ある日、その少年は休暇を取っていた母親とまだ幼き妹と共に出かけていた…その時、ワルダー帝国が奇襲をかけてきた。
急遽対応する事になった母親は少年の目の前で身体を貫かれて死んだ。妹はワルダー帝国が開いた時空の裂け目に呑み込まれて消えた…掴もうと少年の手が届かずに…
「はぁ…はぁ…はぁ…またあの日の…」
あの日の少年…今のマグナスは目を覚ました。妹に手が届かなかったら母親の死をただ見るしかなかった…帰宅後、義父には怒鳴られ暴力を振るわれた…その時の痕は今も残っている。
時刻は朝5時。マグナスはその時の傷痕を隠すかの様にダイアクロン隊員時代から装備している強化スーツを急いで着込む。
「ねぇ…どうかしたの?」
幼い少女の声にマグナスは声がした方を向く。声の主は秤アツコ。一昨日の夜、マグナスが使っていた倉庫に潜り込んできた少女の1人だ。
「いや、何でもない」
何事もなかったかの様に振る舞うマグナスに
「…魘されてた」
とアツコは指摘した。
「……夢で昔の事が流れてきた、ただそれだけの話だ」
素っ気なく指摘にそう答えるマグナス。自分達の事情は聞き出したくせに自分の事は話したがらないとアツコは思っていた。
昨日、自己紹介をした後、アツコ達は自分達がアリウス自治区から脱走してきた事、アリウス自治区で行われていた事、反発したアズサが酷い体罰を受け、それでも引き下がらないから近い内に見せしめとして処刑されてしまう事、それを許せなかったサオリが脱走を計画してこうして5人で脱走してきた事を話した。
『脱走してその後はどうするつもりだったんだ?』
と話を聞いた彼はそう訊ねてきた。計画したサオリもアツコ達もそこまでは考えていなかった…ただアズサを救いたいという一心と明日は我が身かもしれないという怖れでいっぱいでそこまで考える余裕などなかったからだ。
マグナスが良識のある人物だったから良かったもののもしかすれば奴隷商に捕まって奴隷にされていたかもしれない。彼女達は痩せてはいるが皆美少女と言っていい位には顔が良い。故にそういう層からの需要もあるだろう。それをマグナスは知っていた。
彼の元にもそういった奴隷商からの依頼がきた事がある…しかし子供を食い物にする下劣さが曾て
アツコが今着ているのも脱走時に着ていた薄い布切れではなく防寒対策がなされたちゃんとした服だ。まずは服を何とかしろと彼が確保してきた物だ。
「飯なら其処に用意している…好きに食べろ」
マグナスは素っ気ない態度を取りながら朝食が入った袋を指差す。
「貴方も一緒に…」
「いや、俺は後から食べる。これからラチェットの元へ行く予定だからな」
彼はそう言うとベッド代わりにしていたパワードコンボイのトラクターヘッドから降り、倉庫の扉から外へ出ていき、アツコはそれを見送るしかなかった。
マグナスが使っている倉庫から徒歩5分の所にある別の倉庫。ラチェットは基本的にこの倉庫を使っている。倉庫の中には様々な有機生命体や金属生命体の医療キットが置かれている。
「ラチェット、話とは何だ?」
マグナスがラチェットに呼び掛けるとラチェットは緊急車両からロボットへ
「君の元に転がり込んできたキヴォトス人の子供達の事だ」
ラチェットの言葉にマグナスはやはり、と呟く。
「白洲アズサ、と言ったか。彼女をスキャンした時、普通のキヴォトス人から出る筈のない物が検出された。君の体内にもある―」
「ナノマシンか」
「そうだ。脳波コントロールを行う機体からのあらゆる負荷から耐える為のナノマシン…B-Linkerが彼女の身体からも検出された。
あの娘達の機体はすべて脳波コントロール式だったか?」
「あぁ、昨日聞いた話によればな。まさか弱体化してるとはいえジェノザウラーを目の当たりにする事になるとはな」
マグナスがいた地球ではゾイドは物語とプラモデルの中での架空の存在であった。
この惑星の移民元の惑星Ziの歴史は彼が知るゾイドの物語に於けるバトルストーリーというジオラマ付きの小説に概ね準拠している…違うのはグランドカタストロフの原因となった彗星によって破壊された衛星が2つである点、それに伴って惑星Ziは滅びの道を歩む事になった点である。
本来のジェノザウラーはグランドカタストロフ後の時代にてガイロス帝国が開発したゾイド…つまりゾイドの開発史がグランドカタストロフ前でストップしたこの惑星にはいない筈のゾイドだ。
しかも正史のジェノザウラーはデッドボーダーと同クラスの大型ゾイドに対し彼女達のジェノザウラーはアロザウラー位のサイズしかない…だからこそマグナスはジェノザウラーが存在するのがあり得ないと思ったのだ。
「可能性はいくつかある。まず偶然似た姿なだけの別物、第2にジェノザウラーを知る誰かが作った。第3が全体的か断片的か問わず機体のデータがこの世界に流れ着いた…君の様にな」
「データだけ流れてくる事などあり得るのか?」
「可能性はゼロではない。何かしらの媒体が偶々時空の裂け目を流れてきたきたなんて事もあり得る。ひょっとしたら君が言う
「なるほどな…それなら納得出来る。正史のジェノザウラーは機体を万全に動かすのにオーガノイドシステムが必要だが、それが何かしらの理由で用意できなかったから脳波コントロールで代用したかもしれないか…もしくは脳波コントロールでゾイドを動かす為の試験機か…
どっちにしろB-Linkerがアイツ…いやアイツらの身体の中にあるという事は"奴"もこの星に…」
「あの娘達が来たというアリウス自治区?というのは私も知らないが、キヴォトスにいる"リューズ"なら何か掴んでいるかもしれないが…」
「リューズか…アイツに聞くしかないか…アイツと話すと調子を狂わされるんだよなぁ…」
そうは言いつつマグナスはある人物とのビデオ通話を開いた。
『おやおやぁ、君から連絡してくるとは珍しい事があるもんだねぇ。今日は雷でも降るかもしれないねぇ』
立体映像越しに現れたのはカタツムリの様に突き出た両目に紫色の唇と大きな口、橙色の体色をした
「そんなに可笑しいか?俺から連絡してきた事が?」
『あぁ、そりゃそうだね。君から連絡してきた事なんて数えられる程度だ』
「さっさと本題に入らせて貰うぞ、リューズ」
マグナスは立体映像に映し出された宇宙人に話を切り出す。
彼女こそがリューズ。ワルダー帝国の侵略もないどころかトランスフォーマーやゾイドが実在しないマルチバースに存在するファントン星という惑星出身の宇宙人であり、現在はキヴォトスのミレニアム自治区で暮らし、情報屋兼技術者をしている。
人前に出る時は目立たぬようキヴォトス人に擬態して活動しているが、正体を知る人物の前ではこうして本来の姿を見せているという訳である。
『余程の事態が起きてるみたいだねぇ』
「一昨日の夜、キヴォトス人の子供5人が俺の元に転がり込んできた。それぞれの名前は錠前サオリ、白洲アズサ、秤アツコ、戒野ミサキ、槌永ヒヨリだ。彼女達はアリウス自治区という場所から逃げてきたと言っている。この惑星には存在しない筈のジェノザウラーに乗ってな」
アリウスと秤アツコという名前に覚えがあるのかリューズは不適な笑みを浮かべていた。
『そうか…ロイヤルブラッドが逃げ出したのか…はっはっはっはっ!なかなか面白い事になっているねぇ!』
「どうやら知っているみたいだな」
『まずはアリウス自治区について説明する前にトリニティ総合学園の歴史を説明しないとねぇ』
「トリニティ?確かキヴォトスでもお嬢様学校だったか?そんな所とあの浮浪児どもと関係があるのか?」
『そ・れ・がっ!大有りの大有りなのだよ!
その昔々、トリニティ総合学園…トリニティ自治区は今の用なマンモス校じゃなくて、幾つもの学園がひしめいていたそうだよ。
学校間で紛争が多発している現状を打破する為に、各校代表は会談を行う為の場…"ティーパーティー"を設けた。各分派の代表が選出されている今のトリニティの生徒会はこの頃の名残だねぇ。
で、この分派の内、"パテル分派"、"フィリウス分派"、"サンクトゥス分派"の3つの分派が中心となって今のトリニティを作ったんだけど、この時に唯一反対の立場をとり続けた派閥が存在したのだよ!その派閥こそが―』
「もしかしてアリウスか?」
『正解だねぇ!アリウス分派が気に入らなかったのか3つの分派はアリウス分派を弾圧、終いには"トリニティライガー"という学園の名の由来になったライオン型ゾイドを投入する始末さ!』
「何でトリニティライガーがいるんだ…!?」
トリニティライガーはマグナスがいた世界ではテレビゲームで登場したゾイドであり、バトルストーリーはおろかアニメ作品、漫画にも登場しなかったゾイドである。
因みにアリウス分派はライオン型ゾイドの使用を
『どうやらトリニティの原型となった組織が作ったらしい。君の知るトリニティライガーと完全に同一かは不明だけどね。見た目が同じだけかもしれない。
そしてアリウス分派は自治区からも追放されてキヴォトスの表舞台から姿を消し、今のトリニティの生徒にとっては歴史上の存在として認知はしているが実在しているかは知らないという訳だ』
「だがアイツらは存在していると―」
『まぁまぁそう急かさないでおくれよ。話には続きはあるのだから。残された資料によるとアリウス分派はユスティナ聖徒会…今のシスターフッドに該当する組織が過激な弾圧をしていると見せかけてトリニティ領脱出やアリウス分校校舎の建設などを手助けしていたらしい…彼女らの真意を知る術は今のところないのだけれどね…推測は出来るが』
「どんな推測だ?」
『アリウス分派の生徒会長は血縁者による世襲制で資格者は"ロイヤルブラッド"と呼ばれているのだけれど、そのルーツは惑星Ziのデルポイまで遡る。デルポイ統一を為し遂げた存在―』
「"へリック・ムーロア"…へリック王国の建国者にしてへリック共和国初代大統領"へリック・ムーロア"二世とゼネバス帝国皇帝"ゼネバス・ムーロア"の父親か…」
『そう!彼女…秤アツコはムーロアの血筋の末裔なのさぁ!
恐らく当時のトリニティのティーパーティーからしてみれば彼女の血筋…ムーロアの末裔は邪魔者だったのかもしれないねぇ…統合の反対もそうだが何せ下手すれば担ぎ上げてムーロアの血筋の者を指導者にも出来るし、ムーロアの末裔に権力が集中する可能性もある!』
「ならば何故そうはならなかったんだ?」
『各分派の長など一部の者達しか知らず末端には秘匿されていたという可能性はないかね?彼女達の先祖が乗ってきたという移民船もへリック派、ゼネバス派、ガイロス派など様々な派閥が乗っていた筈。影武者を使って血縁者を密かに逃がしたかそもそも秤アツコの先祖は隠し子だったか…どっちにせよ各分派の長は何かしらの要因で知ったと思うね。
さて、話を戻すが今のアリウス分派の自治区がトリニティどころかキヴォトス民から忘れさらたのも無理はないさ…アリウス自治区は不定期に内部構造が変化する巨大なカタコンベから複雑なルートを通った先にある…ゾイド用の出入口もあるらしいがそっちもカタコンベを通る必要がある。故に外界との交流を完全に絶った孤立状態という訳さ。』
「確かなのか?」
『最近私の元にトリニティから
「何者なんだ?」
『それは守秘義務で私の口から言うのは無理さ…今はまだ、ね。
お嬢ちゃん曰くアリウス自治区では数年前に内戦が勃発し、結果ときて市街地は寂れ、ストリートチルドレンも多数生まれるなど最悪に近い環境になったらしい。
その混乱に乗じたのがベアトリーチェという人物とその賛同者さ。彼女はアリウス自治区の自治権を掌握し、アリウスの子達は歪められた教義の下、手駒としての思想教育や軍事訓練、人体実験を受けさせられた…要は洗脳だよ。
マトモな教育は受けさせて貰えない…お嬢ちゃん曰く『何かを学ぶことがない生徒の事を生徒と呼べるのか』ってね。今のアリウス分校は学校としての機能はないも同然さ』
「ならばアイツらは何故洗脳を受けなかった?何故脱走出来た?」
『何事にも例外というのはあるだろ?それに脱走に関しても手引きした人物でもいるんじゃないかい?
…さて、私が把握しているアリウスに関する情報は以上だ。彼女達と関わるという事は下手すれば君も巻き込まれて…いや、もう巻き込まれているか。それはそうと錠前サオリ…もしかして彼女は君―』
「情報提供、感謝する」
マグナスはリューズの話を遮るかの様に礼を言う。まるでこれ以上、自分への詮索はするなと言わんばかりに。
『わかったわかった、この話をしたくないのなら潔く引くとしよう。私とて
リューズは最後にそう伝え、通話を切るのだった。
To be continue…
・ジェノザウラーAHS
分類:ティラノサウルス型
全長:約15m
全高:約7.8m
最高速度:220km/h
乗員人数:1名
パイロット:秤アツコ
装備:レーザーセンサー
脚部アンカー×2
放熱システム
ホバリングシステム
脳波コントロールシステム
内蔵型素粒子コントロール装置
レドーム
武装:ワイヤーキラークロー(腕部)
ハイパーストライククロー×2(脚部)
スマッシュテイル
額部レーザーガン
ハイパーキラーファング
収束荷電粒子砲
ロングレンジパルスレーザーライフル×2
スモークディスチャージャー
惑星Ziがグランドカタストロフで滅びなかった世界から流れ着いた断片的な機体データを元にベアトリーチェの賛同者が開発した機体の1つ。単騎での戦闘より味方機との連携に重点を置いた機体。
スモークディスチャージャーで敵機の視界を潰し、味方の攻撃及び撤退を支援する。その為か単騎での戦闘能力は他4機より低めである。