■光のれな子   作:あばなたらたやた

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五話★

 学校の人気の少ないベンチ。

 

 今は私と真唯二人だけの時間だ。

 真唯は私の右手を両手で大切そうに包み込み、時折指を絡めては、確かめるように力を込める。

 私はその温もりを感じながら、彼女の横顔をじっと見つめていた。

 

 社会的地位、誰もが振り返る完璧な美貌、学校中から「王子様」と崇められる華。そして何不自由ない富。すべてを持っているはずの彼女に対し、私はどこか静かな怜憫の念を抱かずにはいられない。

 

 彼女の周囲には常に人がいたが、本当に彼女自身を愛する者は誰もいなかった。

 親は完璧な跡取りとしての期待だけを注ぎ、周囲は遠くから拝むだけ。

 仮面の下の脆さに触れようとする者など存在しなかったのだ。拍手と視線だけで飢えを凌いできた、伽藍堂の美しい人形。

 

 それが、私の観察した王塚真唯の正体だった。だからこそ、私という安全地帯を得た反動で、彼女の愛されたいという幼い欲求が爆発している。

 私は穏やかな声で、そっと問いかけた。

 

「真唯。今、幸せ?」

「ああ……すごく幸せだとも、れな子。君とこうして並んでいるだけで、胸の奥が温かい何かで満たされていくのがわかる」

「どんな風に思う? その幸せって」

「そうだな……」

 

 真唯は少し視線を彷徨わせ、言葉を吟味するようにゆっくりと紡いだ。

 

「まるで、長い間限界まで張り詰められていた糸が、ふっと緩んだような感覚だ。ずっと『完璧な王塚真唯』でいなければと自分を縛り付けて、誰にも弱音を見せられなくて……でも、れな子の前ではそのすべてが不要だと思える。それが、たまらなく心地よくて、温かいんだ」

「じゃあ、今、世界の景色はどういう色に見える?」

「金色……かな」

 

 真唯は空を見上げ、深く息を吐いた。

 

「夕陽のような、柔らかくて明るい金色だ。世界中のすべてが優しく肯定されているような……眩しいけれど、決して目を痛めつけない、そんな光のなかにいる気分だよ」

「へえ、良い表現じゃん。そういうちょっとポエチックな感性がある真唯、私は好きだよ」

 

 私がクスリと笑って茶化すと、真唯は途端に顔を真っ赤にして「ポ、ポエチックだろうか!?  私は至って大真面目に……!」と狼狽し始めた。

 完璧な王子様が形無しである。その様子があまりにおかしく、思わず笑ってしまった。

 

「ふふ、冗談。……じゃあ、最後に一つだけ教えて」

 

 私は悪戯っぽい笑みを収め、静かに声を落とした。

 

「こうやって私と一緒にいて、どんな感情になる?  落ち着く?  安心する?  それとも……少し不安になったりする?」

「……全部、だろうか」

 

 恥ずかしそうに長い睫毛を伏せ、彼女は消え入りそうな声で告白する。

 

「落ち着くし、心から安心している。君が隣にいてくれるだけで、頭の中の雑音が静かになるんだ。でも、同時に……ひどく不安にもなる。私のような人間がこんなに幸せでいいのだろうか、いつかこの温もりが突然消えてなくなってしまったらどうしよう、と怖くなることもあるんだ」

 

 揺れるブルーの瞳が、彼女の抱える根深い傷を物語っていた。

 

「私は、完璧でなければ誰からも愛されないと信じて生きてきたから……なのに、れな子は私の情けないところも、醜い欲求もすべて見て、その上でこうしてそばにいてくれる。それが嬉しくて、同時にまだ、奇跡のようで信じられない」

 

 真唯は私の手を自分の左胸のあたりへと引き寄せた。衣服越しに、トクトクと速いテンポで刻まれる鼓動が手のひらに伝わってくる。

 

「ほら、驚くほど脈打っているだろう? 幸福と、破滅への不安が、完全に共存しているんだ」

「ありがとう。素直に教えてくれて」

 

 私の言葉に安心したのか、真唯は少し照れくさそうにしながら、私の肩へと再び頭を預けてきた。

 風が冷たく吹き抜け、桃色のボブヘアと金色の長い髪を優しく揺らす。

 私は彼女の頭をそっと撫でながら、その横顔を静かに観察し続けた。彼女の幸せも、その裏にある底無しの不安も、どちらも紛れもない本物だ。長すぎた緊張の反動が、今こうして彼女を素直にさせている。

 

 私はその歪さを否定しない。ただ、こうして隣にいて、温もりを分け合うことでしか癒えない渇きがあるのなら、いくらでも手を貸そうと思う。

 

 お互いの体温を分け合うようなこの静かな助け合いこそが、今の私たちに必要な距離感なのだ。怜憫はある。けれど、決して見下すわけではない。彼女の孤独の深さをデータとして正しく見つめ、私はただ、彼女にとって最も心地よい最適な空間を提供し続けるように

頑張ろう。

 

関わりが見たいヒロイン

  • 王塚真唯
  • 瀬名紫陽花
  • 琴紗月
  • 小柳香穂
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