TS最強ハンターは元に戻りたい   作:匿名

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第1話

目の前にセーラー服がある。

 

 

三本のラインが入った白い大きな襟が特徴的な女子の制服。

 

大破壊前から続く伝統的な学生服だ。

 

 

そう言えばセーラー服をマジマジと見る機会なんかなかったなと思ってジッと見る。

 

俺は『市外』の貧民街の生まれだったからこの四十六年の人生において、まともに学生をやった記憶がない。

 

 

「――これは?」

 

「……セーラー服だ」

 

 

ハンターズギルド長である堂島のジジイが威厳たっぷりに告げる。

 

「いや、そんなもん見れば分かるんだよ! これが意味する所を聞いてるんだよ!」

 

「これはお前のだ。これを着てとある女子高に潜り込んで欲しい」

 

「あぁ……、遂にボケちまったのか……」

 

 

なんせこの爺様は『大破壊』 の時の英雄だ。

御歳二百歳の超高齢。

 

いつボケてもおかしくはない。

 

 

「かつての英雄も、よる年波には勝てなかったって訳か……」

 

そう言いながら応接ソファに体重を預け、懐から煙草を取り出して火をつける。

肺いっぱいに煙を吸い込み、紫煙を吐き出した。

 

ギルド長室の大きな窓からは『市内』の摩天楼が広がっている。

 

 

「安心しろ、堂島の爺さん。ちゃんと立派な老人ホームをみつけてやる。それに、あんたがどれだけボケても約束通りちゃんとギルドの面倒は見てやるよ」

 

 

「ボケとらんわ! まだワシは百九十七歳じゃ!」

 

 

「じゃあちゃんと説明しやがれジジイ! 俺だって暇じゃないんだぞ!」

 

 

「……これはネオ東京にある、とある女子校の制服じゃ。聖白百合女学園と言えば、ダンジョン学園の中でもかなりレベルの高い学校なんじゃが聞いたことはあるか?」

 

「全然。そもそもダンジョン学園ってあれだろ? ハンターになりたいなんて馬鹿な夢を持った馬鹿なガキから金を搾り取って現実を叩き込んで追い出すってクソみてえな施設だろ?」

 

「もっと言い方を考えろ!」

 

 

顔を真っ赤にして怒る爺様。

いや、間違ってないと思うんだけどなぁ。

 

そもそもハンターなんてなろうと思ってなるのが変なんだ。

 

3K仕事じゃなくて、(油断したら)死ぬ、(運が悪ければ)死ぬ、(特に理由もなく)死ぬの3S仕事だ。

 

ブラックを通り越してダークネスな職場に憧れるとか親不孝もいい所だ。

 

 

「……あー、でも先天的なスキル持ちなら仕方がないのか?」

 

「そうじゃな。ある意味ダンジョン学園は生まれながらにスキルを持った子供たちの隔離施設という面もある。そこで社会性を身につけ、うまく社会に順応する為のサポート施設という側面が強い」

 

 

二百年前、この世界に突如として現れた異物。

 

ダンジョン。

 

そこには様々な物が存在した。

 

一瞬であらゆる病気や怪我を治す霊薬。

無限の財貨を与えてくれる小箱。

不死さえ叶えてくれる妙薬。

無限のエネルギーを放出する宝珠。

そしてそれ等を守るようにダンジョンを徘徊する無数の魔物達。

 

大昔に流行った現代ダンジョン物のストーリーが現実となったのだ。

 

そして現実は三文娯楽小説のストーリーラインに乗って推移する。

 

 

世界各国で日に日に増えるダンジョン。

そして魔物達がダンジョンから溢れ出し、この世界を蹂躙したのだ。

 

いわゆる『大破壊』と呼ばれる人類史上でも類を見ない未曽有の大災害だ。

 

そして『大破壊』 がもたらしたのは破壊だけではなかった。

 

 

先天性超常能力症候群。

 

通称、先天性スキル。

 

『大破壊』 以降に生まれた子どもの内、何割かの子どもが生まれながら持つ超常の力。

 

その習得原理も理由も一切が不明だ。

 

 

「まぁ人を気軽に殺せる力を持ったガキが野放しになるなんて『市内』じゃ考えられないだろうしな」

 

「そういう事だ。そして、ダンジョン学園でも扱える力の程度、という物がある」

 

 

――――あぁ、なるほど。

何となく話が見えてきたな……。

 

 

「つまりあれか? その聖白百合女学園 なるダンジョン学園にとんでもなく強力なスキルを持ったガキが現れたってことか? んで、そのガキが暴れた時の対策として俺にお鉢が回ってきた……って訳か」

 

「そう言う事だ。学はない癖に相変わらず頭の回転は速いな」

 

「そうじゃなきゃダンジョンで死んじまうからな」

 

ジュっと備え付けの灰皿で煙草の火をもみ消す。

 

「だがよぉ爺さん。結局話は元に戻るぜ? なんで四十も半ばを過ぎたオッサンにセーラー服を着せるんだって話だ」

 

この爺にはガキの頃から世話になっているし、俺だって一応はハンターギルドという組織の一員だという認識もある。

 

なので別にそのダンジョン学園に潜り込むのは吝かではない。

 

しかし、それなら教師や用務員など色々選択肢はあるだろう!

何が悲しくて五十手前でセーラー服を着にゃあならんのだ。

 

 

「理由は当然ある」

 

爺は机に置かれたシガーケースから葉巻を取り出し、手慣れた手つきで両端をカットしてマッチを擦る。

 

「一つは問題の学園がかなり特殊な学校法人でな。儂らハンターギルドの助力は欲しいし、介入は黙認するそうだが協力までは出来かねると連絡があった」

 

「あー。いわゆる大人の事情ってやつ? 嫌だねぇ『市内』は人間関係複雑で」

 

人間、組織になれば派閥や忖度が横行するのは『大破壊』前も後も変わらない。

 

「教職員枠での募集が今はないそうでな。その線での潜入は不可。

そうなると常に応募可能な編入性枠を使って潜り込むしかない」

 

「だから――――」

 

「わかっているだろう? マコト。いい加減現実を見ろ」

 

紫煙をくゆらせ、爺の鋭い眼光が俺を突き刺す。

 

 

……わかっている。

わかっていはいるが、認めたくない事実と言うのは誰にだってあるものだ。

 

ギルド長室の大きな窓に反射した己の姿を見る。

目を逸らし続けても、決してなくなってくれない忌まわしい現実を。

 

 

どれだけ激しい戦闘を繰り返そうとも決して傷つく事のない白い肌。

勝気そうな大きな黒い瞳。

化粧なんてした事がないのに、ぷっくりとした艶のある唇はほんのり桜色だ。

 

せめてもの抵抗として髪をショートカットにし、スーツを愛用しているが、

胸の膨らみがしっかり性別を自己主張している。

 

見た目はどう頑張ってもティーンエイジャー。

きっとあのセーラー服も似合う事だろう。

 

 

「お前、どう見ても十代半ばの美少女じゃん」

 

「好きでこんな格好をしている訳じゃねえぇ!」

 

 

SS級ハンター 高山マコト(46)

 

となる神薬の副作用によりTSしてしまった最強ハンターとは俺の事だ。

 

 

「何にせよ、そんな事なら断るぞ! 俺はこの容姿を利用して何かをするつもりは一切ない!」

 

ただでさえ見た目がこんなんだから色々と苦労しているのだ。

この無駄な美少女フェイスを利用するなんて、まるでこの状況を受け入れたような気がするから絶対嫌だ。

 

 

「――――その姿を戻せるかもしれん、と言ってもか?」

 

「詳しく聞かせろ」

 

 

これはそんな俺と身の丈に合わない強大な力を持ってしまったとある少女の物語だ。

 

 

 

 

 

 

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