光のれな子   作:あーばれすと

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二話

 

 王塚真唯は、眩しいものをみるような目つきで私を見た。

 

「君の気持ちが分かるとは言わない。しかし似たような気分になる時がある」

「なるほど、聞きたい」

「珍しい返答だな、普通は驚くと思うが」

「人間だし、あるでしょ」

「……そうだな、私も人間なんだ」

 

 これは私への慰めか、あるいは共感なのかわからないが、しかし王塚真唯が自らの心情を話すのは珍しいことだった。

 彼女は常に完璧を演じている印象があるし、自らの失態や失敗に対して些か過剰に落ち込むクセがあるのは知っていた。

 

 王塚真唯の社会的地位に起因する責任感や、こうあるべき、という理想化された自分と現実のギャップが発生した時に落ち込みが起こるのだろう。

 理想と現実の摺合せをする機会は、それこそ国の運営する社会復帰施設で訓練しないと、高校生までの人間はないだろうから、当然ではあった。

 

 あるいは定時制高校で、年上の人に教えてもらえればあり得るかもしれないが……それでも少数派だ。

 

 国家資格を持った先生でさえ、30越えて自分の青臭さを飲み込み、40越えればうまく付き合えるようになると言っていたくらいだ。

 

 それを高校生が、しかも高い社会的立場あり、高いハードルを越える事を求められる彼女が理想に取り憑かれるのは仕方のないことだろう、と私は思う。

 

「私は環境に恵まれている。それに見合う努力を重ねてきた。そこに疑いはない。みんなが私といて喜んでくれると、気分が嬉しい」

「自分と一緒にいてみんなが白けてると凹むからねぇ。楽しんでいてくれると自分に価値があるように思える」

「ああ、そのとおりだ。だけど急に寂しくなる時がある。みんなは本当の王塚真唯をみていてくれているのだろうか? と」

「本当の自分か」

 

 思春期だね、と言いかけて慌てて飲み込む。何だその悩みは。ライトノベルや純文学でありそうなテーマな話題だ。だがそれだけ普遍的で、世代を問わない不変な精神状態なのだろう。

 

「となると、現実は逆ってことだよね? 演じている、合わせている感覚が強めってことかな。周りの人間が求める王塚真唯を演じている感覚があるから、自分の欲求や願いが無視されている気持ちになる……とか」

 

 私がそう言うと、王塚真唯は目を見開いてこちらを見ていた。口も開いて、全身で驚いている様子を表現している。

 どうしたお前。

 なんかいつにもまして余裕がないキャラしているけど、それが素なの?

 

「そ、その通りだ。凄いな。まさかこれだけの会話で私の心を読み取るとは……れな子の言う通りだ。演じている感覚があり、自分が無視されている気がする。何か特別な能力でもあるのではないか?」

「無いですけど」

 

 国の優秀な人材から、考え抜かれたカリキュラムで勉強を教えて頂いたお陰です。

 

「でも、そういう風に感じるのは理解できるよ」

「と、いうと?」

「常に完璧を目指す王塚真唯。弱音は吐かず、周囲の期待に応えて、誠実に真っ当に努力する。それが今の王塚真唯、少なくとも学校ではそういうキャラクターしてる」

「ああ、その通りだ。まさにれな子の言う通り、恵まれた環境に見合う存在でなければならないからな」

 

 私は思う。

 これは典型的なパターンだと。

 完璧主義。

 これに尽きる。

 そういう完璧超人は目指しても良いが、ある程度、現実との折り合いをつけれる人間がやらないと破綻する。

 特に『しなければならない』『するべきだ』という考え方がある人間は、認知が歪んでいるので、限界がくれば真っ逆さまだ。

 

 王塚真唯は人間としての基礎スペックも高いそうだし、社会的地位も高く、恵まれている存在だ。だからこそ、それに見合うべく努力する方向性として完璧を目指したのだろうが……いや、無理だって。

 

 人間が完璧を目指しても、現実は不条理と理不尽で満ちているから破綻する。それを経験値として次へ繋げられる精神の持ち主であったことも運がない。

 

 彼女は、人間が死ぬことを回避できないような、全身全霊で頑張っても報われない挫折を知るべきだったのだ。そしたら(?)彼女は、理想と現実の折り合いをつけた人生を送れるだろう、と私は感じる。

 私が黙っていると、流石に不安を感じたのか、彼女の方から声を掛けてきた。

 

「私が、弱音を言うのがそんなに変だっただろうか? 失望したか?」

「いや? でも言葉は選ばないと傷つけるなーと思って考えてた。うーん、まぁ、頑張りすぎですかね」

「が、頑張りすぎ?」

 

 王塚真唯は虚を突かれたように私の言葉を繰り返した。しかしそれしか言う言葉が見当たらないのだ。

 

「それは些か、なんというか」

「納得できない? 頑張りすぎって言葉に」

「そうだな、今までこうしてやってきたからこそ、過剰である感覚はない」

「そうだね、それが自信に繋がっている部分もあるから難しいんだよね……じゃあ逆に頑張れなかった時の事を考えよう」

 

 発想の逆転である。

 

「理屈で考えよう。まず恵まれた王塚真唯は高い水準で物事を考えます。そしてそれを下回った時に落ち込む。これは自覚あるでしょ? さっきもそうだったし。私を勘違いから殺しかけた時にかなり凹んだもんね」

 

 王塚真唯の勘違いで私を転落死させた事実を例に挙げる。すると彼女は顔を青褪めさせて、すまない、と下を向いた。

 

「はい、落ち込んだ。この状態は王塚真唯が自らに課した高水準のハードルを下回ったタイミングです」

 

 顔が下がった王塚真唯を、両手で挟んで上へ上げる。

 

「そこで王塚真唯は白黒思考で、ミスする王塚真唯はダメなヤツだと強い自己否定が発生し、自己価値を一段階低くします。するとストレスや不安が強くなり、感情のコントロールも難しくなる」

 

 王塚真唯の視線を逸らさせない。

 

「それこそが、私に語った王塚真唯の弱音や寂しさを感じる状態であると、この甘識れな子は愚考します。で、大元を辿ると高水準の価値観が悪さをしているわけでして」

 

 高い水準のハードル。それを越え続ける努力。その失敗した時のダメージが弱音の原因だという前提を提示した。

 逆説的に、その高水準のハードルと越える努力が無ければ傷つかないことを意味する。

 更に畳み掛ける。

 

「この高水準の価値観は、王塚真唯は完璧ではならないといけない、という主義に基づいていて、更にそのハードルを越えるべく努力する行為に紐づいている。そして下回った時に強いストレスを受けた。つまりは、高い理想を維持しようとして頑張りすぎた結果、失敗してダメージを大きくしていることに繋がるわけですなんですよ」

 

 上手く理論は言えただろうか? いや、そこは問題ではない。頭の良い彼女ならば自らの頭で考えてくれる。

 肝心なのは、頑張りすぎると良くないよ、ということが伝われば良いのだ。

 

「理想のハードルを低く設定し、失敗しても、こういうこともあるよね、と受け流すことができれば、頑張っている感覚は薄れて、演じている感覚や、本当の自分を見てもらえない寂しさも減る……かもしれない」

 

 そこは専門家ではないから断言できない。しかし私の中にある知識や記憶で頑張って王塚真唯の精神状態を分析してみた。

 正しい、正しくない。

 理屈が通る、通ってないか。

 それはあんまり関係がないんだ。王塚の家のカウンセラーにでも聞いてみれば良い。

 だけどここで私が伝えたいのは。

 

「王塚真唯は頑張っている。それはもうめちゃくちゃ頑張っていると思う! 客観的に見てそう思う。だから休め! 最強無敵完璧超人の王塚真唯を辞めて休憩して。ずっと辞めなくて良いから、適度に休憩を挟んで、自分を労る時間を作ってくださいよろしくお願いします! じゃないとたぶんメンタル壊すよ!! このままでは過労死します!!」

 

 ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、と私は荒い息を吐いて心の底からの言葉をぶつけた。すると王塚真唯は、私の両手に手を重ねていた。

 

「なんだか、凄く嬉しいんだ」

「へ?」

「君の言う理屈や言葉は、深い知識がない私には曖昧な理解でしかない。だけど、それ以上に、君が私を慮ってくれた事と、言葉を尽くしてくれたことが嬉しいんだ」

「そ、そっか。なら良かった。真唯とは友達だからね。友達の為に全力を尽くせない人間ではありたくないと思っているから、その想いが届いたなら嬉しいな」

「ああ、嬉しい。とても、嬉しかったんだよ、れな子」

 

 私は王塚真唯にハグされた。木から落ちそうになった。そういえばいつまで木の上で話していたんだ。危ないにもほどがある。

 私もどうやら、相当気が動転していたらしい。

関わりが見たいヒロイン

  • 王塚真唯
  • 瀬名紫陽花
  • 琴紗月
  • 小柳香穂
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