ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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35話

 

 考えがまとまらない間にスカイレギオンにハクロは撃ち落される。

 

「白銀、次を最後にしよう」

 モニターにノイズが走り、ハクロが撃墜されて消えていく。御門先輩の声は、これまでと変わらず冷静だった。

 

 胸の奥に悔しさがじんじんと残る。汗が額から落ち、視界に滲む。

(……このままじゃ、終われない!)

 

「御門先輩、装備を……換装してもいいですか?」

 苦し紛れに、けれど必死に絞り出すように問いかける。

 

 一瞬の沈黙のあと、御門先輩はモニター越しにこちらを見据え、唇の端をわずかに持ち上げた。

「ほう……何に換装するんだ?」

 

 僕は深呼吸を一つして、心の中に浮かんだ願いをそのまま口にした。

「御門先輩と同じ装備……って、できますか?」

 

 ――ハクロもきっと、もっと速く、もっと自由に飛びたいはずだ。

 それなら、同じ翼を持ってみたい。

 

 

「ああ、シュミレーションだからな。もちろん可能だ」

 御門先輩が操作卓に手を伸ばす。次の瞬間、僕のハクロのシルエットが光に包まれ、その姿を変えていく。

 

 重厚でありながら洗練されたフレーム。六枚のスラスターウィングが展開し、残光を引いて羽ばたく。

 白と黒のハクロが、青白く煌めく《スカイレギオン》へと姿を変えていた。

 

「これで機体の条件は俺と同じだ」

 御門先輩の声は低く響く。

「残る差は――オペレーターとしての腕、そしてコアとの絆。それだけだ」

 

 モニターに浮かぶスカイレギオンの瞳が赤く光り、彼の声と重なる。

「俺と俺のコア《ボナパルト》は強い。簡単には揺るがない」

 

 強い自信に満ちた響き。だが僕は引き下がらなかった。

「僕だって……一矢くらい報いたい。御門先輩を退屈にはさせませんよ」

 

 その言葉に、御門先輩はわずかに目を細め、珍しく楽しげな笑みを浮かべる。

「……ふっ。楽しみだ」

 

 スクリーンに夜の廃墟都市が再び映し出される。ビル群の間を、瓦礫を踏みしめる風が吹き抜ける。

 シミュレーションルームの空気までも張り詰めていくのを、肌で感じた。

 

「最後だ、本気で来い」

 御門先輩の声が響く。

 

 僕はデバイスを握りしめ、ゴーグル越しに視線を鋭くする。

「はい……! 全力で!」

 

 

 

 *

 

 

 

 

 ハクロは、もう以前の姿ではない。

 六枚の光翼を背に展開し、蒼白の残光をまとった《スカイレギオン》へと換装された。

 ゴーグル越しに映るその姿は、僕自身が望んだ“理想の飛翔”そのものだった。

 

(はやいっ!思い通りに動く!!これならっと)

 

 

 足元の瓦礫が吹き飛び、視界が一瞬にして青白い残光に覆われる。

 御門先輩のスカイレギオンが一気に加速し、弾丸のように突っ込んでくる。

 

 

「くっ!」

 僕は咄嗟にスラスターを全開にして上昇。背に広がる光翼が咆哮のような噴流を生み、旋回する。

 先ほどまで追いつけなかった残光の軌跡が、今は――かすかに捉えられる。

 

(行ける……!)

 

 ハクロが震える。いや、これは震えじゃない。僕の胸の鼓動と同じリズムで、機体が確かに応えている。

 操作ではなく、共鳴。意識が融け合い、機体と一体化する感覚が広がっていく。

 

 

 

 二体のスカイレギオンが同時に宙を駆けた。

 六枚のスラスターが交差し、残光が夜の廃墟を切り裂く。

 閃光の雨が両腕からほとばしり、十数発のビームが交錯した。

 

「白銀、悪くない」

 御門先輩の声が、空間を震わせる。

 

 直後、その機体は視界から消える。いや――視界の死角を突き抜け、不可能な角度で滑り込んできた。

「だが――まだ俺の手中だ」

 

 セレスティアルランチャーが火を噴く。数発の誘導弾が円を描き、包囲網を形成して襲いかかる。

 必死に回避運動を取るが、背後のスラスターが追従しきれず、弾頭が肩装甲を掠め、警告音が鳴り響く。

 

 

「……っ!」

 苦悶に顔を歪めながらも、僕は唇の端を吊り上げる。

「さすがですね……でも、まだ終わりじゃない!」

 

 反転。急旋回で瓦礫のビル影に潜り込み、一瞬だけ御門先輩の射線から外れる。

「この一撃で!」

 

 頭部ユニット《レギオンバレル》がチャージを完了。

 眩い光束が直線に伸び、御門機の片翼をかすめた。

 炸裂音とともに金属片が散り、確かな手応えが胸を震わせる。

 

 これまで一方的に叩き潰されていた戦況に、初めて僕の意思が割り込んだ。

 

「……やってくれる」

 御門先輩の声音に、初めてわずかな揺らぎが混じった。

 だが次の瞬間、彼は微笑み、低く呟く。

「白銀――それだ。未知の武装を迷わず使いこなし、初見の挙動にも即応する柔軟さ。お前のセンスは粗削りだが、本物だ」

 

 

 

 コアスキル――発動。

 

 

 

 六枚のスラスターウィングが一斉に展開する。だが、そこで終わりではなかった。

 次の瞬間、翼のうち四枚が基部から外れ、青白い残光を尾に引きながら宙に浮かび上がった。

 

「これが……俺のコアスキル、《ボナパルト・オーダー》だ」

 淡々と告げられる言葉。だがその声音の奥には、誇りと自負が滲んでいた。

 

 独立した兵装として自在に滑空し、円を描きながらハクロを取り囲む。

 

「もっと見せてみろ」

 御門先輩の声と同時に、分離ユニットが一斉に射出される。

 

 残光の矢が四方から迫り、廃墟都市の夜を裂いた。

(なんだよこれ……ファン〇ルじゃねぇか!!?)

 

 

 六枚の光翼のうち四枚が、まるで生き物のように独立して宙を舞う。

 それは「翼」というよりも――獰猛な捕食者。

 光の尾を引きながら、獲物を追い詰めるように軌道を変え、僕のハクロに向かって一斉に突進してくる。

 

(オールレンジ攻撃……!? 制御してるのは、御門先輩のコア《ボナパルト》か!)

 

 

 四枚のスラスターは群れのように散開し、背後、側面、上空――ありとあらゆる死角を塞いでいく。

 次の瞬間、全方位から同時にビームが吐き出された。

 

「うおおっ!!」

 叫びながら、僕は反射的にスラスターを全開。

 光の奔流をすり抜け、ビルの影に滑り込む。だが追撃は止まらない。

 四枚の光翼は、軌道を描くたびに次の瞬間には位置を変え、まるで僕の行動を先読みしているかのようだ。

 

「速い……! 普通の追尾じゃない、予測してるのか……!」

 ゴーグルのHUDが赤く点滅し、警告音が鳴り止まない。

 

 背後で爆発音が轟き、瓦礫が吹き飛ぶ。かすめただけでも操作が揺さぶられ、視界が震える。

(まずい、完全に翻弄されてる……!)

 

 

「白銀、これが俺と《ボナパルト》の三年間の積み重ねだ」

 通信越しに聞こえる御門先輩の声は、氷のように冷静で、それでいて熱を孕んでいた。

「コアを理解し、委ね、そして同調する。自分の意思を通すのではなく、共に動く。

 それが“パートナー”だ」

 

「……コアに委ねる」

 僕は歯を食いしばりながら呟く。

(そうだ……御門先輩は“コアの声を聴け”って言ってた。

 俺はずっと、自分の操作ばかりを押しつけてたんじゃないか?)

 

 四枚のスラスターが陣形を変えた。

 まるで蜘蛛の巣のように、射線が重なっていく。

(このままじゃ、撃ち抜かれる!)

 

 

 光弾が放たれる。

 逃げ場のない空間で、僕は咄嗟にスラスター出力を最大に上げ――後方へ逆噴射。

 衝撃波が身体を打ち、視界が閃光で埋まる。

 

「くそっ、完全に狩りの網じゃないか!」

 叫びながら、ビルの間を縫うように飛び回る。

 一瞬でも動きを止めれば、すぐに次弾が追ってくる。

 息をする暇さえない。脳が焼けるような集中を強いられる。

 

 御門先輩の声が再び響く。

「逃げるだけでは勝てないぞ、白銀」

 

「わかってます!!」

 怒鳴り返しながら、僕は両手の操作桿を握りしめた。

(逃げてるだけじゃダメだ……! でも正面から撃ち合っても勝てない!)

 

 

 ――違う。

 僕には、ハクロがいる。

 

「ハクロ……頼む。今度はお前の“声”を聴かせてくれ」

 

 心の中で呟いた瞬間、背部スラスターの出力計がかすかに揺れた。

 まるで返事をするように、光が脈動する。

 

 次の瞬間――ハクロの動きが変わった。

 僕の入力よりもわずかに早く、機体が滑るように横転し、死角へと飛び出す。

 その機動は、僕が指示したわけじゃない。

 ハクロ自身が、危険を察知して動いた。

 

(そうか……! これが……“同調”か!)

 

 ハクロの残光が、獣の群れをかき分けるように宙を駆けた。

 僕とコアの意思が重なり、次の動きが脳裏に浮かぶより早く機体が動く。

 

 

 

 

 ――ファンネルが一斉に火を噴いた。

 光の矢が四方八方から放たれ、夜の廃墟都市が瞬時に昼間のような輝きに包まれる。

 信じられない急旋回と軌道変化。僕の思考を置き去りにするほどの加速で、光の雨をすり抜ける。

 

 加速。

 旋回。

 反転。

 ――そのすべてが、僕の思考を置き去りにするほど速かった。

 まるで、ハクロ自身が“生きている”かのように、次の瞬間に最適な軌道を描いている。

 

(ハクロ……お前――!)

 

 

「……ほう」

 御門先輩の声にわずかな驚きが混じった。

 

「まだだぁっ!!」

 ハクロの腕部に装備されたセレスティアルランチャーが火を噴き、目前のファンネルの一枚を撃ち抜いた。爆光が夜空を裂く。

 

「一枚……落とした!」

 息を呑む。

 これまで一方的に押され続けた戦いの中で、初めて得た確かな手応え。

 胸の鼓動が爆ぜるように跳ねる。

 

 だが、安堵する暇はなかった。

 残る三枚がすぐに包囲網を組み直し、光の翼を翻して襲いかかってくる。

 その動きは、先ほどよりも速く、精密だった。まるで怒りを覚えたように。

 

「やるじゃないか、白銀」

 御門先輩の声音に笑みが混じる。

「それだ……コアを信じ、共に戦う感覚を掴み始めている」

 

 

 スカイレギオン本体が光翼を広げる。

 残る三枚のファンネルと連動しながら、流星のような突撃軌道を描いてきた。

 その速さは、さっきまでの追撃とは比べものにならない。

 

「くっそ……!」

 僕はスラスターを全開。視界が赤く染まるほどの加速で御門機を迎え撃つ。

 耳鳴りがする。

 血が沸き立つ。

 体とハクロの感覚が、もはや区別できない。

 

(負けない……! 今だけは絶対に!)

 

 

 胸の奥で燃え上がる声に呼応するように、ハクロのコアが淡い輝きを帯びた。

 手に汗を滲ませながら、僕は叫んだ。

 

「舐められたままじゃ!!」

 僕はコアスキルを発動させる。

 両腕のセレスティアルランチャーと、頭部の《レギオンバレル》が一斉に光を纏う。

 

「ハクロ、スプレッド・レイン!!」

 

 白光が奔流となって溢れ出し、広範囲に拡散する弾幕が夜空を裂いた。

 連続射出されるエネルギーの粒子が、三枚のファンネルを次々と飲み込む。

 

 爆発。

 閃光。

 衝撃波。

 

「――やった!」

 三枚の光翼が爆ぜ、残骸が雨のように降り注ぐ。

 

 だがその背後、なおも輝く二枚の光翼が迫る。

 御門先輩の機体はほとんど損傷していない。

 上空から、まるで“王”が玉座から見下ろすような静かな威圧感を放っていた。

 

「白銀、予想以上だ。ここまで追いつくとは思わなかった」

 御門先輩の声は、どこか満足げだった。

「だが――ここまでだ」

 

 スカイレギオンの翼が、白金色に変わる。

(え……!?)

 眩い光が一点に収束していく。

 コンソール越しに、エネルギーゲージが振り切れて真紅に点滅した。

 

「全砲門、照準完了――《グランド・サリュート》」

 

 轟音。

 世界が光に飲み込まれる。

 空も、大地も、ビルの影も――すべてが白一色に染まった。

 

「沈黙せよ。これが――王の祝砲だ」

 御門先輩の声が響く。

「合格だ、白銀」

 

 白光の奔流がハクロを包み、抵抗もなく押し潰していった。

 

 ――爆発音とともに、映像が途切れる。

 

 静寂。

 

 淡い光が消え、現実の《シミュレーションルーム》に戻る。

 薄暗い照明の中、鼓動だけがやけに鮮明に響いていた。

 握り締めていたデバイスから、じわりと汗が滲み落ちる。

 

「……はぁ、はぁっ……!」

 息が荒い。

 仮想空間なのに、体が本当に戦っていたみたいに重い。

 

 やがて視界が安定し、ゴーグルを外した。

 目の前には、静かに立つ御門先輩の姿があった。

 彼はゆっくりとコンソールから手を離し、こちらへと歩み寄る。

 

(……やっぱり、御門先輩はすごい。けど――楽しかった)

 

 

「――よくやった、白銀」

 短い一言。だが、その声には確かな熱と、ほんの僅かな誇らしさが混じっていた。

 

 僕は、喉の奥がひゅっと鳴るのを感じた。

「……負けました。でも、今までで一番、楽しかったです」

 

 

「そうだろう」

 御門先輩は微笑む。

「お前の《ハクロ》は、最後の数分で俺の機体に迫っていた。

 スラスターの挙動、照準の修正、そして――コアとのリンク。すべてが格段に良くなっていた」

 

「……あの感覚、なんなんですかね。

 僕が操作してるはずなのに、ハクロが勝手に動いてくれる。

 まるで……同じ考えを持ってるみたいで」

 

「それが“共鳴”だ」

 御門先輩は腕を組み、少し天井を仰ぐ。

「コアが、お前を信頼し始めた。自分の限界を見せた瞬間、コアは次の動きを選び、お前を導こうとする。

 機体と人間の意志が重なり合うとき――初めて“エイドロン”は完成するんだ」

 

 

(……共鳴。僕とハクロが、ひとつになった瞬間……)

 あの光の感覚を思い出す。

 視界が白く輝き、身体のすべてが翼になったような、一瞬の高揚。

 

 御門先輩はそのまま壁際の端末を操作し、戦闘データを呼び出す。

 ホログラムの画面には、僕と御門先輩の機体の軌跡が立体的に映し出された。

 無数の光線が交差し、爆散し、最後に一点へと収束していく。

 

「……見ろ。これはお前の戦闘ログだ。八戦目までの挙動と比べると、最後の一戦は明らかに違う。

 もちろん機体が違う。それもあるが反応速度、照準補正、スラスターの出力配分。理論値を超えてる」

 

「理論値を……?」

 

「コアとの同調が成立していなければ、こんな出力は出せない」

 御門先輩は、ホログラムのハクロを指差す。

「つまり、お前は今日、初めてハクロの“本来の性能”を引き出したんだ」

 

 胸の奥で何かが熱く膨らんでいく。

(……そうか、ハクロはずっと、僕を待ってたんだ)

 

「……御門先輩」

 気づけば、自然と声が出ていた。

「僕はもっとハクロと飛びたいです。もっと一緒に強くなりたい」

 

 

 御門先輩は微かに笑い、肩を叩く。

「その言葉を待っていた。……やはり、間違いなかったな」

 

「え?」

 

「白銀。お前を“後継者候補”として正式に推薦する」

 御門先輩は真っすぐ僕を見た。

 その瞳の奥に、戦場の光とは別の、確かな情熱が宿っている。

 

「藤堂ラボの顔になるには、技術だけでは足りない。

 自分とコアを信じ、仲間を導く“核”が必要だ。

 お前には、その片鱗がある」

 

 息を呑んだ。

 たった今まで汗に濡れていた手が、急に熱くなる。

 

「……ありがとうございます。でも、まだ僕なんか――」

 

「謙遜するな。今日の戦いがすべてを物語っている」

 御門先輩は言い切った。

「だが、勘違いするな。これは“合格”ではなく、“入口”だ」

 

「入口……」

 

「ああ。藤堂ラボの扉を叩く権利を得たというだけだ。

 次は――藤堂室長本人が、お前を試す」

 

 空気がわずかに張り詰める。

 さっきまでの熱が、今度は冷たい緊張に変わった。

 

 御門先輩は背を向け、部屋の出口へ歩きながら言う。

「今日のデータは藤堂室長にも送っておく。

 あの人は、“数字より感覚”で人を測るタイプだ。気を抜くな」

 

 ドアが開き、眩しい光が差し込む。

 振り返る御門先輩の表情は、もう戦士ではなく、導く者のそれだった。

 

 

「――ようこそ、白銀。お前の新しい戦場へ」

 

 

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