――六月第一週、土曜日。
学院戦技アリーナの天井を、金色の光が駆け抜けた。
ホログラムスクリーンが四方に展開し、学院のエンブレムが回転する。
観客席を埋め尽くす数千人の生徒たちの歓声が、まるで爆発のように響いた。
『さあ皆さん! ついにこの時がやってまいりました――!!』
『新入生達のノービスリーグから中上級層のアドバンスリーグの参加者にとって前期最大のイベント、《学院戦技大会(アカデミア・アセンブル)》がいよいよ開幕ですッ!!』
軽快な実況アナウンスが響き、アリーナの照明が一斉に切り替わる。
中央ステージに光が集まり、巨大ホログラムがせり上がっていく。
『本日の実況はこの私、“戦技放送局”の――尾戸 玉(おと・たま)がお送りしますッ!』
『解説はわたくし、学院戦技課副顧問・須花(すぱな)です。いやぁ、毎年ながら心臓に悪いですねぇ……この歓声』
『須花先生、開会式でビビってるようじゃ始まりませんよ!? さぁ見てくださいこの熱気! 今年も新星がそろってます!』
『総勢一二八名! 最初の一戦から目が離せません!』
アリーナ上空をカメラドローンが滑り、フィールドに並ぶ参加者たちを順番に映す。第一試合の出場者から選手紹介を行っている。
そのたびに歓声が一段と高まり、観客席が波打った。
『お次は第七試合の選手の紹介だー! こちらノービスリーグの一年生、白銀選手! 空の王子と1年生の中でも有名な選手だー!』
『ふむ……なるほど、これが《ハクロ》か。機体データを見る限り、今大会のダークホースですかねぇ』
(うわ、もうカメラ来てる……!)
僕は思わず姿勢を正し、背筋を伸ばした。
観客席の最前列では、莉音とこの江が手を振っているのが見える。
……やめて、そんな堂々と振らないで。めっちゃ映ってるから!
『続いてスタンダードリーグから、2年山田選手《アサルトガンマン》、同じく! スタンダードリーグから2年羽山選手《グラスホッパー》!』
『そして注目はアドバンスリーグからの刺客、2年牛尾選手の重装機体《バイソンナックル》! 序盤から大激突の予感ビンビンだッ!』
『個性の暴力ですねぇ。このメンバーは“射撃・格闘・機動”の三属性がバランスよく出揃ってます』
そんな調子で128名の選手紹介が続いていく。
出場者の中には見覚えのある名前も混じっていた。貴志、早川――同じ一年組の顔ぶれだ。
(来てたのか……)
ステージ中央の光がやがて一点に収束し、金色のラインが床を走った。
荘厳な音楽が流れ、フィールド中央に一人の老紳士が立つ。
――学院長、鷲津(わしづ)暁院。
「静粛に」
その一言で、観客のざわめきがぴたりと止まる。
白い髭と杖、背筋を伸ばした姿勢。
まるで時代そのものが語りかけるような重みがあった。
「戦技とは、己を磨くための道である。
勝つことも、負けることも、学びの一つだ。
我が学院の戦士たちよ――この二週間、恐れずに挑め。
お前たちの“今”を、ここに刻め!」
静寂を裂くように、巨大スクリーンに学院のモットーが浮かぶ。
《己を知れ、己を超えよ。》
次の瞬間、アリーナが爆発するような歓声に包まれた。
ホログラム花火が弾け、天井から金と青の粒子が降り注ぐ。
『――来ましたぁぁ! 開会宣言ッ!! これより二週間にわたる熱戦が始まりますッ!!』
『果たして今年の“超新星”は誰の手に!?』
僕はステージの光の中で、拳を握った。
目の前に広がるのは、未知の戦場。
ハクロのコアが、わずかに脈打つ。
(行こう、ハクロ。ここからが、俺たちの本当の始まりだ)
歓声と光の渦の中、
《学院戦技大会》は――いま、開幕した。
――Cアリーナ都市型フィールド、第7試合。
ここは、学院戦技大会でも人気の高いステージだ。
六百メートル四方の広さを持ち、五階建て前後のビルが密集して林立している。
まるで小さな都市そのもの。見通しの悪さと入り組んだ構造が、索敵能力と機体操作の両方を試す。
地上戦も空中戦も起こり得る、総合実戦フィールドだ。
参加者はそれぞれ、東西南北に設置されたオペレーター台へ案内される。
床からせり上がる半円形の足場に立ち、腕の端末を接続。
目の前のデバイスパネルと指先のハプティック・コントローラー、
そしてエイドロンの視界と連動するゴーグル――それが、操縦席代わりとなる。
各エイドロンの頭部には高解像度のカメラが内蔵され、
操縦者はその映像をリアルタイムで共有。
まるで自分の身体が機体そのものになったような感覚で操作ができる。
僕は東ブロックのオペレーター台に立ち、端末を起動する。
ハクロのコア信号が安定化し、HUDに各システムが順番に点灯していく。
観客席のスクリーンには、四体のエイドロンの姿が映し出されていた。
僕の《ハクロ》。
そして対戦相手は――
重装突撃型《バイソン・ナックル》。
双銃射撃型《アサルトガンマン》。
跳躍機動型《グラスホッパー》。
それぞれが光のゲートに包まれ、転送準備に入る。
『これより、第7試合――開始します!』
審判の声と同時に、床面の転送ゲートが淡く輝きだした。
光が収束し、四体の機影が空間に浮かぶ。
瞬間――身体がふわりと浮くような感覚。
視界が一気に切り替わり、僕は“ハクロ”の眼を通して戦場を見ていた。
灰色の都市ブロックがどこまでも広がる。
ビルの間には風が流れ、街灯や信号機、コンテナ、駐車車両まで再現されている。
コンクリートの匂いさえ漂ってきそうなリアルさだった。
これが、学院が誇る都市型模擬戦フィールド――。
人間の戦場を、完全に再現したバーチャル実戦区。
「……相手を探すところから、だな」
僕は息を整え、デバイスを握り直す。
初めての公式ステージ。観客の歓声が遠く反響し、鼓動と重なった。
――戦闘開始。
僕はすぐにデバイスに指を滑らせた。
「ハクロ、離陸。上空展開、索敵モード」
軽い振動とともに、ハクロが地を離れる。
スラスターが淡く光り、機体は都市フィールドのビル群の間を静かに上昇していった。
ゴーグル越しに映る視界が一気に広がる。灰色の街並み、立体交差の道路、崩れかけたビルの屋上。
六百メートル四方の都市フィールド――その全体像を、僕は鳥のような視点で俯瞰した。
まずは索敵。
ビルの陰に身を潜め、センサーを稼働させる。HUDには敵信号を示す赤い点がゆっくりと浮かんでいく。
北側から、地面を叩くような重い振動が伝わった。
――ドドドッ。
視界の先、道路を割るように突き進むのは、重装突撃型《バイソン・ナックル》。
脚部からの排気がアスファルトを焦がし、金属の拳を振り上げて猛進してくる。
その進行方向、街灯を足場に軽やかに跳ね回る緑の機体。
――跳躍機動型《グラスホッパー》。
空気を弾くような動きで、ビルの壁面を蹴り、再び空中へ。
まるで昆虫のような反応速度だ。
(やっぱり正面からの殴り合いになるな……)
僕はハクロをビルの屋上に着地させ、しゃがみこむように姿勢を低くする。
視界の下、二機のぶつかり合いが始まった。
バイソン・ナックルが拳を構える。
次の瞬間――両腕を地面に叩きつけた。
轟音。地面が波打ち、衝撃波が走る。
アスファルトが裂け、周囲の構造物が一斉に軋んだ。
衝撃中心にいた街灯がへし折れ、グラスホッパーが弾かれるように空中へ跳ね上がる。
だが、バイソンの動きは止まらない。
地響きの中、既に次の一撃――ブースト・ナックルの構えに入っていた。
拳が青白い光を纏い、跳躍中のグラスホッパーを狙う。
(あれは……間に合わない!)
そう思った瞬間、バイソンの肩装甲が弾けた。
金属片が飛び散り、拳は空を切る。
遅れて届く銃声。
――バンッ!
(射撃……アサルトガンマンかな)
遠距離からの狙撃。位置は確認できないが、角度からして南西の高層ビル群。
確実に射線を読んでいる。
視界に三機がそろった。
それぞれが別方向を向き、互いを牽制し合う。
戦場の中心では、砕けたコンクリートの破片が舞い上がっていた。
(いつもの一対一とはまるで違う……これが、バトルロワイヤル)
誰かを狙えば、誰かに狙われる。
それがこのフィールドの鉄則。
僕はゴーグルの中で視線を巡らせ、呼吸を整えた。
指先がデバイスのトリガーにかかる。
「油断は――できないな」
戦場の喧騒を、ビルの屋上から見下ろしていた。
四方から立ち上る土煙と爆光。コンクリートの壁面に、無数の弾痕が刻まれている。
(まずは――アサルトガンマンを落とす。それが先決だ)
射撃型さえ沈めれば、残る二機は地上戦タイプ。
空の優位を取れば、ハクロにはほとんど届かない。
僕は息を潜め、下の乱戦を観察した。
十字路の中央で、二体の影がぶつかり合う。
巨体の《バイソン・ナックル》が両腕を振るい、拳の衝撃で道路を砕く。
対する《グラスホッパー》は縦横無尽に跳ね回り、拳の間をすり抜けては、軽い蹴りを叩き込んで距離を取る。
轟音、粉塵、火花。
そのすべてが立体的に絡み合う。
まるで格闘と舞踏が同時に起きているような、破壊のリズムだった。
だが――そのどちらにも属さない第三の影がいた。
北西方向のビル群。
爆風の一拍あと、わずかに光が走った。
――バンッ。
バイソン・ナックルの肩が弾ける。
装甲片が飛び散り、機体がわずかによろめいた。
(やっぱり……いたな。アサルトガンマン)
高台からの射線。距離、約三百。
照準の角度から推測すると、あのビル群のどれか――二棟目、三階部分。
グラスホッパーが再び跳躍する。
その陰を縫うように、連射音が重なった。
――バン、バンッ!
今度はバイソン・ナックルの胴体が火花を散らす。
その間にも、グラスホッパーが素早く回り込み、装甲の隙を狙って蹴りを叩き込む。
まるで共闘しているようだった。
上級リーグ出身のバイソンを、二機が暗黙のうちに標的にしている。
(……協力して潰す気か。上位者狩り――ありがちな流れだな)
白夜は屋上の陰で、デバイスに指を滑らせた。
視界の中で、照準レティクルがゆっくりと回転する。
HUDには敵信号《ASM》の反応が淡く点滅していた。
「ハクロ、スティングレイを集束貫通モード。出力は六〇パーセント」
命令に応じて、ハクロのマニピュレーターが滑らかに動く。
銃口に青白いエネルギーが集束し、細く光が走る。
下では再び爆音。
バイソン・ナックルが吠えるように両腕を振り抜き、グラスホッパーが跳躍でかわす――その瞬間、また閃光が走った。
(撃った……今の一射で確定だ)
視界の端、ビル二棟目、三階窓。
粉塵の奥に、赤いマズルフラッシュが確かに瞬いた。
(……見つけたよ。そこにいたんだな。アサルトガンマン)
ハクロの照準線が、静かに一点へと収束していく。
呼吸を殺し、指先に力を込めた。
「ハクロ、撃つぞ!」
指を引き金にかけた瞬間、ゴーグル越しの世界が一層鋭くなる。
白光の細い線が、ビルの向こうの三階窓へとまっすぐ伸びた。
静寂の一拍──そして、遅れてドンッと小さな爆発音が返る。窓ガラスが砕け、断片と火花が舞った。ホログラム越しに映る弾痕が、三階の窓縁に赤い焦げ跡を残す。
会場のモニターが一斉に切り替わる。実況の声が震えるほどに弾み、観客席が喚声で揺れた。
「最初の脱落者は――アサルトガンマンだーーッ!!」
甲高いアナウンスが空気を裂く。遠くから、桃香の声が混ざった気がした。歓声と驚きのどよめきが一緒になって僕の胸を突く。
(よし。一機落とした。まずは合格点だ)
だが安堵は短い。下の十字路を見下ろすと、《グラスホッパー》と《バイソン・ナックル》がこちらを一瞬で睨み上げ、動きを止めている。双方のセンサーが僕の機影を追っているのがHUDのステルス表示でわかった。
狙撃が通じた瞬間、二機は暗黙の了解のもとにこちらを牽制するために一時休戦──つまり、視認を取って射線を合わせる作業に入ったのだ。地上の喧騒が一瞬静まり、再び緊張の波が押し寄せる。
「ハクロ、すぐに移動。射程圏から外れるぞ」
操作台の指示を出して、ハクロのスラスターを噴かせる。背後のビル影を利用して斜めに滑り込み、相手の射線に入らない軌道を取る。高所の利を生かして、大きな半円を描くように旋回しながらビルの裏へと消える。
下で再び衝撃波と跳躍の音が混ざる。視界の端で、《バイソン・ナックル》が大地を殴り付け、《グラスホッパー》がコンプレッションを使って跳躍し、怒涛の連続攻撃を仕掛けている。だが今は、白兵戦に首を突っ込む必要はない。空の支配権を保つこと──それが優先だ。
デバイスを素早く操作し、スティングレイの切替モードを呼び出す。集束貫通で撃ち抜いたあと、続けて拡散弾で下の制圧をかける算段だ。
「ハクロ、スティングレイ、拡散弾モード。出力四十パーセント。散布角を最大に」
マニピュレーターが即座に動き、銃口が広がる。エネルギーが細かく分裂し、次の瞬間には小さな光球が扇状に展開していく。これで下の隙間を埋め、地上の接近を牽制できるはずだ。
視界の下で、二体の機体が一瞬視線を交わしたように見えた。互いに嫌悪と警戒を込めた一瞥──連携は崩れないが、こちらが上空という優位を捨てない限り、攻めるタイミングは難しいと計算している。
観客席の反応が再び熱を帯びる。モニターのスローモーション映像で先ほどの狙撃がリプレイされ、解説者がテクニックを称賛する。だが僕の耳は冷静だった。次に大事なのは時間管理とヒート値のコントロールだ。出力を上げすぎればハクロは長く持たない。
(冷静に、次の一手で勝負を決める――まずは牽制して、相手の動きを誘導する)
ハクロの残光がビルの影に溶ける。銃を拡散に切り替え、下の戦場に向けて最初の小さな圧をかけた。その光弾が街路に降り注げば、二機の動きに小さな亀裂が生まれる──そこを突く算段だ。
機体名 : グラスホッパー(GRASSHOPPER)
型式番号: EID-GHP-01
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部位 :
頭(アンテナレーダー・Mk-I)
/右(スパイクナックルユニット)
/左(シールドリム・バッジ)
/脚(ホッピングレッグ・システム)
/背(コンプレッションブースター)
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主要数値:
全高:182 cm
重量:205 kg
稼働:18 分
COOL:20 s
HEAT:56 %
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デザイン
カラー:ライムグリーン × ブラック × クロムシルバー
脚部:大型スプリング内蔵・二段関節(膝下が圧縮→伸展演出あり)
背部:コンプレッションタンク(空気+魔力圧縮ハイブリッド)
頭部:触角センサーアンテナ(敵の動きを先読み)
シルエット:軽装甲・機体線が細く、跳ねるような動作
【挿絵表示】