観客席の熱気が、まるで嵐のように渦を巻いていた。
アナウンスが途切れるや否や――
ツナアタッカーの二体が、水柱を割って突進してきた。
轟音。水の壁が割れ、筋肉の塊が水上を滑る。
波がうねり、足場ステージがきしむほどの衝撃。
「ウェイブ・スプラッシュチャージィィィ!!」
「アアアアタァァァック!!」
巨体が二つ、轟音とともに跳ね上がる。
水飛沫が陽光を反射し、観客席にまで降り注ぐ。
「……くるっ!」
七海の瞳が光る。
《アリエル》が両腕を広げ、水面を軽く踏みつけた。
その瞬間――低く響く音波が放たれた。
「スクリーム!」
透明な衝撃波が走る。
一瞬、空気がねじれ、水面が弾ける。
「ぐおっ!?」
先行して突進していたツナアタッカーが、水中で体勢を崩した。
モニターには“制御信号異常”の赤い文字。
観客席がどよめく。
「出たっ、セイレーンのスクリーム!」「制御系が混線してる!」
「桃香!」
「任せてっ!」
《ベル》が両腕を広げる。
ピンク色の光弾が散り、虹のような弧を描いた。
「シャイニング・レイ!」
スキルの光が一直線に走る。
先頭のツナアタッカーの胸部に命中し、爆炎が水柱を巻き上げた。
「おおおおーっ!」「一撃で落としたぞ!」
観客が立ち上がる。
だがその直後――
「マッスルセカンド、行くぞぉぉぉ!!」
「パワーイズウェイブ!!!」
もう一体のツナアタッカーが、怒号とともに跳躍。
水柱を蹴り上げ、渦巻くように回転しながら突っ込んでくる。
水面が爆ぜ、アリーナ全体が振動するほどの突進。
「強引に来るわね……でも――」
七海が冷たく息を吐く。
「同じ手は、もう見せない」
《アリエル》の声が再び響く。
「スクリーム・モードツー――出力、最大!」
歌声が一段階高くなる。
まるでオーケストラの高音のような澄んだ響き。
空気そのものが震え、水面が細かく波打つ。
「制御、狂った!?」「機体がスピンしてる!」
ツナアタッカーの巨体が急に制御を失い、突進軌道が逸れる。
筋肉の塊が無様に水上を滑り、泡の尾を引きながら崩れ落ちた。
その瞬間――
「桃香、今!」
「まっかせてななちゃん!」
《ベル》がホバーで跳ね、空中で両手の砲口をクロスさせる。
砲口から迸った連続光弾が、まるで流星の雨のように水面を照らした。
無数の反射光が乱舞し、アリーナがピンク色に染まる。
ツナアタッカーの装甲が砕け、筋肉のシルエットごと光の粒へと変わっていった。
爆音が止み、残響だけが静かに空気を揺らす。
「……終了ッ!!」
審判の声が響く。
アリーナが爆発的な歓声に包まれた。
「すごい! 一撃ずつで沈めた!」「あの二人、息ぴったりだ!」
観客席からはピンクと青のペンライトが振られ、
《ピーチマリン》の名を呼ぶ声が波のように広がっていく。
僕は思わず立ち上がって、手すりを掴んだ。
(……完璧すぎだろ。音で狂わせ、光で貫く――すごい連携だし、二人とも強い!)
ステージ上で、七海と桃香が目を合わせる。
互いに笑って、軽くハイタッチを交わした。
「勝利チーム、《ピーチマリン》!」
アリーナのスピーカーが高らかに告げる。
水面の光が二人を包み、
ステージの上では、二人が笑い合いながら観客に手を振っている。
初戦の幕は、華やかに降りた。
*
観客席の喧騒が、まだ水面の上に名残を落としていた。
波がゆるやかに揺れ、光が反射してアリーナ全体をきらめかせる。
拍手の余韻、スピーカーから流れるBGM、そしてどこか誇らしげなざわめき。
まるで《ピーチマリン》の勝利を、施設全体が祝っているようだった。
僕は胸ポケットからスマホを取り出し、画面を開く。
試合速報アプリのトップに、鮮やかな文字が踊っていた。
〈初戦突破:チーム《ピーチマリン》〉
思わず、ふっと息が漏れる。
(……やるな、二人とも)
まるでプロみたいだった。七海の冷静な判断と、桃香の瞬発力。
あの息の合い方は、ただの仲良しペアじゃできない。
気づけば、指が勝手に動いていた。
【さっき見てた。初戦突破おめでとう】
送信ボタンを押すと、胸の奥がほんのり熱くなる。
くすぐったいような、誇らしいような、そんな感情だった。
スタンドの熱気がまだ冷めない中、会場の外に出ると、
照り返す水面の光が眩しいほどだった。
波の音と人の声が入り混じる通路を抜け、休憩エリアへ向かう。
カップルや学生たちがジュースを手に歓談している。
(あの二人、今ごろ控室で休憩してるかな)
(七海と桃香、今ごろ控室かな)
そう思いながら、自販機の缶コーヒーを開ける。
ひと口飲んだところで――
「――白夜くんっ!」
声に振り向くと、向こうから駆けてくる影が二つ。
桃香と七海だった。
さっきの試合の名残か、制服のジャケットは脱いでいて、
白いシャツが少し濡れて身体に張り付いている。
夕陽のオレンジ色がシャツ越しに透け、汗の粒がきらりと光った。
「おう、二人ともお疲れ様!」
「試合、見てたのね」
七海は息を整えながらも、落ち着いた微笑を浮かべる。
その隣で、桃香は満面の笑みで両手を広げた。
「ねっ、ねっ! どうだった? 見てくれたよね!?」
「うん、ちゃんと見てたよ。完璧だったね」
その言葉に、桃香が嬉しそうに跳ねた。
「でしょー!? 二人で何回も練習したんだよ! でもななちゃんが途中で“音波もう一段上げる”とか言い出すからびっくりしたんだよ!」
「即興じゃなくて、あれは予定通りよ。……半分くらいはね」
七海が髪を耳にかけ、少しだけ照れくさそうに笑う。
「半分!?」
桃香が肩を落としながら笑い、二人の笑い声が弾けた。
さっきまで激しい戦いをしていたとは思えないほど、和やかな空気。
だけどその笑顔の奥には、確かに戦い抜いた者だけが持つ“自信”が見えた。
ふと、七海の視線が僕のスマホに向く。
画面にはまだ、送信済みのメッセージが光っていた。
「ちゃんと見てたのね。……メッセージ、届いたわ」
「……あ、うん。あれ、送ってすぐだったけど」
その一言に、七海の目尻が柔らかく緩む。
「ふふっ。ありがとう」
試合中の鋭さとは違う、穏やかな微笑み。
普段のクールさに柔らかさが混じって――心臓が少しだけ跳ねた。
「白夜くんは、来週大会なんでしょ?」
桃香が一歩近づき、両手を後ろに組んで顔を上げる。
「そのときはあたしたちが応援する番だね!」
「お、それは心強いな」
笑って返すと、桃香が勢いよく親指を立てた。
「次も勝って、決勝で会おうよ!」
「いや、大会が違うだろ……」
「いいの!言ってみたかっただけ!」
明るい笑い声が響き、三人の間を涼しい潮風が抜けていく。
アリーナの水面が夕陽にきらめき、
さっきのバトルの光が、まだ空に反射しているようだった。
七海が、ふと真面目な声を出した。
「……ありがとね、白夜。見ててくれて」
その言葉に、僕は自然に答えていた。
「約束したしね」
七海は小さく頷いて、風に揺れる髪を押さえた。
その横で桃香が元気よく手を振る。
「次も応援してね! 勝ったら明日も試合なんだ!」
「お、連戦か」
「うん! 次はもっと強いペアが出てくるけど、ななちゃんと一緒ならいける!」
その横で七海も静かに頷く。
「この後の二回戦。……手強い相手になると思うけど、やれるだけやってみる」
「きっと大丈夫だよ。さっきの試合見てたらそう思う」
僕は素直にそう言った。
それはただの励ましじゃなく、見ていたからこその確信でもあった。
二人の呼吸は、音と光みたいに自然に噛み合っていた。
「ありがと!」
桃香が明るく笑って、勢いよく両手を伸ばす。
濡れたシャツの袖口がひらりと揺れて、水滴が陽に光った。
桃香の笑顔はまるでその光を集めたようで、周囲の喧騒が一瞬遠のいた気がした。
「……風、気持ちいいね」
七海が小さく呟く。
アリーナの外では潮の香りを含んだ風が通り抜け、
遠くでまだ観客たちの笑い声や、売店の呼び込みが響いていた。
「ななちゃん、せっかくだから写真撮ろ!」
桃香がスマホを取り出して白夜に向ける。
「白夜くんも入って! 三人で撮ろ!」
「え、僕も?」
「当たり前じゃん!応援団長でしょ?」
仕方なく桃香の横に立つと、桃香がぴったりと腕を組んでくる。
(や、やわらか……)
その瞬間、シャッター音。
「はいっ、いい感じ!」
「桃香、少し近すぎ」
七海が呆れたように言うが、笑っていた。
写真の中の三人は、どこか自然で、どこか眩しい。
「……この写真、送ってもいい?」
「もちろん」
「じゃあ“初戦突破記念”ってことで!」
桃香がそう言ってメッセージを送ると、
白夜のスマホにすぐ通知が届いた。
画面には、さっきの写真と一緒に――
【次も見ててね!】の文字。
「……ほんと元気だな」
「ふふ。元気じゃなきゃ、勝てないもの」
七海が微笑む。
その笑みの奥には、静かな自信と、桃香への信頼があった。
桃香が腕を伸ばして七海の肩を引き寄せる。
「行こっ、ななちゃん! 作戦会議しなきゃ!」
「はいはい……白夜くん、またね」
二人が並んで歩き出す。
背中越しに、笑い声が重なって聞こえた。
僕は少し離れたところからその背中を見送る。
(……ほんと、強くなったな)
手に残った生徒手帳の画面には、
“ピーチマリン初戦突破”のニュースと、
桃香からの写真付きの短いメッセージ。
――【次も見ててね】
その眩しさの中で、僕は小さく息を吐いた。
「……ああ、ちゃんと見てるよ。最後まで」
アリーナの喧騒が遠ざかる中、
潮風だけが静かに頬を撫でていった。
*
「ななちゃん、白夜くん応援してくれてたね」
少し上気した頬のまま、桃香がぽつりと呟いた。
「うん、よかったね。一緒に写真も撮れたし」
七海はふふっと笑って続ける。
「……それにしても桃香、腕まで組んじゃって」
「え!? わ、わたしそんなことしてた!?」
桃香の声が裏返る。顔がさらに真っ赤になり、目を泳がせている。
七海は小さく肩をすくめ、悪戯っぽく微笑んだ。
「してたよ。ほら、証拠」
生徒手帳を取り出し、画面を見せる。
そこには、三人並んだ記念写真。
七海はクールな笑みを浮かべ、白夜は少し気まずそうに目線を逸らしている。
そして――桃香は、がっつり白夜の腕を抱きかかえるように組んでいた。
「う、うそ……!」
見る間に桃香の顔が真っ赤に染まる。
そして次の瞬間、耳まで真っ赤になり、両手で顔を覆った。
「ち、違うの! その、自然にそうなっただけでっ!」
七海はふふっと小さく笑った。
その目は、手のかかる妹を見るように優しい。
「自然に、ね?」
「わ、笑わないでよぉ〜!」
桃香が抗議するように腕をばたつかせる。
その仕草があまりに必死で、七海はさらに笑ってしまう。
やがて笑いを落ち着けながら、七海は優しく言った。
「ふふ、ごめん。でも……嬉しかったんじゃないの?」
「えっ……?」
「白夜が応援してくれて。あんなに真剣に見てたんだもの」
桃香は一瞬言葉を失い、手を下ろす。
頬を染めたまま、俯いて小さな声で呟いた。
「……うん。うれしかった。すごく、嬉しかった」
その言葉には嘘がなく、まっすぐだった。
七海はふっと微笑み、タオルを首にかけながら言う。
「今日のこの後の試合に勝てば、明日も白夜は応援に来てくれるんだから」
その言葉に、桃香がはっと顔を上げる。
「……そうだね! うん、頑張らなきゃ!」
両手を胸元で握りしめ、「がんばります!」と表情いっぱいに宣言する桃香。
七海はその姿に少し目を細めて、静かに言った。
「頼りにしてるわよ、パートナー」
「任せてよ、ななちゃん!」
そう言って二人は控室へ向かう。
水面を渡る風が背中を押すように吹き抜けた。
七海はその横顔を見ながら、心の中でそっと呟く。
(……恋も、頑張れ。桃香)
明るい声と笑いが、アリーナの奥へと消えていった。
機体名 : ハイドロスライダー(HYDRO SLIDER)
型式番号: EID-HDS-02
製造社 : セイブル・マリンテック社(アクア戦闘支援部門)
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部位 :
頭 (スプラッシュヘッド:水圧耐性強化+前方波動センサー搭載)
/右 (ツインウェーブガン:水圧弾&ショックパルス射出ユニット)
/左 (ハイドロスピア:流体推進型ランスユニット)
/脚 (ハイドロジェットボード:可変水中滑走ユニット)
/背 (スプレーウィング:水流安定翼&速度制御用マイクロフィン)
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主要数値:
全高 :205 cm
重量 :210 kg(超軽量水上フレーム)
稼働 :52 分(出力変動により稼働時間調整可能)
COOL :5.8 s(連続推進でも安定した冷却)
HEAT :41 %(高回転時にのみ急上昇)
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カラー:ライトシアン × ネイビーブルー × シルバーライン
頭部:イルカのような流線型センサー。ゴーグルバイザー装備。
背部:可変フィンが波の形を模して展開。
脚部:ボードと一体化した水中ジェット。走行時は白波を上げる。
全体:まるで“水のスプリンター”。どの角度から見ても動いているような躍動感。
【挿絵表示】