ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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4話(挿絵有)

 杉本さんが汗を拭いながら近づいてきた。

「いやあ……参りましたよ。部長のご子息のコア、そしてその……ジェットパック」

 そう言って、背中の試作パーツを指差す。

 

「アレは本当に有用そうですね。実戦化できれば、バトルの常識が変わるかもしれません」

 

 研究員たちも一斉に頷いた。

「推力安定、出力応答も優秀です」

「課題は冷却系統か……でも充分実用域だな」

 

(やっぱり試作品ってことか。でも“課題”より“アドバンテージ”の方が明らかにでかい。これ、普通に大会出られるレベルだろ!)

 

 父さんが僕の方へ視線を向ける。

「白夜。――もう一戦、やってみるか?」

 

「……もちろん」

 外面は冷静、声は落ち着いて。だが内心は、再び熱で沸騰していた。

 

(まぁ1戦だけじゃデータとれないよね、ここでやらないって言える空気でもないし)

 

 腕輪のディスプレイが再び点灯し、ラボ中央のフィールドゲートがゆっくりと開く。

 ゲートの奥から次の機影が現れた。

 

(こ、今度はどんな機体だ……!?)

 

 ハクロの瞳が一度、静かに明滅した。

 それだけで、息が合う。

 

 

 

 *

 

 

 

「次は地上二足型だ。評価班の相良、用意は?」

「はい、投入機はEID-SCR《スキュラー》。ワイヤーと実弾の複合支援型です」

 

(スキュラー。名前からして蜘蛛型でだった気がする。搦手とか使う機体だったよな)

 

 父さんがちらりと僕を見る。

「ワイヤーは飛行型の天敵だ。頭上の死角を意識しろ」

「了解」

(ワイヤーね。やっぱりだ、飛行型に相性悪そうな相手をしっかり選んでくるとは⋯。パパン、流石だよ!)

 

 ゲートから現れたのは、蜘蛛モチーフの二足地上型エイドロン。

 対面のゲートからは、灰色装甲の《スキュラー》が歩み出る。肩と腰にワイヤースプール、前面には細かな多眼センサー。脚は二本だが、シルエットは蜘蛛っぽい。

 

 

「ルールは同じ。先に制御不能を取った側の勝ちだ」

  父さんの合図――ブザー音が響く。

 

 

「ハクロ、上昇!」

 

 背部スラスターが吠える。

 熱風を残し、ハクロは天井近くまで上昇。

 

  バシュッ! 《スキュラー》の肩からワイヤーが二条、天井へ走る。

 ――バシュッ!

 《スキュラー》の肩からワイヤーが二条放たれた。

 金属音と共に天井パネルへ吸着、蜘蛛糸のような罠が展開される。

 

 直後、腕部の銃口が閃いた。

 パン、パン、パン! 小刻みな連射音が響き、弾丸が空を縫うように飛んだ。

 ワイヤーを軸にスイングしながら、射角を自在に変えてくる。

 

 

「ロール回避! ビーム二連、ワイヤーの基部を狙え!」

 

 ハクロが宙で身を翻す。

 白い閃光が二条、正確に走る。

 ワイヤーの片方が弾け、天井に火花が散った。

 

(よし!一本切れた!でももう一本が生きてる!!)

 

 スキュラーが残るワイヤーで天井を蹴るようにスイング。

 真下から跳び上がりながら、投網型のワイヤーを射出――!

 

「前進スラローム、回避!」

 

 ハクロが空中でジグザグに動く。

 左右にスラスターが閃光を放ち、細かく角度を変えながら滑空。

 紙一重で投網を抜ける。

 

 金属の網が天井に絡みつき、火花が散った。

 

(あっぶねぇえ! 今の捕まってたら拘束確定コースじゃないか!)

 

 スキュラーが姿勢を戻し、実弾ライフルを連射。

 弾が雨のように降り注ぎ、壁や床を跳ねる。

 ハクロの装甲をかすめ、白い火花が弾けた。

 

「回避、回避! 射線に入るなよ!」

 

 ハクロはスラスターを細かく制御しながら空を滑る。

 しかし――距離を詰められない。

 《スキュラー》の射角制圧が上手すぎた。

 

(この距離、マジで接近できない! 打ち上げても撃ち落とされる!)

 

 下方で《スキュラー》がリロード動作。

 そのわずかな隙――。

 

「父さん、センサー角度は!?」

「前方広角重視。垂直上三十度は感度が鈍る」

 

(上!上が正義!!)

 

「ハクロ、天井すれすれまで上昇――静止!」

 

 スラスターが唸り、機体が天井ギリギリで停止。

 排気光が空気を歪め、淡い残光の膜を作る。

 

「光源を背に。影を落とせ」

 

 ハクロがわずかに姿勢を変える。

 照明を背負い、スキュラーのセンサーに逆光を作った。

 

 黒灰色の蜘蛛が、一瞬、照準を見失う。

 

「ダイブ! エストック先端、集中!」

 

 ハクロが翼のようにスラスターを展開し、一直線に落下した。

 螺旋を描く光の尾。

 黒いエストックの刃が、空を裂くように伸びる。

 

 《スキュラー》が焦ってワイヤーを斜め上に発射――が、逆光と死角で照準が逸れる。

 

 ガァンッ!

 

 乾いた金属音と共に、エストックが肩スプールを貫通。

 火花が散り、ワイヤーが垂れ下がる。

 続けざまに左手のビームが閃き、もう片方の基部を撃ち抜いた。

 

 両肩の制御系が沈黙。

 

「足だ、行け!」

 

 ハクロが滑るように着地し、白光を閃かせた。

 ビームが膝関節を掠め、スキュラーの脚がぐらりと揺らぐ。

 

 転倒制御に入った一瞬――。

 

「今だ、胴中央! 突け!」

 

 ハクロの瞳が鋭く光る。

 黒いエストックが胴へ一直線。

 

 ――ガシン。

 

 ——ブザー。

 

《スキュラー、制御不能判定。勝者《ハクロ》!》

 

 ラボに歓声が広がる。

 父さんが腕を組み、静かに頷く。

 研究員たちはモニター越しに息を呑んでいた。

 

 ハクロはスラスターを緩め、ふわりと着地。

 その瞳が一度だけ、柔らかく点滅する。

 

(……今の、“やったな”って意味だろ?)

 

 僕はそっと笑って腕輪に触れる。

「……ナイスだ、ハクロ」

 

 瞳がもう一度、穏やかに光った。

 

 

 

 *

 

 

 

 相良さんが苦笑しながら額の汗を拭った。

「頭上死角、完璧に突かれました。飛行と逆光の組み合わせは、ワイヤー側の天敵ですね」

 

 すぐ後ろで別の社員がタブレットにメモを走らせながら頷く。

「ジェットパックの微推力ホバ、安定度が異常に高い。地上型の照準にはかなり強い」

「でも熱管理がギリギリね。ビームとジェット同時使用を繰り返すとヒート値がしきい値に近いです」

 

 

(熱ですか、冷却増しで積んであとは僕次第ってことね)

 

 父さんが腕を組み、口の端を上げる。

「白夜。テストとはいえ、空戦と地上、両方に勝った。……大したものだよ」

「ありがとう、父さん」

 

(外面クールに返事したけど、内心は勝ったー!ってぐるぐる回ってます!今日だけで二勝ッ!)

 

 僕は手首のバングルをタップする。

「ハクロ、収納」

 

 腕輪の結晶が光を放ち、光柱が走る。

 エイドロンの姿が粒子となってほどけ、ゆっくりと腕輪へと戻っていく。

 

 残響のように、ラボの空気が静まった。

 

 そして――その時。

 耳の奥で、何かが響いた。

 聞こえるはずないんだけど、ハクロの意志がもっと飛びたいという意思を感じた。

 

 僕は思わず小さく笑う。

「もちろん。ハクロもありがとう」

 

 バングルの結晶が淡く明滅した。

 それが、ハクロなりの返事のように思えた。

 

(とはいえ、次の相手が“飛行型二機編成”とか来たらむりだな でも……)

 

 視線を上げる。

 まだ少し煙の残るフィールドの空間を見上げて、胸が高鳴った。

 

(——空から刺すの、やっぱ最高に気持ちいいんだよな!)

 

 

 

 *

 

 

 

 父さんがにやりと笑う。

「まだ物足りないだろう?」

 

(……やっぱりそう来たか。父さん、初日から三連戦は中々ハードじゃないですか?!)

 

「次は……重装近接型でいこうか」

 ゲートが開き、鉄板のような足音が響く。

 

 現れたのは肩に巨大なシールド、両腕に分厚いブレードを持つエイドロン——《ガルダイン》。

 まるで動く要塞。

 

(出たよ、タンク役。分厚いシールドにデカい剣。

 “真正面から受け止めろ”ってオーラ全開だな。……いやいや、こっちはスリムな飛行型。相撲とりにマラソンランナーぶつけるようなもんだろこれ)

 

 

 

 *

 

 

 

 ブザーが鳴る。

 

「ハクロ、スラスター全開! 翻弄しろ!」

 

 白黒の機体が閃光のように飛ぶ。

 《ガルダイン》がブレードを振るうが、ハクロは余裕で回避。

 

「うおおっ!?」

 操縦する社員の声が驚きに揺れる。

「速すぎる……!」

 

(そりゃそうだ。初戦で“世界初の空戦機”倒してるんだ。

 ……でも調子に乗ると落ちるのが社会の常。油断大敵、慢心ダメ絶対)

 

「急降下、側面へ回り込め!」

 ハクロが降下してシールドの横へ滑り込む。

「そこからビーム三連射!」

 左腕の銃口が光り、バババッ! と連射。

 

 セーフティが火花を散らし、《ガルダイン》の脚部が揺れる。

 

「さらにもう一撃、頭部センサー!」

 白夜の指示に合わせて光弾が連続で叩き込まれ、重装機の巨体がよろめく。

 

 研究員たちがざわめく。

「重装が翻弄されている……!」

「速度差で完全に圧倒されているな」

「空戦型の有用性がこれほどとは……」

 

(あーあ、こういう反応は危ない。

 ちょっと結果出したら、急に期待値が跳ね上がるやつだ。

 飛行制御って難しいよ!地上型がどんなのか知らないんだけどさ!!)

 

「フィニッシュだ、ハクロ! 真上から蜂の巣にしろ!」

 

 機体が急上昇。

 真上から一直線にビームガンを乱射。

 光の雨が《ガルダイン》を覆い尽くし、セーフティフィールドが警告音と共に真っ赤に点滅する。

 

「……これまでだ」

 社員が声を絞り出した瞬間、試合終了。

 

「勝者、《ハクロ》!」

 研究員の拍手が響く。

 

 

 

 *

 

 

 

 父さんが腕を組んで笑う。

「三戦三勝。上出来だな」

 

 胸のコアが淡く光る。

 ハクロの瞳がゆっくりと明滅した。

 

「……うん。でも今日はここまでかな。正直、頭パンクしそう」

(本音を言えば、もう風呂と布団とカツ丼のことしか考えられない)

 

「ははっ、そうだな。白夜はこの辺で切り上げよう」

 父さんが僕の頭に手を置く。

 軽くくしゃりと撫でる手の感触に、ちょっとだけ胸が温かくなる。

 

 

 セーフティフィールドが解除される。

 ラボの照明が通常色に戻り、機械音の残響だけが耳に残る。

 ハクロがゆっくりと着地し、背部ジェットから薄い蒸気を吐き出した。

 まるで「まだいける」と言っているみたいだ。

 

 

 

「……以上で初日のテスト終了だ」

 父さんの声が響くと、研究員たちがぞろぞろと集まり始める。

 

「空戦能力、予想を遥かに上回ってるな」

「ジェットの安定度、想定以上。ただし稼働時間は短い」

「冷却系、追加した方がいいですね」

「出力切り替えの訓練も必要だ」

 

(うわー……この人たちは“終わり”じゃなくて“始まり”なんだな…

 

 父さんが軽く咳払いをして、僕の方を向いた。

「白夜。今日の三戦、見事だった。……だが、もっと楽しみたいならここで満足しちゃいけない」

 

 その目は優しいけれど、どこか挑戦的だった。

 

「エイドロンは成長する。マスターと共に、な」

 

 僕は頷く。

 腕輪の画面に映るハクロのシルエットを見つめながら、自然と笑みがこぼれた。

 

「うん。僕とハクロは、もっと強くなるよ。……これが僕の夢だったからね」

 

 胸の奥が熱くなる。

 子どもの頃テレビで見たホビーアニメ。

 その中の主人公たちみたいに、僕も実際に戦っている。

 

 最高だ。

 僕はハクロの光る瞳に向かって、小さく拳を握った。

 

「行こう、ハクロ。これから始まるんだ——僕たちのバトルが!」

 

 ハクロのコアが、静かに応えるように明滅した。

(やっぱりこれ、主人公のスタート場面っぽくない?本当にホビーアニメの世界だったりする?)

 

 

 

 *

 

 

 

 そして——。

 

 高校入学までの二週間は、まさに風のように過ぎ去った。

 

 父さんの会社に通い詰め、社員たちの手厚い指導を受け、ハクロとの連携を徹底的に磨く日々。

 何度も実戦データを積み、何度も倒れ、何度も立ち上がった。

 そのたびに、ハクロの反応はより人間らしく、より頼もしくなっていった。

 

 冷却システムの調整。

 ジェットパックの推力制御。

 ビームガンの射撃モード切替。

 空中戦と近接戦を組み合わせた立体コンボ。

 

 一つひとつを反復し、理解し、修正し、また挑戦する。

 正確に言うなら、「機体に染み込ませ、僕は理屈を整理する」。

 前世で覚えたPDCAサイクルの思考が、まさかエイドロン訓練で役に立つとは思わなかった。

 

 さらに父さんのコネ全開で、試作の頭部パーツと脚部パーツをタダで支給。

 ラボの塗装ブースから引き出されたハクロは、つや消しの白と黒のツートンに再塗装され、まるで新シリーズの主役機のような仕上がりになった。

 

 滑らかな装甲。研ぎ澄まされたフォルム。

 白と黒の境界が光を反射し、まるで“昼と夜の狭間”を象徴するかのように輝く。

 

(……これだ。プロトタイプじゃない。完成された“僕の相棒”だ。

 僕が十二年間待ち望んだ、魂を預けられる存在——ハクロ。)

 

 

 コア《ハクロ》は、戦闘や日常の積み重ねから経験を吸収していく。

 そして経験値が一定に達すると、内部からスキルが芽吹く——。

 

 この二週間で生まれたのは、たとえば「神速」や「スプレッドレイン」といったもの。どれも便利でハクロを輝かせるものだ。

 

  コアは、ただの動力源ではない。

 マスターとともに成長し、心を通わせる“もう一つの魂”だ。

 神様の贈り物、という言葉が、今ならよく分かる。

 

(……積み上げてきたものが、高校でどこまで通用するかな。

 顔だけって言われないように頑張らないと。

 ていうか、もし“主人公”が他にいたら、僕どうすればいいんだ?)

 

 苦笑しながらも、心の奥でワクワクが止まらなかった。

 

(まあいいか。与えられた役割より、楽しんだもん勝ちだろ。)

 

 ハクロの目が静かに光る。

 その光を見た瞬間、胸の奥に確かな声が響いた気がした。

 

 ——「そうだな。俺たちの出番は、まだ始まってもいない」

 

 白夜は小さく息を吐き、笑う。

 

「僕らが、この物語の主役だ」

 

 ハクロのコアが、柔らかく明滅した。

 

 まるで、その言葉に頷くように。




機体名 :スキュラ
型式番号:EID-SCR-04
製造社 :エイテック重工

コア  :

部位  :
頭(多眼型センサー:広角視界&暗視対応)
/右(ワイヤーランチャー:対象を絡め取る捕縛ユニット)
/左(ワイヤーランチャー:牽制や射撃補助に使用可能、両腕対称装備)
/脚(多脚型クローラー:四脚+補助二脚で安定性と地上機動に優れる)
/背(弾倉ユニット:小型実弾兵装〈マシンガン/グレネード〉を格納)

主要数値:
全高  :210cm
重量  :310kg
稼働  :55分
COOL  :15s(ワイヤー射出後の巻き取りに必要)
HEAT  :上限125%

コアスキル:

備考  :

エイテック重工が開発した制圧型地上エイドロン。

多脚構造による安定性と捕縛能力で、対空機・高速機の天敵とされる。

ワイヤーは実弾兵装と連携することで確実なダメージを与える設計。

装甲は中厚で耐久性は標準。火力は低めだが持久戦に強い。


「地を這う支配者、なんでもかんでも絡め取れ!
——“制圧の蜘蛛”スキュラ、登場。」


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