ホビーアニメ✕ロボット。これでわかるね   作:イェスコマ

48 / 79
仕事の合間でも筆が乗れば書けるものなのね。




48話(挿絵有)

――Aアリーナ・森林エリア。

木々のざわめきに紛れるように、ハクロは音もなく滑るように飛行していた。

 

 僕はデバイスを操作し、背の高い木々の間を縫うように低空飛行を維持する。

 高度は地上三メートル。空に出れば目立つし、枝葉の間は狭すぎて自由に動けない。

 この“木と空スレスレ”の空間こそ、唯一の安全圏だ。

 

 ハクロのスラスターが微かに唸り、枝をかすめながら進む。

 速度を上げすぎると衝突の危険があるし、減速すれば敵のセンサーに捕捉される。

 息を詰めて、木漏れ日が揺れる中を滑るように進む。

 

 

 ――五分。誰とも遭遇しない。

 息を整えながら、僕はモニターに映る地形データを確認する。

 そのとき、紫と赤の閃光が森の奥で瞬いた。

 

(……いた。エレキャットだ)

 

 ネオン色の輪郭を残しながら、そいつは左右にステップを繰り返している。

 猫娘のような機体シルエットが、湿った地面を軽やかに蹴り上げ、時おり背中の“尻尾”から青白い火花を散らしていた。

 センサー網を張りながら、慎重に進んでいる――どうやら索敵中だ。

 

(なるほど……これは、俺狙いか)

 

 あの電磁妨害系に上空を取られたら面倒なことになる。

 僕はハクロの動きを止め、木の陰に身を潜める。

 心拍数を抑え、スティングレイの操作画面を開く。

 

「……拡散モード、装填」

 

 

光学照準が樹間を抜け、敵のシルエットをとらえる。

 エレキャットは射撃よりも近接と妨害に特化した機体。

 索敵範囲が狭い分、気づかれなければ奇襲が通る。

 こっちが先に撃てば、一撃で沈められるはず――。

 

 その瞬間、エレキャットが反対方向へ身体を向けた。

 今だ、と指に力を込めかけた――

 

 ――が、森が爆ぜた。

 

 轟音と共に、鬱蒼とした林の奥から銃火が弾け飛ぶ。

 マシンガンの連射音、そして跳弾の火花。

 木の葉を弾き飛ばしながら飛び出してきたのは、緑がかった鋼の影――

 

(ラプトレイザー……!)

 

 低姿勢のまま滑り出し、四脚の脚部が地面を抉る。

 尾をしならせてバランスを取りながら、左右に跳躍してエレキャットへ襲いかかる。

 銃撃が交錯し、瞬く間に火花が森を照らした。

 

――予期せぬ乱戦。けれど、僕にとっては絶好の機会だった。

 

「運が味方してる……!」

反射的に息を整え、指先をデバイスに滑らせる。

スティングレイの照準アイコンが光を放ち、出力バーが上昇していく。

 

「反動と残熱を考えて……出力七十パーセント。よし、行くぞ!」

 

トリガーを引いた瞬間、ハクロの砲身が白く輝いた。

空気が震え、樹海全体が一瞬で閃光に包まれる。

 

 

 白と蒼の光線が幾重にも分岐し、30メートル先の森を覆い尽くすように降り注ぐ。

 その光は雨のように木々を貫き、爆ぜ、火花と煙を撒き散らした。

 

 ――ドンッッッ!!

 

炸裂音と共に、エレキャットとラプトレイザーのいた一帯が爆炎に飲まれる。

 

「よし――やったか……?」

息を潜め、ゴーグル越しに視界を凝らす。

 

だが、濃い煙が立ちこめ、センサーの反応も不安定だ。

(……いや、早すぎる。まだ油断するな)

 

高度を少し下げ、警戒しながら慎重に接近していく。

枝葉の隙間を抜け、爆心地を上空から覗き込んだ――その瞬間。

 

 

「……動いた!?」

 

煙の中で、わずかに閃光が走った。

咄嗟にスラスターを最大出力にして上昇。

風圧が木々を揺らし、枝がハクロの脚部をかすめる。

 

直後、地上から電磁砲の光弾が突き抜けた。

青白い稲妻のような光が僕の機体のすぐ下を通過し、次いでマシンガンの弾丸が連続して飛び込んでくる。

 

「うわっ、危ねぇッ!!」

急上昇しながらスラスターを傾け、ギリギリで弾幕を回避する。

もしあのまま滞空していたら、確実に被弾していた。

 

 

電磁砲の反動で巻き上がった風が煙を吹き飛ばし、地上の二機の姿が露わになる。

エレキャットが尾部ユニットをバチバチと放電させ、電気の光を纏っている。

その隣ではラプトレイザーが低姿勢で構え、尾のスラッシュテイルをゆっくりと振っていた。

 

 

どちらも無傷とは言えないが――まだ戦える。

そして何より、二機は互いには目を向けずこちらを伺っている。

 

(……あちゃ~。これは、最初から組んでたか?)

 

僕を誘い出すための擬似乱戦。

そう考えると、全部つじつまが合う。

エレキャットとラプトレイザーの索敵不足を、互いにおとりとして利用したんだ。

 

「くっ……二対一かよ」

 

ハクロの冷却ゲージを確認しながら、デバイスを操作する。

スティングレイはまだ再充填中。クールタイムはあと二十秒。

焦って撃っても避けられる。なら――ここからは、戦術で切り抜けるしかない。

 

「……いいだろ。まとめて相手してやる」

 

森を吹き抜ける風が、ハクロの装甲を撫でた。

背のジェットパックが低く唸り、白い粒子を散らし始める。

視界の先では、電撃と獣の影がこちらを狙って身構えていた。

 

空と地上、三者の殺気が交差する。

第二試合、森林の狩猟戦――本番は、ここからだった。

 

 

 

 

――Aアリーナ控室、試合開始前。

 

カタカタと自販機の音が響くなか、ぽっちゃり体型の二年男子、小宅(こたく)――いや、“オタク”ではなく“コタク”――は緊張で手汗を拭っていた。

自分の番はもうすぐ。心臓の鼓動が、まるで機体のエンジンみたいにうるさい。

 

そんなとき、つかつかと軽やかな足音が近づく。

振り返ると、吊り目でスタイル抜群の二年女子――立花先輩が立っていた。

その艶やかな髪が肩で揺れ、香水の甘い匂いがふわりと漂う。

 

「ねぇ、オタクくん。ちょっといい?」

 

その一言で、小宅の思考が一瞬フリーズした。

 

(きたァァァァァ!!立花さんだっ!!目が合った!声をかけられた!!)

 

「は、はいっ!なんでしょうか!? 立花さん!! じゅ、ジュースでもお持ちしましょうかっ!?」

思わず敬語が崩壊し、謎ムーブをかます。

そうだ、情けないが俺は女性に慣れていない。しかも立花さんは俺が入学してから初めて話した初恋の相手!

緊張しちゃうんだよ!!

 

立花は目を丸くしてから、くすっと笑った。

「ジュース? 違う違う、今日の対戦、同じ組なんでしょ? だからご挨拶~」

 

「あ、ああっ! そ、そうでしたねっ! よ、よろしくお願い申し上げまする!」

時代劇みたいな語尾になってしまう。焦れば焦るほどテンパる。

 

立花は苦笑いしながらも、どこか優しげに肩をすくめた。

「そんなにかしこまらなくてもいいよ。それでね――ちょっと提案があるんだ」

 

「提案……?」

ドクン、と心臓が跳ねる。まさか、まさかこれって――

 

「共闘しない?」

そう言ってウインク。まぶしすぎて、思考が飛んだ。

 

(き、きたぁぁぁぁッ!!立花さんにウインクされたあああ!!死んでもいいッ!!)

 

「も、もちろんです!! たとえ相手が誰であろうと、立花さんの盾となりましょう!!」

テンションが最高潮に達し、語尾が侍を通り越して武士道の領域に入る。

 

「盾にならなくてもいいんだけどね……」と立花は苦笑しながら続けた。

「実は、王子様――白銀くんも同じ組でしょ? ちょっと一度戦ってみたいんだ」

 

「……王子様?」

 

「ほら、学年一の人気者。あの爽やかスマイルでファン多いし。

 倒せたら、『立花先輩、強くてかっこいい!』って言われちゃうかもでしょ?」

 

頬を指で掻きながら照れる立花。その笑顔が、光って見えた。

 

(白銀白夜……てめぇええええ!!)

俺の初恋の人をメロメロにしやがってぇぇぇぇ!!

以前、野良戦で俺をボコボコにしたこと、忘れてねぇからな!?

 

「承知しました!!この身、立花殿のために捧げましょう!!!」

その瞬間、小宅の中で“恋と復讐の炎”が同時に燃え上がった。

 

 

 

 

Aアリーナ・森林フィールド。

木々が焼け、焦げた匂いが立ちこめる中、エレキャットとラプトレイザーは白銀の《ハクロ》を追い詰めていた。

 

「立花さん! いきますよ!」

「任せた、オタクくん!」

 

二人の呼吸がぴたりと合う。

電撃の猫と、狩人の獣。

雷光と鋼の爪が交差し、白夜の機体を追い詰めていく。

 

エレキャットが《フラッシュステップ》で木々を駆け抜け、クナイのような電光爪で斬りつける。

立花のラプトレイザーが続けざまに《タロンブレード》を振るい、尾のスラッシュテイルで追撃。

空間を切り裂くような鋭い音が重なり、金属の火花が飛び散る。

 

「どうした王子ぃ! 逃げてばっかりじゃねぇか!」

「逃げられてるのは、こっちのほうでしょ!」と立花が息を吐く。

 

確かに、白夜の動きは尋常じゃなかった。

ほんのわずかの間合いを読み、ギリギリで回避。

しかも、回避しながら次の角度を取って反撃の準備をしている。

 

「なにあれ……動き、読まれてる?」

「くそっ、なんで当たらねぇんだよ!」

 

デバイスを握る小宅の指が汗で滑る。

スパークコアが鳴動し、機体の神経リンクが警告音を発する。

それでも止まらない――止められない。

 

「立花さん、今度こそ当てます!」

「オッケー、タイミング合わせる!」

 

 

 

 

さすが上級生だ。

攻撃の精度も、動きの読みも、今までの相手とは段違い――。

 

「くっ……避けるだけで精一杯か」

マシンガンの弾丸が、木の幹を抉るように飛び交う。上昇しようとすれば、その軌道を読んだかのように弾幕が張られる。

電撃の閃光と鋭い爪撃が交互に襲いかかり、ハクロの装甲を擦るたびに警告灯が点滅した。

 

それでも、冷静に判断する。

――スティングレイのチャージ完了。クールタイムは明けている。

ただし、“撃つ隙”がない。

 

「タイミングを間違えたら、逆に撃ち落とされる……」

手のひらのデバイスを握り直す。

呼吸を整える。敵の間合いと攻撃リズムを読み取る。

 

その瞬間だった。

紫電をまとったエレキャットが、一気に跳躍してきた。

光の尾を引きながら、稲妻の猫耳がピクンと動く。

 

「来るっ――!」

 

避けようとした矢先、横から黒い閃光が走った。

数本の黒刃――クナイが、エレキャットの左腕に突き刺さる。

 

「なっ!?」と驚く小宅の声が通信に混じる。

エレキャットの左腕がだらりと垂れ下がり、火花を散らした。

 

その隙に距離を取るためにスラスターを全開にする。

木々の間をすり抜け、視界を確保――安全距離を取ることに成功した。

 

(……早川だな)

姿は見えない。けれど、このタイミング、この精度。

《シノビエッジ》の仕業に間違いない。

 

 

「さて……今度は僕の番だ」

 

デバイスのトリガーに指を添える。

スティングレイを《拡散モード》に切り替え、範囲を狭める。

今回は“狙い撃ち”に近い。必中の光雨だ。

 

「――早川、当たったらごめん」

 

照準カーソルが敵影に重なる。

発射。

 

スティングレイの砲口が青白く輝き、放たれた光束が分裂して流星のように降り注ぐ。

炸裂音が重なり、エレキャットの周囲の木々を吹き飛ばし、爆風が巻き起こった。

ラプトレイザーも咄嗟に回避を試みるが、右腕を掠める形で被弾。

 

「今度は――やったか?」

 

地表が抉れ、視界の半分が白い煙で覆われる。

さっきみたいに油断するな、と自分に言い聞かせる。

 

ハクロをゆっくりと上昇させ、距離を取る。

煙が完全に晴れるまで、トリガーには指をかけたまま。

センサーが捕捉するまで、ただ静かに――息を潜める。

 

視界の先で、灰色の煙の向こうから、二つの赤い光がゆらりと浮かんだ。

(……まさか、まだ動けるのか?)

 

 

風が吹き抜け、焦げた木の葉が舞う。

煙の向こうで、ラプトレイザーが低姿勢のまま滑るように走り出した。

(……クールタイムは、まだかよ)

 

鋭い脚のクローが地面を抉り、バランスを取る尾がしなる。

まるで獲物を狩る肉食獣のような、狙い澄ました動き――。

 

だが、その瞬間だった。

 

木々の上、光の届かぬ枝の影から“黒い閃光”が落ちた。

 

「――《サイレントエッジ》」

 

通信越しに、早川の静かな声が聞こえる。

 

闇を裂く一閃。

黒影が一気に落下し、すれ違いざまにラプトレイザーの右腕と尻尾を斬り飛ばした。

金属片が宙を舞い、尾のスラスターが地面に突き刺さって火花を散らす。

 

「うそ……っ!」

立花の悲鳴がスピーカー越しに響く。

ラプトレイザーがバランスを崩して前のめりに倒れ込む。

制御を失った脚部が空転し、残る武装はすでに使い物にならない。

 

「……はぁ~ここまでか」

 

立花は小さく息を吐き、ゆっくりと手を上げた。

機体の上に白い“降参サイン”のホログラムが浮かび上がる。

 

アナウンスが炸裂した。

『――勝負ありッ!! Aアリーナ第2試合、勝者は白銀白夜・早川礼人!!』

 

 

観客席から大歓声が巻き起こる。

森林エリアが光の粒となって崩壊し、ハクロが転送ゲートからゆっくりと帰還してくる。

 

「……早川、やるじゃん。助かったよ」

僕がそう言うと、通信の向こうで早川が小さく笑った。

「いやぁ〜白夜、いい囮になってたね。おかげで俺も、いいとこ見せられたよ」

 

「ふっ、腹黒め」

苦笑しながら、ハクロをデバイスの中に収納する。

 

体の熱がゆっくりと落ち着いていく。

 

実況が再び響く。

『――これでAアリーナから決勝トーナメント進出が確定したのは、白銀白夜と早川礼人ッ! 1学年からの2名通過は久しぶりの快挙です!!』

 

「はは……マジか。俺たち、やったな」

「白夜、目立ってヘイト集めよろしくな」と爽やかな笑みを向けてくる。

 

「なぁ……。性格悪いって言われないか?」

そう言いつつも、思わず笑ってしまう。

 

「白夜、俺のことそんな風に見てたのか?!」

「え、毒舌だし、意地悪すんの好きだろ」

 

軽口を交わして2人で出口の方向に歩き出す。

アリーナの出口の光が、戦いの余韻を切り取るように眩しかった。

 

 

 




機体名 : シノビエッジ(SHINOBI EDGE)
型式番号: EID-SBE-06


---

部位  :
頭(ナイトアイ・センサー)
/右(クナイランチャー・ユニット)
/左(リバースブレード・システム)
/脚(スモークステップ脚部)
/背(影走りスラスター)


---

主要数値:
全高:179 cm
重量:185 kg
稼働:19 分
COOL:18 s
HEAT:49 %


---
デザイン

カラー:漆黒 × 群青 × 紫の差し色

頭部:忍頭巾+バイザー一体型、細い紅のセンサーライン

背部:光を吸収する布状スラスター(マント兼煙幕発生装置)

武装:クナイランチャー/逆手ブレード/手裏剣内蔵関節

シルエット:軽装で無駄がなく、手足の可動域が広い

モーション:一撃離脱中心。敵をすれ違いざまに斬り抜ける


【挿絵表示】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。