カイト x 転生 x 坐殺博徒   作:なほやん

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第6話

 

 東ゴルトー建国記念大会開催日

 

 宮殿を根城にしたキメラアントの王たちに、ゴンたちキメラアント討伐部隊が奇襲をかける。

 

 潜入したゴンの瞳に映ったのは、予想もしなかった光景だった。

 

 傷ついた少女の横に座り、一切のオーラを発していないピトーに、ゴンは言う。

 

「オレはゴン=フリークス!!ピトー!!!カイトをどこにやった!!!!」

 

 しかし、ピトーにはゴンの言葉は全く耳に入らず、頭の中は現状をいかに乗り切りかつ王の命を全うするか、全細胞がその回答に向かって働いていた。

 

 その時であった——

 

 0:00:34:89

 

「領域展開」

 

 東ゴルトー宮殿西棟2階を中心に、白い異空間が広がった。

 

 深い絶望の闇に沈みかけていたゴンの瞳に、光が再び灯る。

 

「カイト!?何で……!?今まで……」

 

「一坪の密林が……いや、ちがうな」

 

 カイトは微笑み言う。

 

「ただいま、ゴン」

 

 以前の戦いからカイトを知るピトーは、直感的にカイトが以前よりもはるかに成長していること、そしてそれが王にも及びかねないものであると判断する。

 

 しかし、王の脅威になりうるカイトと戦うべきか、それとも王の命令を守ってコムギを治療し続けるのか、その判断が、ピトーの思考を鈍らせた。

 

「ゲイン!」

 

 カイトが懐から取り出したのは、淡い金色の光を放つ一枚のカード。カードが宙に舞った瞬間、眩い光の渦が巻き起こり、大天使が顕現する。

 

「この子の体を治してやってくれ」

 

 カイトの声には、静かな決意が込められていた。

 

「お安い御用……」

 

 大天使の優しげな声が領域内に響く。

 

 その息吹に包まれたコムギの身体に、奇跡が起こる。傷ついた肌が滑らかに再生し、規則正しい呼吸が蘇った。

 

「んばっ!?総帥様!?!?」

 

 慌てて起き上がるコムギの前に、ピトーがゆらりと立ち塞がる。

 

 コムギを治せ——

 

 その使命が思わぬ形で達せられ、ピトーが思い出すのは、王によるもう一つの命令。

 

 今からコムギの周囲も警戒し何かあればすぐ対処しろ——

 

 そう、今最優先すべきは、王の脅威になりうるカイトの排除!

 

 ピトーは身構え、カイトへと顔を向ける。

 

「賞賛は期待していなかったが……そうなるか。ゴン、あとはオレに任せろ」

 

 その言葉と共にカイトの手から20面のサイコロ、大吉を出すと幸運が訪れるリスキーダイスが放られる。

 

 もう一方の手に嵌められたのは、所有している者は他の者が決して味わえないような貴重な体験をすることができる、という奇運アレキサンドライトの指輪。

 

 出目は、大吉。

 

 0:00:48:74

 

 その瞬間ピトーから発せられた言葉は——

 

「領域展開」

 

 ——バカな!?

 

 ピトーの体を包む、濃密な殺気にも似たオーラが一気に爆発的に拡散する。

 

 二つの領域同士が激しくぶつかり合う。現実が歪み、空間そのものが不協和音を奏でるように軋み始めた。

 

 刹那、ピトーは猫科特有の俊敏さで、一気にカイトとの距離を詰める。

 

 飛び掛かるピトーに対し、カイトは反射的に念能力を発動する。

 

 具現化されたシャッター——その色は、虹。

 

 ——大当たり確定、いや、使わされた!

 

「演出を……使ったニャ?」

 

 0:00:52:14

 

 三つの5が一列に並んだ瞬間、眩い光と共に坐殺博徒の領域が強制解除される。

 

 始まるのは、4分11秒の大当たり。

 

 溢れ出るオーラがカイトを包む、しかし、皮肉にも同時に空間の主導権はピトーの手に移ってしまった。

 

 赤い光が白い光を飲み込み、西塔の2階が完全にピトーの支配下に置かれる。

 

 現れたのは人形の舞台。深紅のビロードカーテンが重厚に舞台を囲み、金の装飾が施された観客席が階段状に幾重にも広がっている。中央には円形の舞台が浮かび上がる。

 

 カイトの能力に強く影響を受け作られたピトーの領域は、そのルールを領域内のゴンたちに明かす。

 

  糸戯劇舞(コウルディスト)は素敵な人形劇

 

  全てが演出家(ボク)の糸によって操られる舞台をとくとご覧あれ

 

 瞬間、ゴンとキルアの身体に見えない糸が結び付けられ、二人は身体の自由を奪われる。

 

「っ!?」

 

「なっ!!?」

 

 次に、ピトー自身の身体にも同じ糸が結び付けられる。しかし、これは拘束ではなく操作のため——自らを人形として扱うことで、より精密で予想外の攻撃を可能にするため。

 

 糸に導かれたピトーの爪が、流麗な軌道を描いてカイトの脇腹を深く抉る。鋭い爪先が肉を裂き、鮮血が飛び散った。

 

 しかし——その瞬間、奇跡が起こる。

 

 裂けた傷がまるで時を巻き戻すように完全に再生していく。反転術式による自動回復——それはまさに不死身の能力だった。

 

 ピトーの猫のような瞳が大きく見開かれる。驚愕と共に、同時に確かな勝利への確信が芽生えた。再生能力があろうとも、この領域では自分が絶対的な支配者なのだから。

 

 より多くの見えない糸が、蜘蛛の巣のように精密にカイトの身体に絡みついていく。手首、足首、首筋、そして指の一本一本に至るまで。

 

 ピトーの眉がわずかに顰められた。何かが、おかしい。糸の感触が、これまで操った人間たちとは微妙に違う。まるで糸の先に別の意志があるかのような、奇妙な抵抗感。だが——

 

 そして次の瞬間——ピトーはカイトに自分自身を攻撃させた。

 

 操られたカイトの拳が、自らの顔面を強烈に殴り抜く。鈍い音と共に鼻血が飛び散り、頬骨に亀裂が走った。

 

 しかし、それも一瞬のこと。反転術式が傷を瞬時に癒やし、折れた骨も、裂けた皮膚も、まるで最初から何事もなかったかのように元通りになる。

 

 ピトーの口元が、悪魔のような笑みに歪んだ。

 

 壊しても壊しても再生する玩具、こんなに面白いものはない。

 

 しかし——動けないまま一部始終を見ていたゴンの瞳から、希望の光が消えることはなかった。どんなに酷い状況でも、カイトへの信頼は微塵も揺らがない。その眼差しには、確固たる意志が宿っていた。

 

 ピトーがふと顔を上げ、ゴンの表情を目にした、まさにその瞬間——

 

 バキィッ!!

 

 雷鳴のような音と共に、カイトの拳がピトーの顔面に深々と突き刺さった。

 

 衝撃にピトーの身体が宙に浮き上がる。

 

「な、何で……!?」

 

 見えない糸が次々とプツプツと音を立てて切れていく。精巧に作られた舞台装置が瓦礫となって崩れ落ち、美しかった観客席が粉々に砕け散る。

 

「操作系は早い者勝ち、だ」

 

 カイトの声は静かだが、そこには確固たる自信が込められていた。

 

 最後の舞台装置が大きな音を立てて崩れ落ちる中、カイトはゆっくりとピトーに歩み寄る。その足音だけが、崩壊した劇場に響いていた。

 

 ——そう、転生者である俺の魂が最初からカイトの体を操作しているのだから。

 

 そして、

 

 0:05:03:14

 

 「領域展開」

 

 大当たりラウンド終了と共に発動されたカイト2度目の領域展開は、確率変動状態に突入していた。

 

 瞬間、東ゴルトー宮殿の西塔2階を中心として、先ほどとは比較にならない規模のまばゆい白い光が爆発的に拡散し、討伐部隊と蟻たちの脳内に、強制的な情報開示が行われた。

 

「私の脳にゴミのような情報を流すんじゃなぁい!!!」

 

 3階玉座の間、蛹の中のシャウアプフが苦悶の声を上げる。それを聞いたモラウの口元に、確信に満ちた笑みが浮かんだ。

 

「は?」

 

「うおをおおおおお!!!!」

 

 中庭では、意味不明な情報の洪水に一瞬思考が停止したモントゥトゥユピーの巨躯を、ナックルの渾身の一撃が襲う。

 

 0:05:03:49

 

 ピトーの頭脳が高速回転する。

 

 糸戯劇舞は、領域としての制約により連続発動することができない。

 

 だが、少なくともこの瞬間だけは、カイトは大当たりによる不死身の再生能力を失っている!

 

 ピトーの全身に殺気が漲る。猫科の本能が、今こそが好機だと告げていた。

 

 疾風の如き速度で肉薄したピトーの爪が、カイトの首筋を狙って一閃する。鋭い爪先が確実に頚動脈を切り裂き、カイトの首が鮮血と共に宙を舞った。

 

「続行!!!」

 

 しかし——カイトの姿が鏡のように砕け散り、無数のガラス片が光を反射しながら舞い散る。その破片の向こうから、まるで何事もなかったかのように無傷のカイトが現れた。

 

「!?」

 

 再度爪撃がカイトの心臓を正確に捉える。五本の爪が肉を貫き、肋骨を砕き、心筋に到達する——確実な致命傷の手応えがあった。

 

「継続!!!」

 

 だが、またもカイトの像が蜘蛛の巣状にひび割れて消失し、背後から涼やかな声と共に本物のカイトが姿を現す。

 

「!?!?」

 

 そして、三つの9が一列に揃い、カイトの体から先ほどを遥かに上回る膨大なオーラが溢れ出した。

 

 瞬間、

 

「神速(カンムル)!!!」

 

 理解不能の能力に完全に思考が追いつかないピトーの背後から、キルアの電撃が青白い閃光と共に襲いかかる。電流が神経系を駆け巡り、ピトーの身体が一瞬硬直した。

 

「っ!?」

 

 その隙を突いて、カイトの一撃がピトーを宙に打ち上げる。そして、身動きの取れないピトーを待ち受けていたのは——

 

「最初はグー!ジャン!!ケン!!!グー!!!!」

 

 ゴンの渾身の一撃が、まるで流星のような軌道でピトーの腹部に深々と突き刺さる。

 

 衝撃波が宮殿の石壁を震わせ、ピトーの身体が糸の切れた人形のように力なく宙を舞った。

 

    ◇ ◆ ◇

 

 戦いの喧騒が嘘のように消え去り、その場に静寂が戻った。

 

 風が静かに吹き抜け、舞い散った瓦礫の破片がカラリと音を立てる。

 

 カイトはゴンを見つめる。

 

 自らがピトーに弄ばれ、まるで壊れた人形のように扱われている間も、一度たりとも希望を失わなかったゴン。

 

 その光のこもった目を見つめながら、カイトは心の奥底で確信を深めていく。

 

 ——このゴンが、あの絶望的な変身を遂げることはもうない。復讐に燃え尽き、自らを犠牲にしてまで力を求めるような、悲しい道を歩むことはない。

 

 カイトは、青いハンチング帽を脱ぐと、ゴンの頭にそっとそれを乗せた。

 

「オレにはもう一つやらなければいけないことがある。ゴン、キルア。その子を頼んだ。」

 

 カイトの声に込められたのは、別れの予感、深い決意。

 

「うん!」

 

 瞬間、カイトの両足の筋肉が極限まで圧縮され、バネのような爆発的な力を蓄える。そして、爆発的な推進力と共に彼の身体は弾丸のように飛び立った。

 

 宮殿の壁を蹴り高速移動する。かつて敵の技であったその動きすら、今や完全に自分のものとして昇華させていた。

 

 残されたゴンとキルアは、静かに気絶したピトーと、まだ状況を理解しきれずにいるコムギを見守る。

 

 ゴンの手が、カイトから受け取った青いハンチング帽にそっと触れる。そこには、まだ温もりが残っていた。

 

 




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