ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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20話

クレープ屋の甘い匂いが風に流れ、モールを歩いているだけでどこか胸が高鳴る。

 

 

「白夜君、私甘い物食べたいなぁ」

 そう言って視線を向ける桃香の目は、もうクレープ屋一点集中だった。

 

「それじゃあ、クレープ買ってからモール内見て回ろっか」

 自然にそう提案すると、桃香が嬉しそうに目を輝かせる。

 

「そうしよう!私がクレープの口になってるって、よくわかったね?!」

 朗らかな笑顔を向けられると、つられて口元が緩む。

 

「そりゃ、桃香の目がクレープ屋さんに行ってたからね」

 肩をすくめて答えると、桃香は「バレてたか」と小声で笑い、軽く肩でタックルしてきた。

 

(暴力的な女め……可愛いじゃないか!)

 突然のボディシップに思わず心臓が跳ねる。

 

 列に並びながら、少し落ち着こうと話題を振る。

「今日はかっこいい感じなんだな」

 桃香の服装を改めて見て、素直な感想を口にする。

 

「でしょー!」と胸を張って得意げに笑う桃香。

 けれどすぐに視線をこちらに戻して、照れ隠しのように続けた。

「でも……かっこいいより“可愛い”って言ってくれたほうが、私は喜んじゃったりするかも?」

 そう言って、頭をこてんと小さく揺らす。

 

「桃香はいつも可愛いよ」

 思わず、考える前に言葉が口をついて出てしまった。

 

 

 ――しまった。

 自分でも気障すぎると思い、慌てて横を見る。

 

 桃香は真っ赤になって固まり、軽口一つも返さない。

 代わりに――ペシ、ペシ、と拳で僕の肩を叩き始めた。

 

「も、もぉー!白夜くんたら、もう!」

 照れすぎて語彙力をなくしたのか、同じ言葉を繰り返すばかりだ。

 

「暴力はんたーい」

 わざと冗談めかして笑い飛ばすと、桃香はさらに真っ赤になって拳を振り下ろした。

 

 けれどその直後、小さな声がこぼれる。

「……白夜くんも、かっこいいよ」

 

 その声は風にかき消されそうなくらい小さかったのに、不思議と耳にしっかり届いた。

 

(やっぱりそうだよな……)

 桃香の分かりやすい好意に、胸がじんわりと熱くなる。

 そして同時に――僕自身も彼女に惹かれていることを、はっきりと自覚した。

 

 クレープ屋のカウンターに近づくほどに、甘い香りよりも、隣にいる彼女の存在が強く僕を包み込んでいた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 二人で並んでクレープを受け取ると、紙の包みから漂う甘い匂いが鼻をくすぐった。

 

「いっただきまーす!」

 桃香は嬉しそうにチョコバナナをぱくり。頬をふくらませながら「ん~!」と声を漏らし、全身で幸せを表現している。

 

「美味しい?」と訊くと、桃香は目を輝かせて大きく頷いた。

「めちゃくちゃ美味しい!白夜君も一口食べる?」

 クレープを差し出してくる。

 

「いやいや…」と断ろうとした瞬間、桃香はわざと小さく「あれ?バナナ好きじゃないの?」と口を尖らせる。

(くっ……天然なのか、それとも確信犯なのか……!)

 周囲のざわめきがやけに遠く聞こえ、僕は観念して小さくかじった。

 

「ど、どう?」

「……美味しいよ」

 クレープの味よりも、彼女の距離感に意識が持っていかれて正直よくわからない。

 

 桃香は「でしょ~!」と満足げに笑い、自分のクレープを再びぱくっと聞こえるくらい美味しそうに食べていた。

 

 

 

 *

 

 モールの中を二人で歩く。

 ガラス越しに服屋やアクセサリーショップ、カフェやゲームセンターの光景が流れていく。

 

「ねぇねぇ白夜君、あのワンピースどうかな?」

 桃香が足を止め、ショーウィンドウの白いワンピースを指さす。

「桃香が着たら……似合うと思うよ。清楚系って感じで」

「えへへ、ありがとう!」桃香は嬉しそうに頬を染め、少し足を弾ませる。

 

「でもね、今日はこれが正解でしょ?」と、グレーパーカーの裾をひらひらさせてみせる。

「動きやすいし、クレープもこぼしてないし!」

 無邪気な笑顔に、僕は思わず吹き出した。

 

 

 *

 

 桃香の足が止まった瞬間、僕もつられるように立ち止まった。

 彼女が指さす先――ガラス張りの向こうには、眩しいライトに照らされたエイドロンのカスタムパーツがずらりと並んでいる。艶やかな装甲プレート、七色にきらめくホログラム塗装の見本、さらには関節部の軽量化ユニットや、光学エフェクトを加える専用装置まで。まるでアパレルショップのディスプレイをそのまま機械に落とし込んだような華やかさだった。

 

「わっ、見て!エイドロンのカスタムショップだよ!」

 桃香はまるで宝箱を発見した子供のように声を弾ませる。

「今日は“ANO”の新作入荷って書いてある!これ、ずっと気になってたやつだ~!」

 

 ANO――女性パイロット向けに「TUYOKAWA(強くてかわいい)」をコンセプトに展開しているブランド。ファッション誌に載っても違和感のないカラーデザインやデカールを次々リリースしていて、女子生徒の間で人気が高かったはず。

 

 

 桃香は目を輝かせながらショーウィンドウに張り付いた。

「ねぇねぇ、これ!ベルに似合うと思わない?ほら、このパステルカラーのホログラムパネル!動いたら絶対キラキラして超かわいい!」

 

「……いや、それ視認性上がって的にならない?」

 僕が冷静に指摘すると、桃香はぷくっと頬を膨らませて振り返る。

 

「いいの!かわいいは正義!」

 桃香は笑顔で言い返す。その目は完全に“ファッションを選ぶ女の子”のそれだ。

 

 横のコーナーにはマーキング用デカールがずらりと並んでいた。翼のシルエット、星座モチーフ、幾何学模様。中には人気アイドルユニットとのコラボロゴまである。

「わぁ!ラメ入りのやつとかあるんだ!これ光ったら絶対かわいい!」

 桃香はショーケースに手をついて、あれもこれもと指を差しながら声を弾ませる。

 

 僕は苦笑しながら腕を組む。

「……ハクロに俺の名前シールとか貼られたらさすがにきついな」

「えっ、じゃあ“HAKUYA”って特大ステッカーにして、背中にドーンって!」

「やめろぉぉぉ!!」

 思わず大声で制止してしまい、近くの客からくすっと笑いが漏れた。桃香は「えへへ」と悪戯っ子のように舌を出す。

 

 

 ふと桃香は展示されているブルーグラデーションの装甲に視線を向けた。

「でもさ、白夜君のハクロもさ、今の黒白ツートンかっこいいけど……ちょっと色で魅せてもいいんじゃない?」

 

「……見せる、ねぇ」

「うん!ベルだって“強いだけ”じゃなくて、“強くてかわいい”って注目されたいの。だからオシャレ大事!」

 

(……なるほど、桃香らしい発想だな)

 僕は心の中で感心する。自分は機能や勝率ばかりを優先してきたけど、彼女は“戦う姿も見せるもの”だと考えている。言われてみれば確かに、観客や仲間にどう映るかも大事だ。

 

 気づけば僕まで、赤や青に染められた外装や、流れるようなラインの装飾をじっと見入っていた。

 もしハクロがステージのスポットライトを浴びるとしたら……そんなありえない想像が頭をよぎり、思わず小さく笑ってしまった。

 

「だってね、エイドロンってパートナーなんだよ!」

 桃香は胸を張って力強く言う。

「パートナーがかわいくてカッコよかったら、もっと一緒に頑張ろうって気持ちになるでしょ?」

 

「……まぁ、確かに一理あるな」

 思わず頷いていた。

 

 桃香はストラップ売り場の隅に視線を移しながら、小さく呟く。

「今はポイント足りなくて何もしてあげられないけど……貯まったらベルをもっと可愛くしてあげたいんだ」

 そして、ぱっと顔を上げて僕を見る。

「もちろん、“強くてかわいい”ね!」

 

 その瞳は真っ直ぐで、ベルを大事に想っているのが伝わってきた。

(……やっぱり桃香も本気でパートナーと向き合ってるんだな)

 

 

 

 *

 

 

 桃香がショーケースに張りついて語る姿は、戦うときの真剣な表情とはまるで違っていた。

 頬を少し赤くして、夢中で色とりどりの装甲を見比べるその横顔は、まるで好きな洋服を選んでいる普通の女の子そのものだ。

 

「白夜君のハクロも、もし色を変えるなら何色がいいと思う?」

 突然振られて、僕は少し考える。

 

「……そうだな。黒と白は気に入ってるけど、アクセントで赤とか金属ブルーを入れるのはアリかもね」

「おおーっ!絶対かっこいいよ!」桃香は両手を合わせてぱちんと音を立てた。

「想像しただけでワクワクするね!次の大会でそんなカラーリングで登場したら、観客ざわついちゃうかも」

 

「……見た目で目立つのはあんまり得意じゃないんだけどな」

 苦笑いする僕に、桃香は小さく首を振る。

 

「違うよ。格好良くて強いって、憧れられるんだよ。目立つんじゃなくて、注目されるの」

 真っ直ぐな瞳で言われて、一瞬言葉を失う。

 

(……この子、ほんとにエイドロンを“自分と一緒に輝く存在”として見てるんだな)

 

 僕は機能や性能ばかり追いかけてきた。けれど桃香のベルには、強さと同じくらい「見られる可愛さ」が込められている。

 その姿勢は、僕にはなかった発想だった。

 

「白夜君のハクロもね、きっと“かっこいい”だけじゃなくて“みんなが見たいって思う存在”になれると思うな」

 桃香はにっこり笑いながらそう言った。

 

 その無邪気でまっすぐな笑顔に、僕は胸の奥で温かいものが広がるのを感じた。

 強さだけじゃない。誰かにとって特別に輝く存在になる――そんな未来も悪くないと思えてしまう。

 

「……今度ポイント入ったら、ちょっと考えてみるよ」

「やった!じゃあ一緒にカスタム考えよ!」

 

 桃香は声を弾ませ、またショーウィンドウに顔を近づける。

 パネルに映る虹色の光がその頬を照らし、ますます明るく見えた。

 

 僕は隣に立ち、その横顔を見つめながら、クレープの甘さよりも濃い熱を胸の奥に感じていた。

 それは新しい目標のようであり、まだ言葉にならない気持ちの形でもあった。

 

 

 

 *

 

 

 

 そのあともいろいろと見て回ってちょっと休憩しよっかとカフェに入ることに。

 

 カフェで飲み物を頼んで、最近の出来事を話していた。

 七海がバトルで強くて苦戦したことや、テストの出来が良かったこと。

 桃香も全勝とはいえないまでもリーグ戦で勝ち星をあげていること。

 そして僕と同じクラスの影野さんていう女の子に負けたことを。

 

「影野さんて子に負けちゃったんだ、白夜君の友達だよね?」

 桃香はストローを唇にくわえたまま、じっと僕を見ている。声色は軽いけれど、その目はほんの少しだけ探るようだった。

 

「うん、この江とは隣の席なんだ。前勉強してた時見かけた子だよ」

 

「強かったよー!スキルで逆転されちゃったーなぐさめてー」

 ぷくっと頬を膨らませ、わざと甘えるように身を乗り出す桃香。

 

「この江、強いよな。桃香もドンマイ、次頑張っていこ」

 

「むー、熱意がたりないぞー」

 頬を膨らませながら睨んでくるが、次の瞬間、ストローで氷を突きながらぽつりと呟く。

「……この江っていうんだ。仲いいんだ?」

 

「まぁ隣の席だし。初日からね」

 僕がさらっと答えると、桃香は一度だけ視線を伏せ、それから明るい笑顔を作ってみせた。

 

「ふーん……そうなんだぁ」

 声は無邪気に響くけれど、笑顔の奥にかすかな影が差す。

 

 

「私も白夜君と同じクラスがよかったなー」

 ぽつりと呟いた声は、先ほどまでより少し柔らかかった。

 

「同じクラスだったら楽しかったかもね」

 

「かもじゃないよー!絶対楽しいよ!」

 目を輝かせ、身を乗り出すように言う桃香。その勢いに思わず笑みがこぼれる。

 

「1年後が楽しみだね!」

 

「1年後?何かあったっけ?」

 

「リーグ戦の成績順でクラス分けされるってきいてない?」

 桃香はにやりと悪戯っぽく笑い、わざとらしく目を細めた。

 

 

「……あ、そういえば、そんな話あったような、なかったような」

 曖昧に返す僕を見て、桃香は「もう~!」と口を尖らせ、ストローで氷をつついた。

 

「そうだよー!白夜君は今のままなら絶対に上のクラスに行くでしょ?だったら私もそこに入りたいなーって!」

 無邪気な笑みとともにそう言い切る。けれど、その声色の奥には「一緒にいたい」という気持ちが透けていた。

 

 

「でも成績順だし、そんな簡単じゃないだろ」

 僕が真面目に返すと、桃香はふっと真顔になり、テーブルに両手を置いて身を乗り出してきた。

「簡単じゃないから頑張るんだよ!」

 

 その瞬間、彼女の瞳がきらりと光った。普段の明るさや無邪気さの裏に、確かな負けん気と強い意志が宿っているのがわかる。

(……そうか。桃香もちゃんと、この先を見据えてるんだ)

 

 僕はカップを持ち上げてひと口飲む。カフェラテの苦味が喉を通り抜けるたび、胸の奥にあったざわめきが現実感を帯びていく。

 

「じゃあ、僕も簡単に負けられないな。来年も一緒にクラスで顔合わせするために」

 そう言うと、桃香の口元がぱっと綻んだ。

「そうそう!絶対に一緒のクラスになるんだから!」

 

 彼女は得意げに笑い、ストローを指でくるくる回す。その仕草はどこか子どもっぽいのに、口から出る言葉は真剣で――そのギャップに、また僕の心が揺さぶられる。

 

「それにね……」

 桃香は少し声を落とし、頬を赤く染めながら続けた。

「同じクラスになったら、放課後とか……もっと一緒に勉強したり、遊んだりできるでしょ?」

 

 

「……あぁ、そうだな」

 思わず目を逸らした。

 ちょっとかわいすぎない?信じられる?

 これで彼女じゃないんだぜ?

 

 

 気づけば、胸の奥でざわめいていた何かが形を持ち始めていた。

 ただの「お疲れ様会」だと思っていた今日。けれど桃香と話しているうちに、それがもう少し特別な時間に変わっているのを感じていた。

 

「……1年後か。楽しみだな」

 僕がそう呟くと、桃香は嬉しそうに目を細めた。

「うん!ぜったいだよ、白夜君!」

 

 カフェのざわめきの中、その約束だけが鮮やかに胸に刻まれた。

 

 そうして僕たちは揃って帰路についた。

 

 さぁいよいよ明日はテストの結果発表だ。

 

 

 

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