カイト x 転生 x 坐殺博徒   作:なほやん

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第2話

 

「お疲れ様、どうぞお通りください。NGLへようこそ!!」

 

 NGL——ミテネ連邦の西端にひっそりと存在するネオグリーンライフ自治国。機械文明に頼らず、土地と自然に寄り添いながら営まれる自給自足の生活。

 海岸に打ち上げられた巨大なキメラアントの腕が手がかりとなり、カイトたちはこの地を調査のため訪れていた。

 

 検問所の職員は柔らかな笑みを浮かべ、手を振る。だが、カイトの胸の奥には、陰鬱な予感が澱のように沈んでいた。

 

 ——原作よりも早くNGLに到着したはずだ。だが、ジンさんはともかく、ポックルたちともまだ連絡が取れない。すでに何かが動き出しているのかもしれない。どうか無事でいてくれ……。

 

 カイトはジンにも連絡を試みていたが、返信の代わりに返ってきたのは、一枚のカードだけであった。

 

    ◇ ◆ ◇

 

 木々の間を縫って進むカイトは背後から聞こえる軽やかな足音に、小さくため息をつく。

 

 ゴンとキルア。本来なら二人を連れてくる気はなかったが、あの強情さには勝てなかった。

 

 カイトは振り返り、二人を見つめた。

 

「ゴン、キルア、お前たちはいい加減戻れ。ここからはオレだけで十分だ」

 

「やだね、オレたちもプロだぜ」キルアが反発する。

 

「そうだよ!」ゴンも続く。

 

 何度告げても耳を貸さない。カイトは仕方なく肩を落とし、ため息をついた。

 

「……分かった」

 

 その時、ゴンが鼻をひくつさせる。

 

「何か臭うよ」

 

 三人は無言で、森の奥へと駆け抜けた。木々の隙間を縫うように進む足取りの中で、ゴンの鋭敏な嗅覚が、腐敗と血の混じった匂いの源を正確に追っていく。

 

 そして——突然、視界がぱっと開けた。

 

 そこにあったのは、木に突き刺された馬の死体だった。荒々しく、かつ異様な光景。乾いた風に揺れる馬の毛が、不吉さを際立たせていた。

 

「まるで早贄だ」ゴンが呟く。

 

「え?」キルアが眉をひそめる。

 

「鵙って鳥の習性だ……捕えた餌を木などに刺しておくんだ」カイトが説明する。

 

「おい」

 

 突然背後から声がした。三人が振り返ると——

 

「な……」

 

「なんだコイツ」

 

 気配を消して潜んでいた異形の影が、静かに、しかし圧倒的な存在感をもって姿を現した。

 

 ウサギの長い耳、鳥の翼、そして人間の体躯。どれもが不自然に歪み、互いに絡み合った怪物——ラモットが、そこに立っていた。

 

「ゴミども、それはオレのだ。近づくなっ!」

 

 ラモットの青筋が浮き立ち、凄まじい叫び声と共に、鋭利な羽毛の生えた両腕を横薙ぎに振るう。

 

 ゴンとキルアは咄嗟に身をかわすが、羽毛の先が掠った衝撃に、ゴンとキルアは一瞬よろめく。

 

 一方、ラモットの瞳がカイトを捉え、彼から発せられる圧倒的なオーラに気づく。瞬時に警戒の色を浮かべ、追撃の手を止めた。

 

 カイトは森のざわめきとラモットの微細な動きのすべてを視界に収め、冷静に二人に告げる。

 

「ゴン、キルア、あいつお前たちだけでなんとかしろ」

 

「あれはキメラアントの兵隊だ。ここから先はあんな奴等がゾロゾロわいてくる」

 

「戦闘中はいちいちお前たちを助けてられん。あいつを倒せないようなら帰れ。ジャマだからな」

 

 ——本当は、ここで諦めて、二人には退いてほしい。

 

 だが、ゴンとキルアは眉間に皺を寄せ、オーラをさらに輝かせて応える。

 

「言っただろカイト、オレたちだってプロだ!」ゴンが叫ぶ。

 

「ガキ扱いするな!」キルアも続いた。

 

 ゴンとキルアはラモットを挟み込むように散開し、同時に両側から攻撃を仕掛ける。

 

 しかし——ラモットはキルアの飛び蹴りを左腕で軽々と受け流すと、右腕の一振りでゴンを弾き飛ばした。ウサギの俊敏な脚を駆使し、まるで舞踏のように二人の攻撃をかわす。

 

 「くっ」

 

 ゴンは地面に転がりながら、胸の奥に湧き上がる困惑を抑えきれずにいた。今の一撃、確実に当たったはずなのに!

 

 キルアもまた、自分の攻撃を軽くいなされた感触に眉をひそめる。この反応速度——今まで戦った相手とは明らかに格が違う!だが、ためしてやる!!

 

 キルアは身を翻し、高く跳躍する。その瞬間、わずかな戸惑いを見せたラモットの隙に——

 

「落雷(ナルカミ)!!!」

 

「ギッ!」

 

 稲妻のように閃く電撃へと変化したオーラが、ラモットの体を貫く。激痛に声を上げ、硬直する怪物。

 

 その瞬間、ゴンが容赦なくラモットへと詰め寄り、深く拳を構える。

 

「最初はグー!ジャン!!ケン!!!グー!!!!」

 

 大地を踏み締めたゴンの一撃が、ラモットを宙高く打ち上げた。ゴンの顔に、一瞬の勝利の予感が走る。

 

 そのとき、不意に空中に緑色の板状の物体が具現化した。

 

 電車のドアを模した異形のシャッターが、無慈悲にもラモットの行く手を塞ぐ。

 

「ガッ!?」

 

 激突音と共に、ラモットは勢いよく地面に叩き落とされる。土煙が舞い、森の静寂が一瞬破られた。

 

 ——コイツが生き延びれば、"洗礼"によってキメラアントに念能力を教える媒介となってしまう。それは阻止せねば。

 

 怒りに震えるラモットが必死に起き上がり、咆哮を上げる。

 

「うおああああああ!!!!キサマら!!必ず喰って——」

 

 だが、その声は途切れる。

 

 カイトの手が、冷徹に、無慈悲にラモットを沈黙させたのだ。

 

 ——命を奪う覚悟は決めていた。だが、実際に手を下してみると、こんなものか。

 

 想像以上に呆気なかった。パチンコのハンドルを捻るよりも軽い感触。

 

 骨と肉の破砕音。それだけで、さっきまで生きていた存在が完全に沈黙する。

 

 転生前の記憶では、命を奪うことにもっと重みがあるはずだった。しかし今の自分は、まるで機械のように冷静だった。これが念能力者の世界なのか、それとも自分が変わってしまったのか。

 

 カイトは血と体液に濡れた手を見つめる。温かい。まだ生きていた証拠。だが、その感触に動揺することはない。感情を押し殺すことに、もはや慣れてしまっていた。

 

 突如、茂みから別のキメラアント——コルトが飛び出す。

 

「失せろ」

 

「ッ!!」

 

 しかし、コルトはカイトの一瞥を受け、慌てて身を翻すと森の奥深くへと、全力で飛び去っていった。

 

 ゴンとキルアは、自分たちの攻撃でラモットを仕留められなかったことに言葉を失っていた。

 

 キルアは拳を握り締める。これまでの冒険とグリードアイランドでの修行を重ね築いてきた自信が、音を立てて崩れていく。

 

 ゴンもまた、自分の最強の一撃を受けたはずのラモットに叫ぶ余裕があったことにショックを隠せずにいた。自らの必殺技が、昆虫の頑強さと人間の柔軟さを併せ持つキメラアントにはまるで子供の遊びのように軽く受け流された。

 

 視線の先、淡々とラモットを制したカイトの姿。あれほど手強かった敵を一瞬で沈黙させたその圧倒的な実力の差に、二人は愕然とする。

 

 プロハンターとしてのプライド。仲間として認められたいという想い。すべてが今、現実という冷酷な壁に叩きつけられていた。

 

「これで分かっただろう……もう来るな」

 

 カイトの声が、無慈悲に告げる。その手からはラモットの血が滴っていた。

 

「ここからはまともな神経じゃ一歩も耐えられん。進む先、勝っても負けても地獄だぞ」

 

 短い沈黙。森のざわめきすら、三人の間では静寂に変わる。

 

 だが——

 

 キルアが顔を上げる。悔しさと屈辱に震える拳を、ぎゅっと握り直す。

 

 ゴンもまた、地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。膝は震えていたが、瞳の奥の炎は消えていなかった。

 

 ここで引き下がるのか?

 

 二人の心の中で、同じ想いが渦巻く。確かに今の自分たちは弱い。カイトの足元にも及ばない。だが、だからといって諦めるわけにはいかない。

 

 これが現実なら、現実を受け入れた上で、さらに強くなればいい。

 

「「行くさ!!」」

 

 二人の声が重なる。屈辱を燃料に変えて、新たな決意を胸に刻み込んで。

 

 絶え間なく燃え上がる闘志が、暗い森の奥に静かに、しかし確実に光を灯していた。

 

    ◇ ◆ ◇

 

 キメラアントに無惨に殺された人々の腐敗した臭気を頼りに、カイトたちはNGLのさらに奥深くへと進む。空気は重く、湿った土と血の匂いが混ざり合い、息をするだけで胸の奥に鈍い圧迫感を生む。

 

 そこに現れた光景は、NGLの裏側。人工の機械や武器が無造作に並び、岸壁に掘られた洞窟の奥に広がるのは、機械文明と無縁であるはずの土地に忍び寄った異質の存在——麻薬工場であった。

 

「裏のNGLはキメラアントに殲滅されたわけだ。素人が銃で武装した位じゃ太刀打ちできんってことだな」

 

 警戒しつつ、カイトは「円」を張る。オーラを用いたレーダーとも言えるその高等応用の念能力が、洞窟の闇に潜む敵の気配を捉える。

 

 暗がりからぬらり、と姿を現したのは這いつくばる二人の人間。そして、彼らの首輪に繋がれた鎖を握る、ユンジュという名のケンタウロス型キメラアントであった。

 

「たすけ……たすけてっくれ!!!たすっ——」

「うるせーぞポチ!!!」

 

 カイトたちの姿を見て助けを求めた一人の人間、いや、一匹の人間犬をユンジュは気まぐれに踏み殺す。

 

「あ……あーあ、やっちまった。まぁいいか。こいつらにも飽きたし処分するか。」

 

 その言葉を受け、ビクリと跳ねたもう一匹の人間犬はユンジュに必死で媚を売る。

 

「わぉん!!わぉん!!くぅーん、くんくぅ〜〜〜〜ん」

 

 涙に濡れた目、震える体、必死に頭を擦り付け、声を振り絞る人間犬。しかし、その哀れな姿は、無慈悲な現実の前ではあまりにも無力だった。

 

 ゴンが怒りに駆られ、飛び出そうとした瞬間、カイトが冷静に制止する。

 

「迂闊に動くな。敵は一匹じゃない」

 

 洞窟の奥からユンジュの部下である、無数の腕の生えたムカデ型のキメラアントとマスクをした女の姿をした蚊型のキメラアントが姿を現す。

 ユンジュは残った一人の人間犬を愉悦に満ちた笑みで踏み潰し、部下たちに冷酷な指令を下す。

 

「決めたぞ、お前ら三匹、次の犬に任命する。——捕獲!!」

 

「オレが奥のヤツと闘る。向かってくる二匹はお前らで何とかしろ。躊躇するな。迷わず殺せ!」

 

 カイトの低く響く声に従い、身を構えるゴンとキルア。

 

 今度は違う。さっきの戦いでの教訓を活かすんだ。

 

 同時に闇の中からムカデ男と蚊女が跳躍し、二人に襲いかかった。

 

「蚊蚊蚊、お馬鹿さん!!こっちが本命の毒針よ!!」

 

 キルアは一見無防備に毒針を受けたように見えた。だが、それは計算された演技だった。

 

 キルアを刺し、勝利を確信した蚊女の視界が、上下に反転する。

 

「何……で?」

「毒……効かない体質なんだよねオレ」

 

 幼少期からの暗殺者としての厳しい訓練が、キルアの肉体をあらゆる毒に耐えうるものにしていた。

 

「おとなしくしてれば楽に殺ってやるけど?」

「しかたないわね。わたしの方が弱かったってことだから」

 

 キルアは迷いなく、蚊女の頭を切り裂き、止めを刺した。

 

「ジャン!!ケン!!!チー!!!!」

 

 ゴンと戦っていたムカデ男は、ゴンの拳──ジャンケングーを警戒していた。

 

 だが、ゴンもまた学んでいた。一辺倒な攻撃では通用しない。相手の警戒を逆手に取り、予想外の技で翻弄する。

 

 指先から刃状に変化させたオーラの一撃が、無慈悲にムカデ男の胴体を切り裂く。

 

 やられたフリをし隙を狙おうとするムカデ男の頭を、カイトの指先が放った銀玉が貫通した。

 

「胴体を切ったぐらいで安心するな。頭と体が切り離されても一日くらいなら生きてられるような生命力を持つ連中。確実に頭を潰せ。」

 

 そう言ったカイトの手には、首から上だけの姿になったユンジュが握られていた。

 

 ——ポックルたちの手がかりを掴まなければ。時間はない。

 

 カイトの瞳が冷たく光る。

 

「貴様らの仲間で、人間に殺られた下級兵はいないか」

 

 ユンジュは苦痛に歪んだ顔で答える。

 

「何を!?いや、銃とかいう武器で撃たれたやつならば……」

 

「銃以外の未知の武器で死んだやつは」

 

 カイトの指先に力が込められる。ユンジュの頭蓋骨が軋み始めた。

 

「なんの話だ!?知らん、知らんぞ!!」

 

 ——やはり別部隊か。この程度の下っ端では情報は期待できない。

 

「そうか、では死ね」

 

 カイトの指先が微かに力を増すと、ユンジュは割れた舌を必死に伸ばし、懇願する。

 

「ま、待て!!そうだ、オレがお前の犬になろう!どうだ!わぉん!!わぉん!!わぉん!!くぅーん、くんくぅ〜〜〜〜ん」

 

 しかし、その醜い鳴き声は、グチャリ——という生々しい肉の潰れる音にかき消された。

 

 誰も動かない。誰も言葉を発せない。

 

 重苦しい匂いだけが、残酷な余韻となって漂っていた。

 

 その時、暗闇の奥から、かすかな羽音と共に小さな影がふわりと舞い出す。

 

 それは、小さな手紙を抱えた一匹の蜂であった。

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