――砂煙の向こうで、光が閃いた。
クラストブレイカーが再び両腕を構え、ファルコンに狙いを定める。
腕のハサミが展開し、内部の砲口がぎらりと光る。
『来るぞ! 《ショットクロー・ブレイク》! 間合いは十五メートル! 避け切れるかファルコン!』
実況の声が熱を帯びる。
だが、ファルコンの推進器が一瞬うなりを止めた。
――冷却が追いついていない。
蒸気が噴き出し、機体がふらつく。
「やばっ、オーバーヒート寸前じゃん!」
みゆがスクリーンに顔を寄せる。
『ファルコン、スラスターが不安定! クラストブレイカーの射程圏内だ――!?』
――轟音。
両腕のハサミが火を噴き、散弾が一直線に空を裂いた。
だがその瞬間、ファルコンが急旋回――しようとして、
別方向から飛び込んできた光線がその弾をかすめた。
『なっ!? 《シャイニング》のビームとぶつかったぁ!?』
白と青の閃光がぶつかり合い、空中で爆発。
爆風が砂を巻き上げ、クラストブレイカーの弾が暴発する。
――轟ッ!
『爆発ッ!! 両機、巻き込まれたぁぁぁぁ!!!』
閃光が視界を白く焼き尽くす。
次の瞬間、爆風が遺跡の柱をまとめて薙ぎ払い、砂嵐が空を覆った。
耳をつんざく轟音と共に、会場全体が震える――まるで地面そのものが怒りを上げたように。
砂塵が天へ舞い上がり、照明の光を遮る。
炎の余韻が空気を赤く染め、無数の破片が流星のように降り注いだ。
観客席の誰もが言葉を失い、ただ、息を呑む。
――やがて、嵐が止む。
黄金色の砂がゆっくりと落ちていき、視界が少しずつ開けていく。
崩れた瓦礫の上に、壊れた翼を引きずるファルコン。
片方のジェットパックは大破し、火花を散らしている。
クラストブレイカーは上半身まで砂に埋まり、ハサミが空を切るだけ。
シャイニングの両腕は柱に激突し、ビーム発射口がひしゃげて沈黙していた。
――砂煙の奥、誰もが気づくよりも先に。
淡い光が、ゆっくりと立ち上がる。
焦げた空気を切り裂くように、その影は姿を現した。
貴志の《ナイトアイ》。
オレンジの装甲が陽光を浴びて、まるで遺跡の守護者のように輝く。
脚部から吹き上がる冷却蒸気が、光の幕を纏うように漂った。
観客席の静寂が、一拍。
そして――爆発するような歓声。
『ま、まさかの……!? 三機、満身創痍ぃぃぃ!!! 残るは――ナイトアイただ一機ッ!!』
歓声が渦を巻き、会場の空気そのものが震える。
みゆが「うっそー!?」と叫んで立ち上がり、莉音は手を叩きながら「おもろすぎっ!」と笑っている。
早川は苦笑いを浮かべ、呆れたように言った。
「……運の鬼だな、あいつ」
「奇跡って、こういうこと言うんだね……」
この江が胸を押さえ、静かに笑った。
僕はモニターを見つめながら、口の端を上げる。
「……まったく、どこまで持ってるんだよ」
ナイトアイが進み一体ずつマシンガンを撃ち倒していく。
ファルコンが崩れ、シャイニングが沈黙する。
『ナイトアイ、なおも前進ッ!! 動ける機体は他にいないのか―?!!』
最後に、クラストブレイカーが砂を蹴り上げながら立ち上がる――が、
その瞬間、ナイトアイが跳躍した。
砂塵を裂く一閃。
ブロードソードが閃光を描き、赤い装甲を切り裂く。
『勝負ありッ!! Bアリーナ第4試合、勝者――黄土 貴志ぃぃぃぃぃッ!!!!!』
歓声がひときわ大きくなる。
照明が点滅し、砂煙の中でナイトアイが剣を掲げる。
まるで、砂漠の王者のように。
『まさかまさかの――ラッキーマンの1年生がベスト16入りだァァ!!』
実況が絶叫する。
その声に合わせて観客席が総立ちになった。
拍手、歓声、そして笑い声まで入り混じった熱狂。
「うおぉぉぉっ!! まじ!? ほんとに勝った!!」
みゆが立ち上がって手を振る。
「ははっ、信じらんねぇ……!」
早川も思わず笑い、僕は頭をかいてため息をついた。
「いや、もう運とかそういう次元じゃないよな……」
「奇跡の連鎖だね……」
この江が目を潤ませながらつぶやく。
莉音は口にストローをくわえたまま呆然とし、
「ねぇ、今の……どう見ても“勝っちゃった”だよね? “勝った”じゃなくて」
「うん、“勝っちゃった”だね」
僕は即答し、2人同時に吹き出した。
スクリーンには、転送帰還するナイトアイと、安堵の表情を浮かべた貴志の姿が映し出される。
ゴーグルを外した貴志は、目を見開いたまま一瞬固まり――そして叫んだ。
「うおおおおおっしゃあぁぁぁぁっ!!! やったぁぁぁぁぁぁ!!!」
拳を突き上げて飛び跳ねる姿に、会場から笑いが起きる。
観客たちが口々に「ラッキーマンだ!」「ギャンブラー貴志!」「持ってる男ー!」と声を上げる。
実況がそれに被せるように叫んだ。
『奇跡の連鎖ッ! 狙ってないのに完璧な立ち回り! まさに“運命に愛された男”黄土 貴志選手の勝利ですッ!!』
白夜たちの席にもカメラが向けられ、スクリーンに映し出される。
みゆが手でハートマークを作り、莉音は親指を立てて「イケてたー!」と叫ぶ。
この江は手を胸に当てて、静かに微笑んでいた。
その笑顔に気づいた貴志が、スクリーン越しに照れくさそうに笑う。
ちょうどその瞬間、彼の背後で機体ナイトアイが転送されてくる。
「うわっ!? あっぶねぇっ!!」
転送光がちらつき、会場が笑いに包まれた。
「最後までオチつけてくるあたり、さすが貴志だな……」
僕が肩をすくめると、早川が笑いながら続けた。
「この江、ファンになったんじゃない?」
「そ、それはない――」
この江が真顔で否定した瞬間、アナウンスが再び響く。
『これにてBアリーナ第4試合、終了ッ! 決勝トーナメント進出者は――貴志選手! まさかの1年生が3人目の快挙です!!』
「白夜、礼人、貴志……これで同じクラスの1年3人がベスト16か」
「地味にやばいな」
「普通に快挙だよ!」
僕はモニターを見上げながら、小さく息をついた。
きっと、貴志の顔を思い出したら笑っちゃう。
――まるで、夢を掴んだ少年の顔だった。
*
控室のドアを開けると、まるでロボットアニメの決めポーズみたいに両手を突き上げた貴志が立っていた。
顔は真っ赤、額の汗が光っている。
その姿を見た瞬間、思わず笑ってしまった。
「お、おう……やったな、ラッキーマン。」
「白夜! はははっ、見たか!? 俺、勝っちゃったよ!!!」
貴志のテンションは天井を突き抜けていた。
手に握られたデバイスは小刻みに震え、まるで本人の興奮をそのまま伝えているみたいだ。
多分、まだ自分でも信じられてないんだろう。
「うん、凄かったよ。ほんとに。……よく生き残ったな」
「運も実力のうちって言うしな! 俺、ベスト16だぜ!!」
興奮のまま喋り続ける貴志を見て、僕は苦笑しながら肩を叩いた。
「はいはい、奇跡の貴志くん。会場も大喜びしてたぞ」
「マジで!? うわーやべぇ、あとで録画絶対見る!!」
そんなバカみたいな会話をしていた時だった。
後ろからドアが開き、明るい声が響いた。
「ラッキーマンおめでとー!」
莉音が手を振りながら駆け込んでくる。
みゆも両手でぱちぱちと拍手をして「ほんと奇跡だったねー!」と笑った。
そして、この江が少し遅れて入ってきて、胸の前で手を組みながら静かに言った。
「……すごかったよ、貴志君。本当に、頑張ってた」
一瞬、時間が止まった。
貴志がぴたりと動きを止め、固まる。
そして次の瞬間――
顔が爆発したみたいに真っ赤になり、口をパクパクさせた。
「え、あ、いや、その、う、うん……ありがと、えへへ」
語尾が全部溶けてる。
莉音とみゆが「あー、そういうことねー」と目で会話しているのがわかる。
僕は呆れながらも笑いをこらえて、貴志の肩をぽんと叩いた。
「よかったな。努力してたこと、ちゃんと伝わってるよ」
「お、おう……! 俺、これでやっと並んだ気がする!」
「内容はともかく、ベスト16はベスト16だ」
「このままいけば俺もラボ付きになって上位クラスにいける!」
意気込む貴志の目は、ほんの少し潤んで見えた。
「決勝トーナメントは来週からだけどな」
「この調子でいきてぇ。今の運ならいける気がする」
貴志は手を合わせて、謎のポーズを取り始めた。
その真剣さに僕も笑ってしまう。
莉音とみゆは早川を呼びに行くことになり、
「じゃーあーしら先帰ってるねー!」と手を振って出ていった。
僕も「じゃあまた明日学校でな」と軽く手を上げて、控室を後にする。
――これでこの江と貴志が二人っきりのチャンスだ。ナイス判断。
後ろから「私も」とこの江が続く。
(いやいや、貴志のチャンスを逃す気か!?)
内心で焦りながらポケットを探ると、指先に布の感触があった。
ポケットからハンカチを取り出し、この江に手渡す。
「貴志に渡してやって。汗すごかったろ?」
この江は先ほどの貴志を思い返し、
「うん、そうだね」とこの江は小さく頷いて、ハンカチを握る。
そして一度だけ僕を見て、控室に戻っていった。
――いい感じに繋げられた。
廊下を出ると、すぐに莉音の声が聞こえた。
「はくたん、空気読んでるー!」
その隣で、みゆが「あー……」と複雑な顔をしている。
早川はと言えば、腕を組んで「早川は腕を組み、「ふーん……そういうことね」と妙に含みのある顔。
「ほ、ほら! どうする? 先帰る?」
わざとらしく言うと、莉音がちゃっかり僕の腕をつかんできた。
「そうだねー、明日も学校だしー」
みゆはため息を飲み込んで小さく頷き、
早川は「お腹もすいたし、食堂寄ってこ」と軽く笑う。
廊下を歩きながら、僕は振り返って一度だけ控室を見た。
扉の向こう――
貴志とこの江が、ぎこちなく言葉を交わしているんだろうな。
……うまくいけばいいな。
そう思いながら、僕はゆっくりと歩き出した。
明日からは週末の決勝トーナメントに備えないとだな。
*
翌日の教室は、いつもよりも明るい熱気に包まれていた。
昨日の《学院戦技大会》を見ていた生徒たちが多かったらしく、登校直後からざわめきが止まらない。
「おーっ! 白夜、早川! 昨日やったな!!」
教室に入るなり、大崎が満面の笑みで肩を叩いてきた。
「大崎は負けてたね」
早川がいつもの爽やかスマイルで返す。
「ぐっ……!?」
グググッと大崎が胸を押さえてよろめいた。
「やめてあげろ、正論は人を傷つけるんだよ……」
僕が笑いながらフォローを入れると、クラスの何人かがくすくす笑った。
後ろの席では、少し遅れてきた貴志がクラスの男子に囲まれていた。
「おい黄土、昨日の試合見たぞ! マジで持ってんな!」
「いやー、まぁ……運が味方したっていうか……!」
貴志は照れ笑いを浮かべながらも、内心かなり嬉しそうだ。
女子たちの注目は相変わらず僕と早川に向いていた。
多分、日頃から話してることもあって、気軽に声をかけやすいんだろう。
(とはいえ……顔面偏差値的には、僕と早川が一歩抜けてるのは否定できない)
そこへ、教室のドアが開き、莉音とみゆが連れ立って入ってきた。
一気に教室が明るくなる。まるで太陽が二つ増えたみたいだ。
その後ろから、少しおどおどした様子のこの江が、みゆに手を引かれてついてくる。
「おはよー、みんなー!」
「“空の王子”白夜様〜って、はくたん有名人じゃーん!」と莉音がニヤリ。
「やめてくれ、朝から恥ずかしいだろ……」
そう言いながらも、クラスの視線が一斉に向いてくるのを感じる。
チャイムが鳴るまで、教室の熱気は冷めなかった。
話題は大会のこと、昨日の試合、そして次のトーナメントの予想。
*
午前の授業が終わり、午後のリーグ戦に向かう者、食堂に向かう者がそれぞれ動き始める。
僕ら(僕、早川、大崎)のグループもいつものように食堂へ向かった。
途中、廊下の掲示板前で人だかりができていた。
近づいてみると、《学院戦技大会・ベスト16進出者》の一覧が貼り出されている。
僕らの目線が自然とその紙に吸い寄せられた。
そこには、確かに名前があった。
――「白銀白夜」「早川礼人」「黄土貴志」
周囲の生徒たちがざわざわと騒いでいる。
「え、1年3人!?」「マジかよ、今年の1年やばくね?」
「“空の王子”も出場してたのかよっ」
「あとの2人知ってる?」
「ラッキーマンって呼ばれてたぞ」
「なんだよ、ラッキーマンって?」
「王子、噂されてるぞ」
早川が肩を軽くぶつけてくる。
「茶化すなって」
僕が苦笑すると、早川はニヤリと笑って言った。
「まぁ、俺ら人気者ってことだな」
「俺だけ置いてかれてんじゃねぇかよー!」
大崎が両手を広げて嘆く。
「今回は上級生中心だったんだから、しょうがないだろ」
「まぁ、俺らは勝ったけどね」
早川がさらっと言い放ち、僕はツッコミを入れる。
「フォローが霧散したわ!」
大崎も吹き出しながら、「白夜のフォロー台無しじゃねぇか!」と笑う。
「次の大会までに仕上げとくからな! 覚悟しとけ礼人!」
「俺と白夜は高みの見物だな。頑張れ元気くん」
「そういうとこだぞ、早川……」
そんな軽口の応酬をしているうちに、食堂の入り口が見えてきた。
大崎がニヤリと笑いながら僕に耳打ちする。
「白夜、昼飯は早川の奢りでいいよな」
「もちろん。“意地悪代”ってことで」
「えっ、ちょ、ちょっと待て、それは――」
早川の笑顔が引きつった。
「ごちそうさん、礼人!」
大崎がご機嫌で腕を組んで引きずっていく。
僕も便乗して、「ごちそうさま、礼人」と笑う。
機体名 : カオスボム(CHAOS BOMB)
型式番号: EID-CBM-01
製造社 : ノクタ社 特殊演出開発部
部位 :
頭(デトネイターアイ:爆発範囲可視化&フューズ同期表示)
/右(ペイロードアーム:投擲&抱き付け用爆弾ユニット)
/左(フラグディスペンサー:小型破片弾/グラビティマイン散布)
/脚(ショックアブソーバー脚:爆速衝撃吸収・短距離ホバリング可)
/背(カスケードベイ:連鎖爆薬格納庫/爆風制御ノズル付き);
---
主要数値:
全高 :188 cm
重量 :260 kg
稼働 :36 分(連鎖起爆は電力消費が激しい)
COOL :9 s(爆発冷却の演出が必要)
HEAT :上限 72 %(過負荷で自己防爆プロトコルが作動)
---
備考 :
外見は「古典的な爆弾+演劇用ギミック」混合の可愛らしいデザインで、背中のベイが開くと色とりどりの“フラグ弾”が飛び出すド派手仕様。
---
デザイン
カラー:チャコールブラック × ブラストオレンジ × 黄帯(警告色)
頭部:単眼状の「導火線アイ」が作動時に点滅し、視界に爆発範囲を赤く表示するUI演出。
背部:カスケードベイ展開時に数十個のフラグ弾が翼のように展開する。
攻撃時:起爆前に短いワーニングサイレン(劇伴)→一瞬静寂→大爆発。観客向けの演出効果高し。
爆弾をモチーフにした爆弾魔
【挿絵表示】