ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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17話

僕のハクロが白光をまとい姿を現す。対面するように、七海のセイレーン《アリエル》が青銀のシルエットを描き出す。

「アリエル、よろしくね」七海が声をかけると、セイレーンは滑らかな仕草で頷くように喉を震わせる。

僕も自然に息を吸い込み、「ハクロ、今日も頼むぞ」と言葉をかけた。

 

 

中央に立つ職員が両手を掲げ、開始の合図を高らかに響かせる。

「エイドロンバトル――レディ、ファイト!」

 

「アリエル! スクリーム!」

七海のしなやかな指先がデバイスを叩いた瞬間、セイレーンの口から不可視の衝撃波が放たれる。空気が震え、場内のガラスがかすかに共鳴音を立てる。観客席がざわつき、「見えない攻撃だ!」「鼓膜に刺さるみたいだ……!」と息を呑む声が広がった。

 

「ハクロ、正面に立つな! 上空から回り込め!」

僕はすぐさま指示を送り、ハクロは白い残光を残して天井近くまで舞い上がる。だが――。

 

「わかっていたわ! アリエル、スプレッドガン!」

七海の声が冷たく響くと同時に、頭上へ広範囲に光弾が散弾のようにばらまかれた。弾幕が空を覆い、逃げ場を塞ぐ。

「くっ……!」

ビームが機体をかすめ、白い装甲が焦げる匂いが立ちのぼる。観客席からは「空戦型が被弾した!?」「さすがセイレーンの広域制圧力!」とざわめきが走る。

 

「さすがだな、七海……!」僕は奥歯を噛みながら呟く。

 

「といっても、決め手がないのだけれどね」

七海は好戦的な笑みを浮かべる。鋭い眼差しに胸が一瞬ざわめく。やめてくれ、その眼差しは僕に効く。

 

 

「ハクロ、死角を取り続けろ!」

旋回しながらビームガンを撃ち込み、少しずつ削っていく。だが、七海は視線を逸らさない。

 

「やられっぱなしじゃいられないわ。アリエル!」

七海の指が走り、デバイスに新たなコマンドが入力される。

「私もコアのレベルが上がって、スキルが使えるようになったの。見ていってね」

と素敵すぎる笑顔と語尾に♡でもついてるんじゃないかと思う口調でいった。

ドキドキしちゃう。く、くそう。美人に許された精神攻撃か??!

 

「アリエル! サイレンソング!」

 

次の瞬間、セイレーンの口が大きく開き、澄んだ旋律が放たれる。歌声は美しいのに、耳の奥を鋭く抉るような圧力を伴っていた。空気が震え、胸郭まで響く。観客が耳を押さえ、「うわ、体の芯に響く……!」「音で制御が乱されてるのか!」とざわめいた。

 

「ハクロ、口を撃て!」

僕は咄嗟に叫ぶ。しかし――。

「なっ……!」

ビームガンが反応しない。引き金を引いても、エネルギーが収束せず空回りする。

「く、こんな時に整備不良か?!」

 

「違うよ、白夜!」七海の声が鮮烈に響く。

「アリエルのサイレンソングは、歌が届く範囲にある射撃武器を誤作動させるの。――ここからは、接近戦で相手してあげるわ」

 

七海の美しい笑みが、観客席のざわめきを飲み込むように輝いた。

完全に彼女の舞台に引きずり込まれた――そう直感した。

(遠距離を封じられた……!完全に七海のペースだ……。だが、ここで折れるわけにはいかない!)

 

 

 

僕は深く息を吸い込み、わずかに笑みを浮かべた。

「七海……やってくれるね。でも僕だって、安全圏から撃つだけじゃないんだ」

 

両者の表情に宿る自信が交差し、緊迫した空気が会場全体を包む。

 

「ジェットパックのスラスターは問題なし。機体はビームガン以外は健在。セイレーンの武器は――口からのスクリーム、右手にスプレッドガン、左手には細身のブレード。距離を取れば弾幕に阻まれる。こちらの武器は速度……翻弄するしかない」

早口で頭の中に並べた要素を組み合わせる。全身の神経が一気に研ぎ澄まされていく。

 

 

「よし、思い切っていこうか」

僕の呟きに、七海が挑発めいた笑みを浮かべる。

 

「白夜、なにするかわからないけど……ここはもう私の土俵よ!」

七海が高らかに告げ、再びスプレッドガンを乱射する。光の弾幕が嵐のように押し寄せた。

 

僕は素早くデバイスに指を走らせる。

「高推力スラスト――スキル《神速》!」

 

次の瞬間、ハクロの背から白炎が噴き上がる。

稲妻のような残光を引き、弾幕を縫うように駆け抜けた。

 

「なっ!? あれを避けるの!?」

七海が思わず目を見開く。散弾の雨を、ハクロは紙一重の機動で潜り抜ける。白い残光が弧を描き、観客席からは「速すぎる!」「目で追えない!」と悲鳴にも似た歓声が上がる。

 

 

「それだけじゃないよ。――ハクロ!」

僕の声に呼応し、ハクロがさらに加速する。スラスターが小刻みに噴射し、空間を切り裂くように軌跡を刻む。その速度は普段の三倍以上、白光が幾重にも重なって残像を生む。

 

「う、嘘……もうこんな近くに!?」

七海が声を震わせる。

 

「接近戦が苦手だなんて、一度も言ったことないよ」

距離三十メートル――一瞬でゼロに。

 

ハクロが右手のエストックを構え、鋭い突きを放つ。

 

「でっでも!接近戦ならアリエルの方が堅いわ!反撃してアリエル!」

七海も必死に指示を飛ばす。セイレーンがブレードを振るい、同時にスプレッドガンを至近距離で撃ち放つ。

 

「当たらない!?」

七海の驚愕の声が響く。ハクロの機体はスラスターの制御で一瞬ごとに位置をずらし、予測不能の軌道を描いている。稲妻のような突進、刃がかすめたと思えば一瞬後には死角に潜んでいる。

 

僕の指もまた、デバイスの上で狂おしいほどに動いていた。細かい軌道修正を重ね、スラスターを暴発寸前まで酷使し、空間を縦横無尽に切り裂く。

 

「空で慣れてるからね。地上での戦闘なんて、むしろ遅く感じる」

エストックが閃光を放ち、セイレーンの装甲を正確に突き刺す。ザク、ザク、と重たい金属音が響き、観客席が総立ちになる。

 

 

「くっ……アリエル、まだ……!」

七海の声が震える。しかし苦し紛れに放ったスプレッドガンの弾幕すら、ハクロの加速の前では空を切るだけ。

 

「ハクロ、喉だ!」

 

閃光が走り、エストックがセイレーンの咽喉を突き貫いた。

 

「歌声が……止まった!?」

観客の誰かが叫んだ。セイレーンの口から発せられていた旋律が途絶え、音場が静まり返る。

 

一拍の静寂。

次の瞬間、観客席は爆発的な歓声に包まれた。

 

僕は勝利を確信し、低く呟いた。

「これで――逆転だ」

 

 

だが――七海の瞳はまだ消えていなかった。

「まだ、まだ終わってない!!」

叫びと共に、セイレーンの機体が最後の力を振り絞る。

 

「アリエル!!」

尾びれを模したバックパックが大きくうねり、衝撃波のように空気を切り裂く。振り回される尾が、ハクロとの距離を必死に引き離そうとしていた。

 

観客席からも「うおおおっ!」と歓声が響く。七海の粘りが、会場全体を揺さぶる。

 

 

「いや――終わらせるよ。ハクロ!!」

僕の声に応じ、ハクロは一気にスラスターをふかした。白炎の残光を残し、尾の軌道を紙一重で躱すと、そのまま垂直に跳び上がりセイレーンの頭上を取る。

 

「そこだ!」

引き金を引いた瞬間、光が奔った。ビームガンの閃光がセイレーンの頭部を直撃。

機体がびくりと震え、次の瞬間、背中から熱を吐き出すように蒸気を吹き上げ――そのまま、膝をついた。

 

観客席が一斉にどよめく。

「止まった!?」「王子が決めた!」

歓声と拍手が入り混じり、アリーナの空気が沸騰する。

 

審判の声がマイクを通じて響いた。

「勝者――白銀 白夜!」

 

僕は大きく息を吐き、胸に溜めていた緊張を解き放つ。

目の前で沈黙したセイレーン。七海の悔しそうな横顔が、ひどく印象に残った。

 

それでも――勝負は勝負。

僕の勝ちだ。

 

 

 

肩で大きく息をしながら、視線を七海へ向ける。

セイレーンはすでに沈黙し、薄い煙を上げていた。その前に立つ七海は、口元をわずかに噛みしめ、静かに目を伏せている。

 

観客席からは惜しみない拍手と歓声。

「すげぇ戦いだったな!」

「七海ちゃん惜しい!」

「やっぱ王子は外さないな!」

熱気が冷めやらぬまま、会場全体が二人のバトルの余韻に包まれていた。

 

 

「負けか……やっぱり、速さで振り切られたわね」

七海が静かに呟く。その声には悔しさがにじみ、でも潔さもあった。

 

「七海、強かったんだな。苦戦するのはまだ先だと思ってたんだけど」

僕は正直な感想を返した。

 

七海はふっと目を細め、苦笑する。

「焦った顔、見てみたかったわ。……でも、白夜はやっぱり強いね。最後まで隙がないんだもの。」

 

「だてに王子って呼ばれていないってことだよ」

肩をすくめて答える。心臓はまだ、速く打っている。

 

七海は腕を組み、深く息をついた。

「悔しいけど――今日は負けね。次は、勝つからね」

 

その眼差しはすでに次を見据えていて、鋭くも美しい光を宿していた。

思わず僕は苦笑しながらも、真っすぐに言葉を返す。

 

「望むところだよ。また戦おう、七海」

 

観客席のざわめきがまだ収まらない中、僕と七海は互いに視線を交わし、短く笑みを交わした。

 

七海が小さく笑みを浮かべて口を開いた。

「白夜、この後空いてたら一緒に勉強しない?」

 

先ほどの悔しさは、もう明日のテストへの意気込みに変わっているらしい。

 

「いいね。それじゃ実習棟で整備に出してからカフェいこっか?」

 

「決まりね」

七海の声は軽やかで、どこか楽しそうだった。

 

熱気渦巻くフィールドを後にし、二人並んで退場する。

 

 

 

 

そのあと僕と七海はそのまま実習棟のカフェに腰を落ち着け、テストに向けて一緒に勉強した。

問題を解きながら七海が時折解法を口に出して説明してくれるのが妙にわかりやすくて、彼女の頭の回転の速さを改めて実感する。

 

「ほら、ここは代入を一回挟めば計算が楽になるでしょ?」

「……ほんとだ。さすが七海」

「でしょ?」少し得意げな笑み。

僕も負けじと自分の得意分野――制御系の話題で彼女を唸らせたりして、互いに刺激を受けながら夕方まで机に向かっていた。

その横顔は集中のあまり、昼間の勝気な表情とは違って柔らかい。見ている僕のほうが少しドキリとするくらいだ。うん。今日も七海は美人だ。

 

日が傾き始めた頃、二人で寮へと戻る。

ちょうど食堂が混み始める時間で、並んでトレーを持っていたら後ろから明るい声が飛んできた。

 

「二人でご飯なんてずるーい!誘ってよー!」

振り返れば桃香が小走りで近づいてきて、当然のように合流してきた。

 

 

「もちろん歓迎するよ」

「よかったぁ!今日白夜君とななちゃんの試合、見損ねちゃったよ。今度は私ともかな?!」

 

「負けないよ」

僕がそう言うと、桃香は人差し指を突きつけて笑う。

「ふふん、その時は白夜君をぎゃふんって言わせるんだから!」

 

「ぎゃふんって……今どき誰も言わないだろ」思わず吹き出してしまうと、七海も肩を震わせて笑いをこらえている。

「えー!言うもん!」

「いやいや、聞いたことないって」

三人して笑い合いながら、トレーを持って席についた。

 

 

食事を終えて寮のエレベーターに乗り込む。

7階に着いたところで「またね」と手を振り、それぞれの部屋へ散っていった。

 

ドアを開けると、テッペイは机に向かってペンを走らせていた。

「おかー」とだけ短く言って、視線をノートに戻す。

 

(相変わらずだな、こいつ……)

苦笑しながら僕も机に向かい、椅子に腰を下ろす。

 

「よし、やるか」

目指すは上位。ここからが本番だ。

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