ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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30話

 翌朝。

 月曜日の朝は、まだ体に重さが残っているのに、教室のざわめきがその眠気を少しずつ掻き消していく。

 

 扉を開けて中に入ると、まだ全員は揃っていなかった。いつものメンバーの大崎元気、早川礼人、高城みゆ、そして黒崎莉音はまだ登校していないらしい。代わりに、黄土貴志と影野この江の姿がすでに席にあった。

 

 貴志は机に頬杖をついて、どこかぼんやりと前を見ている。おいおい、座ってボーッとしてるならこの江に話しかけろよ。お前、好きなんじゃないのか? そういうとこだぞ。アピールが足りんぜ、少年。

 

 

「おはよう」

 そう声をかけると、この江がぱっとこちらを見て、柔らかく微笑んだ。

「おはよう、白夜君」

 

 その一言に、ちょっと感心してしまった。入学当初は、緊張で声が上ずってどもりがちだったのに。今ではちゃんと目を見て、はっきりと言葉を返してくれる。たまにアワアワすることはあるけど、ほんと成長したなぁ……まだ一か月ちょっとの付き合いなのに。

 

 続いて振り返った貴志も「おはよう」と返してくれる。その目が――明らかに「待ってた」と訴えていた。

 

「白夜、ちょっといいか?」

 小声でそう言い、教室の隅を顎で指す。

 

 あー、これは察した。金曜日には話す機会がなかったからな。たしか先週の木曜日、こいつ、この江を誘って夕飯に行ったはずだ。三日間も胸の内にため込んで、話したくてうずうずしてたに違いない。青春だな、おい。よし、聴こうじゃないか。

 

「ああ」

 軽く頷き、椅子を引いて立ち上がる。二人で教室の隅に移動するや否や、やっぱり木曜の話題が始まった。

 

「木曜な、放課後にこの江誘って……食堂で晩飯一緒に食ったんだ!」

 勢いよく言い放つその顔は、勝利宣言でもしたみたいだ。

(おま、食堂はないだろう)

 

「へぇ、いいじゃん」

 僕が軽く相槌を打つと、貴志はさらに身を乗り出す。

 

 

「しかも俺が奢ったんだぜ。奢り! これでちょっとはかっこいいとこ見せられたと思うんだよな」

(おお、それはナイスアピール。けど食堂だしなぁ?)

 

 

「でな、意外と喋れたんだ。最初ちょっと緊張してたけど、途中から普通に笑ってくれてさ」

 貴志の頭の中では完全に青春ラブコメ展開らしい。

(ほんとかよ、気を使われてただけじゃないよな…?いやいや疑うのはやめよう、応援だ応援!)

 

 

「それにな、この江の私服がまた可愛かったんだよ! 白いブラウスに紺色のロングスカートでさ――」

(おい、それは見てみたい……! )

 

「んで最後に、また遊ぼうって言えた!」誇らしげに胸を張る貴志。

(そこだ! しっかり予定まで立てとけっての。遊ぼうだけじゃなく、具体的に日付押さえなきゃダメだろ!)

 

 ……と、心の中でひたすら突っ込みながら、表面上は「おお、そうか、良かったじゃん」と相槌を打ち続ける僕。

 

 貴志はすっかり舞い上がった顔で、自分のペースで話を畳みかけてくる。僕の方も、だんだんツッコミが追いつかなくなってきた。だが――その必死さ、どこか子供っぽくて、けれど真剣で。

 

(……青春だなぁ。本当に)

 

 

 貴志の話を聞いているうちに、気づけばチャイムが鳴りそうな時間になっていた。

 慌てて席に戻ると同時にHRが始まり、そこからはいつもの学園生活のリズムへと戻っていった。

 

 

 

 午前の授業はいつも通りハードだった。

 戦術理論、機体工学――どれも聞き流せば簡単そうに聞こえるのに、実際にノートを取ってみると膨大な情報量だ。

 頭に詰め込みながらも、(これは今日中に復習しないとやばいな)と心の中でスケジュールを組む。

 

 それでも、授業についていけている実感はある。

 御門先輩との試合、そしてあの敗北から学んだことが、自然と知識を自分のものにしようという意欲に変わっていた。

 悔しさが燃料になっている。

 

 昼休みになり、大崎から「一緒に食べようぜ」と声をかけられたが、僕は軽く手を振った。

「すまん、また明日な。今日は先に行くところがあるんだ」

 

 今は優先すべきことがある。

 螺子川ラボへ行き、修理の進捗を確認するのが第一だ。

 

 教室を後にし、廊下を足早に抜ける。

 途中、別クラスの桃香と七海に声をかけられた。

「白夜くーん、お昼どう?」

 

 

 ――一瞬迷ったが、即座に頭を下げる。

「ごめん、急いでて!また後で!」

 

 

 僕は螺子川ラボへと一直線に駆け抜けていった。

 

 

 *

 

 

 螺子川ラボの扉を開けると、独特の油と金属の匂いが鼻をかすめた。

「失礼します!」と声をかけると、整備場の奥からいつもの間延びした声が響いてきた。

 

「おー、来たねー、白銀君ー!」

 工具を片手に、ネジかわよ先生がひらひらと手を振っている。今日も例のごとく、胸元が重力に負けて揺れていた。

 ぽよんぽよんと今日も絶好調だ。

 拝んどこう。ありがたや。

 

「なにしてるのかなー?早くこっちおいでー」

 先生は僕の一瞬の奇妙な表情に気づいたのか首を傾げたが、すぐにドックの方へ手招きした。

 

「はい!」

 僕は慌てて歩み寄り、視線を整備場の中央へと向ける。

 

「どうだー、ピッカピカだよー!」

 その言葉と共に指し示されたのは――完全に修復されたハクロだった。

 

 黒く焼け焦げていたジェットパックのスラスターは見違えるように磨かれ、歪んでいた装甲も真新しい金属光沢を取り戻している。

 まるで、昨日の大破が幻だったかのような姿。

 

「……ありがとうございます!」

 胸の奥から自然と声が出る。

 

「いいよー、こっちも仕事のうちだしー。ジェットパック触れる機会なんて滅多にないから、こっちも勉強になったんだよー」

 先生はにこにこと笑いながら、工具をぽんと胸元に突っ込んで歩いていった。

(えっ?そこに入るの!?)

 

 

 そんなやり取りをしていると、入口から落ち着いた声が響いた。

「お疲れ様です」

 

 振り返ると、金成先輩がタブレットを抱えて入ってきた。きっちり揃えられた制服と、眼鏡越しに覗く真剣な眼差しが相変わらず冷静な印象を与える。

 

「ちょうどよかったー。お金の話は金成ちゃんとよろしくねー」

 ネジかわよ先生はあっさりと僕を放り出し、自分たちの作業へと戻っていった。

 

 金成先輩は僕に軽く会釈し、整備机の隣の椅子を示した。

「白銀くん、こんにちは。思ったより早く来ましたね」

 

「金成先輩、こんにちは。お邪魔してます」

 そう答えて腰を下ろすと、先輩はタブレットを開き、画面をこちらに見せながら淡々と話を始めた。

 

「今回の修理費用ですが……まず、機体の大破に伴って取り寄せたパーツがあります。こちらが合計で5万BP。さらに、使用したランスとロケットブースターですが、買取ということで8万5千BP。合計で13万5千BPですね」

 

「やっぱり……結構しますね」

 思わず声が漏れる。

 

「ええ。ただ、これから勝ち続けるのであれば、この程度はすぐに取り返せますよ。上に行くほど一試合ごとの報酬も跳ね上がりますから」

 淡々とした声だが、その瞳はどこか挑戦的に輝いていた。

 

 金成先輩が画面にバーコードを表示させる。

 僕は生徒手帳をかざし、ピッと読み取る音と共に決済を終えた。

 

 

(……もともと40万以上あったポイントが、これで30万を切ったか。ハクロをもっと大事に扱わないと、本当にすぐ溶けるな)

 

「確認しました。ありがとうございます」

 金成先輩が画面を閉じ、姿勢を正す。

 

「こちらこそ、急いで直してもらってありがとうございます」

 

「――それにしても、白銀くん」

 

「はい?」

 

「以前にも言いましたが、やはり予備のパーツや追加装備は今後必須になります。戦闘中に装備を壊すことは避けられませんし、ラボごとに性能に差が出やすいのものです。余裕があるときにストックを揃えることを強く勧めます」

 

「……はい。自分でもそう思ってたので、助言ありがたいです」

 心からの言葉が自然と出た。

 

 

「予備パーツを持つことは、単なる安心材料ではありません。戦い方そのものを柔軟に変える選択肢になります。今回のように突撃型で挑むもよし、あるいは回避重視に切り替えるもよし。選択肢が多いほど勝ち筋は増える」

 冷静で的確な言葉。まるで盤上の戦術を指導されているようだった。

 

「なるほど……」

 僕は頷きながら、昨日の御門先輩との試合を思い返す。

(突撃しかない、という状況に追い込まれて……そのまま潰された。もし他の構成を選べていたら、もう少し違った展開にできたかもしれない)

 

「とはいえ、ポイントには限りがありますからね」

 

「いきなり何もかも揃える必要はありません。まずは“これさえあれば”という装備を一つか二つ、余剰として持つことを考えてください」

 

「……はい。分かりました」

 言葉に力を込めると、金成先輩は小さく頷いた。

 

「ふふ。なら安心しました。あとは白銀くんがどれだけ稼ぎ、どれだけ勝ち続けるか、ですね」

 

 眼鏡の奥でわずかに笑みを浮かべる金成先輩。

 

 

「もちろん、ラボからだけではなく市販のショップでも装備は揃えられます。ただ――」と、彼女は指先でタブレットを軽やかに滑らせながら言葉を続ける。

「本当に自分専用の“ワンオフ機”を求めるなら、ラボに所属するのが一番です」

 

「ワンオフ機……ですか?」

 聞き慣れない響きに、思わず問い返す。

 

 

「ええ。白銀君のハクロも広義ではそう呼べるでしょう。市販のパーツをそのまま組み合わせるのではなく、君に合わせて調整された専用機ですから。ただ……」

 金成先輩はわずかに首を傾げ、眼鏡を押し上げる。

 

「本当の意味でのワンオフ機はもっと個性的です。フレームからパーツすべてがゼロベースで設計された、“世界に一機しか存在しない機体”。昨日君が戦った御門先輩が、その好例でしょう」

 

 その瞬間、頭の中に鮮烈な光景が蘇った。六枚のスラスターウィングを自在に操り、空中を縦横無尽に駆け抜けるスカイレギオンの姿。僕を圧倒したあの存在感。

 

「……あれが、完全なワンオフ機なんですね」

 

「そうです。御門先輩のエイドロンは、フレーム設計からパーツ開発まですべて学内ラボの内部で行われています。言ってしまえば、彼自身がラボの顔でもあるのです」

 金成先輩はタブレットを操作しながら、ちらりと僕を見やった。

「ちなみに私も、この螺子川ラボで機体を設計してもらっています。まだ完成段階ではありませんが、量産機では味わえないフィット感が得られますよ」

 

「……やっぱり、上を目指すならラボに所属するしかないんですね」

 言葉にすると、自分の胸の奥にずしりとした重みを感じた。分かっていたことを、改めて突き付けられたからだ。

 

「はい。ただし簡単な話ではありません」

 金成先輩は真剣な声音で言った。

 

「どのラボも人員に制限があります。専属のバトルオペレーターは、多くても五、六人。ここ螺子川ラボでも、所属しているのは私一人だけです」

 

「一人だけ……」

 思わず繰り返す。

 

「ええ。だからこそ所属できれば大きなアドバンテージになりますが、選ばれるには実力と結果が必要です。まずは校内リーグで勝つこと。そして観客やスポンサーにインパクトを残すこと。話題性があるほど、ラボ側も注目します」

 淡々とした説明だったが、その言葉には確かな説得力があった。

 

「なるほど……」

 僕は自然と頷き、拳を握る。

 

「幸い、白銀君はすでにカップ戦で結果を出し、話題性も得ています。となれば時間の問題でしょう」

 金成先輩は小さく微笑んだ。

「焦らず、自分の強みを磨き続けなさい。それが上のステージに進む近道です」

 

 

 そのとき、作業台の向こうからネジかわよ先生の大声が飛んできた。

「おーい白銀君ー! 決済も終わったしー! 今日からまたハクロと走り回れるよー!」

 

「ありがとうございます!」

 思わず立ち上がり、深く頭を下げた。

 

「元気でよろしいー!でもねー、機体は彼女みたいなもんだから! 大事にしないとすぐ怒るからねー!」

 先生は豪快に両手を広げて笑う。その胸元がまた、強調されるように揺れ――僕は慌てて視線を逸ら…さない!

 

(……はい、拝んでおきます。ありがたや)

 

 

 ラボのざわめきの中で、僕は改めて決意を固める。

 ――これから先、もっと強くなるために。ハクロを守るために。

 そして、昨日の敗北を必ず糧にしてみせるのだ。

 

「金成先輩、また相談に乗ってください」

「ええ、いつでも。あなたが強くなるのは、ラボにとっても宣伝になりますから」

 

 その真剣な眼差しに、僕もまた強く頷いた。




ちな、作者が呼んでるライトノベルはハイスクールハックアンドスラッシュと無職転生です。爛れた関係って良いよね!
この作品は爛れるのだろうか。
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