控室へと続く通路を、僕と早川は並んで歩く。
「そういえばさ、莉音たちも応援来てたぞ」
「ふーん、みゆと?」
早川は気のない調子で返す。
「いや、最近はこの江も一緒みたいだな。三人で仲良く観戦してるっぽい」
「そっか。じゃあ、後で合流するか」
彼はポケットに手を突っ込んだまま、軽く笑う。歩く姿勢もまるでモデルみたいに自然だ。こうしてると普通に爽やかイケメンなんだけどなぁ。
「僕は先にハクロを整備に出してくるよ」
戦いを終えた直後の機体は、外見が無傷でも内部に負荷が蓄積している。
こういうときこそ、テッペイたち“螺子川ラボ”の面々に見てもらうのが一番安心だ。
「じゃ、俺は先に行っておくよ」
早川は手を軽く振りながら、爽やかに笑う。
「王子様がいい感じに囮やってくれたおかげで、俺は無傷だったしね」
「おい、それ絶対わざとだろ!」
思わず笑いながらツッコむ。
早川は片目を細めて、口角をわずかに上げた。
「さあ、どうだろ?」
こういうとこなんだよな。腹黒っていうか意地悪というか。
軽い足取りで、彼は控室を出ていった。
残された僕は苦笑いしながら、整備実習棟へと歩き出す。
整備区画へと続く通路を歩くと、空気がひんやりと変わった。
アリーナ特有の人工的な光から一転、実習棟の中はやや暗く、鉄と油の匂いが混じっている。
耳を澄ませば、遠くで工具の金属音が鳴っていた。
“螺子川ラボ”の看板が見えてくる。
開閉扉の前に立ち止まり、深呼吸をひとつ。
ガチャ、とドアを開けると――
「おーっ! 二回戦突破おめでとーっ!」
テッペイの声が響いた。
案の定、腕まくりをして油まみれの布を握りしめている。
「ありがと、ハクロのメンテ頼むよ」
「おう、任せとけ。今日もばっちり整備しておくぜ!」
自信満々に胸を張るその姿に、思わず笑ってしまう。
螺子川ラボの奥では、他の上級生たちが溶接作業の最中らしく、火花が暗い空間に散っていた。
僕はハクロの格納デバイスをテッペイに渡し、
「じゃ、あとは頼んだ」
と言い残して再びアリーナへ向かう。
背中でテッペイの声が響いた。
「おう、任せとけ!!」
その言葉に、小さく笑ってうなずいた。
アリーナへ向かう足取りが、少しだけ軽く感じた。
*
午後のアリーナは、朝よりもさらに熱気に包まれていた。
観客のざわめきと実況の声が混ざり合い、会場全体がひとつの巨大な鼓動みたいに響いている。
僕は客席の階段を上りながら、ざっと視線を走らせた。
「……いた」
金髪が光を反射して、すぐに見つかる。
――莉音だ。
観客席の真ん中あたりで、ストローを咥えたままジュース片手にスクリーンを見上げている。
その隣にはみゆ、その向こうにこの江。さらにその横には早川の姿まであった。
どうやらもう合流できたらしい。
(ほんと、どこにいても目立つな……)
苦笑しながら列を抜け、4人の後ろに立つ。
「おーい、皆さん。今どんな感じ?」
莉音が振り返り、ぱっと笑顔を見せた。
「はくたーん! お疲れ様ー!」
みゆも身を乗り出して、「見た見たー! 白夜めっちゃカッコよかった! 実況で“空の王子”って呼ばれてたよ!」と元気に言う。
「いや、言い過ぎなんだよなぁ……」
肩をすくめながら苦笑いする。すると、莉音がストローをくわえたままニヤリと笑った。
「でもさ、白夜ファンクラブできるんじゃない? “王子様を応援する会”とか」
「え、それりおちが会長でしょ?」とみゆが即ツッコミ。
「え〜、あーしは、はくたんのハニーがいいなー」
そう言いながら当然のように僕の腕に絡んでくる。柔らかい感触。……くっ、意識するな!意識が持っていかれる!!
一方、この江は少し遅れて視線を上げ、恥ずかしそうに笑った。
「でも……本当にすごかったよ、白夜君。囲まれてても落ち着いてて、ちゃんと勝ってたし」
「ありがとな。早川がもう少し遅れてたら危なかったけどな」
「俺もナイスタイミングだったでしょ?」
この江の横から、早川が軽く手を挙げてくる。
「だよね! クラスのイツメンが協力して上級生倒すって激アツ!!」
みゆが勢いよく身を乗り出してくる。
この江も「早川君、強くてびっくりした」と小さく頷く。
早川は爽やかな笑みを浮かべながら、「いやぁ、王子が派手に囮やってくれたおかげでね」と悪びれもせず言った。
「腹黒いなぁ……」
「褒め言葉だよ」
莉音がストローをくわえ直しながら、「そういえば大崎は? 出てないの?」と聞く。
「昨日見たけど、一回戦で負けてた。今日はバイトで修理代稼ぎだってさ」と早川。
「え〜残念。じゃあ一年で残ってるの白夜と礼人だけ?」とみゆ。
この江が「まだ貴志君が試合してないよ?」とおずおずと言う
「そういえば貴志まだなんだ? 何試合目?」
早川がカップ戦の表を見て答える。
「今日の四試合目。Bアリーナだな」
「Bアリーナかー……どうする?」と莉音。
まだ莉音の腕は、僕の腕にがっちり絡まっている。いや、くう、なんで違和感なくなってるんだ俺。
「まぁ同じクラスメイトだし、見に行こうよ!」
みゆのその一言で、全員が立ち上がる。
「俺、あんまり貴志と話したことないけど」
「あーしもー」
「でも応援してあげたいじゃん?」とみゆ。
「僕とこの江はよく話すからね」と言うと、
「うん。席が近いから」とこの江が小さく微笑む。
その笑顔は控えめなのに、――きっと貴志がこの笑顔を見たら、きっと顔を真っ赤にするだろうなと思った。
僕は、貴志がこの江のことを好きなことを知っている。
だからこそ、貴志を応援したい。
けど、横で早川がさりげなくこの江をエスコートして、歩幅まで合わせてるのを見ると――少しだけ複雑な気持ちになる。
(……おいおい、貴志、先越されてんじゃないか?)
いや、早川はただの癖だ。女の子に慣れてるだけ。そう思いたい。
でも、あの爽やかな笑顔と自然な仕草、あれにやられない女子はいないだろ。
ほんと、油断ならない奴だ。
僕は頭を掻きながらため息をつく。
この江は娘みたいで放っておけないし、貴志は恋に不器用だし、早川は腹黒のリア充代表だし……。
「……あー、ややこしいなぁ」
独り言のように呟いて、髪をかきあげる。
照明に照らされた通路の床が、午後の陽射しを反射してきらりと光った。
歩きながら、隣で莉音のジュースの氷がカランと鳴る音がやけに耳に残る。
うーん、と頭を悩ませながら歩いていると――
「――あっ! 白夜! りおち! いつまで腕組んでるのー!」
みゆの元気なツッコミが飛んできた。
遅いよみゆ。僕はもう、違和感がなくなっていたよ。
莉音がケラケラと笑いながら、腕を離す。
「やーん、バレちゃった♡」
その笑い声が、金色の髪と一緒に光を弾いていた。
(次の試合が終わったら――貴志にも、この江に少しでも近づくチャンスがあるといいな)
*
Bアリーナの入り口前に立つと、熱気がぶわっと押し寄せてきた。
照明の反射で白く光る床。ホログラム広告が壁面を流れ、スポンサー企業のロゴが次々と切り替わる。観客たちの歓声が幾重にも反響し、まるで巨大な獣がうねっているようだった。
午前よりも明らかに人が多い。2回戦の山場を見に来た生徒や取材ドローン、学院誌の記者まで詰めかけていて、階段通路までぎっしり埋まっている。
「うわぁ……ここ、人気試合多いのかな」
みゆが目を丸くして、熱気に押されながら言う。
「貴志の試合がバトルロワイヤルの最後だからじゃないか?」
僕が言うと、莉音が僕の腕に軽く体を預けながら笑う。
「な~ほーね、運で勝ち上がるタイプだから……ワンチャンあるんじゃね?」
「運任せにしないであげて……」
僕は苦笑しながら答える。
早川が肩越しに視線をやり、少し目を細めた。
「それにしても、こうして見るとアリーナごとに雰囲気違うな。Aアリーナは“森林”、Bは“砂漠”って感じ」
「わかる! なんか熱量が濃いっていうか……汗の匂いまで混ざってる気がする!」
「それはみゆ、気のせいじゃない?」
「いや、ほんとに匂うの!」
そんな軽口が飛び交い、笑いがこぼれる。
僕たちは少し遅れて入場ゲートをくぐり、観客席へと向かう。
四方のスクリーンには、選手たちのプロフィールと機体データが順番に映し出されていた。
「お、貴志君だ!」
みゆが身を乗り出して叫ぶ。
莉音もジュースを掲げ、「がんばれー!」と大声を上げる。
僕の視線は自然とフィールド中央に吸い寄せられた。
転送ゲートの光が弾け、4機のエイドロンが次々と出現していく。
その中の一体――見覚えのあるシルエット。
オレンジに輝く《ナイトアイ》改修機。
関節部のギシギシ音はもうしない。
右手にはブロードソード、左手にはマシンガン。肩には新しいシールドユニットまで装備されている。
以前とは比べものにならないほど、堂々とした立ち姿だった。
(……やるじゃん、貴志)
たぶん誰かに相談して改修したんだろう。
動きも硬さが抜けて、まるで別の機体みたいだ。
機体が正面を向いた瞬間、スクリーンに貴志の顔が映る。
緊張はしている。けれど、その目はまっすぐ前を見据えていた。
観客席から見ても、今の彼が本気だってわかる。
「……頑張れよ、貴志」
僕は心の中でそう呟く。
隣で、この江も小さく手を胸に当てて「頑張れ……」と呟いた。
その声は、歓声の波の中でも確かに届くような気がした。
早川がその様子をちらりと見て、眉を少しだけ上げる。
僕と目が合った瞬間、あいつは口角を上げて――わずかに、挑むような笑みを返してきた。
(……あー、やっぱり早川ってこの江狙いなのか?)
僕は苦笑しながら、視線をスクリーンへ戻した。
砂嵐が舞い、熱波が揺らめく砂漠ステージの中。
貴志のナイトアイが、ゆっくりと剣を構える。
アナウンスが響く。
『選手の準備が整いました! Bアリーナ第4試合――開始!』
途端に照明が落ち、中央ステージが金色に染まる。
観客席から大歓声が爆発し、千の声が重なり合ってうねりとなった。
電子音が鳴り、4体のエイドロンが転送ゲートから一斉に走り出す。
視界いっぱいに広がるのは、黄金色の砂丘と、古代遺跡を模した瓦礫群。
太陽を模した照明が上空から降り注ぎ、舞い上がる砂粒を照らしてきらめかせる。
「うわ……なんか、ここだけ世界違くない?」
莉音が目を細めてスクリーンを見上げる。
「すごい熱気……。貴志君、頑張って……!」
この江が胸の前で手を組み、祈るように呟く。
「まるでカイロだな」
早川が呟き、白夜は苦笑を返した。
(じゃあ、あそこはゴビ砂漠か……いや、地獄の熱波ステージって感じかも)
貴志の《ナイトアイ改修機》は、砂地でも沈まないように脚部関節が補強され、両手のブロードソードとマシンガンを構える。
機体の塗装はオレンジと黄土色。以前よりもずっと凛々しい。
「関節、ちゃんと動いてるね」
みゆが息をのむ。
『おっとぉ! 序盤から仕掛けていくのはクラストブレイカー! 重装の水圧機体だが……この砂漠マップでどう戦う!?』
実況がテンション高く叫ぶ。
スクリーンには、赤い装甲を輝かせたザリガニ型《クラストブレイカー》が、両腕のハサミを広げて進む姿。
砂を巻き上げながら、重い足音が響く。
『対するは丸いフォルムが特徴のビーム機《シャイニング》! ホバー移動でフィールド中央を確保、早くも照射を開始!』
純白の機体が、光線を撒き散らしながらホバーで滑る。
砂粒がビームに照らされ、会場中が金色に染まった。
「まぶしっ!」
「うわ、これ観客席まで反射してるよ……」
『さらに上空では空戦機《ファルコン》が旋回! 高度五〇メートルからの奇襲を狙う構え!』
スカイブルーの機体が弧を描き、翼の残光が空を裂く。
その瞬間、観客が一斉に歓声を上げた。
――そして最後に、貴志の《ナイトアイ》が遅れて動き出した。
遺跡の影を縫うように前進し、マシンガンを構える。
『さて、注目はノービスリーグから唯一残った1年生ラッキーマン! 黄土 貴志選手です! 果たしてラッキーは続くのか!?』
「やっぱ“ラッキー”扱いされてるじゃん」
「まぁ……間違ってないけどね」
白夜が苦笑し、莉音が肩をすくめた。
会場のモニターに、貴志の機体が映る。
その動きは慎重だ。以前のように空回りはしていない。
砂に沈まないよう、重心を調整しながら前進する姿は――
少しだけ、頼もしく見えた。
『っと! クラストブレイカー、早くも仕掛けたぁぁ!』
赤い装甲が閃光を放つ。
両腕のショットクローが開き、内部の砲口から散弾を連射。
砂が爆ぜ、白い閃光が遺跡の壁を焼いた。
『おおっと! ここでシャイニングが応戦! ビーム照射で弾幕を張った!』
二機の攻撃が交錯し、砂煙が立ち込める。
その上空――ファルコンが急降下した。
『出たっ! ソニックダイブ! まるで流星だぁぁ!!』
観客席が一斉に立ち上がる。
青い残光が砂丘を裂き、クラストブレイカーめがけて一直線。
「うおっ、速ぇ!」
「かっこいい……けど、危なくない!?」
みゆが身を乗り出し、莉音がストローから口を外す。
だがその瞬間――
クラストブレイカーの脚部が地中へ潜り込み、砂を巻き上げた。
『おっとぉ!? ハイドロチャージ発動!! 砂中の水分を圧縮して――カウンターォォォ!』
地面が爆ぜ、青い水柱が弾ける。
ファルコンが衝撃を受け、バランスを崩して横転。
機体の片翼が砂に突き刺さる。
「落ちた!?」
この江が息をのむ。
『まさかの空戦機、早くも墜落! だがまだ戦闘続行だ!』
会場の熱が一気に上がる。
砂煙の中――静かに、ナイトアイが前へ進み出た。
機体名 : クラストブレイカー(CLUST BREAKER)
型式番号: EID-CLB-03
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部位 :
頭(アクアスコープ・センサー)
/右(ショットクローMk-II)
/左(ショットクローMk-II)
/脚(ハイドロドライブ脚部)
/背(水圧タンク・ジェットパック)
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主要数値:
全高:207 cm
重量:360 kg
稼働:19 分
COOL:28 s
HEAT:62 %
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コアスキル:例
《ショットクロー・ブレイク》
両腕のハサミが開き、内部のショットガン砲を発射。
近距離での拡散弾が強力。打撃と射撃の連携が可能。
《ハイドロチャージ》
脚部から水を吸引・圧縮。攻撃スキルの威力を一定時間+30%。
水中フィールドでは発動時間短縮。
《クラッシュグリップ》
敵をハサミで掴み、圧壊→近距離爆発射撃に連携可能な掴み技。
観客が一番沸く“豪快フィニッシュ技”。
《ハイドロスラッシュ》
圧縮水流を刃状に噴射。中距離対応の水刃攻撃。
発動時、周囲に水しぶき演出+反動で滑走回避可。
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デザイン
カラー:レッドメタリック × ブラック × ネイビーブルー差し
頭部:カメラアイ+水滴状レンズ(両目風)
両腕:ハサミの内側にショットガン砲口+排熱フィン
背部:小型タンク+高圧パイプが脚や腕に繋がる
全身:ザリガニ装甲を思わせる曲面構造+反射光
発射時、ハサミが「ガチン!」と閉じる音が特徴的。
【挿絵表示】