霧島先生がでは朝のホームルームは終わる残りは自習だと教室を出ていこうとする。
しかし副担任の田島先生が「ちょっ、ちょっと!霧島先生、いろいろ説明が抜けてますよー!」と慌てて呼び止めた。
霧島先生は嫌そうな顔をして、「では田島先生お願いします」とだけ言い残し、颯爽と教室を出ていく。
(……いや、教師としてどうなんだ霧島女史。投げっぱなしすぎるだろ)
思わず心の中でツッコミを入れる。
頭を掻きながら、田島先生が笑った。
「いやー霧島先生は相変わらずせっかちだなー。あはは!」
その親しみやすいおじさんっぽい雰囲気に、教室が一気に和む。
僕は数学が得意なこともあり割と一番好きな先生かもしれない。あ、一番はネジかわよ先生だったわ。あの人の授業は熱が出ても絶対に行く。これから暑くなるし。夏場もツナギなのかな?
おっと話がずれてしまった。
「はい、じゃあ“BPの配点”をわかりやすく説明するよ」
田島先生がタブレットを操作すると、スクリーンに映し出されたのは――猫の画像だった。
「先生!猫とBP関係あるんですかー!」
「うちの猫? かわいー!」
クラスメイトから一斉にツッコミと笑いが飛ぶ。
「あははー、急だったから間違えちゃったよー」
掴みはバッチリだよ!!田島先生、さすがだな。
こっちこっちと見せたかった画面を映す。
映し直された画面には、BP配点の表が並んでいた。
「まず座学だね。300位は一律10,000BP。ここが最低点」
1) 座学BP(学年順位で決まる)
300位は 10,000BP
100〜299位は、300位から順位が1つ上がるごとに +500BP
例)250位 = 10,000 + (300−250)×500 = 35,000BP
120位 = 10,000 + (300−120)×500 = 100,000BP
100位 = 10,000 + (300−100)×500 = 110,000BP
99位以上は、100位から順位が1つ上がるごとに +1,000BP
例)99位 = 110,000 + (100−99)×1,000 = 111,000BP
88位 = 110,000 + (100−88)×1,000 = 122,000BP
3位 = 110,000 + (100−3)×1,000 = 207,000BP
1位 = 110,000 + 99,000 = 209,000BP
科目首位ボーナス:各科目の1位ごとに +3,000BP
例)数学1位なら +3,000BP(複数科目1位ならそのぶん加算)
「要は“300位=1万”を起点に、100位までは500ずつ刻み、99位からは1,000ずつ刻みで上がってく仕組みね」
教室がどよめいた。
「に、20万!?」「装甲一枚買えるじゃん!」
僕も思わず息をのむ。なるほど、上位の価値は数字で証明されるわけだ。
「次にリーグ戦BP」
田島先生がスライドを送る。
2) リーグ戦BP(試合の結果で決まる)
勝利:10,000BP 引き分け:5,000BP 敗北:1,000BP
試合数分を合計するだけ
18勝0分0敗 → 18×10,000 = 180,000BP
16勝0分2敗 → 16×10,000 + 2×1,000 = 162,000BP
12勝2分4敗 → 12×10,000 + 2×5,000 + 4×1,000
= 120,000 + 10,000 + 4,000 = 134,000BP
「うわ、勝率でこんなに変わるのか……」
「そりゃ上位は化け物だわ」
僕は心の中で計算する。(18戦無敗で18万……よし、ここは完璧だ)
「こんな感じだね。来月からは最低でも20戦はあるから全部負けても2万BPだよ。そして」と言って3枚目のスライドを映す。
3) 最終支給BP
座学BP(+科目首位ボーナス)に、リーグ戦BPを足す
例)総合3位 & 数学首位、リーグ18勝なら
座学:207,000 + 3,000 = 210,000BP
リーグ:180,000BP
合計:390,000BP
(※うちのクラスの某“空の王子”のイメージね)
「……って、これ完全に白銀くんのことじゃん!」
「うちの空の王子だ~!」
「僕の情報!!」思わず叫んでしまった。
「どうせすぐバレると思って、ごめんね、白銀くん」
田島先生がにやっと笑い、教室が爆笑に包まれる。
「いや、いいですけど……」許すしかないじゃないですか!!
田島先生は最後にタブレットを閉じて、にかっと笑った。
「――以上!“勉強でもバトルでも稼げる”仕組み。つまりどっちも手を抜けないってことだな!期末まで走り抜けよう、がんばってこー!」
「おーっ!」
自然と教室から声が上がった。
(……いや、こういう説明を最初からやってくれる先生、好きだわ。ネジかわよ先生の次くらいに。推し教師ランキング2位確定だな)
*
ホームルームが終わると、当然のようにBPの話題一色になった。
僕は「はくやー!」と呼ばれ、クラスでも陽キャが揃うグループに引っ張られる。羨ましがりの視線があちこちから突き刺さる。
「俺、合わせて20万くらいだわ」
「俺も!」
「え、うそ?!じゃあ私こん中で一番下?!」
「はくやー!おごってくれー!」
「僕もパーツ買いたいのあるから無理だって」
「くぅぅー!俺のジェットパック計画が……第二の空の王子様になりたかったのに!」
「いや、あんたじゃ無理」
「王子様って顔じゃないだろ」
わいわい騒がしく話していると――
「あー、はくやの彼女に立候補しておけばよかったわー」
と声を上げたのは、僕の中で“ギャル子”と呼んでいる黒崎莉音だ。
(ほんとは「りおちって呼んで」って言われてるけど、恥ずかしすぎて普通に莉音って呼んでる)
「りおちと王子って、解釈違いすぎてダメー!」
横からツッコミを入れるのは高城。
「確かにギャルと王子は違うわ!」
大きな声で笑うのはクラスのムードメーカー、大崎だ。
「えー、ぴったりじゃん、うちら」
莉音が気怠げに僕の肩へ腕を回してきた。
(ちょっと待て、急にくっつかれるとドキドキしちゃうんですけど!?)
「はくやはあーしのこと好きだもんね」
耳元で囁かれて、思わず心臓が跳ねる。
「ええい、莉音やめろ!びっくりするだろ」
慌てて肩を外して脱出する。
危ない、もう少しで好きになりそうだったじゃないか……!
「あーん、ふられたー!」
莉音は大げさに崩れ落ちると、そのまま高城に抱きついた。
「……はくや、おっぱい触ったか?」
ゲスなことを小声で訊いてきたのは、見た目だけは爽やかな好青年・早川。
「触ってないよ、あほ」
小声で即ツッコむ。
「いやー、俺の見立てでは結構ある方だと思うんだよね」
「いや、聞いてないから」
そんなくだらないやり取りをしていると、チャイムが鳴った。
テストが終わったばっかりだというのに、もう次の授業が始まる。
「じゃ、また後で!」と口々に言いながら、それぞれが席に戻っていく。
いつもの日常が戻ってきたようだ。
*
午後の物理の授業も、テスト明けだというのに手加減なしの速度で進んでいった。
(……また復習しないとついていけなくなるな)
そんなことを考えながらノートを取っていると、午前の授業が終わる。
昼飯に行こうかと考えていたところで、隣のこの江がおずおずと声をかけてきた。
「白夜君、すごいね」
憧れの混じる瞳は、真っすぐに僕を見つめている。
(うん、この江はやっぱりいい子だな! 娘にしたいくらいだ!)
「ありがと、この江。この江はどうだったんだ?」
「わ、わたしも……12位で」
はにかみながら答える声に、ほんの少しの自信と誇らしさが混じっていた。
「おお、すごいじゃん。頑張ってたもんな」
「……白夜君と一緒に勉強できたからかも」
少し頬を染め、声を小さくして告げる。
「いや、それはこの江が努力した結果だよ。また頑張っていこう」
僕が笑いかけると、
「うん!」
ぱっと弾むような笑顔が咲いた。
その瞬間――
「はくやー! 飯いこうぜー!」
大崎が後ろから元気いっぱいに声を張り上げた。
「おう」軽く返事をして、「またね」とこの江と貴志に声をかけてから、陽キャグループへ合流する。
大崎元気、早川礼人、高城みゆ、黒崎莉音。
この4人は、僕が貴志やこの江以外でよく話すメンバーだ。
クラスでも目立つ存在で、周囲からは自然と“中心グループ”だと認識されている。
前世だったら絶対に縁がなかったタイプだけど――今はエイドロンという共通の話題がある。
陰キャだった過去なんて、関係なくなるものだ。
「りおち何位だった?」と高城が訊く。
「あーしは100位ぴったり! みゆは?」
「勝ったー! あたし98位!」
得意げにVサインを作る高城。
「え?!おまえら頭良いの?!」
大崎が大げさにのけぞる。
「ここ難関校だからね。バカは少ないよ。見た目がどうであれ」
早川がさらっと余計な一言を足す。
「見た目がどうであれってどういうことだー!」
莉音が冗談めかして抗議する。
「どういうことだー!」
高城も真似して頬をふくらませる。
「だって、なぁ白夜?」
早川がニヤリとこちらへ話を振ってきた。
(おい、なんで俺にキラーパス投げるんだよ!!)
2人の視線が突き刺さる。
「え、えーと……莉音は黒ギャルで、高城は白ギャル?」
「ちょっと! あたしはギャルじゃないから!」
高城がテーブルを叩く勢いで抗議する。
「え、違うの?!」思わず驚きの声が漏れる。
「まー、あーしは黒ギャルだけどね」
莉音は肩をすくめて笑いながら認める。
「どっちでもいいだろ。混む前に食堂いくぞー!」
大崎が会話を切り上げるように前へ進み出す。
わいわい言い合いながら、僕らはぞろぞろと食堂へ向かっていった。
*
昼の食堂は、今日も相変わらずの喧噪に包まれていた。
トレーにカツカレーを載せて席につくと、自然と仲間たちの話題はBPの使い道やこれからの戦い方に移っていく。
「で、白夜はどうすんの?ポイントめっちゃ稼いだんだろ」
大崎が口いっぱいに唐揚げを頬張りながら訊いてきた。
「うん。とりあえず……土日のカップ戦のどれかに出ようかと思ってる」
スプーンを置いて答えると、テーブルが一瞬静まり返る。
「え!?カップ戦って……相手は2、3年の上級生ばっかりだろ?」
「やばくない?だってリーグの比じゃないよ!」
高城が目を丸くする。
「確かに。俺も1年で出てるやつ他に聞いたことないな」
早川も額に手を当てて首を振る。
けれど僕は肩を竦めて言った。
「負けてもいいんだよ。大事なのは“自分に何が足りないか”を知ることだから。強化の方針を見つけられるなら十分だと思ってさ」
「……そっか」
莉音がポテトをつまみながら、感心したように小さく頷く。
「はくやって、王子とか言われてるわりに意外と泥くさい考え方するんだね」
「まぁ、かっこつけてるだけじゃ勝てないしな」苦笑して返す。
「おっしゃ、あたしらもがんばんないとなー!」
高城が拳を握って勢いよく叫ぶ。
「だな!学年3位で全勝の“空の王子”に置いてかれないようにしねーと!」
大崎が声を張り上げると、周りの何人かが「おー!」と便乗した。
「まっ俺たちも白夜みたいにモテたいしね!な、大崎」
早川が茶化すように言うと、
「そうだな!やっぱバトルで強いってのはアドだろ?」
「BPもいっぱいあって、奢ってくれるなら最高じゃん?」
高城が冗談ぽく口を尖らせ、
「ほら、りおちだってそう思うでしょ?」と振る。
「まぁ……はくやがあーしに貢いでくれるなら悪くないかも?」
莉音が頬杖をつき、挑発するような笑みを浮かべる。
「ねーよ!」即座にツッコむと、周囲はどっと笑いに包まれた。
気がつけば、テーブル全体がちょっとした作戦会議のような熱気に満ちていた。
食堂のざわめきの中で、笑い声と「次はこうしよう」「俺も挑戦してみるか」なんて前向きな声が混ざり合う。
そのとき――。
食堂の入り口を通り過ぎる影が、ふとこちらを振り返った。
(……この江?)
トレーを抱えたまま足を止めかけた彼女の視線が、一瞬だけ僕に重なる。
けれどすぐに目を逸らし、俯いたまま早足で別の席へ向かっていった。
「はくやー、聞いてんのか?」
大崎の声に呼ばれ、慌ててそちらへ顔を戻す。
「お、おう。悪い、考えごと」
苦笑いでごまかすと、またすぐに会話の輪へ引き戻される。
(……この江、さっきのは気のせいか?)
胸の奥に微かなひっかかりを残しつつも、賑やかな空気に流されるように、僕はスプーンを握り直した。
テストが終わった今――次の舞台は、カップ戦だ。