光のれな子   作:あばなたらたやた

13 / 46
ごめんなさい、投稿する順番間違えました。
先に9話と9.5話を投稿してしまいました。瀬名紫陽花との会話がある8.9話が挟まります。


8.9

 

 朝の校舎は冬の静けさに包まれながらも、あちこちで人間の笑い声が響く。

 私は窓際の席で、その様子をぼんやり眺めていた。

 人が多い場所は、やっぱり少し疲れる。嫌いではない。でも、長くいると、頭の中がざわついてしまう。

 

「れなちゃん」

 

 隣から柔らかい声が聞こえた。振り向くと、紫陽花さんが小さく笑っている。

 

「おはよう」

「うん、よろしく」

「ねぇ」

「ん? なになに?」

「今日は私が聞いてもいい?」

 

 私は首を傾げる。

 

「んにゃ、なにを?」

「れなちゃんのこと」

「……私?」

「うん」

 

 紫陽花さんは真っ直ぐ私を見る。

 

「私ばっかり話してたでしょう? 今度は、れなちゃんの番」

「私なんて、特に話すことないよ」

「あるよ」

 

 即答だった。

 

「絶対ある」

 

 沈黙。

 その沈黙を、紫陽花さんは急かさない。

 私はその時間がありがたかった。やがて、小さく口を開くことにした。

 

「……私ね」

「うん」

「昔から人付き合いが得意じゃないんだ」

 

 紫陽花さんは何も言わない。ただ聞いている。

 

「大人数になると何を話したらいいのか分からなくなる。だから一対一が好き」

 

 私は遠くを見る。

 

「一人で静かな時間が好き。ゲームも、本も、哲学も全部、一人で考える時間があるから好き」

 

 紫陽花さんは優しく笑う。

 

「れなちゃんらしい」 

 

私は肩をすくめる。

 

「でも、たまに一人すぎるなって思う」

 

 その言葉が、自分でも意外だった。私は誰にも言ったことがなかった。紫陽花さんは驚かない。否定もしない。

 ただ「うん」とだけ返した。

 

「通知も来ないし、休日も一人が多い。それでいいって思ってた。でも」

 

 私は苦笑する。

 

「紫陽花さんと遊んだ日。あの日だけは帰ってから、また遊びたいなって思った。一人は楽だけど、独りは寂しい」

「私、れなちゃんのことそんなこと思うタイプじゃないと思ってた」

 

 紫陽花さんは少しだけ目を潤ませた。

 

「れなちゃん。私ね、すごく嬉しい」

「どうして?」

「だって、れなちゃんもちゃんと寂しいって思う人だった」

「な、なにそれ? 私は紫陽花さんに機械みたいな人間だと思われていたのか……!」

「うーん、機械ではないけど、もっと超人みたいな人だと思ってた」

「そんなわけないのですよ、甘織れな子は弱い人間です」

 

 私は笑った。

 

「疲れるし、落ち込むし、失敗もする」

 

 やがて、紫陽花さんが、私の袖を少しだけつまんだ。

 

「ねぇ、これからは私だけが助けてもらうんじゃなくて、れなちゃんも私を頼ってね」

 

 私は驚いた。

 その言葉は、前の紫陽花さんなら、絶対に言えなかった。

 

「……そうだね、そのときは遠慮しない」

「約束?」

 

 彼女が小指を差し出す。

 私は少し照れながら、小指を絡めた。

 

「約束」

 

 二人で笑う。

 もう昔の孤独とは違う。

 一人でいることを知っている二人が必要なときには互いを頼れる。

 そんな関係が、できたと思う。

 

関わりが見たいヒロイン

  • 王塚真唯
  • 瀬名紫陽花
  • 琴紗月
  • 小柳香穂
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。