ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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31話

 そのあとアリーナーに向かって校内リーグの1戦はサクッと勝利。

 まだ1年の中では七海くらいかな、ちゃんとバトルできたのは。

 

 アリーナを出て廊下を歩いていると、ちょうど大崎、早川、高城が並んで歩いているのが見えた。

「いま帰り?」と声をかけると、振り返った大崎が元気よく答える。

 

「おう、白夜もリーグ終わったのか?」

「うん」

 短く返すと、すかさず高城が「じゃあ、みゆたちも帰るから一緒に帰ろー」と笑顔で誘ってきた。

 

 時計を見ると、まだ15時を少し回ったところ。

 4人でぞろぞろと昇降口に向かいながら、自然と学習の話題になっていく。

 

「このあと教室戻って、復習しよっか?」と高城が言えば、

「そうだな、学年3位の王子がいるからな」と早川が僕をちらりと見て、爽やかな笑みを浮かべる。

 

「俺、次は高城には勝たねぇと」

 大崎は拳を握ってやる気を見せる。

「見た目で判断しちゃだめだぜー」と高城は肩をすくめて挑発的に笑う。

 

(やっぱり、白ギャルだよな……)と内心突っ込む僕。

 

「僕も、毎日復習するくらいしかしてないけどね」

 素直にそう答えると、

「それで3位とか天才過ぎー!」と高城が大げさに声を上げる。

「いやほんと、まじでそれ」大崎も同意して頷いた。

 

 

 和やかな空気の中、ふいに早川がぽつりと口を開いた。

「そういえば、今日は白夜と莉音は一緒じゃないんだな」

 

「……んんん? れいと、今日はって?」

 高城が目を丸くして問い返す。その声色は何かを察したような響きを含んでいた。

 

 すると早川は、にやりと口元を歪める。

 普段は爽やかさを売りにしているくせに、その顔だけは妙にいやらしい。

「あーっ、今日はって言っちゃったかー。んー、でもなー……言っていいのかどうか迷うんだよなー」

 わざとらしく言葉を濁しながら、横目で僕を見てにやにや笑っている。

 

「ええええーっ!? なんかあったの?! りおちとはくや??」

 高城が一気にテンションを上げ、はしゃぎ出す。

 

「おい早川、言え!! 白銀はまかせろ!!」

 大崎が突然僕の背後に回り、腕を掴んで羽交い絞めにする。

 

「ちょっ……やめろって! なんもないってば!!」

 必死に否定しながらも、心臓が跳ね上がる。

 

(……あっ。やばい……!)

 

 脳裏に、昨夜の光景が鮮明に蘇る。

 雨上がりの夜道、莉音と肩を寄せ合いながら歩いたこと。

 濡れないように自然と傘を傾けたこと。

 そして――気がつけば、手をつないで寮まで一緒に帰っていたこと。

 

(……もし、誰かに見られていたら?)

 

 背筋に冷たいものが走る。

 大崎と高城の期待に満ちた目と、ニヤつく早川の表情。

 高城の「えー!教えてよー!」という声が弾んで、まるで観客席のざわめきのように押し寄せてくる。

 

「いやいやいや、だから違うって! ほんとに! そんなんじゃないから!!」

 必死に弁明する僕の声は、しかし完全に裏目に出ていた。

 

「ほらー!動揺してるじゃん!」

 高城が面白がって指を差し、

「やっぱなんかあったんだろ!」と大崎がさらに力を込めて押さえつける。

 

(やっばい……これは、完全に逃げ道ないやつだ……!)

 

 

「言え言えっ、早川!なにがあったんだよ!!」

「ちょっ、ほんとになんもないって!離せ大崎!」

 

「へぇ〜?顔赤くなってるじゃーん!」高城がわざとらしく僕の顔を覗き込んで、にやにや笑う。

「は、離せって!何も――」

 

 

 その横で早川はわざとらしく溜めを作り、爽やかスマイルを歪ませて小悪魔みたいな笑みを浮かべた。

「俺はー……見てたんだよなぁ。雨の中、傘の下で並んで歩く白夜と莉音を」

 

「おおおおおーーーッ!?」

 一斉に声が上がる。

 高城は「それでそれで!」と黄色い声を張り上げ、大崎はさらに腕に力を込めて「やっぱお前らできてんだろ!」と騒ぐ。

 

「ち、ちがっ!ちがうから!!ただ傘に入れろって言われただけで!」

「だけで!?だけでぇぇ!?手ぇ繋いでたのもー?」早川が悪魔のような笑顔で食いついてくる。

 

「は、早川見てたのかよ……!」

「やっぱりなんかあったんじゃねぇかぁぁ!!」大崎がさらにテンションを上げる。

 

「えっ、マジ!?はくやとりおちってそういう……」高城はわざと口に手を当てて大げさに驚いてみせる。

「ちょっと待て!ほんとに誤解だから!!」

 

 必死で否定する僕を横目に、早川はあくまで余裕の顔で肩を竦める。

「ふふ、まあ俺は詳しくは言わないけどさ。傘の下、いい雰囲気だったのは間違いないんじゃないの?」

 

「ぐっ……」言葉が詰まる。図星すぎて反論できない。

 

「おーい白夜ー、顔真っ赤だぞー!」

「うわー、これはビッグニュースだー!」

 大崎と高城のコンビネーションが追撃してくる。

 

「ほんとになんもないから!!」

 必死で声を張り上げても、三人の笑い声と冷やかしにかき消されていく。

 

(やばい……!昨日のこと、完全にバレてる……!いや、誰にどう言われようと別にやましいことはないけど!……けど!!)

 

 

 熱気を帯びたやり取りが続くなか、校舎の扉が開いて、見覚えのあるシルエットが現れる。

 

 ――莉音だ。

 しかも隣には土曜日にも見かけた、あの上級生の男子。彼女と並んで談笑しながら出てくる姿に、自然と僕たちの視線が集まった。

 

「おいおい、これは……」

 早川が唇の端を吊り上げ、僕の肩を軽く叩く。

「フラれたな、白夜」

 

「浮気されたんじゃねーの?」と大崎がにやにや笑いながら冷やかしてきて、

 高城は両手を広げて大げさに頷く。

「いやー、りおちだったら王子よりチョイ悪っぽい先輩の方が解釈一致!ぜったいそっち!」

 

 

「いやいや、フラれてもないし、浮気もされてないからな!そもそも付き合ってないよ!」

 思わず声を張り上げてツッコむ僕。周囲の笑い声がますます大きくなる。

 

 そのとき莉音が僕らに気づき、上級生に一言なにか伝えてから軽やかに駆け寄ってきた。

 上級生は片手を上げてアリーナ食堂の方へと歩き去っていく。

 

「やっほー! みんな揃ってんじゃーん!」

 いつも通り明るい声で莉音が合流し、僕らの輪に飛び込んでくる。

 

「さっきの先輩はいいのか?」と僕が尋ねると、

「いいよー。あーしはもうこっち優先!」と笑顔で手を振る。

「それよりさぁ、みんなで集まってるなら誘ってよー! カラオケ行くかー!」

 

「今たまたま会ったんだよ。あとカラオケは行かない」僕が答えると、

「りおちも一緒に勉強しよーぜい!」と高城が提案する。

「そうだな。教室戻ってやろうか」と早川も頷く。

 

「いこいこー!」と莉音が元気に返し、結局全員で教室に向かうことになった。

 

 

 その途中、大崎が空気を切るように唐突に言った。

「あの男、莉音の彼氏か?」

 

「ちっがうよー!」莉音は即答し、両手をぶんぶん振る。

「だって、あーしのダーリンははくたんじゃん?」

 わざとらしく僕に笑いかけてきて、場を一瞬凍らせたあと爆笑が弾ける。

 

「誰がダーリンだよ!」と慌ててツッコむ僕。

 そのやり取りに「おー、やっぱそういう関係かぁ~」と大崎が茶化し、

「でも解釈ちがうんだよねー!」と高城まで調子に乗る。

 

 

 ワーワー騒ぎながら教室へ入ると、そこにはひとり机に向かっている影があった。

 影野この江――静かにノートを広げて勉強していたらしい。

 

 

「この江ちゃんも一緒に勉強しよー!」と高城が声をかけ、

 少し驚いたように顔を上げたこの江が、はにかむように笑う。

 

 そのまま机を寄せ合い、6人で勉強会が始まった。

 賑やかな雰囲気の中、この江が陽キャたちに囲まれている光景を見て、僕は胸の奥で小さく感慨に浸る。

(……この江が、こんな輪の中で自然に笑えてる。お父さん嬉しいです)と、謎の保護者モノローグが頭をよぎる。

 

 

 やがて話題は、先週のテストの順位に移った。

 僕はすでに公表されていた学年3位。

 高城が99位、莉音が100位、大崎が174位、早川が26位、そしてこの江はなんと12位だった。

 

「オレと莉音だけ3桁かよ!」と大崎が頭を抱えると、

「ちょっと! あーしと70位以上も離れてんのに一緒にすんなしー!」と莉音が抗議し、周りはどっと笑い声に包まれる。

 

 その流れで早川が静かにこの江へと視線を向け、

「影野さんって頭いいんだ?」と爽やかに問いかける。

 

「う、うん。白夜くんにも勉強教えてもらったから……」

 緊張しながらも、しっかりと答える彼女。

 

 

「ほぉ~、やっぱりなぁ」と大崎がシャーペンを器用に回しながらぼやく。

「白夜とこの江ってさ、なんかバランス取れてんだよ。王子と……シンデレラ? いや、もっとこう……お姫さま的な?」

 

「わかるー!」と高城が即座に乗っかる。

「だって、この江ちゃん入学したときは地味~って感じだったのに、今めっちゃ垢抜けたよね!白夜効果じゃん?」

 

「えぇ!?そ、そんな……」

 この江が顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振る。

 

「いや、事実じゃないか?」と早川が腹黒さを覆い隠す爽やかな笑みで肯定する。

「いや、事実だと思うよ。今はこうやってみんなと話してるし、ちゃんと目も合わせられる。――もともと素材は良かったんだよ」

 

「そ、そそそんな、も、もともとって……」

 この江は視線を落とし、

 僕は後方で保護者ヅラをしながら「うんうん」と頷いた。

 

「お前が頷くなよ!」と大崎に突っ込まれ、

「いや、早川が言ったことに共感したんだよ」と返すと、

 莉音がニヤリと笑いながら「はくたん、この江ちゃんのお兄ちゃんみたいじゃん?」と茶化す。

 

 

「優等生の王子と隠れ美少女ヒロインってよくある構図だよね」と早川もさらりと加わり、

「そ、そんな、美少女なんて……!」とこの江は慌てふためく。

 

「そうだぞ、もう隠れてないれっきとした美少女だよ」

 冗談めかして笑いながら言うと、この江は顔を真っ赤にして俯いた。

 

 言った瞬間、教室の空気が一瞬止まった。

 莉音が「おお~」とわざとらしく声を上げ、

 高城は机をバンバン叩いて爆笑。

「さすが白夜! みんなが照れて言えないことをサラッと言っちゃうんだもんな~!」

 

「し、白夜くん!? な、なに言って……!」

 この江は両手で顔を覆い、耳まで真っ赤に染め上げていた。

 

 

「いやいや、事実を言っただけだって」

 僕が慌ててフォローすると、早川がニヤリと笑う。

「へぇ……事実、ね」

 

「やっぱ王子はカッコいいなぁ!」と大崎が大声で煽り、

「そんでいつ保護者ヅラから彼氏ヅラに進化するんだ?」とさらに追い打ちをかける。

 

「進化しねーよ!」

 その横で莉音が机に突っ伏し、肩を震わせながら笑い声を上げる。

「ぷっ……はくたん、あーしを捨てるの~?」

 わざとらしく僕とこの江を交互に見比べるものだから、この江の声が裏返った。

 

「ち、ちがっ……そ、そんなのじゃないっ!」

 

 

 

 浮ついた空気をどうにか断ち切ろうと、僕はパンパンと手を叩く。

「はいはい、休憩終わり!勉強するぞー! 大崎、高城、せっかく教えるんだから真面目にしろ!」

 

「はーい!」と高城が軽く手を挙げ、

「おーす」と大崎も渋々ペンを取る。

 

「くぅ~、せっかく面白くなってきたのにな」と早川が笑みを残しつつノートを開き、

 莉音はちゃっかりこの江に寄り添い「このちー、教えてー!」と甘えるように声をかける。

 

「う、うん……黒崎さん」

 困りながらも、この江はどこか嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「もう“黒崎さん”はやめよー!あーしは“りおち”で!あーしも“このち”って呼ぶからー!」

 

「え……うん。“りおち”」

 小さく頷いたその瞬間、この江の顔にぱぁっと花のような笑顔が広がった。

 

 その笑顔に、場がさらに和む。

 ――そして僕だけが気づいた。

 ほんの一瞬、早川の目がその笑顔に吸い寄せられていたことを。

(……今の、見惚れてたよな?)

 

 

 それは勉強のざわめきの中で、僕だけが気づいた微かな変化で。

 

 それはそれとして、この後めちゃくちゃ勉強した。

 

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