リューズがマグナスからの報告を受けた後の事。
「クックックッ…」
リューズの後ろから聞こえてきたのはある男の声だ。
「ロイヤルブラッド達は無事に脱出して"彼"に拾われたよ。君の読み通りにね」
リューズはその人物に向けてそう報告する。彼女の話し相手…それは黒いスーツを身に纏った男性…なのだが、スーツから覗く体は影の様に黒く無機質で、顔全体に亀裂が走っていて右目に該当する部位からは光を発している…人間かどうかと問われれば否と言うべきだろう。
その人物はリューズの正体を知っているからかリューズも本来の姿のままでいる。
「しかし、ベアトリーチェは君の仲間なのだろう?良いのかい?彼女達が脱走する手引きもしたんだろう?」
「確かにその通りです、リューズ女史。しかし
キヴォトス外部の人間へ人為的にヘイローを付与する実験にマルチバースの地球から持ち込まれたB-Linkerとそれによる脳波コントロールシステムを導入したゾイドの開発、ジェノザウラーの小型量産化…全ては彼女とあの者の独断によるもの。
彼女とあの者の手腕は評価しといますがそれはそれ、これはこれ…我々に隠れてやっていた事、やっている事、そしてやろうとしている事は私としては許容出来るものではありません」
「彼によればB-Linkerは適合出来なければ逆にナノマシンに乗っ取られて凶暴化、被害をもたらしたり最悪の場合は死ぬそうじゃないか。
そんなB-Linkerをキヴォトス人に適合させる実験…その実験で適合できず犠牲になった者達は一体どれだけいるのだろうねぇ」
「正確な数までは分かりかねますが、どうやら純粋なキヴォトス人だけでなくキヴォトス外部の人間やそのクローンの方も活用しているようです」
「なるほど…確かにB-Linkerを使えば身体強度は平均的なキヴォトス人と同等レベルにまで上げる事は出来るし手駒も増やせる…全く卑劣な外道共め」
「ひとまず彼女達には数年間はそのままキヴォトスの外で暮らしてもらいましょう。今はベアトリーチェも気が立っていますが故に」
「だろうねぇ。そもそも今すぐ動いてもベアトリーチェ一派と戦う戦力を持ってはいないからね。今の私に出来るのはせいぜい自衛くらいさ」
「クックックッ、だから貴女は出来る限りコネを作っているのではないのですか?キヴォトス外部の者達に最近は将来のトリニティのティーパーティー候補者2名とのコネも出来たようですね?」
「乙女との会話を盗み聞きとは趣味が悪いねぇ。私相手ならまだしも、嫌われる行為だから止めておいた方が良い。
それと彼女に手を出すなら私もそれなりの対応をさせて貰うよ。来るべき破滅に抗うにはそれを目の当たりにした彼女の力と知見は必要になるだろうから私としては親しい関係を築きたいのさ」
「クックックッ…わかっていますよ」
午前はラチェットとの面会とリューズとの対談、午後からは依頼をこなして時刻は夕暮れ。マグナスは6人分の食材をマーケットで購入して倉庫に帰って来た。
「おかえり」
「おかえりなさい」
出迎えたのはサオリとアツコだ。
「あぁ、ただいま」
マグナスも当然返事をする。
「あの~、それは今日の夕食なのでしょうか?もしかして最後の晩餐なのでしょうか?」
「夕食だが最後の晩餐ではないな。今日は鍋にするぞ」
マグナスがヒヨリにそう告げると
「手伝おう、何から何まで世話になるのに申し訳ない」
サオリは手伝いを打診し、マグナスはそれを断る事なく受けた。
鍋の準備をしつつもマグナスは脳内で今後の予定を計画し始めた。これでも5人を養っていく分の蓄えはあるが…
『彼女達と関わり続けるのなら気を付けた方が良い。ベアトリーチェと賛同者は君達にちょっかいをかけてくるだろうからね』
そう、彼女達を匿っている限り、リューズが言ってた事が起きる可能性もある…適当なところで関わりを断ってしまった方が身の為だろう…
(出来るか…あんな話を聞いて…!)
しかし、マグナスは彼女達を見放すという非道な選択を取れなかった…取るつもりはなかった。
『マトモな教育は受けさせて貰えない…お嬢ちゃん曰く『何かを学ぶことがない生徒の事を生徒と呼べるのか』ってね』
このまま彼女達を放ってもマトモな教育を受けていない彼女達は果たして生きていけるだろうか?傭兵をやるにも学はいる。このままだと良いように利用されるか見た目の良さから娼婦になるかだ。
「…さて、お前達はこれからどうする?」
夕飯を食べ終えたタイミングでマグナスは5人に問う。
「どうするって…あの時は彼処から逃げ出す事で頭がいっぱいだったし…」
ミサキの言葉に4人は頷く。
「そうだな…確かにミサキのいう通りだ。
…でも、私達だけが逃げ出した事には少なからず申し訳なさもある…あの地に残してしまった同胞達に…」
「しかし今の私達ではマダムには勝てないだろう」
と発言したのはアズサだ。そもそも此方は正史のジェノザウラーの縮小デッドコピー機が5体、彼方はガルタイガーやジークドーベルを筆頭に様々な戦力を有している。正確な戦力数は不明だが此方より多いのは確かだ。
「そもそもお前達は経験が足りてないのだろ?」
そしてマグナスは言う事は図星だった。アリウス自治区という外から隔絶された閉鎖空間内で暮らして来た彼女達はベアトリーチェから戦闘に関する知識は与えられていても実戦経験…特にゾイド戦に関しては殆どないというのが現状だ。外で暮らすにもそもそも知識が不足している。このままでは悪い大人に利用されるだけ利用されて終わるだろう。
「だから俺が教えられる限りの事は教えよう」
マグナスの提案にサオリ達は目を丸くして驚いていた。
「衣食住だけでなくそこまでして貰って本当に良いのか?」
サオリの言葉にマグナスは頷くとこう続ける。
「お前らの機体…ジェノザウラーは脳波コントロールで動かしている。そうだったな?」
マグナスの言葉に5人は頷く。
「あの時、ラチェットがアズサの容態を把握するために身体をスキャンした時にB-Linkerというナノマシンが検出された」
マグナスが語った事に5人は驚きもしなかった。
「うん、私達はジェノザウラーを動かす為にそのナノマシンを体内に入れられたよ」
とアツコはすんなりマグナスに伝えた。
「B-Linker適合者というなら俺も無関係じゃない…それを作った奴には俺も因縁があるからな」
「まさか、あんたも適合者って言うんじゃ―」
「あぁ、ミサキが言う通り…俺もB-Linker適合者…いや、俺が最初の適合者という訳だ」
「そんな重要な事をさらりと言っちゃうんですね…」
「お前らが単なるキヴォトス人ならともかくB-Linker適合者とならば話が変わってくるからな。
アイツ…B-Linkerの開発者は俺と同様におそらくこの星に流れ着き、お前らが言うマダムと手を組んだというところだろう。
俺はアイツとの因縁にケリをつけたいと思っていた…まぁ、個人的な理由だからな。
互いの相手が手を組んだ…ならば俺もお前らに手を組みたいとな。別に強制する訳じゃない。俺に頼らず生きたいのなら引き留めはしない。まぁ、ゆっくり考えて答えを聞かせてくれ」
マグナスはそう言うと食器や鍋を片付けてパワードコンボイのトラクターヘッドで寝始めた。
「で、どうするの姉さん?アイツも私を利用する気だったじゃん」
とミサキはサオリに問う。衣食住を提供しているとはいえマグナスへの警戒心はまだ残ってはいたのだ。それほどまでにベアトリーチェ一派から酷い扱いを彼女達は受けて来たのだから仕方ない。
「でも、こうとも言うぞ。敵の敵は味方だと」
そう答えたのはアズサだ。彼女は見ず知らずの自分達を助けてくれた事どころかマグナスとラチェットから治療を受けたという事もあってかマグナスに対して好感すら抱いていた。
「でも、私達だけではマダムに勝てないのも事実ですし外の世界の事も何も知らないんですよ…うわぁぁん!彼に見放されたら私達はこのまま盗賊になって最後はどっかの組織に捕まって処刑されてしまうんですぅ…!」
最悪の可能性が頭に過ったのかヒヨリは泣いてふためく。
「サッちゃん…どうするの?」
アツコの言葉にアズサ、ミサキ、ヒヨリもサオリに視線を向ける。
「確かに彼の言う通りだ。私達は外の世界を知らなすぎる。今後の事も考えれば彼の提案は私達にとっても悪い物じゃない。
それに彼が戦う所を直接見たが、戦力としても心強いと思う」
「じゃあ、提案に乗るの?」
「そうだ、アツコ。私は彼の提案に乗るべきだと思う」
サオリの考えに
「まぁ、姉さんがそう言うなら…」
とミサキも納得した。アズサはサオリと同じ考えを有していた事から元から賛成の意を示しており、ヒヨリは衣食住が保証されているからという理由で賛成している。
「じゃあ、決まりだね」
アツコが言う様に5人はマグナスの提案に乗る事となった。
そして彼女の話し合いをこっそり聞いていたマグナスは早速知り合いの商人に連絡し、あるものを調達して貰うよう依頼したのだった。
翌朝、ラチェットがマグナス達が住む倉庫を訪れ、サオリ、アツコ、ミサキ、ヒヨリは簡単な健康診断を、アズサは健康診断に加え負傷箇所の診察を受けていた。
「ふむ、流石のキヴォトス人というべきか…傷口は塞がっている。もう抜糸しても良いだろう」
アズサの右足の容態を確認したラチェット。キヴォトス人は適切な手当てをすれば自己治癒能力が人よりも高い事は当然知ってはいたがこれ程までとはと驚いていた。
「確か普通の人間の手足だと血の巡りが良くないからか2週間程度は待ってから抜糸だったか?」
マグナスの言葉にラチェットはそうだ、と頷きこう続ける。
「彼女の場合はキヴォトス人かつB-Linker適合者だから短期間で傷口が塞がったのだろう。
あまり遅すぎると糸が取れなくなり、悪影響を及ぼすからこれから抜糸するぞ」
ラチェットは右腕から精密作業用マニピュレーターを展開してアズサの右足の抜糸を慎重に行う。アズサ本人は痛みを感じる事なく抜糸は終わった。
「動かしても構わないが、激しい運動は控えるように」
「ありがとう、ドクターラチェット」
「私は仕事をしたまでさ」
とアズサに答えるラチェットの声色は優しいものだった。
「さて、ラチェット。悪いがもう少し付き合って欲しい」
「マーケットに行くのだろ?」
「あぁ、俺のパワードコンボイは俺以外の人を乗せる事は想定していないからな。この季節にトレーラーに乗せるというのも酷な話だ。帰ってきたらそこのオイルを持ち帰ると良い」
「全く、君は律儀だな。わかった、ラチェット、トランスフォーム!」
ラチェットはビークルモードである緊急車両に姿を変えると各部のドアを展開する。
「まさか、これから私達は何処かへ棄てられ―」
「いや違うからな。買い物しにマーケットへ行く。お前らはラチェットに乗れ」
マグナスはヒヨリの言葉をバッサリ否定すると5人にビークルモードのラチェットに乗るよう促す。サオリ達はおどおどしながらラチェットに乗り、5人が乗った事を確認したラチェットはドアを閉める。
マグナスはパワードコンボイを外に出すとトレーラーのリアゲートを開け、ラチェットはトレーラーの下段に載った。ラチェットが載った事を確認したマグナスはトレーラーのリアゲートを閉じてトラクターヘッドに乗るとパワードコンボイを目的地に向けて走らせるのだった。
積雪にもパワードコンボイは物ともせず順調に目的地に向かっており、サオリ達は窓から覗く光景に目を奪われていた。
地面は辺り一面が雪に覆われつつもタイヤ痕やゾイドの足跡や尻尾の後が刻まれている。その様子は交通量の多さを物語っているかの様だ。
雪道を1時間進んだ辺りだろうか。窓から外の様子を眺めている5人の視界に複数のゾイド達の姿が入ってきた。
「あれは確かゴジュラスとアイアンコング、サーベルタイガーか?」
アズサの言う様に向かっている先には警備用のゴジュラスとアイアンコングが1機ずつ、複数のサーベルタイガーが周囲を警戒している。
『彼処が目的地の
マグナスは通信機越しに解説すると入り口の前で停車、監守に身分証を提示する。身分証を確認した監守はゲートを開き、パワードコンボイはその先へ進むのだった。
To be continue…
・ジェノザウラーMIS
分類:ティラノサウルス型
全長:約15m
全高:約7.8m
最高速度:200km/h
乗員人数:1名
パイロット:戒野ミサキ
装備:レーザーセンサー
脚部アンカー×2
放熱システム
ホバリングシステム
脳波コントロールシステム
内蔵型素粒子コントロール装置
スクラップコンバートチャンバー
武装:ハイパーキラークロー(腕部)
ハイパーストライククロー×2(脚部)
スマッシュテイル
ハイパーキラーファング
収束荷電粒子砲
AZ3連誘導ミサイル×2
パンツァーファウスト×2
AZ3連チャージミサイル×2
AZ10連装マニューバミサイルポッド×2
AZインパクトキャノン砲×2
惑星Ziがグランドカタストロフで滅びなかった世界から流れ着いた断片的な機体データを元にベアトリーチェの賛同者が開発した機体の1つ。
最大の特徴は荷電粒子砲以外の光学兵装がすべてミサイル等の実弾兵装となっていることにある。
これはEシールドを張れるシールドライガーなどの光学兵器を無効化もしくは大幅に弱体化させられる敵機を中近距離からの砲撃で仕留める為である。
その為に光学兵器と異なり弾数が限られるという問題が生じるものの、その点をスクラップコンバートチャンバーという簡単に言えば鉄屑を弾に変換する3Dプリンターの様な物を搭載する事で対応している。
尤も弾切れを起こしながらも戦闘を継続中かつ補給が見込めないという緊急時用の装備であるため、純粋な弾薬より威力は劣るようである。