ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

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44話(挿絵有)

 午後のアリーナは、午前とはまるで違う空気に包まれていた。

 観客席の熱気は落ち着いているのに、水面の光だけが眩しく揺れている。

 ――それでも、僕の胸は落ち着かなかった。

 

《アクアバトルカップル》二回戦。

 

 対戦相手は三年の水着男女ペア。

 機体は完全に水上戦闘に特化しており、水流操作を自在に行う《アクアグラディエーター》と、

 浮島の間を猛スピードで滑走する《ハイドロスライダー》。

 二体が水面を撫でるたび、まるで海そのものが生きているように動いた。

 

 開始の合図。

 

 七海は瞬時に異変を察知した。

(速い……! さっきのツナアタッカー達とは、機体の制御レベルが違う!)

 

《アクアグラディエーター》が水面を軽く叩く。

 その一撃で周囲の流れが一変し、渦のような水の道が生まれる。

 その流れに乗り、《ハイドロスライダー》が魚のように跳ね上がる。

 一瞬潜っては、浮島の下から奇襲――まるで海中から襲う影のようだった。

 

「ななちゃん、相手、速すぎるよ!」

 桃香の声に焦りが滲む。

 

「アリエル! スクリーム出力を下げて、水の流れを乱して!」

 七海が即座に指示を出す。

 

《アリエル》が水面を震わせ、低周波の波動を放つ。

 だが――相手はその動きを読んでいた。

 

《アクアグラディエーター》が再び水を打つ。

 水面が弾け、流れが逆巻いた。

 そこに《ハイドロスライダー》が潜行し、音もなく浮上。

 その瞬間、鋭い水圧刃がアリエルの右腕をかすめた。

 

「きゃあっ!」

 警告音が鳴り響く。

 ディスプレイには「装甲損傷」の赤い表示。

 七海は反射的に機体を引くが、上級生ペアの連携は崩れない。

 

『フッ……まだまだだね、一年生』

 相手の余裕を含んだ声が通信に乗る。

 

「桃香、援護を!」

「わかってる!」

 

《ベル》がホバーを吹かし、アリエルの前に飛び出す。

 両腕のビームユニットから光弾を連射。

 それでも――水流がすべてを弾いた。

 

《アクアグラディエーター》が両腕を振り、水を操る。

 巨大な波が盾のように立ち上がり、桃香の攻撃を飲み込んだ。

 

「うそっ、水に飲み込まれちゃう!」

 桃香が歯を食いしばる。

 

 七海もスクリームを強化し、音で水の動きを乱そうとする。

 しかし相手の《アクアグラディエーター》は音波の特性も知り尽くしていた。

 機体を回転させ、音波を拡散させる気泡を作り出し音波とぶつける。

 七海の得意とする「音波制御」が無効化されている。

 

「音が……届かない!?」

 七海の額に汗が滲む。

 

(これが……経験の差)

 七海は歯を食いしばる。相手の動きには無駄がなく、すべてが一手先を読まれている。

 

 相手は音波の伝達範囲、反射角、水流の癖――全てを読んでいる。

《アクアグラディエーター》が防御に回り、

《ハイドロスライダー》が奇襲をかける、鉄壁の連携。

 そして、一瞬の判断の遅れが命取りになった。

 

 

「桃香! 一旦距離を――」

「だいじょ――」

 

 桃香の声が途切れた。

 水面が爆ぜ、《ハイドロスライダー》が真下から突き上げた。

 

「ベルっ!!」

 水柱の中、閃光が走る。

《ベル》の脚部ホバーが粉砕され、機体が横転して水に沈む。

 

「――っ、桃香!」

 七海の悲鳴が響く。

 

 モニターの《ベル》のランプが赤く点滅し、機体が沈黙する。

 

 その隙を、上級生ペアは逃さなかった。

《アクアグラディエーター》が再び水面を叩き、巨大な渦を発生。

 七海の《アリエル》が一瞬、推進を取られる。

 そこへ《ハイドロスライダー》が再突撃。

 

(間に合わない――!)

 

 金属音とともに、水柱が舞い上がった。

 

 ――画面に、白く閃く文字。

 

『試合終了ッ! ウィナー、チーム《アクアライザーズ》!』

 

 アリーナに歓声が広がる。

 勝者の二人が手を上げ、水しぶきを浴びながら笑っていた。

 その後ろで、桃香と七海の機体が静かに水面に沈んでいく。

 

 僕は観客席の手すりを握りしめた。

 喉の奥が熱くなり、言葉が出なかった。

 

(……悔しいだろうな)

 

 

 

 *

 

 

 試合の熱気が嘘のように静まり返った控室裏の通路。

 観客の歓声も遠ざかり、響くのは靴音と水の滴る音だけ。

 冷たいコンクリートの上を、二つの影がゆっくりと歩いていた。

 

「……ごめん、ななちゃん」

 桃香が小さく呟く。

 俯いた顔の横を、濡れた髪が張りつく。肩が細かく震えていた。

 制服のシャツがまだ湿っていて、指先がぎゅっと裾を握りしめている。

 

「私が……私がもっと上手く動けてたら……」

 かすれた声。泣き出しそうな喉を押し殺して言葉を絞り出す。

 

 七海は足を止め、そっと桃香の肩に手を置いた。

 その動作は静かで、まるで冷たい海の上に一筋の陽が差すようだった。

 

「桃香のせいじゃない。相手が、このフィールドでの経験値が違いすぎたの」

 七海の声は淡々としている。

 だがその静けさの奥に、悔しさと優しさが滲んでいた。

「私たちの連携より、彼らの方が上手だった。ただそれだけ。桃香が悪いわけじゃない」

 

 

「でも、白夜くんが……白夜くんが応援に来てくれてたのに!」

 桃香が顔を上げた。涙で濡れた瞳が、照明を反射して煌めく。

「勝った姿を見せたかったのに……!」

 嗚咽が声に混じる。

「次は勝つって、約束したのに……!」

 

 七海はしばらく黙っていた。

 やがて、ため息のような息を吐いて、桃香を抱き寄せる。

「そう。約束したんでしょ? じゃあ、次に果たせばいいのよ」

 

 桃香の肩が震える。

 七海はその震えを受け止め、背中を軽く撫でた。

「泣かないで。今日の悔しさは、きっと私たちの糧になる。……悔しいのは、私も同じ」

 小さな声が、静かな廊下に溶けていった。

 

 二人の影が、控室の白い壁に重なる。

 静かな抱擁の中で、しばらく時間が止まったようだった。

 

 そのとき――

 靴音が近づいてくる。

 

「桃香! 七海! 大丈夫か!?」

 聞き慣れた声が通路に響いた。

 通路の奥から、白夜が駆けてくる。

 息を切らしながら、二人の顔を見つけてほっとしたように笑う。

 

 桃香はハッと顔を上げた。

 涙を拭こうとするが、手のひらが濡れているせいでうまく拭えない。

「……白夜くん」

 

 その名を呼ぶ声が震える。

 彼女はぎゅっと拳を握りしめ、視線を逸らした。

 

「2人ともお疲れ様」

 白夜は、あえて涙のことに触れず、穏やかな声で言った。

「すごい試合だった。最後まで諦めなかったの、ちゃんと見てたよ」

 

 桃香は首を振る。

「白夜くん……負けちゃったよ」

 桃香は唇を震わせ、顔をそむける。

「勝った姿を見せたかったのに……こんな顔、見せたくない……!」

 

 そう言うなり、桃香は制服のスカートを揺らして走り出した。

 通路の奥へ。小さな足音が、遠ざかるにつれて涙のように消えていった。

 

 白夜はその背中を見送り、思わず手を伸ばしかけたが――止めた。

 追いかけるよりも、今はきっとそっとしておくべきだと、そう感じた。

 

「……ごめんなさい、白夜」

 横で七海が小さく言った。

 彼女の瞳にも、うっすらと涙が浮かんでいたが、それをぐっと堪えている。

 

「桃香は、あなたに申し訳ないと思ってるの。応援してもらったのに、負けたから」

 

 白夜は首を振った。

「申し訳ないなんて思う必要ないよ。あの二人は本当に強かった。

 上級生の機体も経験も、今の僕たちよりずっと上だ。

 それでも、あの戦い方は立派だったと思う」

 

 七海は微かに微笑む。

「わかってるんだけどね。それでも、ね? わかるでしょ」

 

「まぁ負けたら悔しいってことは変わらないよな」

 

 七海は小さく息を吐いた。

「私たち、あなたの応援をしたかったのよ。だから、勝って、あなたの隣に並びたかった。でも、まだ実力差が大きすぎた」

 

 僕は、ただ立ち尽くす七海を見つめる。

 敗北の悔しさ。その全てを飲み込もうとする、七海の強さ。

 

「七海……」」

 

「うん。でも、約束はまだ生きているわ」

 七海は顔を上げ、静かに微笑む。

「私たちはこの敗北を無駄にしない。

 だから、あなたも全力で戦って。次は、あなたの番よ」

 

 そう言って、七海は白夜の肩をポンと叩いた。

 それは励ましであり、同時に挑戦状でもあった。

 

「じゃあね、白夜。また学校で」

 七海は小さく手を振り、桃香の走り去った方向へと歩き出す。

 

 

 通路に残された白夜は、しばらくその背中を見送っていた。

(僕を応援、か……また負けられない理由が増えちゃったな)

 

 七海の言葉が胸の奥で反響する。

 桃香の悔し涙。七海の強がる笑顔。

 ――そして、「勝った姿を見せたかった」という言葉。

 

 それらすべてが、白夜の中でひとつの決意へと変わる。

「……わかってるよ。僕は、絶対勝つ」

 

 拳を強く握りしめた。

 それは仲間たちへの誓いであり、藤堂ラボへの挑戦でもあった。

 

 アリーナの外では、まだ夕陽が水面を照らしている。

 その光の中に、《ハクロ》と《スティングレイ》の姿が脳裏に浮かぶ。

 勝利への道はまだ遠い――けれど、今なら迷わず歩ける気がした。

 

 白夜は静かに踵を返し、再び前へ進み出した。

 胸の中で、誰よりも熱い闘志が燃えていた。

 

 ――次は僕の番だ。

 

 

 

 *

 

 翌日の日曜日。

 僕がいつも通りの時間に起きるとテッペイが、

「おーい、白夜! 今日暇なら付き合えよ!」

 

「……どっか行くのか?」

「決まってんだろ! お前の《ハクロ》の仕上げだよ!」

 そう言われて断る理由なんてない。

 テッペイと並んで螺子川ラボへ向かった。

 

 *

 

 螺子川ラボに着くなりテッペイから「ハクロ出してくれ」と言われ召喚する。

 

 

「ん〜、やっぱりカッコいいなぁ!」

 テッペイは感心したように頷くと、ラボの上級生たちを呼びに行く。

 螺子川ラボの上級生3人がよく来たなとハクロを借りるぞーと運んでいく。テッペイもそれについていく。なんか馴染んでるな。

 

 

 

 

 今日は金成先輩は居ないみたいで、何もすることがなく、来週の大会の情報を見て時間を潰す。

 

 

 

 

 2時間ほど経つと待たせたなとテッペイがハクロを運んでくる。

 

「おーい、白夜!」

 テッペイの声が奥から響く。

 振り向くと、整備台の上に乗せられたハクロを、得意げな顔で押してくるテッペイの姿があった。

 

「待たせたな!」

 

 ハクロの脚部が以前と違う。

 装甲ラインが細くなり、脹脛のあたりにスラスターらしきユニットが追加されている。

 

「……これって?」

 

 テッペイが胸を張る。

「おまけだぜ!」

 

 そう言って、工具をくるりと回して笑った。

 

「脚部の空中制御用スラスターを強化した。

 これで空中での方向転換が速くなるし、スティングレイを撃ったときの反動も軽減される。

 細かい姿勢制御はコアに任せてあるから、実戦でも十分使えるはずだ!」

 

「……テッペイ、お前……」

「へへっ、感謝は優勝してからでいいぜ!」

 

 ラボの照明が反射するハクロの脚部。

 微細なスラスターが淡く光り、青い粒子を散らしていた。

 ただの“おまけ”なんかじゃない。

 それは、彼の真剣な気持ちと技術の結晶だった。

 

「お前のために作ったんだ。勝ってこいよ、白夜」

 そう言ってテッペイは軽く拳を突き出す。

 僕も同じように拳を合わせた。

 

「任せろ。――勝ってくるよ」

 

 ラボの空気が少しだけ熱を帯びた気がした。

 

 

 *

 

 

 そして――1週間後。

 青空の下、アリーナのゲート前に立つ僕の胸は、あの日よりも確実に高鳴っていた。

 

 今度は僕の番だ。

 

(七海、桃香、見ててくれ。テッペイのおまけも、無駄にはしない)

 

「さあ――行こう、ハクロ」

 

 




機体名 : アクアグラディエーター(AQUA GLADIATOR)
型式番号: EID-AGL-07
製造社 : セイブル・マリンテック社(海上専用兵装部門)

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部位  :
頭 (ハイドロスキャナー:水圧・流速・音波反射を同時解析する高感度センサー)
/右 (ハイドロブレード:水流を刃状に形成する液体制御ソード)
/左 (シールドフィン:防御+推進の両立が可能な流体制御フィン)
/脚 (アクアプロペラレッグ:水中推進用スクリュー付き脚部、海上では高速滑走可)
/背 (リヴァイアンサーユニット:水流圧縮ポンプ+潮流制御装置)


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主要数値:
全高  :210 cm
重量  :285 kg
稼働  :68 分(水冷コアのため長時間駆動が可能)
COOL  :6.2 s(冷却効率は極めて高い)
HEAT  :38 %(水環境下ではほぼオーバーヒートしない)


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デザイン

カラー:ターコイズブルー × シルバーホワイト × マリンネイビー

頭部:バイザー型フェイス。両側に水冷フィンが走る。

背部:リヴァイアンサーユニットは巨大な噴流装置+流体翼。

腕部:ハイドロブレードは水流を纏う透明な刀身。

脚部:推進ノズルとヒレ状の安定フィンが展開。



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