ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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26話(挿絵有)

 ぎりぎり会場に駆け込んだ僕は、肺が焼けつくような息を深呼吸で必死に整えた。

 胸の奥で暴れる鼓動を押さえ込み、耳に響く入場アナウンスを聞きながらゆっくりと歩を進める。

(――間に合った。もう迷ってる時間はない。出たとこ勝負だ。やってやる)

 

 照明に照らされるフィールドの中央に立つと、相手選手が入場してきた。

 細身で神経質そうな雰囲気、鋭い縁のメガネにタブレットを抱えた姿は、いかにも理屈屋といった印象だ。

 

「2年の統計寺 算太だ」

 口元に冷笑を浮かべながら名乗り、僕を見下ろす。

「恐れずこの場に出てきたようですねぇ」

 ふっと鼻で笑う声音に、観客席の一部からもざわめきが広がる。

 

「1年の白銀です。よろしくお願いします。」嫌味な相手でも先輩だ。礼儀はちゃんとしないとね。

 

「君のこれまでのデータは収集済みです。君の勝率は10%以下ですよ」ふふふとこれまた厭味ったらしく鼻で笑っている。

 

(なんかむかつくなこの先輩)

 

 

 統計寺先輩はタブレットを操作し、機体を呼び出す。

「出でよ、ヴァンプ――!」

 

 地響きのような重低音がフィールド全体を揺らす。

 現れたのは巨体を誇る漆黒のエイドロン。その名は《バジリスク》。

 

「なっ……デカい!」

 思わず声が漏れた。

 観客席からもどよめきが走る。

 

「な、なんだあのデカさ……」

「重量級よりもさらにゴツいぞ……!」

 

 

「ふふふ……どうだ? これが僕の対空制圧用エイドロン、《バジリスク》だ」

 統計寺先輩の声がアリーナに響く。

 

「地を這う巨体、重装クローラーによる安定性。飛び回る虫ケラのような機体など、近づくことすらできない。

 脚は遅い? 必要ない。僕の獲物はすべて“空を飛ぶ存在”だからな」

 

 観客席のライトがバジリスクの背を照らし出す。そこに伸びる一本の尾――巨大なテイルユニット。

 先端には無数の散弾砲口が割れており、ギラリと不気味に光を反射している。

 

「見えるだろう、この尾を。これが《スティングテイル》。上空に逃げた愚か者は、散弾の雨で確実に撃ち落とす。

 さらに命中率はほぼ100%に達する。なぜなら、僕のコアスキル《ロジック》が敵の回避行動を確率で切り捨てるからだ。運など入り込む余地はない」

 

 統計寺先輩は恍惚としたように言葉を続ける。

 

「……空を飛ぶ?それが運の尽きだ。尾の内蔵ワイヤーが飛び出し、絡みつき、引きずり落とす。

 まるで毒蛇に囚われた小鳥のようにな……!」

 

 両腕を広げ、誇らしげに笑いながら高らかに宣言する。

「そう、このバジリスクこそ“空の天敵”。空に逃げる時点で、勝率はゼロだ!」

 

 観客たちが「おお……!」とどよめく。圧倒的な存在感。まさに重量級の怪物。

 

(な、長い!!ってか両腕っ巨体を支えるためだけかよ!攻撃手段尻尾だけじゃね?)

 

 

 統計寺先輩はさらに笑う。

「君の試合を見て、わざわざサブパーツで組み上げた機体だ。折角だから棄権なんてつまらないことはしないでくれ給えよ」

 アリーナ全体にハーハッハッハ、と高笑いがフィールドに響く。

 

 統計寺先輩の高笑いがまだフィールドに反響している中、僕は深く息を吐き出した。

 観客席もざわめきに包まれている。「飛行潰しのバジリスク相手に、1年がどう戦うのか」と期待と不安が入り混じった空気だ。

 

(……ごめん、今回、飛べないんだよ)

 

 背中のジェットパックは修理中。けれど、それで諦めるほど僕は甘くない。

 代わりに選んだのは、ただひとつ――突進力にすべてを賭けた構成。

 推進特化のロケットブースターと、正面突破のための長大なランス。

 空を飛ぶことを封じられたなら、地を駆け抜けて貫くだけだ。

 

(つまり……先輩、初手で間違えてるよ)

 

 指先が自然とデバイスに触れる。

 機体と心臓がリンクするような感覚が走り、ハクロの黒白の機体がフィールドに静かに佇む。

 その背に揺らめくのは、かつてのスラスターではない。鋼鉄の推進器が低く唸りを上げ、いつでも地を抉って跳び出せるように熱を帯びていた。

 

「なっ……!? ジェットパックがない……?」

 統計寺先輩の声が裏返る。目を見開き、信じられないという顔でハクロを見据える。

 

「馬鹿な……君の戦術は“空を取っての回避”が前提じゃなかったのか……!?

 なぜだ、なぜ飛ばない……!」

 

 

 観客席からも驚きの声が飛ぶ。

「え、ハクロ飛ばないの!?」「新装備か!?」「あのランス……突撃型なのか!?」

 ざわめきが一気に広がり、フィールド全体が熱を帯びていく。

 

 僕は口元をわずかに引き締め、心の中で呟く。

(そうだよ先輩。飛ばないんだ。――今日は、“走る”んだよ)

 

 

「高崎ラボ主催カップ 2回戦!! バトルスタート!!」

 ――第二試合、開始の合図がされた。

 

 

 

「高崎ラボ主催カップ 二回戦!! バトル――スタート!!」

 審判の声が会場に響き渡り、フィールド全体が熱に包まれた。

 

「行くぞ、ハクロ!」

 僕の叫びに応じ、白と黒の機体が一歩踏み出す。その背にあるのは、かつてのジェットパックではない。推進力だけを追い求めたロケットブースターが唸りを上げ、次の瞬間には火柱を吹き上げて加速の準備を始めていた。

 

 観客席が一斉にざわめく。

「飛ばない!?」「嘘だろ、“空の王子”なのに!」

「……いや、見ろよ。あれ、地上戦仕様だ!」

 驚きと困惑が交じり合い、会場全体が沸き立っていく。

 

 

 統計寺先輩も目を剥いた。タブレットを握りしめ、驚愕を隠せない。

「な、なぜだ!? 君は必ず飛ぶはずだ! 僕のデータに誤差はない、誤差は……0.02%以下なんだぞ!」

 その声は苛立ちと困惑が入り混じり、観客にまで届いていた。

 

 観客たちもざわつき始める。

「飛ばないのか?」「いや、あれは……地上戦仕様か?」「え、0.02%に当たっちゃったってこと?」

「宝くじより確率高いのに負けてんじゃん」

 ざわめきは困惑と驚きが入り混じり、熱気がさらに高まっていく。

 

「……デ、データがなくともっ!!」

 統計寺先輩は狼狽えていること隠すように強気を崩さず、バジリスクの尾を大きく振りかぶる。

 巨大な砲口が裂けるように開き、内部の散弾ユニットが唸りを上げる。

 

「飛ばぬなら、地を這う虫と同じこと!! 踏み潰してやる!!」

 

 四本の重装クローラーがギィィンと轟音を放ち、バジリスクが地を揺らすように前進を始めた。

 その巨体が放つ威圧感はまるで戦車の突撃だ。しかし観客たちも思わず息を呑み、ざわめきが疑問へと変わる。

 観客席から思わず声が漏れた。

「……あれ?」「めっちゃ遅くないか?」

 

 

(遅い!!完全に固定砲台の仕様が裏目に出てるだろ)

 

「――ハクロ、加速!」

 僕は即座に指示を叩き込み、ハクロのロケットブースターが爆炎を吐く。

 ランスを前に構え、一直線に突き進むその姿は、まるで戦場を駆け抜ける騎士そのもの。

 

 

「く、来るなら来い!撃ち落としてやる!」

 統計寺先輩が叫び、バジリスクの尾の砲口から散弾が雨のように放たれる。

 轟音と共に金属片が弾丸の嵐となってフィールドを埋め尽くす。

 

 観客席から悲鳴混じりの声が飛ぶ。

「やばい!」「正面突破なんて無茶だ!」

 

(正面から行く――だからこそ!)

 ハクロのシルエットが残像を引き裂き、散弾の雨を掻い潜る。

 金属片が機体の装甲をかすめ火花を散らすが、その足は止まらない。

 

 光の嵐を抜け出した瞬間、統計寺先輩の顔が強張った。

「なっ……!? 命中率が……数値が狂っている……!?」

 統計寺先輩の目が血走る。

「有り得ない! データ上では回避不能……! 確率が……崩れるはずが……!!」

 狼狽の声が悲鳴のように響く。

 

 僕はデバイスを強く叩き込み、叫んだ。

「初見の機体にデータなんてあるわけないだろ!! ぶちかませ――ッ!!」

 

 白銀の閃光が一気に加速し、ランスが空気を裂く。

 轟音と共に、ハクロの一撃が巨体バジリスクの装甲を貫こうとしていた。

 

 観客席が一斉に総立ちとなり、割れんばかりの歓声がアリーナを揺らす。

「行けぇぇぇ!」「一年が本気で突っ込んだぞ!!」

 

 

 ランスの穂先が閃光のように伸び、バジリスクの黒光りする装甲に突き刺さる――。

 

「止めろぉぉぉッ!!」

 統計寺先輩の絶叫がアリーナを震わせる。タブレットを握りしめ、必死に入力を走らせる姿が見える。しかし、その声も操作も、ハクロの加速を止めることはできなかった。

 

 

 ――轟音。

 突撃の衝撃波が空気を切り裂き、床を震わせる。観客席の防御バリアにまで余波が響き、最前列の生徒たちが思わず身を仰け反らせた。

 

 巨体のバジリスクがぐらりと揺れる。四本のクローラーが必死に地を掻くが、勢いに押し負けて後方へと傾き、そのまま大地に叩きつけられた。

 金属の悲鳴のような甲高い音とともに、尾の散弾砲が空に向かって暴発し、虚しく火花を撒き散らす。

 

 

「ぐ……っ、ば……馬鹿な……!」

 統計寺先輩の目が血走り、タブレットを握る手が震えていた。

「僕の……確率計算が……この戦略が……ゼロになるはずが……!」

 統計寺先輩の声は震え、信じられないという感情がそのまま漏れ出していた。さっきまで勝ち誇っていたインテリの仮面は完全に剥がれ落ち、狼狽と困惑だけが露わになっている。

 

 

 

 バジリスクの胴部から白煙が立ち上り、次第に動きを止めていく。

 ランスは深々と装甲を貫き、その一撃が決定打であることは誰の目にも明らかだった。

 

 ――一瞬の沈黙。

 時間が凍りついたかのような静寂のあと、観客席から大歓声が爆発する。

 

 観客席からは悲鳴と歓声が入り混じる。

「うおおおお!!」「貫いたぁぁぁ!!」

「一年がやったぞ!」「データを壊したんだ!」

 

 叫び声、足を踏み鳴らす音、手を叩く音。会場全体が揺れるほどの熱狂が広がっていく。

 

 僕は荒い息を吐きながらデバイスを見下ろした。胸の奥で心臓が暴れるように打ち続けている。

(飛べなくても……いや、飛べなかったからこそ、この一撃を選んだ。最適解だったろ……!)

 

 

「勝負あり! 勝者、白銀!!」

 審判のアナウンスが場内に響き渡る。

 

 そして次の瞬間、爆発のような大歓声。

 観客が立ち上がり、手を叩き、声を張り上げる。

「一年がベスト4だ!」「すげぇぇぇ!!」「空を捨てた一撃!!」

 

 統計寺先輩は崩れ落ちそうな肩を震わせながら、ただ呆然とバジリスクを見上げていた。

 敗北を認めざるを得ないその姿に、一瞬の同情を覚えたが――すぐに視線を前へと向ける。

 

 ライトを浴びるフィールドの中央。

 ハクロはランスを構えたまま、誇り高く立ち尽くしていた。白と黒の機体は損傷を抱えながらも、なおも堂々とした姿を崩さない。

 

 

 汗が頬を伝う。荒い息を吐きながら、僕はデバイスを握りしめた。

 そして静かに心の中で呟く。

 

(これでベスト4進出――次も、必ず勝つ)

 

 

 




【EID-CARD】

機体名 :バジリスク
型式番号:EID-BSLK99
コア  :翠眼コア(バジルアイ)


---

部位:

頭 (スネークセンサー:広域索敵+対空捕捉専用レーダー)

右 (ヘビアーム:重量支え用ハードアームユニット)

左 (ヘビアーム:同上)

脚 (クローラードライブ:重装履帯、移動力は低いが安定性抜群)

背 (スティングテイル:散弾砲内蔵テイルユニット+捕縛ワイヤー)

全高 :320 cm

重量 :560 kg

稼働 :29 分

COOL :12.0 s

HEAT :58 %



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