光のれな子 作:あーばれすと
週末の午後、私と王塚真唯は街中の大きなデパートにいた。エスカレーターを上り、ゲームコーナーの試供品エリアに辿り着く。
最新のVRヘッドセットがいくつか並び、スタッフが笑顔で声をかけている。真唯は目を輝かせて、私の手をぎゅっと握った。
「ねぇ、真唯。最新のVRゲームしようよ。一緒に。協力プレイだって。絶対楽しいって」
真唯は少し微笑んで、頷いた。
「ああ、構わないとも。れな子がそんなに楽しそうなら、私もやってみたい」
私たちは二人分のヘッドセットを借り、隣り合ったブースに入った。
ゲームはファンタジーアドベンチャー。
仮想世界の中で剣を振るい、モンスターを倒し、宝箱を開けていく。
「こ、これは凄いな! 本物のドラゴン!」と興奮し、時折「きゃっ!」と可愛い悲鳴を上げながらも、コントローラーを器用に動かしている。
私は隣でサポートし、「真唯、左から来てるよ!」と声をかけると、彼女は「ありがとう、れな子!」と笑顔で応える。
ゲームをクリアした瞬間、二人は同時にヘッドセットを外し、顔を見合わせて大笑いした。
「はぁ……本当に楽しかった!」
「だよねぇ!! やっぱゲーム最高なんですよねぇ! それを誰かとやるのもさ!」
「ああ、同意するよ。れな子と一緒だと、こんなにワクワクするなんて」
「うん、私も楽しかったよ。でも……」
「でも?」
「これって、恋人だから特別に楽しいのかな? それとも、ただの友人でも同じくらい楽しかったと思う?」
真唯は少し考えて、頰を膨らませた。
「今、そんなこと考えてしまうのか? 私は絶対、恋人だからだと思うとしか言えないな
。れな子と手を繋いで、隣で笑い合って……それが全部、特別だ」
「ふふ、そうかな。確かにそうかもね。でも、きっと友人でも結構楽しいと思うよ。一緒にいるだけで、自然に笑顔になれる相手って、それだけでいい関係だと思うから」
「むぅ……れな子は相変わらず冷静だな。でも、まあいいのかもしれないな。私とれな子は恋人なんだから」
「そうだね。特別だ」
デパートの屋外テラスに出ると、空が急に暗くなっていた。ぽつぽつと雨粒が落ち始め、あっという間に本降りになる。
周囲の人々が慌てて屋内へ戻る中、私たちは柱の下に駆け込んだ。真唯はすぐにスマホを取り出し、母親に連絡した。
「ええ、急な雨で……近くのホテルを手配していただけますか。ありがとう、ママ」
電話を切ると、彼女は少し申し訳なさそうに私を見た。
「すまない、れな子。急にこんなことになって……でも、体調を崩して仕事に穴を開けるわけにはいかないんだ。恵まれているからこそ、それを還元しなければいけない」
私は濡れた髪を軽く払いながら、穏やかに答えた。
「そうなんだ。立場があるのは大変だね。お疲れ様」
真唯は少し唇を尖らせて、私をちらりと見た。
「心がこもってないなぁ。れな子、もっと心配してほしい気持ちがあるのだが」
「心配してるしてる。本当に心配してるよ。でも、真唯ならちゃんと自分で打開できると信じてるから」
「ふふ、ありがとう。でも、今日は私に甘えしてほしい」
それから、にこりと笑って手を差し伸べる。
「お湯が溜まったぞ。一緒に入ろう」
ホテルのスイートルームに案内され、バスルームは広くて豪華だった。大きなバスタブに湯が張られ、湯気が立ち上っている。私は少し驚いて、桃色のボブヘアを耳にかけた。
「あ、やっぱり一緒に入るんだ」
真唯は当然のようにブラウスを脱ぎながら、振り返った。
「当たり前だ。濡れた恋人を放っておけるか。それに、れな子と一緒にお風呂なんて、夢みたいだ。率直に言って興奮する」
「そっか。ありがとう。そういうふざけることでこっちの緊張を溶かす気遣いできる部分、好きだよ」
真唯の頰が、ほんのり赤くなった。
「え……急にそんなこと言われると、照れるな……それにそういうのは言わぬが華だろう。でも、嬉しい。もっと好きって言ってくれてもいいぞ?」
「ふふ、じゃあ、もう一回。真唯のそういう優しいところ、本当に好きだよ」
湯船に二人で浸かると、雨音が窓を叩いている。温かいお湯が体を包み、疲れが溶けていく。真唯は私の肩に頭を預け、静かに呟いた。
「れな子とこうしていると……本当に、幸せだ。雨だって、悪くない」
「うん。私も、幸せだよ」
私は彼女の髪を優しく撫でながら、心の中で少し考える。さっきのVRゲームも、楽しかった。でも、あれは恋人だから特別だったのか。それとも、ただの友人でも、同じくらい楽しかっただろうか。答えは、まだ出ていない。でも、今はこの温もりを、ただ味わっていたかった。
雨はまだ、止む気配を見せなかった。
ホテルのバスルームは、柔らかな間接照明に包まれ、贅沢な静けさに満ちていた。広々とした大理石のバスタブに張られた湯は、ほのかにラベンダーとローズの香りを漂わせ、表面に細かな泡が浮かんでいる。
湯気がゆらゆらと立ち上り、天井近くで渦を巻いて、鏡やガラスを曇らせていた。窓の外では雨が激しく降り続き、ガラスを叩く音が規則的に響き、まるで世界から二人だけが切り離されたような錯覚を与える。
私と王塚真唯は、肩が触れ合い、膝が軽く重なる距離で湯船に浸かっていた。真唯の金色の長い髪は濡れて首筋や肩に張りつき、水滴がゆっくりと肌を伝って落ちていく。
白い肌は湯の熱でほんのり桜色に染まり、鎖骨のラインや肩の曲線が、照明に照らされて柔らかく輝いている。
ブルーの瞳は湯気の向こうで優しく、私をまっすぐに捉えていた。真唯は私の肩にそっと頭を預け、長い睫毛を伏せて、静かに、でも確かな声で呟いた。
「れな子……今、本当に幸せなんだ。こんなふうに、二人きりで一緒にいられるなんて……学校でも、デパートでも、どこでも楽しいけど、こうして肌を重ねて、温もりを分け合っている今が、一番幸せだ」
彼女の声は少し震えていて、普段の優雅で完璧な調子とは違い、素の、剥き出しの感情が滲み出ていた。
私は彼女の濡れた髪を指で優しく梳きながら、穏やかに、優しく答えた。
「うん、私も幸せだよ。真唯とこうしていると、心が落ち着く。真唯の温もりが、ちゃんと伝わってきて……安心する」
真唯は少し体を起こし、私の顔をまじまじと見つめた。金色の髪から水滴がぽたりと湯に落ち、小さな波紋が広がる。
「本当かい? 私といて、ちゃんと幸せかい? 私、ときどき不安になる。れな子はいつも冷静で、私の気持ちを全部受け止めてくれるけど……私がいなくても、れな子は平気なんじゃないかって」
私は彼女の頰にそっと手を添え、親指で軽く撫でた。
「そんなことないよ。真唯がいるから、幸せなんだよ。真唯の笑顔も、声も、こうして触れられる温もりも……全部、大切」
その言葉に、真唯の瞳が潤んだ。彼女はゆっくりと体を寄せ、私の肩に手を置いた。指先が少し震えているのが伝わる。そして、ためらうことなく、私をバスタブの縁に軽く押し込んだ。湯が小さく波立ち、私の背中が冷たい大理石の壁に触れる。
水滴が飛び、湯気がさらに濃くなる。真唯の顔が近づき、息が混じり合う距離で──柔らかく、温かい唇が、私の唇に重なった。最初は、優しいキスだった。
ただ触れるだけ。
「んっ」
「っ」
唇の感触だけを確かめるように、ゆっくりと、静かに。でも、すぐに二度目のキスが訪れる。今度は、彼女の舌がそっと私の唇を割り、ためらいがちに、でも確実に絡みついてきた。
甘く、熱く、深く。舌先が触れ合い、絡まり、湯の中でかすかな水音と息遣いが響く。
真唯の手が私の背中に回り、ぎゅっと抱き寄せる。
私の手は自然に彼女の腰に添えられていた。キスが離れたとき、真唯の頰は真っ赤で、ブルーの瞳は潤んで輝き、息が少し荒くなっていた。
私は静かに息を吐き、彼女の頰に手を添えて、優しく微笑んだ。
「真唯の気持ち、ちゃんと伝わってきたよ。
こういう熱い真唯も、好きだよ。素直で、実直で……全部、受け止めるよ」
真唯は恥ずかしそうに目を伏せ、それから小さく、幸せそうに笑った。
「れな子……ありがとう。大好き……本当に、大好きなんだ。君のことが」
私は彼女の髪をもう一度撫でて、穏やかだがはっきりと続けた。
「でも、こういうことは……誰も見てない場所で、ね。二人だけのときに、ゆっくりしよう。約束だよ」
真唯は一瞬きょとんとして、私の目を見つめ、それから素直に、深く頷いた。
「……ああ。約束する。れな子がそう言うなら、ちゃんと守る。私は、れな子のこと傷つけたくないから」
彼女は再び私の肩に頭を預け、静かに息を吐いた。湯船の中で、二人の体温が溶け合い、雨音が遠く響く。室内は、穏やかで、甘く、温かな空気だけに満ちていた。
私は真唯の髪を優しく撫で続け、この瞬間を、ただ静かに、深く、味わっていた。外の雨はまだ止む気配を見せず、時間はゆっくりと、二人だけの世界を包み込んでいた。
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