「レスキュー訓練…………か。」
ヒーロー基礎学の移動中、バスの車窓の外を見ながら少し呟く。
「どうした?なんか思い入れでもあんのか?」
「切島。いや…………俺の個性は、破壊だけが取り柄だからな。見た目がとにかく悪い。だからこそ、人命救助は大切だとは思っているんだが……………自分にできるか心配になってきた。」
「なーんてことないって!その姿だって、見慣れちゃえばかっこいいから!」
フォローをしてもらうと、少し恥ずかしい気持ちになる。
「跳田さん、少しよろしくて?」
背後からぬっと顔を覗かせたのは、ギリギリなコスチュームで男子から注目されていた、八百万だった。
「八百万、どうした?」
「その腰のベルト、どうなってるのか興味が湧きまして。」
ちょいちょいと指を指す先には、コスチュームに着替えた際には必ず出すようにしているドライバーがあった。
「構造も機械的なので、何かのサポートアイテムかとも思ったのですが………」
「触ってみるか?生憎取り外しはできないが。」
「よろしいのですか?それでは、失礼しますね。」
八百万の細い指がドライバーの外皮をなぞる。
「っ……………ん…………………」
「っ!す、すみません!何か変なところでも触ってしまいましたか……!?」
「いや……………触ってわかったと思うが、これは普段俺の肉体に吸収されていてな…………理由は分かってないが、外気に触れると硬質化する。」
「鉄のように見えたのはそういうことだったのですのね………」
「それあれだな。外に出てて固くなるって、実質ちん」ドックン!!
峰田が余計なことを言おうとした直後に耳郎のイヤホンジャックから心音が爆音で届く。
「まぁ、そういうことだ。気色の悪い物を触らせてしまったな。」
「そ、そんなことありませんわ!お気になさらないで………悪いのは峰田さんですわ。」
「それはそうだな。」
正直最初は苦手な天才タイプかとも思ったが、八百万は思ったよりいいやつかもしれない。
「…………以上!ご清聴、ありがとうございました!」
ウソの災害と事故ルーム、通称『USJ』に到着し、スペースヒーロー13号のありがたいお話を聞き、みんなで拍手をする。
「それじゃあ班に分かれて…………」
相澤先生が喋り始めた辺りで、頭に強烈な信号が走る。
瞬時に体を変態させ、警戒体制をとる。
「………?跳田、どうしたよ?」
「何か……………来る!」
頭の中の第六感が強く働く。
危機感知器の役割を持った触角がぐるぐると動く。
とても、とても嫌な感じだ。
「全員一塊になって動くな!!」
そしてこの感知は、外れたことがない。
「なになに〜?また体力テストみたいなの始まってんの?」
「動くな!あれは、
ヒーローを育てる学舎に、大量のヴィランが襲撃してきた。
黒い霧のようなヴィランが俺たちの前に立ちはだかる。
「初めまして、雄英高校ヒーロー科の皆々様。本日は、平和の象徴たるオールマイトに"息絶えて"頂きたく、このような襲撃に至ったまでであります。」
そう言ったかと思うと、爆豪と切島が攻撃を仕掛ける。
「その前に俺たちにやられるとは考えなかったかぁ!?」
「危ない危ない………子供といえど金の卵。散らして………嬲り殺しましょう。」
13号のブラックホールなら、あの霧のヴィランは動けなかっただろう。しかし、爆豪と切島が動いたせいで生まれた13号の隙を、敵は見逃さなかった。
霧が纏われたかに思った次の瞬間、俺の体は宙に浮いていた。
「っ…………!うおぉっ!!」
高さは十数メートルはあったが、変身態ならこんな高さ造作もない。近くに氷が見えたので、恐らく轟も飛ばされている。
ヒーロー着地を決め、周囲の敵を見渡す。
「ガキが………舐めてんじゃねぇぞ!」
「俺は、明確に俺の敵と判断した奴には容赦しない。投降するなら今のうちだ。」
「ほざけバカが!」
「大人の怖さ教えてやるよ!」
「……………警告はしたぞ。」
多対一の対戦。
本来、徒手格闘技を主に使う者ならば絶対に避けるべき事案だ。人間はどう頑張っても一方向の相手にしか対応できない。
しかし、足技を使うとなると話は変わってくる。
「おらぁガキ!」
「フンッ!」
刃物状の個性で斬りつけてきた相手の頭にキックをかます。
めぎゃっ、と嫌な音がして、男は回転しながら吹っ飛んでいく。
「人間の体は思ったより頑丈でな。何、人を殺さないのがヒーローだ。死なない程度に痛めつける!」
拳も、足も。全て使って周囲の敵を蹴散らす。
少し周囲を見渡すと、轟がその凄まじい個性で周囲を氷漬けにしていた。
「粗方片付いたな……………おいお前。」
「ひっ、ひゃいっ!」
「目的、敵の数、配置、知ってること全部吐け。幸いここは雄英の敷地内でなぁ。何をしても、大概問題にならない。お前がここで吐けば、罪はいくらかマシになるぜ。」
顎を開き、歯をカチカチいわせながら胸ぐらを掴んで脅す。
そうしたらヴィランの一人は面白いくらい情報を吐いてくれた。とは言っても、主犯の男の名前ぐらいしかわからず、それ以上に大した情報は得られなかった。やはり雑兵として用意されていただけのようだ。
もちろん轟に氷漬けしてもらい、意識は落としておいた。
「助かった。大丈夫か、轟。」
「………ああ。ただ、他の連中はどうかな。」
「確かにな………こんな事態だ。最悪を想定して動かないと………もしかしたら、死人が出るかもしれない。」
こんな時まで冷静な自分に嫌気がさす。本当なら、友の安全を考えなければならないのに。
「俺は走って近くの水難ゾーン通って広場に戻るが、轟。お前はどうする?」
「まだ近くに敵がいるかもしれねぇ。氷ですぐに追いつくから、先に行け。」
「わかった。………気をつけろよ。敵は、本当に犯罪を犯した連中だらけだ。個性を戦闘で使うことに慣れている。……友達が死ぬところなんて、俺は見たくない。」
「………友達ごっこしに
轟の目に冷たいものを感じる。まるで、昔の俺のような………冷たくて、悲しい目つきだ。
しかし、今は構っている暇などない。轟を置いて、俺は水難ゾーンに向けて走り出した。
水難ゾーンに到着すると、相澤先生が複数の敵と戦うところを見ている三人の生徒が見えた。
「っ!跳田ちゃん、無事だったのね。」
「緑谷に蛙吹に峰田。お前らも無事だったか。」
「跳田ぁー!お前が無事で、オイラ心底安心したぞ!さっさと逃げよう!」
峰田が泣きそうな瞳でこちらにくる。
緑谷もまた自損をしてきたらしい。
そして、相澤先生がこちらに気付き、声を上げる。
「跳田!そこの全員連れて逃げろ!」
「っ、はい!!みんな掴ま____っ!?」
「駄目だ。君たちは観客だ。いてくれないと困るなぁ…………平和の象徴が死ぬところを見ないと駄目じゃないか。能無。」
瞬間だった。
最大レベルの危機感知が頭に鳴り響く。
咄嗟の機転で水難ゾーンに峰田を投げ出す。蛙吹も緑谷を舌で絡めてぶん投げたようだ。
2m40cmはあろうかという巨体の敵が間近に迫り、その拳が俺の体に命中する。
「ごはっ………!!」
「跳田ちゃん!!」
凄まじいパワーで水難エリアの水上を水切りのように跳ねながら吹き飛ばされる。
今まで感じたことのない力に、頭の中に明確な『死』を連想させた。
「げほっ………クソ、早く、戻らなきゃ…………!!」
足を引き摺りながらも、何とか元の緑谷たちの元へ戻る。やはり動けずにいたようだ。
「お前ら、大丈夫か!?」
「跳田、くん…………」
3人とも同じ方向を見つめ、震えている。
その先には、あの脳みそヴィランに腕をへし折られた相澤先生の姿があった。
「相澤先生の個性が効いているはずなのに………純粋なパワーであれだけって、本当にオールマイトみたいな……………」
頭の中で、何かが切れた。目の前で、無造作に人が潰されかけている。
そんな事実が、限りなく耐え難かった。
「蛙吹……緑谷たち連れて逃げろ。」
「跳田ちゃん、何を……………」
この奥の手は、使う予定はなかった。自損覚悟の諸刃の剣なんて、武器とは呼べないから。
だが、今ならやれる。やらなければならない。
「おいおいおい…………ガキが助けに来てくれたぜ、イレイザーヘッド。」
「跳……田…………!!来るな………!!」
「………………お前ら、ただで済むと思うなよ。よくも……………よくも俺の、先生を!友達を!!」
「お前たちは絶対にゆ゛る゛ざん゛!!」
体を右に反り、拳を握りしめる。
ギリギリッ………!!
拳を握る音が聞こえ、筋肉が軋む音が響く。
「変…………身!!」
体から蒸気が溢れ出る。
高熱と共に怪人態のような姿は、戦士のようなスマートな姿に変わる。
ヴィランたちも警戒を強めたようだ。よかった。変身の時に派手なのがこの姿の欠点だったんだが、その欠点のおかげで周囲の気を引けた。
「………脳無。そこのガキを」
死柄木と呼ばれた手の男が命令するより早く、脳みそヴィランの手を弾き、相澤先生を救出する。
「跳、田、よせ………逃げろ………!!」
「………聞けない相談ですよ。先生。緑谷、蛙吹、峰田。先生を頼む。」
普段より、意識が落ち着いている。視界がクリアで、周囲の状況が手にとるようにわかる。
手のヴィランの心拍数が上がっている。あのワープのヴィランも動く気配は無い。
「………お前、殺してやる。嬲り殺しだ。」
「やれるものならやってみろ。俺は………最高のヒーローになる男だ。」
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