ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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21話

 翌日のテスト採点日で休みになった木曜日。

 俺は昨日の夜から、いや約束を取り付けた夕方からずっっっっと!!ソワソワしていた。

 ルームメイトからも「落ち着けよ」って言われたけど、それどころじゃないんだよ!まじで!!

 

 

 なんと黄土貴志は――

 人生で初めて女の子と2人っきりで食事に行きます!!!

 

 ……学園の食堂だけどな!!

 

 

 ホントは小洒落たカフェとかレストランとかで「貴志くんカッコいい!」って思われたかった。

 でも今はBPが足りないんだ。しょうがない、来月の支給額に期待だな!

 

 

 この江に明日の昼に寮の門で待ち合わせなってメッセージを送って、わかったと返事が来たときは乱舞したね!

 初日に初めて喋った女の子と一緒にご飯行けるなんてそれだけで、もう勝ち組じゃね?

 白夜も協力してくれてるし幸運過ぎて怖いくらいだわ。

 

 

「よし!髪、整えて……服は……あれにするか!」

 母さんが買ってくれた、よくわかんない英字がデカデカと書かれてるロンT!

 

 しかも腕のところに炎のプリント! 俺の一番のお気に入りだ!

 ルームメイトが「だっせぇ」って笑ったけど、僻みだな、間違いない。

 ごめんな、俺はもうイケてる側なんだよ!

 

 

 よっしゃ、完璧!これで今日の俺は“イケてる男子”!

 ――そう自分に言い聞かせながら、俺は寮の門へと向かった。

 

 

 *

 

 門の前に近づくにつれ緊張が増していく。

 胸がドキドキしてヤバい。ちょっとおなか痛くなってきた!

(大丈夫、普通にしろ。普通に! 笑顔! 自然体!)

 深呼吸を繰り返し、全身がカッチカチになってるのをごまかそうとした。

 

 そのとき――。

 

「あ……」

 

 小さな声。

 顔を上げると、そこには影野この江が立っていた。

 

 シンプルな白いブラウスに紺色のロングスカート。

 派手さはないのに、前髪を切った大きな瞳がきらきらして……。

 

「か、可愛い……!」

 思わず心の声が漏れそうになる。

 慌てて口を引き結ぶけど、心臓の音はもう隠せない。

 

「ま、待った?」

 なんとか絞り出した声は裏返っていた。

 

 この江は小さく首を横に振り、微笑んだ。

「ううん、いま来たところ……」

 

 その笑顔を見ただけで、もう今日来て良かったって思えた。

 この江可愛い!清楚だ!デートじゃん!こんなのもうデートじゃん!付き合ってるようなもんじゃん!

 

 

 

 ――しかし、この江の胸の奥では別の声が響いていた。

(……本当は。昨日、白夜くんと一緒に行けたらって……白夜君だったら嬉しかったのになぁ…)

 

 自分でも失礼だなって思う。でもどうしても思ってしまう。

 だって私は白夜君のことが――――。

 

 

 

 *

 

 

 

「じゃ、いこっか!」

 俺は声を裏返しそうになるのを必死に抑えながら、寮の門を出た。

 

「うん……」

 この江は小さく頷いて、俺の隣を歩く。

 

(やっべぇ……横に女の子いる!くっそぅ食堂じゃなけりゃ完璧だったのに。レストランとかだったら手なんか繋いじゃったりもできたはずなんだけどなぁ)

 

「よ、よしっ……じゃ、じゃあ、行こうか!この江!」

 声が少し裏返る。耳まで真っ赤にしながら、それでも勇気を振り絞ったように言う。

 

「……うん」

 小さな声で返事をしながら、横に並ぶ。

 

 少し歩いて――その歩調のぎこちなさに、この江は気づく。

 

(……貴志君、緊張してるのかな、無言だし。白夜くんじゃないんだから私からも話しかけてあげないと、だよね?)

 

 お互いお喋りが上手でないため、簡単な会話も続かず無言のまま学園食堂に入っていった。

 

 

 今日は学校は休みということでテーブルの多くが空いていた。静かな空気の中、貴志は両手を落ち着きなく擦り合わせていた。

 

 

「この江、好きなの頼めよ!今日は俺が奢る!」

 

「え、でも……」

 この江は少し戸惑った顔でこちらを見る。

 

「遠慮すんな!男として当然だろ!」

 かっこよく決めたつもりでドヤ顔をした。

(うおおお、人生初の“俺が奢る”!言えた!俺、いま超男らしい!!目標は貴志君カッコいいからの好き!だ!!)

 貴志の心臓は爆発しそうなほど鳴っていた。

 

 

「……じゃあ、日替わりで」

 この江は小さく微笑んで、日替わり定食を選んだ。

 

「……ありがとう、貴志くん」

「そ、そっか! うん、日替わりいいよな! あっ、でもでも! デザートとかも――」

「……お腹いっぱいになっちゃうから、大丈夫」

 

 小さな笑みを浮かべてそう言うこの江に、貴志は「そ、そうか……この江小柄だもんな!」と肩を落としそうになるのを堪える。

 

(くぅ……! もっとカッコよく見せたいのに!でも助かった!!以外とポイントカツカツだったわ)

 

(小柄って気にしてることわざわざ言わなくても良いのに)

 

 

 2人の思いはすれ違いながらも時間は過ぎていく。

 

 

 

 *

 

 

 トレーを受け取り、二人でテーブルにつく。

 定食の湯気が、緊張でカチカチの空気を少しだけ和らげた。

 

「い、いただきます!」

 貴志は勢いよく箸を割り、カツをぱくり。

「うん!やっぱり学食のカツは外れねぇな!最高!」

 俺は明るく爽やかに見せようと振る舞う。

 

 

「っう、うん……」

 この江は少し俺の声にびっくりしたみたいだ。

(あれ、ちょっと声張りすぎた?でも陽キャっぽい方が男らしいし。声小さいよりはいいだろ)

 俺は気にせず食事を続ける。

 

「えっと、その……この江は、よくここ使うのか?」

「……うん。ここ以外はポイント足りないから」

 

「そ、そうだよな!俺も毎日ここだな!ボリュームあって安いし!」

(よし!会話もいい感じに続けれてる!!これは

 良い感じじゃないか?!)

 

 

「……1年生はみんなここだもんね」

 この江は少し微笑む。

(ここには白夜君いないんだ、今日はどこにいるんだろ。ルームメイトのテッペイ君かな)

 

 

 その微笑みに貴志の胸は跳ね上がった。

(きた!笑った!これ絶対デートの雰囲気出てるって!)

 

 

 

「……あの、あしたテストの結果出るね」

 この江がぽつりと言いかける。

 

 

「あっ!?そ、そうだな!俺、どのくらいかなぁ!?上位は無理だと思うけど、結構頑張ったから自信あるんだよな!!」

「そ、そうなんだ……」

 

(しまった!自分語りしすぎた!会話はキャッチボール!質問で返さなきゃっと)

 

「お、おう!この江は自信あるか?!俺より頭良いから、もしかして余裕だった?」

 口早に質問を畳みかける貴志。

 

 

「う、うん。私は上位目指してたから」

(……上位に入って白夜君と2年でも一緒のクラスになるんだ。少しでも一緒に、)

 この江は笑みを崩さないように、静かに箸を動かす。

 

 

「な、なぁこの江。テスト終わったしさ、またこうして一緒に――」

 勇気を振り絞った声は途中で途切れた。

 

「……また、白夜くんと一緒に?」

 思わず零れそうになった本音を、慌てて飲み込む。

「……ううん、なんでもない」

 

「えっ? い、いや!また一緒に行こう!絶対!」

 貴志は勝手に勢いで押し切り、満足げに頷いた。

 

 二人の食事は、そんなすれ違いを抱えたまま静かに進んでいった。

 

 

 

 

 *

 

 

 食堂を出ると、外の空気はひんやりしていた。

 夕方は人影も少なく、寮へ戻る学生がぽつぽつと歩いている。

 

「ご、ごちそうさま! 今日、楽しかったな!」

 俺は少し声を張って言った。

 胸の中で「よし言えた!」と叫びながら。

 

「……うん。ありがとう、貴志くん」

 この江は静かに微笑んで、小さく頷く。

 

 その笑顔を見ただけで、俺のテンションは最高潮に達していた。

(やった……やったぞ俺! 人生初のデート! しかも女子の笑顔付き!! これは完全に大成功だ)

 心臓が爆発しそうなのを必死に抑えながら、俺は拳を軽く握りしめた。

 

「じゃ、また明日な!」

 門の前で手を振る。

 この江も小さく手を振り返した。

 

「……うん。また」

 

 彼女の声は控えめで、それ以上言葉は続かなかった。

 

 *

 

 

 寮へ戻る道すがら、俺は心の中で叫びまくっていた。

(くぅぅぅ! 最高! 俺、ついに変われた! 陰キャ卒業! 俺は今、青春の主人公だああああ!!)

 

 顔がにやけて仕方なくて、すれ違った同級生に怪訝そうな目を向けられたが、そんなの気にしていられない。

 

(このままだと次のデートで付き合えるんじゃないか?!そんで夏には海いって水着でデートなんかしたりして!!)

「よっしゃぁぁぁ!」

 声にならない声を胸の奥で叫び、寮のドアを押し開けた。

 

 

 

 *

 

 

 一方――。

 

 自室へ戻ったこの江は、静かに扉を閉め、服のままベッドに腰を下ろした。

「……ふー、少し疲れちゃったな」

 小さく呟いて、膝に手を重ねる。

 

 

(優しいし、頑張ってくれてるのも伝わってくる。……でも)

 目を閉じれば、思い浮かぶのは別の横顔。

 戦っている時の真剣な瞳も、隣で励ましてくれたときの声も。

 結局、胸の奥を支配しているのは――白夜君の姿だった。

 

「……ごめんなさい」

 誰にともなく呟いたその声は、小さな部屋の中に溶けて消えていった。

 

 

 明日は結果発表の日。

 胸の高鳴りと、言えなかった言葉を抱えたまま――この江は静かに目を伏せた。

 

 

 

 *

 

 

 

 金曜日の朝。

 教室の空気は、今まで以上に重たかった。

 誰もが口数を減らし、配られる瞬間を待っている。

 テストの結果と――BPの支給額。

 それが今後の生活を大きく左右することを、全員が分かっていたからだ。

 

 霧島先生が答案用紙の束を抱え、静かに教壇に立つ。

「静粛に。――発表する」

 

 一斉に背筋が伸びた。

 机の下で拳を握る音まで聞こえてきそうな沈黙。

 

「総合順位およびBP支給額は、学園システムを通じて発表される。各自、生徒手帳を確認しろ」

 

 先生の言葉と同時に、生徒手帳が震えだす。

 画面に次々と文字が浮かび、総合順位と支給BPが表示された。

 

(……来た)

 胸がどくんと跳ねる。

 俺は深呼吸をして、画面を開いた。

 

 ――【総合順位:3位】

 ――【支給BP:209,000】

 

(……っ! 三位……!)

 息が詰まる。

 予想以上の順位に、胸の奥から熱がこみ上げてきた。

 周囲からも「おおっ!」「マジかよ!」とざわめきが上がる。

 

「白夜君、すごい……!」

 隣のこの江が、小さく声を漏らした。

 画面を覗く彼女の目が、憧れと驚きで揺れている。

 

(やっぱり……やるな、白夜)

 前の席の貴志が振り返り、羨ましそうに親指を立ててくる。

 ただ、その隣に座るこの江の横顔は――複雑に見えた。

 

 教室のあちこちで歓声とため息が入り混じる。

「うわー、補講確定かも……」

「よっしゃ、科目首位とった!」

 それぞれの結果が、これからの生活を分ける。

 

 霧島先生の声が再び響いた。

「よいか。順位もBPも、ここでの努力を示すものにすぎん。お前たちの価値を決めるのは、これからの戦い方だ」

 

 その冷静な声が、教室の浮き立つ空気を少し冷ます。

 けれど――心臓はまだ速く打っていた。

 

(3位……この位置なら、もっと上を狙える)

 次のリーグ戦。

 そして、来年のクラス分け。

 視線は自然と、前に進もうとする未来へ向いていた。

 

 

 

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