大水槽の厳かで、それでいてどこか冷ややかな青い世界を後にした私たちは、順路に従ってゆっくりと歩みを進めていく。
次はお土産コーナー。
特に急ぐ理由もないから、紫陽花さんは相変わらず穏やかな笑みをたたえて隣を歩いてくれているし、私も、この心地よい静けさをずっと手放したくないと思っていた。
「何か、買って帰る?」
ふと、隣を歩く紫陽花さんが私の顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
「そうだね、せっかくだし。何か、今日を思い出せるようなものがあればいいなって」
私が少し照れくさそうに答えると、紫陽花さんは「ふふ、そうだね」と嬉しそうに目元を緩めた。
「それに、他のみんなへのお土産もあるし」
「あ……そっか。真唯に紗月さんへのお土産か」
その言葉に、私は思わず頭をよぎった面々の顔を思い浮かべる。
みんな、何を買っていったら喜んでくれるだろうか?
「ふむ。真唯には実用的なもの? 紗月さんは……ええと、あんまりファンシーなものは使ってくれないかも……」
指先をあごに当てて真剣に悩み始める私を見て、紫陽花さんはくすくすと楽しそうに笑う。
「れなちゃんは、本当にいつもみんなのことを一番に考えてるね」
「えっ? あ、あはは……つい、癖というか」
「ううん、そういう優しいところが、れなちゃんらしくて大好きだよ」
さらりと言われた言葉に、私の心臓がまたトクトクと小さな音を立てて跳ね上がる。
お土産コーナーに一歩足を踏み入れると、そこは海の生き物たちをモチーフにした色とりどりのグッズで溢れていた。
青、ピンク、黄色。外の明るい日常に戻ってきたかのような賑やかさに包まれながら、私たちは棚の間を肩を並べて歩く。
「あ、れなちゃん。これ、見て」
紫陽花さんが立ち止まり、棚の一角を指差した。
そこにあったのは、砂の中からひょっこりと顔を出す、可愛らしいチンアナゴのぬいぐるみやキーホルダーたち。
「わあ、チンアナゴ……! ゆらゆら揺れていて可愛い」
「ふふ、なんだかこの、マイペースにゆらゆらしている感じ……ちょっとれなちゃんに似ている気がする」
「ええっ!? 私、こんなに細長くないよ!?」
「そういう意味じゃなくて、見ていると心が和むところ」
そう言って、紫陽花さんはチンアナゴの小さなキーホルダーを一つ手に取り、愛おしそうに見つめた。
その穏やかな表情を見つめながら、私は先ほど大水槽の前で話した「群れ」のことを思い出す。
みんなと同じ方向へ流されるのは楽で、安全で、間違いも少ない。だけど、最後は自分の意志で決めなきゃいけない。その選択の末路に、自分が納得できるように。
「紫陽花さん」
「はい? どうしました、れなちゃん」
「あの……。これ、お揃いで買わない?」
私は、紫陽花さんが持っているものと同じチンアナゴのキーホルダーを、もう一つ手に取って見せた。
「お揃い?」
「うん、みんなへのお土産も大切だけど、今日のこの、紫陽花さんと二人だけの特別な時間の思い出として、持っておきたくて」
紫陽花さんは驚いたように少しだけ目を見開いたあと、その温かなオレンジ色の瞳を潤ませるようにして、今日一番の、本当に嬉しそうな笑顔を咲かせた。
「……うん、喜んで。大切に、カバンにつけるね」
レジへと向かう私たちの歩幅は、相変わらず優しく、ぴったりと揃っていた。
お互いがお互いを選んだという確かな納得を、小さなチンアナゴの重みに乗せて、私たちは水族館を後にするのだった。
映画を見直してくるので、少しお待ちください
関わりが見たいヒロイン
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王塚真唯
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瀬名紫陽花
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琴紗月
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小柳香穂