し、情報収集と今日の予定を確認する。

今日は午前中から依頼が入っている。野良ゾイドの制圧だ。

この星に移民してきて長い年月が経った今でも人は簡単に争いを止められる生き物ではないと言わんばかりに紛争や盗賊による騒ぎが続いている。更には諸々の事情で乗り捨てられたままになって野生化したゾイドもいる。そういった盗賊や野良ゾイドが他のゾイドを襲ったりする事が問題となっていたりするのだ。

"彼"はそういった野良ゾイドの制圧や盗賊退治といった傭兵稼業で稼いでいるのだ。

彼が運用するパワードコンボイは中型の陸戦ゾイドなら圧倒してしまう程の性能を有しており、依頼達成率は高く、報酬は現金でなくとも食糧や物資など代わりになる物でもOKだったりと柔軟性も高いのだ。

 

予定を確認し終えた彼は一旦トラクターヘッドから降りる。彼の視線の先には5人の少女が毛布に包まれてすやすやとくっついて眠っていた。カップ麺も食べたらしく容器はスープも残っておらず空になった容器が積み上げられていた。

昨晩に現在の潜伏先として使って倉庫に転がり込んできた名も知らぬキヴォトス人の子供達。彼女達を放っておく事も追い出す事も出来たが、そうしなかった。救えなかった2()()()()()への贖罪なのか否か…とにかく"彼"は子供相手には何処か甘くなりがちなのだ。

「トレーラーは置いておくか…」

依頼から帰ってきた時にいても追い出す気はないし、いなくとも探して追いかけるつもりはない。ただ、まだ寒いからかストーブや電気ポッドの電力源としてトレーラーだけは置いていく事にした。彼は上の階から保存していたカップ麺と割り箸を5つ用意するとトラクターヘッドとトレーラーを切り離し、シャッターを開けるとトラクターヘッドに乗って出発した。

 

パワードコンボイのトラクターヘッドはバトルコンボイという機体と同型である為、単体でもロボットモードへ変形(チェンジ)する事は当然可能である…がその真価はトレーラーとの連動にある。

トレーラー部分が基地に変形するのはバトルコンボイと共通だが、パワードコンボイの場合はそれに加えてこのトレーラー部分が強化パーツに変形し、トラクターヘッドが変形したロボットと装甲合体する事でより大型のロボットを構築出来るのだ。その性能は大型ゾイドや下手すれば巨大ゾイドであるゴジュラスにも匹敵する。

 

幸いにも今回の依頼は野良の小型のゴドスの群れとそのボスであるアロザウラーの討伐である為、トレーラーなしでも行けるだろうと"彼"は判断したのだ。

 

 

 

 

彼女達に何も言わず出ていった"彼"の姿をサオリとアズサは目撃していた。シャッターが開閉する音で彼女達は目を覚ましたのだ。

「夜逃げですかねぇ…」

「多分違うと思う…後ろについてたのがそのままだし」

「あともう朝だよ、ヒヨリ」

ヒヨリにツッコミを入れるミサキとアツコ。

「皆は先に朝食を食べて此処で待ってて欲しい。私は"彼"を追う。何をしているのか知りたい」

「わかった、気を付けて」

アズサが見送りの言葉にサオリは頷き

「行くぞ、ジェノザウラー」

自分のジェノザウラーSJSを呼んで倉庫を出る。

倉庫から出るやサオリはジェノザウラーを本来のサイズに戻すと背面のコックピットに乗り込み、パワードコンボイの尾行を開始した。

 

 

 

 

この惑星を開拓するにあたって人々は移民船のデータベースや持ち込んだゾイドコアから様々なゾイドを復元し運用した。

まずは生産が容易かつ扱いやすくゴドスやイグアン、ガイサック、モルガ、プテラスといった小型機が工事用に復元され、続いて大量運送用にグスタフが復元された。

しかし移民船キヴォトスの乗員達全員が同じ派閥だったかと言えば…答えは否である。

一部の派閥が純粋な戦闘ゾイドを復元し、対抗派閥も戦闘ゾイドを復元する…その繰り返しである。前述したように人々はそう簡単には争いを止められないのだ。大規模な戦乱も今は昔の話、今や学園都市キヴォトスを始めとする擬似国家内包型巨大都市の外にその痕跡が残る程度であるが、小規模な紛争は今も何処かで起きている。

この惑星に於ける野良ゾイドはその戦乱の痕跡の1つである。擬似国家内包型巨大都市は外壁や防衛装備でこれらの野良ゾイドからの被害を未然で防いでいるのだ。

一方で巨大都市の外に於いてはこれら野良ゾイドが障害として立ちはだかる。そればかりか盗賊など何かしらの理由で巨大都市から離れて暮らす者達が金や物資を狙って都市間の物流を担う輸送団を襲う事もある。 

 

 

つまりはこの惑星、今でも全体的に治安が悪いのだ。

 

 

「あれだな…ターゲットのゴドスは…」

"彼"は目視で依頼にあったゴドス達の姿を確認していた。依頼主は旧文明の遺跡の調査を行いたかったらしいが、最近その入り口付近にアロザウラーをボスとするゴドスの群れが縄張りにしてしまったが故に調査出来なくて困っているとの事だ。

「さて…こそこそ隠れているのはわかっている」

と"彼"は隠れて様子を伺っているサオリに声をかけた。

「バレていたのか…」

サオリとジェノザウラーSJSは大人しく出てきた。

「バレバレだ。それで何をしに来た?」

「何をしているのか気になって…」

"彼"は納得した。というか彼女達に何も言わずに出発した自分も悪いと思った。

「仕事だ」

「仕事…?」

「一応傭兵をやっていてな、今日はあのゴドスとそのボスのアロザウラーの討伐だ。あの付近には旧文明の遺跡の入り口があるらしいがアイツらが縄張りにしてから調査が出来なくて困っているらしい」

「そうか…少し可哀想な気もするが…」

「人の都合で機械の身体にされて道具にされ、勝手にこの星に連れてこさせられ、人の手を離れれば討伐される。そうだな…確かに可哀想だ。だが、仕方がない事だ。ゾイドは本来この星には存在しなかったもの…それに対する責任を負うのも人だと思うがな。それにこの世界は弱肉強食…都市の外では特に、な」

サオリの言葉に"彼"は自分の考えを述べるとパワードコンボイに乗り込む。

「片付けてくる。其処で大人しく待っていろ」

"彼"はサオリにそう言うと搭乗口を閉め、ゴドス達のいる方へ向かってトラクターヘッドを走らせる。ゴドス達もテリトリーへの侵入者に気付いたらしく、AZ30mmビームランチャーや小口径荷電粒子ビーム砲を発砲するが、"彼"は見事なハンドルでこれを回避、そして

変形(チェンジ)!パワードコンボイ!」

と音声コードを入力する。すると白いトラクターヘッドは形を変え、人型のロボットへ姿を変えた。パワードコンボイ ロボットモードである。パワードコンボイは"彼"の脳波からの信号によって人そのものの挙動をしている。

格闘戦を仕掛けるゴドス達を軽くいなし、ある個体には回し蹴りを浴びせ、またある個体は投げ飛ばし、はたまたある個体はブラスターで撃ち抜く。ダイアクロン隊員時代からの戦闘経験によって"彼"…パワードコンボイがゴドス達を制圧するのに大して時間はかからなかった。

そして、ゴドス達を倒せば親玉のアロザウラーも当然姿を表す。アロザウラーは敵を見つけるや飛び蹴りを食らわせようとするが、パワードコンボイはこれを回避し背後に回ろうとするが、地中に潜んでいた何がパワードコンボイに体当たりしてきた。

「なるほど、ボスのアロザウラーは1体だけじゃなかったのか」

体当たりをしてきた存在の正体はもう1体のアロザウラーだ。両腕のドリルで地中に穴を掘って身を隠していたのだろう。

アロザウラーは小型ゴジュラスとも称されるゴドスの能力を引き継ぎつつ、より格闘戦能力を伸ばしており、格闘戦に於いてはこの惑星の中型ゾイドの中でもトップクラスである。

それでこそトレーラーなしのパワードコンボイだと複数いると不利になるレベルだ。

 

 

 

 

"彼"の戦いの様子をサオリは観察していた。あのトラクターヘッドが人型ロボット(パワードコンボイ)へ変形した事に不思議と驚きはなかった。昨日ラチェットという宇宙人(エイリアン)を見たからというのもあるが、彼女はあのロボットを何故か()()()()()()()()()()からだ。

そんなパワードコンボイの前に2体のアロザウラーが現れた時

「いくぞ、ジェノザウラー」

サオリはジェノザウラーSJSに呼び掛け、本来のサイズに戻ったジェノザウラーSJSのコックピットにサオリは乗り込む。

装甲で覆われたキャノピーが閉じた後、サオリの頭部に脳波コントロール用のヘルメットが被さり、ディスプレイに外の光景が映し出される。

 

2体のアロザウラーを前にパワードコンボイは防戦一方となっていた。反撃の隙を狙うが、中々タイミングが訪れない…その時、ジェノザウラーSJSが咆哮と共に乱入、ドリル付きのアロザウラーに向けてメタルクローを振るう。

『何のつもりだ?下がっていろと言った筈だが…』

"彼"はサオリに向けてそう言う。

『仲間を救ってくれた事と暖かい食事と寝床を提供してくれた事への恩返しだ』

とサオリは返す。

『わかった、そっちは頼むぞ』

"彼"は反対するのではなく申し出を受ける事にした。助かる事に変わりはないからだ。

アロザウラーがパンチの様に左右交互に振るうドリルをジェノザウラーSJSは左右に回避、しびれを切らしたアロザウラーは両腕のドリルをジェノザウラーSJSに向けて突き出す。

しかしジェノザウラーSJSは上方向に回避、機体を仰け反らせながら背後に回るとメタルクローを振るってアロザウラーの両腕を引き裂くと反時計回りに回って尻尾で叩く。流石のアロザウラーも機体をよろめかせるがすかさずジェノザウラーSJSは左足を軸にして右足で回し蹴りをアロザウラーの胴体に当て、アロザウラーを転倒させるのだった。

 

 

パワードコンボイはその機動力でアロザウラーを翻弄している。アロザウラーも機動力は決して低くはないが、パワードコンボイの方が上手だった…それだけの話だ。

パワードコンボイはアロザウラーの背中に乗ると背中のAZ105mm2連装ビーム砲の砲身を掴む。アロザウラーはパワードコンボイを振り落とそうと激しく暴れ回るが、パワードコンボイは両腕でしっかりアロザウラーの胴体をホールドしているからか一向に振り落とされない。

それどころか掴んでいたAZ105mm2連装ビーム砲を外方向へ引っこ抜いて投げ捨てると重心を左に向けさせ、バランスを崩したアロザウラーは転倒、パワードコンボイは転倒したアロザウラーの胴体を両腕で抱える。

上下逆さまになったアロザウラーを抱えたままジャンプすると両足を大きく開くとそのまま重力に任せて落下、アロザウラーは頭から地面に叩き付けられた。

パワードコンボイが腕を放すとシステムフリーズ(気絶)したのかアロザウラーはそのまま地面に倒れて動かなくなった。

 

依頼を達成した事を"彼"は依頼主に報告、数十分後に依頼主はグスタフと非武装のプテラス2機を引き連れて現れた。依頼主は"彼"とサオリに感謝の言葉を伝えると共に報酬を引き渡すと連れてきたグスタフに戦闘不能となったアロザウラーやゴドスをプテラスを使って載せていく。

「あのアロザウラーやゴドス達はどうなるんだ?」

「都市に運ばれて修理後は保護区行きか個人か団体に売却だろうな」

サオリの疑問に"彼"はそう答えた。

 

 

 

サオリと"彼"は報酬の物資と共に皆が待つ倉庫へと帰還した。

「ただいま」

とサオリが皆に呼び掛ける。

「サッちゃん、お帰り。どうだったの?」

「彼は仕事をしに行っていた…それだけだった」

「仕事?」

「傭兵だ」

傭兵というワードに質問したアズサはカッコいいと言わんばかりに目を輝かせている。

「それで、姉さんが持っているのは?」

ミサキはサオリが持っている袋の中身について訊ねた。

「依頼主からの報酬だ」

サオリはそう言うと袋の中身を出す。その正体はパンや様々な冷凍食品やレトルト食品などの食糧だ。

「あれも、これも…美味しそうなものがたくさん…」

ヒヨリは思わず涎を垂らしていた。どれもアリウスにいた頃には食べた事ないものばかりだ。

そうこう盛り上がっていると"彼"もトラクターヘッド(ビークル)モードのパワードコンボイから降りてきた。

「何だ、今朝の分はまだ食べてなかったのか」

"彼"は手がつけられた痕跡がないカップ麺に気付き、彼女にそう言う。

「2人が帰ってくるまで待とうと思って」

理由を答えたのはアズサだ。

「そう言えば自己紹介がまだだったな。私は白州アズサ。昨日はありがとう」

「…ミサキ。戒野ミサキ」

「…私の名前は秤アツコ」

「えへへ…ヒヨリです。槌永ヒヨリ」

「錠前サオリ。彼女達のリーダーだ」

サオリの名前に"彼"は他の4人とは僅かに異なる反応をした。まるでその名前に聞き覚えがあるかの様に…顔には出さない様にしてはいるが心拍数は明らかに上がっているだろう。

「どうかしたのか?」

とサオリは不思議そうに"彼"に問う。

「いや、何でもない」

と"彼"は無理矢理心を落ち着かせてそう答える。

「それで、貴方のお名前は?」

アツコの問いに"彼"はこう返した。

「じ…マグナス…マグナスだ。傭兵をしている」

と"彼"―マグナスはそう名乗るのだった。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 

 






・パワードコンボイ マグナス
全高:約9.6m/約15.6m(装甲合体時)
ダイアクロン・カーロボットシリーズの指揮官機として開発されたバトルコンボイの強化タイプとして開発されたパワードコンボイ(初代)のカスタム機。
パワードコンボイ自体がパワードスーツシステムをカーロボットに応用した機体だったが、この機体は操縦システム自体もそれを応用したものであり、パイロットの脳からの電気信号の送信先をパイロットの身体ではなく機体に出力させる事で機体の挙動をより人間のそれに近付け、近接格闘能力を従来の機体より大幅に向上させている。しかし機体からパイロットへの負荷が凄まじく、普通の人間が扱えるような代物ではなかった為、不老不死の研究の過程で出来たナノマシンと適合し負荷に耐えられる様になった強化人間をパイロットとする事となった。
この機体の脳波コントロールの技術そのものは後の機体にも応用された一方で機人と称されるナノマシンを使った強化人間は倫理的に問題視され、開発者は危険思想も懸念されてダイアクロン隊から追放、以後の詳細は不明とされる。
尚、この機体のパイロットとなった機人はとある事情から本名を名乗りたがらないので機体名から取ってマグナスと名乗っている。
余談本機のカラーリングはパワードコンボイに瓜二つの超ロボット生命体のカラーリングとほぼ一致しているが全くの偶然である。



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