カイト x 転生 x 坐殺博徒 作:なほやん
桜吹雪の舞い散る池のほとりで、一人の青年が静かに釣り糸を垂らしていた。
腰まで伸びた長い白髪に青いハンチング帽。年齢の割には若々しい顔立ちながら、その瞳には旅と戦いで培った深い経験が宿っている。
春の穏やかな午後。
アイジエン大陸、カキン国の奥地にあるこの湖は、都市部の喧騒とは無縁の静寂に包まれていた。鳥のさえずり、水面を撫でる風の音。時折、魚がはねて波紋が広がる。それはあまりにのどかで、まるで世界の危うさを忘れさせるような時間だった。
青年は今日も変わらず、釣りという名の瞑想に耽っていた。
——その時だった。
突如、空気が震え、眩い光と共に何かが落下してくる。青年は反射的に釣り竿を握り直し、身構えた。
光が爆ぜ、二つの人影が落下してきた。
池のほとりに着地したのは、二人の少年。
一人は、跳ねた黒髪に大きな瞳。まだあどけなさを残すが、瞳は好奇心と決意に満ちている。
もう一人は、銀髪に猫のような鋭い目をし、油断のない気配をまとう。
「ジン……?」
「……ゴン……か!?」
思わず声に出したその名前に、黒髪の少年がはっと顔を上げる。
大きな目をさらに見開き、信じられないという表情で青年を見つめる。
「カイト!?」
その瞬間だった。
突如、青年——カイトの脳内に溢れだす“存在しない記憶”。
——耳をつんざく電子音。タバコの煙が充満した空気。
薄暗いパチンコ店の休憩スペース。
手にしていた週刊少年ジャンプ。
ページをめくる指先が熱を帯びる。『HUNTER×HUNTER』という漫画に夢中になっていた、あの日々。
キメラアント編の緊迫した展開に手に汗を握り、ゴンの成長に胸を熱くした自分。
そして店を出た直後、夜道を照らすヘッドライト。続く衝撃と、暗転——。
カイトは自分の鼓動が早まるのを感じながら、必死に表情を整えた。
「……おー、でっかくなったな。というかお前、何してんだ?こんなとこで」
動揺を押し隠し、ゴンに声をかける。
頭の中は混乱の渦だったが、長年の経験がとっさに平静を演じさせた。
「カイト!なんで!?」
ゴンは嬉しそうに駆け寄ってくる。その笑顔は屈託がなく、記憶の中で見た“漫画のキャラクター”そのままだった。
一方で銀髪の少年——キルアは周囲を鋭く見回し、すでに警戒態勢を取っている。
カイトは二人を見つめる。
間違いない。ゴンとキルアだ。
つまりこれは——自分は『HUNTER×HUNTER』の世界に転生してきたということになる。
しかも、カイトとして。
◇ ◆ ◇
夕刻。
三人は焚き火を囲んでいた。赤い炎がぱちぱちと木を爆ぜさせる。
ゴンが熱心に旅の話を語り、キルアが嬉しそうに相槌を打つ。
焼いた魚の香ばしい匂いが漂い、久々に人と食卓を囲む温もりがカイトの胸に沁みた。
「——でね、グリードアイランドをクリアして「同行」〈アカンパニー〉で、ジンに会おうと思ったら……」
「ジンさんの罠にはまった、と」
カイトが言葉を補うと、キルアが苦笑した。
「さすがジンさんだな」
「う〜くそ〜やられた〜」
ゴンが悔しがる。
「絶対に会えると思ったのにな」
その姿に、キルアは小さく肩をすくめて同情を示した。
——間違いない。ここは、あの物語の世界だ。
『HUNTER×HUNTER』。主人公ゴンが父親ジンを探すため、父と同じハンターとなり仲間たちと共に成長していく物語。
その旅の途中、ゴンとその友人キルアはジンの作ったゲーム〈グリードアイランド〉をクリアし、賞品として得た呪文カードでジンに会おうとした。だがそれを予想していたジンの策略によって、二人はカイトの元へ飛ばされてしまったのだ。
カイトはジンの弟子にして一流のハンター。生物学者として数々の新種発見に貢献し、その名を学術書に刻んできた男。そして、旅の途中で幼いゴンを助け、ゴンがハンターを志すきっかけとなった人物でもある。
「え!?カイトはもうジンを探し当てちゃったの!?」
ゴンの驚いた声に、カイトは微笑んで答える。
「ああ、だいぶ前にな。オレも晴れて一人前のハンターを名乗れるってわけだ。どこにいるか聞きたいか?」
ゴンは少し考えてから、きっぱりと首を振った。
「……ううん。自分で探す!!」
「いい答えだ」
暖かな焚き火を囲み、頑固なゴンと笑い合うキルアを見ながら、カイトは心の中で誓った。
——このゴンをあんな姿にはさせたくない。
原作において、ゴンとカイトとの再会は、人を喰らう異形の蟻とハンターとの戦いへと彼らを導いていく。
キメラアント編——作中屈指の長編であり、最高傑作とも呼ばれる章の始まり。その戦いの中で、キメラアントの王直属護衛軍の一人、ネフェルピトーとの戦闘でカイトは命を落とし、カイトの死はゴンを復讐に目覚めさせ、大きく変貌させるきっかけとなる。
だが、今この純粋な笑顔を見て、カイトはそんな未来を許す気にはなれなかった。
焚き火の明かりに照らされたゴンとキルアを見つめ、カイトは心の奥で誓った。
——絶対に、この笑顔を壊させはしない。
◇ ◆ ◇
翌朝。
カイトは森の奥へと足を運ぶ。
ゴンとキルアは仲間のアマチュアハンターたちと生態調査に向かわせている。己の力を確かめるには、人目のない場所が望ましい。
鳥の声が遠ざかり、木漏れ日だけが差す開けた場所でカイトは深呼吸した。
カイトとしての記憶を頼りに、念能力を発動する。その高揚感と不安が胸をせめぎ合う。
「纏」……オーラが体を包み込む。
「練」……精孔から溢れるオーラが膨張する。
そして——「発」。
その瞬間、カイトの脳内に強制的に開示されるその情報は……
"CR私鉄純愛列車 1/239ver."
ルール説明
「坐殺博徒」は実在のパチンコ台をモデルにした領域だ!!
ルールは簡単!!図柄を三つ揃えれば大当たり!!
大当たりを引けばオレ(カイト)はあるボーナスがもらえるゾ!!
どんなボーナスかは当たってからのお楽しみだ!!
カイトは唖然とした。
気狂いピエロ——クレイジースロットではなく、坐殺博徒……?
「スロじゃなくてパチじゃねーか!!」
カイトの叫びが、森に虚しくこだまするのだった。