そこまでプロローグみたいなもんだから!
『エイドロン!』
朝の情報番組をぶった切って、いきなり画面が白光に包まれる。
『――それは神が生み出した人類のパートナーである!』
ズバババンッ!
真っ白な男型と女型の素体が縦にクルクル回転、背面解剖図みたいに分解線がビビッと走る。
――カチャ、カチャチャ、ガション!
空間から部位ごとのパーツが転送されるたび、画面端にテロップが雨あられ。
【頭部ユニット:EID-HED/STD(別売)】
【右腕:EID-ARM-R/BASE(※左腕はついてきません)】
【左腕:EID-ARM-L/BASE(今ならセットでお得)】
【脚部:EID-LG/01(※同上)】
【バックパック:EID-BPK/UTILITY(初回特典ステッカー封入)】
胸部ハッチがバンと開く。卵型のコアがビュンと射出され――カチリ。
天地鳴動みたいなSEが鳴り、画面は光の奔流に包まれる。
【アーク工業公式:アニマフレームは国内メーカー機と互換あり!】
【全国大会エントリー受付中! 初心者枠もあるよ!】
男型の頭にピコーンと狼耳が生え、全身の装甲がギラッと変形。
どアップでテロップがドーン!
【EID-WRM-01 ウルフマン(スタンダード)】
【EID-WRM-02 ウルフマン・ナイトカラー(暗所でちょっと光る仕様)】
【EID-WRM-99 ウルフマン・セレブレーションゴールド(12月限定)】
女型は白衣風の装甲がスライド装着、背面に医療アームがビシバシ展開。
キラーンと目が光って、こちらもテロップ連打!
【EID-WHP ホワイトプリム(やさしさ搭載)】
【EID-WHP-MK2 ホワイトプリム Mk.II(精密治療モード追加)】
【EID-WHP-MK2/CLN クリニカルホワイト(コンビニ先行)】
画面の四隅には、尋常じゃない小ささの注意書きがカサカサ流れる。
【※映像は開発中のものです】【※一部地域では販売していません】
同時に二体が手前へスライド、レンズフレアがシュバーッ!
決めポーズをビシィッと取って、背景に巨大ロゴ。
『エイドロン! 君だけの未来を――組み替えろ!』
そして締めのナレーションが早口で畳みかける。
『さあ今すぐ取扱店へ! 大会エントリーは【全国大会エントリー受付中!】をチェック! 初回生産分には限定デカール同梱!』
――三歳の僕は、テレビの前で正座して言った。
「……あ、これ、ホビーアニメの世界だ」
いや、ロボットなんだけど。どう考えても前世と違うこれ。
……なんでそんなふうに思ったのか?
それは僕が転生者だからだ。
*
どうやって死んだのか、記憶はない。
犯人はヤス。そういうことにしておこう。
気付いたら天国みたいな場所で列に並んでいた。
で、下を見たら、めっちゃタイプな美人が歩いてるじゃん?
僕はふらふらとそっちに行って、気づけば引き寄せられて
――視界が暗転。
……次に目を覚ましたら。
オギャー。
美人ママンとイケメンパパンの間に、天使みたいな赤ちゃんが誕生した。
転生早々、勝ち組確定だと思ったね。
しかもこの世界、どうやら“人はみんな卵を持って生まれる”らしい。
掌にすっぽり収まる、無色透明の卵型の石。
それが『ソウルコア』。神から授かった魂の結晶。
僕も例外ではなかった。
ご飯を食べる時も、寝る時も、外で遊ぶ時も――常に肌身離さず持ち歩いていた。
まるでそれが自分の分身みたいに。
この世界では、ソウルコアこそが全ての基礎。
人の精神と感情が結晶化したものらしく、
成長や経験に合わせて色や輝きが変化していくという。
僕のコアは、生まれた時は無色透明だったけど、
十歳を迎えるころには白と黒のマーブル模様に変わっていた。
普通は1色になるみたいなんだけど
――たぶん、前世を引きずってるってことなんだろうな。
そうして、僕はゆっくりとこの世界で育った。
そして出会ったのだ。
エイドロンに。
まぁその時はまだ僕のコアは無色に近かったんだけどね。
ロボットだよ? 人型ロボット!
前世で知ってたのはペッパー君くらいだぞ?
前世で知っていたロボットといえば、せいぜいペッパー君か自動掃除機ルンバくらいだ。
それがこの世界では、誰もが自分のソウルコアを使って仕事をしたり、機体を操り、戦わせ、組み替え、想いをぶつけ合っている。
テレビの中では、有名なバトルオペレーターたちが世界大会で激突していた。
光と鉄と想念のぶつかり合い。
その映像を見た瞬間、僕の心臓は爆発した。
「ママ! すごいよ! かっこいい!」
飛び跳ねながら叫ぶ僕に、ママンは微笑んで頭を撫でた。
あの温もりを、僕は今でも覚えている。
当然、ねだった。毎日ねだった。エイドロンをいち早く入手したかったからね。
今世の僕は、両親の顔面遺伝子に全振り成功したスーパー愛くるしい天使フェイスで、上目遣いの必殺おねだり。
「欲しい!エイドロン欲しい!」
「大人になったらね」
ママンとパパンは笑って華麗にスルー。
こうして“待て”を食らって十年以上。
僕は欲望を封印し、優等生としての仮面を被り続けた。
もうすっかり、それが素になってしまったほどだ。
すべては――卒業証書を受け取るため。
この世界では、中学の卒業と同時に正式な「エイドロン購入許可」が下りる。
つまり、あの時の僕の「待て」は、ようやく終わりを迎えようとしていた。
神様の贈り物。
自分の魂の色を持つ“卵”。
そして、それを具現化する“相棒”――エイドロン。
そうして僕は、今、世界でいちばん熱い瞬間を迎えようとしている。
たぶんこれが、僕の第二の人生の開幕だ。
*
そして今――中学卒業の日。
僕は体育館の真ん中に立っていた。壇上には、スーツ姿の校長先生。
頭上の照明が反射して、まるでステージみたいに眩しい。ざわついていた空気も、先生の咳払いひとつで一気に静まり返った。
「えー、卒業生の皆さん――」
始まった訓示は、相変わらず長い。
未来への希望だとか、社会貢献だとか、道を外すなだとか。
どれも耳に残らないけど、クラスの皆は真面目な顔で聞いている。
……うん、僕も一応、優等生ポジションだ。ここで退屈そうな顔をするわけにはいかない。
けど、正直、早く終わってほしかった。
僕にとって今日の卒業式は、「人生の節目」なんて陳腐なものじゃない。
この式典を終えた瞬間に、僕は――ようやく“パイロット”になれるのだ。
壇上の脇に積まれた卒業証書の山。
それは、普通の人にとってはただの紙切れかもしれない。
けれど僕にとっては違う。
それは、十年以上待ち続けた「解禁証明書」。
この紙切れこそ、「エイドロン・オーナー」としての許可証。
長かった“待て”の鎖を断ち切る、自由への鍵。
校長の声が響く。
「田中くん、卒業おめでとう」
名前を呼ばれるたび、壇上へ上がる生徒がひとり、またひとりと増えていく。
証書を受け取るたびに、笑い声と拍手が混ざる。
だけど、僕の鼓動はどんどん速くなっていた。
(次は、僕の番だ)
胸ポケットに忍ばせたソウルコアが、ほんのり温かい。
脈を打つたび、まるで共鳴しているように微かに震える。
心臓の鼓動とシンクロするように、白黒のマーブル模様が小さく脈動している気がした。
「白銀白夜くん」
呼ばれた。
僕は立ち上がり、壇上へ向かう。
まっすぐな視線を意識して、一歩一歩。
視線の先には、校長先生と――積み上げられた証書の山。
受け取った瞬間、ズシリとした重みが掌に伝わる。
それは紙の重さ以上のものだった。
(待ったんだ。十年以上……)
(この瞬間のために、“優等生”っていう機体を演じてきたんだ)
胸の奥が熱くなる。
思えば、前世を含めても、これほど何かを待ち望んだ日はなかったかもしれない。
(青春×ロボット人生? いや、違う)
(これは――僕が僕であるための、リスタートだ!)
*
卒業式が終わると、体育館の外は春の匂いで満ちていた。
青空に舞う紙吹雪。後輩たちが声を張り上げて僕らを見送る。
「白銀先輩ー! おめでとうございます!」
「キャー! 白銀くーん、連絡してねー!」
黄色い声の嵐。袖をつかむ手。差し出されるスマホ。
僕の学生服は、気づけばボタンどころか袖口まで分解されかけていた。
(これが……イケメン補正というやつか)
心の中で苦笑しつつも、表情は完璧な爽やかスマイル。
優等生にしてモテ男――それが“白銀白夜”というキャラの完成形だ。
でも、今の僕の頭の中はそれどころじゃない。
“エイドロン”。その二文字で埋め尽くされている。
(ついに……)
ここで時間を潰すわけにはいかない。
僕はみんなにまた会おうとだけ言って早々に立ち去る。
走りながら思う。
この両親――本当に完璧だ。
顔も性格も、まるで映画のヒーローとヒロイン。
この世界の神様、明らかにバランスブレイカー。
……そんな最高の親に、今こそ頼むとき。
「母さん! 父さん! ついに買う時が来たんだよ!」
そう叫びそうになりながら、僕は駆け出した。
胸ポケットの中で、白黒の卵――ソウルコアがトクンと小さく鼓動した気がした。
それはまるで、心臓の鼓動とシンクロするように鳴った。
新しい戦いの幕開けを告げる合図。
『――エイドロン!』
この瞬間、僕の青春は動き出した。
機械と魂が共鳴する、僕だけの“未来”が始まる。
機体名 : ウルフマン(WOLFMAN)
型式番号: EID-WRM-01
部位 :
頭(獣耳型センサー:高感度聴覚&熱源探知機能)
/右(クローアーム:鋭利な格闘クロー)
/左(ガントレットアーム:打撃兼シールド的防御)
/脚(獣脚型強化フレーム:跳躍力重視の二足脚)
/背(バランスブースター:短距離ジャンプ用補助推進装置)
---
主要数値:
全高 :205 cm
重量 :320 kg
稼働 :50 分(高負荷戦闘時は 20 分前後)
COOL :12 s(熱分散は比較的早い)
HEAT :上限 140 %(オーバーヒート時は機動低下)
---
コアスキル:
《ハンティングインスティンクト》
周囲の熱源と動体を感知、敵機の位置・挙動をリアルタイム追跡。
索敵・待ち伏せ戦で絶大な効果。
《ルプスチャージ》
短時間だけ筋力出力を1.5倍に上げる強化技。
格闘攻撃の威力上昇+ジャンプ距離拡大。
《クローストライク》
右腕のクローを超振動化し、装甲を切り裂く高速連撃。
発動時、爪跡が閃光を残す。
---
備考 :
アーク工業の「アニマフレーム」シリーズ第1世代モデル。
人型フレームに獣の機能を融合させた実験機構を採用し、
その安定性と扱いやすさから学校公式戦・初級リーグ用の教習モデル
格闘特化ながら防御も平均以上で、バトル初心者にも最適。
子供たちには「耳がピコピコ動く」ギミックが人気で、
試合前にパイロットが“ウルフサイン(拳を立てた狼ポーズ)”を決めるのが恒例になっている
---
デザイン・イメージ
カラー:ミッドナイトブルー × シルバー × ネオンブルーライン
頭部:狼耳アンテナが可動し、索敵時にピンと立つ
背部:短距離スラスターが“咆哮ブースト”として噴射
シルエット:人型と獣型の中間。ジャンプ時は“しなやかに前傾”
戦闘エフェクト:クロー軌跡に月光ライン、咆哮時に衝撃波円が走る
【挿絵表示】