シミュレーションルームを出て、御門先輩の背中を追う。
戦いを終えたばかりの余韻と、先ほどの会話の緊張がまだ胸に残っている。
(これから……もしかして、ラボの仲間たちと顔合わせ? それとも、いきなり藤堂室長と会うのか?)
心臓が高鳴る。足取りが自然と早まるのに、口の中は乾いていた。
だが、御門先輩はいつもと変わらない落ち着いた様子で、迷いなく歩き続ける。
緊張で胸が鳴る。足取りは軽くないが、不思議と心は熱を帯びていた。
だが――その期待は、建物を出た瞬間にあっけなく裏切られる。
「……あのー、御門先輩。今からどこに行くんですか?」
思わず声をかけると、御門先輩は振り向かずに短く答えた。
「もう十一時を回る。昼食を取りに行くぞ」
(……え、昼飯!?)
肩透かしというより、拍子抜けだった。けど、気づけば腹も鳴りそうなくらい空いている。
二時間以上の戦闘シミュレーションを続けたのだから、そりゃそうか。
「……はい!」
返事をして歩幅を合わせる。
御門先輩は一定のペースで歩きながら、淡々と話しかけてくる。
「白銀、体調管理は習慣だ。戦いは一瞬でも、準備は日常で決まる。
食事、睡眠、ストレス。どれか一つでも欠けると、反応が鈍る」
「はい……気をつけます」
「栄養管理も大切だ。プロを目指すなら、体は資本だ。
あと、休むときはしっかり休め。メリハリをつけろ」
「はいっ!」
「……あと余裕ができたら、BPを貯めて寮の部屋を広げろ。
狭い空間で疲れを取るのは効率が悪い。リラックスできる環境を整えるのも一流の条件だ」
「なるほど……!」
どれも実践的な助言で、ただの精神論ではない。
“強さ”を支える生活の部分まで、先輩は本気で考えているんだ。
そんな話をしながら歩くうちに、気づけば校区を抜け、商業区の通りまで出ていた。
生徒や一般客で賑わう昼前の街。食堂、カフェ、屋台が立ち並び、香ばしい匂いが風に乗って流れてくる。
御門先輩は迷いのない足取りで進み、ふいに立ち止まった。
「……ここだ」
指さした先にあったのは、木製の暖簾がかかる古風な店。
香ばしい湯気とスープの匂いが、外まで漂ってくる。
「え、ラーメン屋……ですか?」
「そうだ。ここの醤油ラーメンは絶品だ」
御門先輩はそう言って、まるで戦場へ赴くような真顔で暖簾をくぐった。
「……まさか御門先輩の口から“ラーメンは絶品だ”なんて言葉が聞けるとは……」
「何か言ったか?」
「い、いえ! なんでも!」
(……え、御門先輩ってもっと栄養管理完璧な“サラダと鶏胸肉の人”みたいなタイプかと思ってたのに!?)
けれど、その背中にはどこか柔らかい雰囲気があった。
いつもの冷静で完璧な姿勢のまま、後輩の僕を自然に昼飯へ連れていく――。
その気遣いが、なんだか妙に嬉しかった。
(……ほんと、この人はどこまでも先輩なんだな)
暖簾をくぐると、湯気とスープの香ばしい匂いが一気に鼻を突いた。
カウンターの奥で大鍋がぐつぐつと音を立て、出汁と醤油の香りが混ざり合っている。
昼前の店内はほどよく混んでいて、学生服の姿もちらほら見える。
「いらっしゃいませー!」
威勢のいい店主の声に軽く会釈し、御門先輩は空いていたカウンター席に腰を下ろした。
僕も隣に座る。
「ここ、よく来るんですか?」
思わず聞くと、御門先輩は湯気越しに軽く笑った。
「そうだな。週に一度は必ず来る。バトル後の補給にも丁度いいし、味が濃すぎない。脂も少ない。……理想的だ」
(理由が真面目すぎる……)
僕も隣に座り、手元のメニューを開く。
「醤油、味噌、塩……って、けっこう種類ありますね」
「最初は醤油だ」
間髪入れずに返ってくる答え。
「バトルもそうだが、最初に基礎を押さえないと味もわからん」
「なるほど、ここでも基礎なんですね……」
思わず笑ってしまう。御門先輩は、戦いでも食事でも軸がぶれない。
店主が「毎度ー」と声をかけ、手際よく麺を湯切りしている。
「白銀」
名前を呼ばれて、思わず姿勢を正す。
「は、はい!」
「戦いにおいても、日常においても同じだ。
食事も、睡眠も、呼吸も、全部“整えること”が大事だ。
整っていない心身で勝てるほど、甘い世界じゃない」
湯気の向こうで、彼の瞳は静かに光っていた。
「……だから俺は、こうして食べるときも自分を律する」
(ラーメンを律して食うって、どういう次元だよ……)
心の中で突っ込みながらも、どこか尊敬の念が芽生える。
やがて、湯気を立ててラーメンが運ばれてくる。
澄んだ琥珀色のスープの表面に油が光り、焦がしネギの香ばしさと、濃い醤油の香りが立ち上がる。
箸を入れ、麺をすくい上げると、湯気の奥から湧き上がる香りに自然と喉が鳴った。
「……いただきます」
御門先輩は箸を整えて、音も立てずに麺をすすった。
まるで儀式のように丁寧で、無駄のない動き。
僕も真似して一口啜る。
「いただきます」
一口すすった瞬間、熱と塩気、醤油の深みが舌に広がる。
疲れた身体に染み渡るような優しい味だ。
「……うまい」
思わず漏らした僕の言葉に、御門先輩は口角を上げる。
「だろう。戦った後の一杯は格別だ」
「御門先輩でも、ラーメン食べるときはそんな顔するんですね」
「俺だって人間だ。理屈抜きにうまいものはうまい」
短くそう言って、彼は麺をすする音を立てた。
数分間、二人の間には言葉のいらない沈黙があった。
だが、その沈黙は心地よく、戦闘中の緊張とはまるで違っていた。
「それに賑やかな食堂より、落ち着いて味わえる方が集中できる。」
なるほど、と頷く。
気づけば僕も、疲労で空っぽだった体にスープを流し込むようにして食べ進めていた。
塩気が、戦いの余韻を溶かしていく。
「……白銀」
食事を終え、箸を置いた御門先輩がふと真面目な声を出す。
「この後、俺の部屋についてこい。この学園では最上級の部屋だ。目指すものを見ておけ。お前の成長につながる」
「はい……分かりました」
御門先輩は立ち上がり、僕の分の会計もまとめて済ませると外へ出た。
昼の陽射しがまぶしい。
「御門先輩、ごちそうさまでした」
呼び止めると、彼は足を止めて振り返った。
御門先輩はゆっくりと頷いた。
「……先輩だからな。気にするな」
その言葉を残し、御門先輩は背を向けて歩き出す。
真夏の陽光を背に、その姿はどこまでも凛としていた。
――あの背中を、いつか並んで見られるように。
僕は拳を握りしめ、強く心に誓った。
「どうした、いくぞ白銀」
「はい!」
*
ラーメン屋を出ると、昼下がりの陽射しが街のアスファルトを金色に照らしていた。
通りの喧騒が少しずつ遠のき、代わりに風に揺れる木々の音が耳に届く。
御門先輩は無言のまま歩き出し、僕は少し距離を置いてその背中を追った。
商業区のきらびやかな看板が遠ざかり、やがて建物の様相が変わっていく。
店やカフェが並ぶ通りを抜けると、空気が一段階落ち着いた気がした。
御門先輩が向かっていたのは、学園都市の北側にある上級生専用の宿舎エリア――通称「ハイ・レジデンス区画」。
ここはただの寮ではない。
一定以上の成績や功績を残した者、もしくは研究・開発面で学園に貢献した者だけが入居できる特別区域だ。
白い外壁と植え込みに囲まれた整然とした街並みは、もはや“学園施設”というより“高級住宅街”に近い。
僕は周囲を見回しながら思わず息を呑む。
建ち並ぶ建物の一つひとつが個性的で、それぞれが居住者のステータスを物語っている。
ガラス張りのモダンな塔、木造と石造りを融合した静謐な邸宅、どれも一般学生寮とは次元が違った。
御門先輩はそんな街並みを指で示しながら、淡々と説明する。
「リーグ戦で上位に残る者、研究班で結果を出した者、あるいは企業案件に関わった学生の多くはこの区画だ。
洋風志向なら《ヴァルキリーガーデン》。中華様式なら《崑崙舎》。和風を好むなら《天翔館》。
俺は――天翔館だ」
指し示された先にそびえていたのは、堂々たる六階建ての建物だった。
白壁に黒瓦、そして玄関前には小さな庭園と池があり、まるで高級旅館のような趣がある。
風が吹くたびに水面がきらめき、静けさと品格が調和した空間だった。
「……ここが、先輩の家……なんですね」
思わず見上げたまま呟く。
「そうだ。俺は最上階だ」
御門先輩はICカードを翳し、自動扉を開けて中へと入る。
中に足を踏み入れた瞬間、涼やかな空気と静寂が肌を包んだ。
香木の香りがほんのり漂い、エントランスには専属のコンシェルジュが立っていた。
「ようこそ天翔館へ。お帰りなさいませ、御門様」
丁寧な一礼に僕は思わず背筋を伸ばす。
「す、すごい……」
口から出た声は情けないほど小さかった。
御門先輩は軽く頷き、「こちらだ」と案内する。
通されたエレベーターは静音設計で、上昇中もまるで空を滑っているような感覚だった。
「寮とは言っても、ここでは完全な生活支援が受けられる。
食事の配膳、買い出し、雑務の代行……全部専門スタッフがやってくれる」
御門先輩の説明に、思わず「お手伝いさん付きの生活みたいですね」と口に出す。
「そんな感じだな。俺はエイドロンの整備と分析に集中できる。だからこそ、家賃は高い」
彼は苦笑しながら続ける。
「月三十万BPだ。だが、それだけの価値はある」
エレベーターで最上階に上がると、そこに広がっていたのは一面ガラス張りのリビング。
二十畳を優に超える広さで、外の景色が一望できる。
壁際には戦闘データの分析機器、奥にはエイドロン専用のドックまで設置されていた。
「ここが俺の拠点だ」
御門先輩は静かに言う。
「朝は走る。昼は戦う。夜はここで戦闘データを見直す。それ以外は、任せられることは全部任せている。
努力に集中するための環境を、自分で整えた。それが、俺のやり方だ」
僕は苦笑しながらも、その空間に圧倒されていた。
それは単なる贅沢ではない。努力のための環境。
彼がどれほど日々を積み重ねてきたのか――部屋そのものが語っていた。
「俺は天才じゃない」
御門先輩は静かに言う。
「だが、積み上げることだけは誰にも負けない。
才能に頼るやつはいずれ限界にぶつかる。だが、努力で築いた者は崩れない。俺はそう信じてる」
御門先輩は湯呑を手に取りながら、ふと真っ直ぐ僕を見た。
「白銀。お前もいつかここに来い」
「……え?」
「俺の後を追うって意味じゃない。お前自身の力で、こういう場所に辿り着け。
努力の先にある“自分の形”を掴め。もっと広い世界を見せてやる」
僕は無意識に拳を握りしめる。
胸の奥に、またひとつ火が灯る感覚がした。
「――でも、そのためには」
御門先輩は少しだけ笑って続ける。
「もっと強く、ですね」
僕が言うと、先輩はわずかに笑みを浮かべた。
「理解が早い。だが焦るな。強さは焦りの中からは生まれない。
積み上げた時間の先にしかない。今日、お前が倒れずに最後まで戦い抜いたようにな」
その声は静かだったが、どこまでもまっすぐに響いた。
僕は深く息を吸い、まっすぐ彼を見る。
「……はい。必ず追いついてみせます」
御門先輩は一瞬だけ微笑み、ゆっくりと頷いた。
「言葉より、行動で示せ。それでいい」
彼はカップを置き、立ち上がる。
「今日はここまでにしておけ。身体を休めろ。また連絡する。」
「はい。ありがとうございました!」
玄関を出ると、涼しい風が頬を撫でた。
外の空気は静まり返っており、建物の前に設けられた滝の音だけが響いていた。
滝の水面が夕日に照らされ、光の粒がゆらゆらと舞っている。
(……ここで暮らしてると、毎日この音を聞くのか)
努力を積み上げた者だけが手に入れる静寂。
御門先輩の言葉とその景色が、静かに胸に刻まれていった。
まぁ滝はいらないかなと思いながら。
コア設定まとめ
■ 名称
ソウルコア(Soul Core)
神によって授けられる「魂の記録装置」。
個体ごとに異なる波長を持ち、1人につき1つだけ存在する。基本的には単一色。
■ 基本構造
可視部分:卵形のエネルギー結晶(マーブル模様など)
内部構造:6つの“位相領域”を持つ演算・共鳴体。
マスクデータ
近接(STR系):格闘能力
機動(AGI系):移動・回避能力
制御(TEC系):操作精度・複合システム連携
射撃(DEX系):照準精度・出力安定
防御(END系):耐久・障壁展開
特殊(SPC系):コアスキルや適性スキル
■ 成長と数値感
一般人:総合10〜100
学生/訓練生:150〜250(卒業時)
プロ/競技選手:300〜350
(経験値=実戦や訓練・シミュレーション・共鳴などで増加)
■ コアスキル(Core Skill)
各コアに固有の“異能アルゴリズム”が刻まれており、
各項目のレベルが上がることによって覚える。
使用者の精神・性格・経験により発現内容が異なる。
例:
スカイレギオン搭載コア《ボナパルト》
所有者:御門 隼人(3年/Aクラス)
黄金色のコア
合計値:280
パラメータ 数値 備考
近接 15 ほぼ非依存。格闘は不得意。
機動 38 機体補正でカバー。空間制御優先。
制御 75 超一流。ドローンやスラスターを自在に指揮。
射撃 78 中距離~長距離射撃精度が高い。
防御 22 機体の回避と盾展開で補うバランス型。
特殊 52 コアスキル《ボナパルト・オーダー》発動補正。
合計 280 学生最高峰クラス。