光のれな子   作:あばなたらたやた

43 / 46
34話:

 

 昼休みの教室は、いつも通りの賑やかな喧騒に満ちていた。

 

 飛び交う笑い声、机を寄せて楽しそうに談笑するクラスメイトたち、購買へと猛ダッシュしていく足音――そのすべてが、まぶしすぎるくらい「青春」の風景だ。だけど、私たちが囲む机の周りだけは、どこか凪いだように穏やかな時間が流れていた。

 私は、目の前に座る三人の顔をゆっくりと見回す。

 

 王塚真唯。

 琴紗月。

 瀬名紫陽花。

 それぞれに苦悩と幸福があり、トラブルがあったが、こうして当たり前のように同じ机を囲んでお昼を食べている。

 

 過去を忘れたわけじゃない。

 みんな消せない想いを抱えたまま、それでも止まってくれない日常を、一緒に歩んでいるんだ。

 

「今日は、みんなに相談があるんだ」

 

 私が小さく切り出すと、三人の視線が一斉に私へ集まった。

 

「相談? 困り事かな、れな子。私は君の助けになりたい」

 

 真唯がスパダリムーブしつつ、紫陽花さんも、いつもの柔らかい微笑みを浮かべてくれた。

 紗月さんだけは静かに紅茶を一口飲んでから、淡々と言う。

 

「内容によるわね」

 

 なんだか急に緊張してきて、私は照れくささを誤魔化すように頬をゆるめた。

 

「その……一緒にゲームをしてみたいなって」

 

 一瞬の間。

 

「……ゲーム?」

 

 最初に反応したのは紫陽花さんだった。

 

「うん。私、一人で遊ぶことはあっても、みんなでワイワイやるゲームってあまり経験がなくて……だから、一度みんなで遊んでみたい」

 

 その言葉を聞いた瞬間、真唯の表情がふわりと和らいだ。

 

「もちろんだ、れな子が一緒に遊びたいなら、私はそれに付き合うとも。すごく嬉しいよ」

 

 迷いのない即答。

 「ありがとう」と返した私の笑顔を見て、真唯は満足そうに微笑む。

 ――必要とされること。それだけで嬉しい。

 真唯の瞳にはそう書いてあるみたいだった。けれど、その必要」とされる相手が自分だけじゃないってことを、真唯は誰よりも分かっているはずだ。

 そんな真唯の優しさが、ときどき少しだけ切なくなる。

 

「協力するゲームなら私も好きだよ」

 

 紫陽花さんが楽しそうに身を乗り出してくれた。

 

「ありがとう、これなんですけど……」

 

 私はスマホを取り出し、画面をみんなに見せる。そこにはドーンと大きなロゴが映し出されていた。

 

『モンスター・コア・ソウルズボーン狼デンリング』

 略して――。

 

「『モンコア』です」

「……随分と情報量の多いタイトルね」

 

 紗月さんが即座に眉をひそめた。

 

「私も最初そう思いました……」

 

 苦笑いする私を横目に、紗月さんは画面を覗き込みながら、いつもの調子で分析を始める。

 

「無料。携帯端末。協力型アクションRPG……合理的ね」

「え?」

「導入障壁が極めて低いわ。無料ゆえに費用が発生せず、スマホ対応だから専用ハードも不要。さらに協力型なら、初心者のミスを経験者がカバーできる。――つまり、友人同士で遊ばせることを前提とした明確な設計思想が見えるわね」

 

 息を吐くようにポンポンと考察を述べる紗月さんを見て、私は素直に感動してしまった。

 

「そこまで深く考えてなかった。流石は紗月さん」

「ゲームの設計には開発者の人間観が宿るものよ。それで、どんなゲームなの?」

 

 私は画面をスワイプしながら説明を続けた。

 

「基本はワンエリアのミッション制で、巨大なモンスターをみんなで倒すゲームです。剣と魔法の世界なんですけど……職業が少し独特で」

 

 画面には『忍』とか『ロボット』なんて文字が躍っている。

 

「……世界観は?」

 

 紗月さんのジト目っぽい追及に、私は少しタジタジになりながら答えた。

 

「剣と魔法です」

「忍」

「いるね」

「ロボット」

「……いるね」

「私の考えた最強のアクションゲームみたいなゲームね」

「うん、色々な作品から影響を受けているみたい」

 

 思わず吹き出す紫陽花さん。

 

「えっと、四人で遊ぶってことは四人で、敵を倒すんだよね。役割分担とかもあるのかな?」

「あるある! 近接、遠距離、支援、タンク……色々あって」

「へー、いっぱいあるね」

 

 紗月さんが、話を現実に引き戻してくれた。

 

「で、どこで遊ぶの?」

「あ、今日の放課後、私の家でどうかなって……!」

 

 三人は顔を見合わせる。

 

「私は構わないわ」

「私も行く!」

「もちろん。楽しみにしているよ」

 

 全員が快く頷いてくれて、私は胸を撫でおろした。

 

「よかった……!」

 

 パッと華やぐ私の顔を見て、三人の唇からも自然と笑みがこぼれ落ちる。

 

 放課後。

 私の部屋には、四人分のクッションとお菓子、そしてローテーブルの中央に置かれた私のスマホが並んでいた。

 

 画面に映し出されているのは、『モンスター・コア・ソウルズボーン狼デンリング』のキャラクター作成画面。

 

「それじゃあ、まずはキャラクターを作りましょうか」

 

 私が言うと、みんなが興味深そうに画面を覗き込んできた。

 

「素性と初期武器、それから戦い方を決めるみたい」

「結構、自由度が高いんだね」

 

 真唯が感心したように呟けば、紗月さんも手元の説明文に目を通しながら頷く。

 

「初期能力だけじゃなく、専用スキルまで変わるのね。本格的だわ」

「うん、なんだかワクワクするね!」

 

 紫陽花さんも楽しそうだ。三人の楽しそうな顔を見て、私も嬉しくなって提案してみる。

 

「こういうチームで戦うゲームなら役割分担するのが定石なんだけど、それだと窮屈だし、自分を模したキャラクターを作ってみない?」

 

 みんな異論はないみたいで、自然と視線が私へと集まった。

 

「まずは、れなちゃんからじゃない?」

「え、私ですか!?」

 

 紫陽花さんの提案に、真唯も優しく微笑む。

 

「ああ、れな子は自分がこのゲームの住人なら、どんな戦い方をすると思う?」

「私は……うーん……」

 

 うーんと唸って考え込もうとした瞬間、紗月さんが即答した。

 

「遠距離攻撃ではないわね」

「えっ」

「あなたは相手から逃げない。危険だと分かっていても、自分から前へ出るでしょう」

 

 あまりにも迷いのない声に、私は言葉を詰まらせる。

 

「……それは、あなたそのものよ。理解するために相手との距離を詰める人間なんだから」

「そんなに分かりやすいですか、私……」

 

 私が苦笑すると、真唯も大きく頷いた。

 

「私も、れな子は近接タイプだと思うかな。散弾銃とか似合いそうだ」

 

 「近付いて一気に決める感じだよね」と紫陽花さんが笑うと、真唯がさらに付け加えた。

 

「あと、包丁とか」

「包丁!? え、武器じゃなくて!?」

「あ、料理人っことじゃないよ?」

「そんな誤解してません!」

「でも、甘織って大きい武器を振り回してるイメージはあるわね。大きめの鉈とか、ノコギリとか」

 

 紗月さんが画面をシュッと操作する。

 

「……ノコギリ鉈。これにしなさい」

「本当にあるんかい!」

「世界観がカオスよね、このゲーム。あ、散弾銃も本当にあるわ」

「なんでだ! え、実は既プレイとかだったりしてない!?」

 

 紫陽花さんに笑われて、私は自分の選択肢の物騒さに頭を抱えた。

 

「私、そんなに物騒な人間ですか……?」

「武器が物騒なだけだよ」

 

 真唯が優しく微笑みながら、私の不安を打ち消すように言葉を重ねる。

 

「戦い方は真逆。武器で相手を圧倒するためじゃなくて……どれだけ危険でも、一番前で仲間を守るために戦うんだよ」

「だから、高速近接型かしらね。これが一番あなたらしいわ」

 

 紗月さんの結論に、私は胸の奥が少しキュッとなりながらも、照れくさくキャラクターを確定させた。

 

 素性: 従軍経験

 武器: ノコギリ鉈/散弾銃

 方針: 高速近接型

 

 

「次は私をお願いしたいな。みんなは何が似合うと思う」

 

 首を傾げる紫陽花さんをよそに、真唯が即座に言った。

 

「紫陽花はヒーラーだろう」

「私もそう思う! 紫陽花さんは癒し系だし」

「うぅ……ええ? うん、否定できない」

 

 参ったように眉を下げる紫陽花さん。紗月さんが静かにスキル欄を読み上げる。

 

「『預言者』……回復奇跡に、雷奇跡。完全に瀬名向けね」

「私ってそんなに?」

「自分が前へ出るより、仲間を支えるのが紫陽花さんだから。でも、本当に危ない時だけは、自分が傷付いてでも助けに来てくれる」

 

 私がそう言うと、紫陽花さんは一瞬だけ視線を泳がせた。

 

「……そういうところ、ちゃんと見てるんだね」

「見てるよ、ずっと」

 

 私が微笑むと、紫陽花さんも観念したようにふっと笑った。

 

 素性: 預言者

 武器: 聖印(奇跡)

 方針: 回復・雷奇跡支援

 

 

「次は真唯だね!」

 

 私は画面の素性一覧を眺め、あるひとつの項目で目が止まった。

 

「……あ」

「どうしたの、れな子?」

「『変異波形』……何だかすっごく強そう。高機動、エネルギー兵器、近接ブレード」

「ロボットキャラクター?」

 

 紫陽花さんが僅かに声を弾ませる。紗月さんも静かに頷いた。

 

「支援役でありながら、自分でも前線へ行ける。何でもこなせる万能型ね。真唯らしいわ」

「うん、私もそう思う」

 

 私も深く同意した。

 

「何でも完璧に覚えちゃいそう。実際、器用万能なところもあるし」

 

 真唯は少し照れたように笑った。

 

「現実の私はそこまで能力があるわけではないさ。無論、そうなるように努力は怠らないが」

「真唯、武器はどうする?」

「なら、パルスブレードとエネルギーライフルだな。近距離も遠距離も対応できるようにしておくよ。困っている人がいたら、どこへでも助けに行けるように」

 

そう言って笑う真唯の姿は、やっぱり最高にかっこいい。

 

 素性: 変異波形

 武器: パルスブレード/エネルギーライフル

 方針: 高機動・万能型

 

 

「最後は、紗月さんか」

 

 私、真唯、紫陽花さんの三人は顔を見合わせ――そして、声をそろえた。

 

「「「忍」」」

 

 紗月さんが「はぁ」と小さくため息をつく。

 

「あなたたちね……」

「だって、説明文がそのまま紗月さんなんだもん」

 

 画面には『敵の攻撃を弾き、体勢を崩し、致命の一撃を叩き込む』と書かれていた。

 

「合理的な紗月っぽいだろう?」

「理論武装して正論パンチするところとかそれっぽい」

「忍って、黒髪の印象があるから……」

 

 紗月さんは短く呟き、納得したように頷く。

 

「無駄な力を使わず、最小の行動で最大の成果を得る。一番効率が良いわ。……武器は刀、忍び義手。戦闘方針は体幹削り。これにするわ」

 

 素性: 忍

 武器: 刀/忍び義手

 方針: 体幹削り・体勢崩し

 

 

 突撃前衛の私。

 回復支援の紫陽花さん。

 万能支援の真唯。

 技巧前衛の紗月さん。

 

 見事なまでにバラバラで、けれどこれ以上なく噛み合っている四人の画面を見渡して、私は思わず笑みがこぼれた。

 

「おお……すごい性格が出てる」

 

 私の言葉に、真唯も、紫陽花さんも、紗月さんも、それぞれの柔らかい表情で小さく笑った。

 

 ゲームは、自由に「別の誰か」になれる遊びだ。だけど本当にすごいゲームは、自由に選んだはずの選択肢の中に、その人自身の生き方を綺麗に映し出してしまう。

 

 人は、ただ好きなものを選んでいるんじゃない。

 

 これまでに積み重ねてきた選択と生き方が、その選択肢を選ばせているんだ。だから、この四つのキャラクターは偶然じゃない。

 

 彼女たちが歩んできた人生そのものが、この画面の中に現れているんだと思う。

 

「よしっ……それじゃあみんな、ミッション開始!」

 

 私の合図で、四人の戦いが静かに幕を開けた。

関わりが見たいヒロイン

  • 王塚真唯
  • 瀬名紫陽花
  • 琴紗月
  • 小柳香穂
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。